怪異との会話
移動した先は大きな部屋だった。びっくりするぐらい広いのに机や椅子は一人分で、まぁ、つまりは金持ちの部屋だ。
そこのやたらデカいベッドに転がされ、俺はルシエル殿にありがたいお話を聞かされた。
曰く、
「ここは空の星スケリアル。3大陸に3ヵ国、朝日の国ライゼル、白日の国シャイネリア、夕日の国セーテがあり、太陽同盟を組んで平和に暮らしていた。しかし突然、セーテの西の海の向こうに大陸が出現し、そこを支配する夜の民が宣戦布告をしてきた。戦いまであと半年。太陽だけでは夜を照らせない。月の光が必要だから、天空の神に祈り、儀式を行って月の光を持つ天の使いを召喚した。それが貴方だ。これから私たちは最大限のサポートをするから、どうか夜の王を倒してスケリアルに平和を取り戻してほしい。」らしい。
正直に言おう。物凄く胡散臭い。えげつなく胡散臭い。胡散臭すぎて今なら三点倒立からの宙返りが出来るレベルだ。ごめんなさい出来ないです。
さて、俺の運動能力の低さが露呈した所で話を戻そう。
色々とツッコミきれないのだが、ここはどうやら地球の日本ではないらしい。いや、ルシエルさんの話をまるまる信じるなら、そうらしい。流石にその気はない。一般人をドッキリにかけてみた、なんてクソみたいな内容のテレビ番組なのだろう。それが良い落とし所なのでやけに気合いの入った内装や配役な事は目を瞑っておく。そのわりに設定が荒唐無稽過ぎる事にも目を瞑っておく。
しかし、ドッキリだと気がついたとして俺はどうすればいいんだろう。早々に「これドッキリですよね?」とか言ったら取れ高が無くて怖いプロデューサーさんに怒られちゃうのだろうか。ちょっと騙されたふりした方がいいのだろうか。でも素人の演技なんてすぐバレるだろうし、余計なことして「サムいからやめろ」って言われたらどうしよう。俺結構落ち込みやすいタイプなんだよねー。
「……おい。お前、いつまで妄想に浸ってんだ?」
妄想じゃない!これはこれから起こる出来事を予想してとるべき行動を考えてるだけで……そう考えたら滅茶苦茶頭良いことしてんじゃん俺!
「いや妄想だろ。馬鹿なこと言ってないでカーテン開けて窓の外見てみろよ。窓の外と現実見ろ。」
窓の外と現実見ろ?上手いこと言うね君!……ん?君誰?
「はぁー…予想以上に馬鹿な奴に当たっちまったな…あんとき助けなきゃ良かったか」
「いや…え?あれ?俺今声出して………君誰!?」
「誰だと思うか?」
声は笑いをこらえたように問うた。
不思議な声だ。男のような女のような、老人のような少年のような……そう、まさにあの崖で死ん……死………!?
「あれ俺生きてる!?……俺生きてる!!」
「今さらかよ」
呆れたように息をつく声。お前!あの時の!!
「…そうだ。お望み通り助けてやったぞ、倉井瑞人。」
…こ、怖すぎる。この状況が意味分からない。声は謎に威圧感放っている。
「そ、そそそそもそもお前えええはな、ななんなんだだだだよよよよよ!?」
「お、おう…怯えすぎだろ……いやいいのか……」
なんかブツブツ言ってる。早く教えろよ。
「お前心の中では凄い上から目線だな。……分かった。じゃあ瑞人、本を手に取れ。」
「本?」
ないけど。………ないはずだけど。
…………………あったけど!?!?
部屋の扉の前に、さっきまでは確かに無かった筈の本が鎮座している。
近寄って手に取ると、それは「世界の童謡大全」だった。これは……!
「そうだ。その本は日本でお前が死ぬ寸前に持っていた本。…一度しか言わないからよく聞いておけ。この本は呪われている。そしてオレは、本の正体の怪異だ。」
にゅるん、と本から黒い靄が出てくる。見るだけで分かる禍々しさ。三ヶ所だけ、目と口のように靄が晴れている部分のうち、口に当たる空間が言葉と合わせて動く。セリフが終わり、目と口がそれぞれ対となる三日月の形に歪む。
…キ、
キターーーーーーー!!!!
あれだけ熱中していた怪異が、目の前に在る!俺は今リアル怪談を前にしている!!ヤバい!!うおおおおお!!!!!!
「うわうるさ、おい…おい、ウザいぞ!ウザい!」
「ウザい?怪異もウザいとか思うんだー!」
「そのノリほんとウザい、やめろ!」
そのまま暫く怪異とわちゃわちゃしていた。怪異とわちゃわちゃ…!
この感動を両親にも伝えたい。カーテンを開けて、空に向かって叫ぼうとした所で…俺の感動は急激にさめる。
「………何処、ここ」
「ん?ああ、言っただろ、窓の外見ろって。どうだ?」
「…知ってる町じゃない。俺の知らない所だ。どこだよここ!」
怪異は一つ、ため息をはいてから言った。
「だから言っただろうが。お前は日本で死んだんだ。ここはスケリアル。空の星、スケリアルだ。」
………え、マジ?