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最初で最大のお正月

あの日から1週間、世間は年明けムードに浸っている。

俺達の身に起きた惨劇は普通だったら連日報道やら特番を組まれてもおかしくない出来事だ。

けどここは普通の世界じゃない、平和を脅かす者がいて、それらを倒すヒーローがいる世界だ。ここでは年末になると年末の大掃除のように敵の動きが活発になり、いつもよりも被害が大きくなる。

世間では俺達は「大きくなった被害に巻き込まれた可哀想な人達」にしか思われていないんだ。

年末になると始まる道路工事のせいで渋滞に巻き込まれる人のように、「残念だったね。」とか「もうちょっと運があればよかったのにね。」とか笑える冗談にしか思ってない。

「なにも知らない奴が…!」って今すぐ殴りかかりたい気分だけど俺は最近までは「なにも知らない奴」だったから気持ちはよく分かる。

結局はさ、体験してみないと分からないんだよ、被害者も当事者も。

新しい歳に希望を持ち願いを込めて初詣をする人達を誰がどんな犠牲を払って守ってるのがさ。

今まさに正月休みを返上して闘ってる俺のように。




「うわっ!」


怪人が放った波状の斬撃が俺のボディに傷をつけるように貫く。


「このっ!」


「ツナグ!落ち着きなさい!」


アミカの忠告に聞く耳もたず俺は剣に球体を装填し怪人に突進していく。その間も怪人は攻撃を休む間もなく放ってくるけど俺は避けも防ぎもせず近付き無我夢中で怪人に剣を振りかざす。


「うわぁぁぁぁぁ!!」


怪人は断末魔を叫び爆散し俺は今年初勝利を手に入れた。


「あっ、あぁ…。」


最後の一撃に全ての力を込めた俺は変身を解除すると落ち葉のクッションが敷いてある地面に崩れ落ちるように倒れた。

そんな俺のもとにアミカが駆け寄ると目の前でしゃがみこむ。


「バカねぇ、あの程度の怪人むきにならなくても勝てたでしょ?」


「…。」


「いくら近くに人が沢山いて、あっちから仕掛けられたからっていつもあんたなら余裕だったよね?」


「…。」


「ミクのことまだ気にしてるの?」


「!?」


彼女の言葉に思わず俺は落ち葉を握りしめた。


「やっぱりね。」


アミカはため息をつきボソッと呟く。


「気にしちゃ…ダメかよ…。気にしちゃダメなのかよ…!」


握った落ち葉を俺はアミカに投げつけるが彼女さっきの俺のように避けも防ぎもせずまともに落ち葉のシャワーを浴びる。


「どう、スッキリした?」


「…全然…、しない…。」


「そっ、残念ね。でも今から私はもっと残念な話をしなきゃならないの。ツナグに現実を知ってしまうために。」


アミカは立ち上がると身体中についた落ち葉をポンポンと払う。


「いつまで寝てるの、立って歩ける力くらいはあるでしょ?」


なんてスパルタ指導だと思いながらもふらふらと立ち上がり俺達は無言で近くにあったふたりが座れるにはギリギリの狭さのベンチに体を下ろす。

どうしても体同士が密着しアミカの体温が直に伝わってきて息が白いのに体はとても熱い。

けれど彼女から放たれた言葉はとても冷酷で冷たいものだった。


「はっきり言っとくわね。ツナグ、あなたはあのヒトミって子には絶対に勝てなかったのよ。」


「勝てない…?どういうこと…?」


「戦争にも一応ルールがあるように私達ヒーローと敵との戦いにもひとつだけルールがあるのよ。」


「ルール?俺そんなの知らないし当然守ったことなんてないよ。」


「当たり前よ、守らなくても世界が勝手に守らせるもの。」


そういいアミカは立ち上がる。


「世界の平和を脅かす人達が世界の作ったルールなんて普通守ると思う?守るわけないよね。だから世界が勝手に、知らない間にヒーロー怪人問わず守られせてるのよ。自分が設定した相手以外を戦わせないようね。」


「えっ…、なら逆に言えば俺が闘ってる敵はこの世界がわざわざ選んだってこと?」


「そういうことになるわ、変な話よね。世界を守るために敵と闘ってるのに、その敵は世界が選んだってことなんだから。」


「なんだよそれ…、これじゃあまるで俺達は格闘ゲームのキャラクターみたいじゃんか。」


地球というプレイヤーが「俺」というヒーローと、それに相応しい敵を選んで戦わせてる。

だとしたら俺達ヒーローは今まで自分の意思で戦ってたと思っていたのにじつはコマンド通りに指示通りに動かされたことになる。

もしかしたらこうやって悩んでることもイベントのひとつかもしれない。

考えれば考えるほど頭が痛くなる。

何を信じるかどうかも…。


「あのヒトミって女の子、元々はミクが倒すべき子だったの。だから設定されてないツナグがどんなに頑張っても彼女には勝てなかったのよ。」


じゃあ俺が渾身の力を込めて放った一撃もそもそも無駄ってことだったのか…。

はははっ…、聞けば聞くほどバカらしくなるよ全く…。


「でも逆に言えばヒトミもツナグをこてんぱんにすることができても倒すことはできない。おかけで無事に年越すことができた、幸いにね。」


「けどミクは…。」


「ヒトミはミクがどうにかしなきゃいけない子。ミクが負けた時点で私達の敗北は決定だったのよ。だけど地球はもっと酷いイベントを用意してくれたわ。」


「あれより酷いことって…んな冗談…。」


「ヒトミはミクの敵じゃないとしたら?」


「!?」


疲れや痛みを忘れ俺は思わず立ち上がってしまう。

アミカは俺をちらりと見ると2.3歩ゆっくりと前に進んだ。


「それ…どういう意味…?」


「そのまんま、ヒトミはミクに設定された敵じゃない。」


「ならあの子は…、ヒトミはいったいなんなの!?」


「簡単なことだよ、仮にツナグとミクがワケあって戦うことになったとしよう。どっちが優勢なるか分からないけど君とミクは戦う能力も構造も違う。それは二人が同じヒーローっていう役割も持ってても戦う環境、ゲームが違う。

異文化を侵害することはルールに反する。だからどっちも優勢にはなれるけどとどめは刺せない。それこと君を完全に倒せなかったヒトミのように。」


そういいアミカは振り返り俺に指を指す。



「けどヒトミはミクを倒せたよ。これがミクの敵って一番の証拠…、…じゃあやっぱり…。」


「あの時ツナグが言った通りよ。」


彼女はため息をつきながら手を後ろに回し頭を触る。

俺は必死に喉の先まで出ている真実を飲み込もうとする。もし言ったら後戻りできない気がしたから。

今までやってきたことを、信じてたものを自分で否定することになる気がしたから。

けど努力も虚しく真実はアミカの口から俺喉を絞り出すように掴み飛び出していく。


「ヒトミはミクと同じヒーロー…、これが答え。」

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