イエスかノーか
「──あの男とあそこで何があった」
しばらく無言で歩を進めていたドレイクが静かに語りかけてきた。
「……」
「なにか嫌なことをされたのか? 具体的なことは言わなくていいから、イエスかノーで答えろ。かわりに成敗してやる」
イエスと決めつけているような言い方に思わず笑った。
「ノーです」
「それは俺が止めたからだろう」
「でもなにもなかった。…起こってもいないことで相手を糾弾するのは成敗とは言いません。ただの言いがかりです」
ドレイクが不服そうにうなった。理紗はまたクスクスと笑った。
そしてため息が出た。
あの時、ネクタイを手にしたシュバルツに自分が何を言おうとしたのかは口が裂けても言えやしない。ドレイクには黙っていようと心に決めた。
この潔癖すぎるくらいに生真面目な男にはきっと理解できないことだと思うから。
理紗は父親によく似たこの武骨な男を気に入ってしまった。
そんな相手から非難されるような目で見られたくはない。
「…あの部屋にいたことは誰にも話さないでください」
「わかっている。フィアンセがいるんだろう?」
「……」
首に回した腕にぎゅっと力を込めた。
エドアルドの話もいまは気が乗らない。
そのしぐさになにかを感じ取ったらしいドレイクが歩みを止めた。
探るような視線を感じた。
「──不本意な婚約なのか?」




