望み
すごくゆっくりな更新ペースになると思うのでよろしくお願いします。
前作も少しずつ更新する予定です。
「はー、俺が勇者だったらこんなやり方はやらないよな……」
周りの家から光が消えた頃、俺は手に持つラノベに向かって独り言をつぶやく。
「ヒカル。あんた、そろそろ寝なさいよ」
部屋のドアを少し開けて、お母さんが眠たそうな声で呼びかけてくる。
「うん、わかってるって、寝るよ」
お母さんが部屋のドアを閉めた後、俺はラノベを本棚に戻して電気を消した。
――もし、本当に異世界に行きたいのなら、連れて行ってやるぞ――
「早くー、起きろー!」
妹が俺のおなかにダイブしてくる。
「苦しいって、起きるからどいてくれ」
去年ぐらいまでは体重も軽く、乗られてもなんの問題も無かったのだが、最近では体が大きくなってきて、出るところも出てきたので少しは自重してほしい。
別に妹の体で興奮するわけではない。
ただ、将来のことを考えているだけだ。
「お兄ちゃん起きたー?えらい、えらい」
妹は俺の頭をなでる。
世間一般の兄妹はみんなこんなことをしているのだろうか?
うーん、してないな。
「お兄ちゃん、ちゅー」
妹が俺の頬にキスしようとしてくるのを止めてから、リビングへと向かう。
この妹は俺がいなくなったら、どうなるんだろう?
そんなどうでもいいことを考えながら、朝ご飯を食べて、学校に向かった。
学校に着くと親友のタケルが満面の笑みで話しか掛けてくる。
「おはよう、ヒカル」
「おう、おはよう」
「どうした?朝からつかれてないか?」
タケルが心配そうな顔で聞いてくる。
タケルは優しくてイケメンなので、クラスでの人気者だ。
幼馴染じゃなっかたら、一生話す機会がなかった人物だろう。
一部のクラスメートからタケルと二人で話していると嫌な目で見られるのだが、いつも知らない振りをしている。
「朝から妹に腹の上で暴れられてな――」
「そりゃ、大変だったな」
タケルは笑いながらそう言うと、真剣なかおになって
「俺はそうと見たか?」
「昨日進めてきたラノベか?」
タケルは「そうそう」と興味津々に聞いてくる。
そう、タケルは根からのオタクなのだ。
「ああ、それなら昨日、本屋でバイトがあったからついでに全巻買ってみたよ」
「まじか、もう読んだのかそれでどうだった」
聞いといてその反応はどういう事だ。
俺はいたずら半分に少し間を作る。
少しずつ不安そうになっていくタケルの顔を見物してから、ラノベの感想を伝える。
「単刀直入に言うと面白かった」
そういうと不安そうだった顔が、満面の笑みに変わった。
「だよな!」
「でも、あの勇者が俺と変わったら、ってイライラするんだよな」
「そうなんだよな、でもあの感じがいいんだよ」
「そうそう、あれのおかげで次が気になってどんどん読み進めちゃうんだよな」
それから、タケルと俺は特に良かった場面などをチャイムが鳴るまで話続けた。
――異世界に行く決心はついたか?――
「起きろって、さすがにこの教科はまずいよ」
タケルが俺の肩を揺らしながら起こした。
俺が目を開けると前には引きつった笑顔の先生が……。
「気持ちよさそうにお休みだったな」
先生、口調とは裏腹にその笑顔がむちゃくちゃ怖いですよ。
授業が終わった後、約10分怒られた。それほど怒られていないじゃないかと思うかもしれないが、休み時間が10分なので休み時間の間ずっと怒られたことになるので短くない。この後が授業じゃなかったらもっと怒られていただろう。
他の先生ならばここまで怒られなかったのに……。
いまさら後悔しても後の祭りだが、どうしてもそんなことを考えてしまう。
「何であいつの授業で寝るんだよ」
放課後になると、タケルが俺の席まで来て笑いながら話かけてくる。
「俺も寝るつもりなんてなかったよ」
「寝たやつはみんなそうやって言うぜ」
「直前までちょっとも眠たくなかったんだぜ。誰かに無理やり眠らされたような……」
タケルは「ふーん」と興味なさそうに返してくる。
「で、いい夢は見られたのかよ?」
そういえば昨日の夜見た夢とさっき見た夢は似ていた気がする。
俺は少し疑問に思いタケルに聞いてみる。
「2つの夢がつながっていることってあるか?」
タケルは少し考える素振りを見せてから、
「怖い夢とかなら、あるんじゃね?」
と軽く返された。
「でも夢で、異世界に連れて行ってやる、とか異世界に行く準備はできてるか?とか聞かれる俺ってかなりの重症だよな」
笑いながらそういうとタケルは、
「たしかに。でもお前ならほんとに異世界に飛ばされたりして」
と、冗談半分に返してきた。
二人でその後もたわいない話をしていると隣のクラスの女の子がタケルを呼びに来た。
「タケル君、そろそろ部活に行かないと先輩に怒られるよ」
「わかった、すぐ行くよ」
タケルはそういって立ち上がる。
「じゃあまた明日な」
「おう」
タケルは走って教室を出て行った。
よし、俺もそろそろ帰ろうか。
俺はかばんを持って教室を出ていつも通りの道で帰るはずだったのだが途中お腹が痛くなりコンビニによった。
コンビニでトイレを借りた後、俺は肉まんを買って外に出る。
冷めると美味しくなくなってしまうのでコンビニの前で食べることにした。
肉まんを食べながらボーっとしていると一人の女の子が目に留まった。
女の子は信号が青になるとしっかり手を挙げて横断歩道を渡る。
しっかりと教育されているのだろう、まじめだ。
女の子が横断歩道を3分の1ほど渡った時、遠くのほうからパトカーのサイレンが聞こえてきた。
自然に音がしている方向に目を向ける。すると、黒のスポーツタイプの車が女の子のいる横断歩道に向かって直進してきた。
時速100キロは出ているだろう。
周りにいる人たちもそれに気づいたようだ。
子供連れの大人は自分の子供の手を引いて、一人で歩いているものは小走りで歩道へと向かった。
しかし、一人で歩いていた先ほどの女の子は走って逃げようとしたが、こけてしまったようだ。周りの人達は「危ない」と声を張り上げるものの助けに行こうとするものはいない。
――このままじゃ女の子が――
俺はそう思った。
そのあとのことははっきり覚えていない。
俺は肉まんを投げ出して女の子の元へとダッシュした。
これほど全力で走ったのはいつぶりだろう?
俺は女の子を突き飛ばしって車のほうを見る。
車はクラクションを鳴らしながら突っ込んでくる。
俺は逃げられないことを悟り、身を丸めて目をつむった……
しかし、数秒後に来るであろう衝撃は来なかった。
俺は恐る恐る目を開ける。
前には立派なひげを蓄えたおじさんが立っていた。いや、浮いていた。
おじさんは手を前で広げ、口を開いた。
次回は明日の18時に投稿予定です