5人の戦士 前編
2月中旬
この時期といえば受験やら新生活に引っ越しやらで世間は騒がしく忙しい日々が人々に襲いかかる。
だけどそれは言ってみれば節目を迎えた特別な人達のことで、高校1年生の俺みたいな普通な人達は今までと何も変わらないごく普通な生活を送っている。
今日も俺は普通に学校に行くために右往左往に流れる人混みの中を歩いていた。
そんな時ドッカーンと何かが爆発したような大きな衝撃音が耳の中に入ってくる。
その音にそこにいた人達は一瞬動きを止め音の方向に耳を傾けるがすぐにまた自分の目的地に向かって歩きだす。俺も同じだ、音に興味も目向きもせず学校に向かって進み出す。
しばらく歩いていると反対側から歩いてくる女子高生二人組の会話がふと耳に入る。
「なんかぎこちなかったね、今回。」
「当たり前でしょ、まだバトンタッチされたばっかりなんだから。」
「ああそうだった、そういえばこの前結構大きな襲撃あったっけね。あの時は困ったよ、いきなり沢山出てきたんだもん。」
「今年はまだいいじゃない、去年なんか急に暗くなってそこから変なビーム出てきて建物壊してたじゃん。」
「あっ、そうだった。あの時は大変だったよ思い出した!そっか~、もうこの季節か~。」
「そうよ、2月なんだし最早この季節の恒例行事よね。」
「だね~、もうなれちゃった。」
そんなことを話ながら女子高生達は俺とすれ違う。
最初はそんな会話になんとも思わなかったけどちょっとまて、あの人達は反対側からやってきた。
そんで多分あの人達は「アレ」を見ている。
と言うことはだな、つまりは今向かっている方向で「アレ」をやってるってことだよな…?
そういえば心なしがだんだん騒がしい音が大きくなっていくような…。
考えれば考えれるほど気が重くなっていく。ちょっと時間かかるけど遠回りしようと思ってスマホの時計を見たけどとても遠回りどころか寄り道する時間も厳しい。
結局いつも通りの通学路を乗り気じゃないけど進むことにするよか選択肢はないってことに俺は小さなため息をつきながら足を進める。
学校に行く通学路の間には少し大きな広場がある。
休日は様々な催しが行われて近くには露店も何件か出店してるから結構賑わってるけど平日は俺みたいな通学路や出勤する人がよく使う道にちょうど接してるから別の意味で賑わってる。
けど今日はいつもと違った、通学、出勤で足早に通りすぎるはずの広場に休日でも群衆ができている。
近くにいた人達も事情を知ると広場に足を運び「アレ」を見に行くために広場に集結していく。
俺はそんなものなんて見たくなかったからすぐに立ち去ろうとしたけれど食べ物を見つけた兵隊ありのように次から次へと現れる人の壁にぐいぐいと押し流され他人から見たら幸運、俺からしたら不幸なことに集団の最前列まで流れ着いてしまった。
ここまでくると後に引き返すことなんてとても無理、目の前にある「アレ」が終わるまで学校に行くことなんて無理そうだ。
俺は早く終われと心の中で思いながら「アレ」を泣く泣く見るしかなかった。
「お前は絶対俺達が倒す!」
冷たいコンクリートに転がるように倒れていた赤い格好とマスクを被った人がふらふらと立ち上がる。
「ああそうだな…。俺達がやらなきゃ誰がやるんだ!!」
彼の言葉に答えるように赤い人物の隣で倒れていた4人の人達も力を振り絞るように立ち上がる。
彼らは格好こそ赤い人とほとんど同じだけどそれぞれ青、緑、黒、ピンクとカラーはバラバラだ。
「お前らみたいな戦闘ど素人が俺様に勝てるはずがないんだよ!!! 」
5人の見つめる先には全体的に薄暗い銀色をした身体中ごてごてした装飾をつけた鋭い目付きした狼みたいな顔つきをしているどっからみても人間と思えない、言ってみれば怪人が嘲笑いながらそう叫ぶ。
「確かに俺達はつい最近まで普通の一般人だった。」
「でも、今は違う!」
「私達も普通じゃないんだから!」
「この世界を守る使命を手にした責任がある。」
「だから俺達は負けない!絶対にだ!!」
うぉぉぉぉ!!!と彼らの熱い言葉に触発されたように群衆の熱も人気アイドルのライブ会場みたいにヒートアップするように加熱する。
「そうだ!がんばれ!!」
「絶対に負けるなよ!!」
「応援してるからな!!!」
群衆の中には自分の気持ちを押さえきれずに彼らに声かけをする人達が何人も何人も現れる。
老若男女ここにいる人間が5人組の集団を応援しているけど俺は違う、冷めきってる。
はっきり言って俺はこのノリが嫌いだ、もともと集団行動が苦手なのにこんな大勢と一緒に盛り上がるなんて無理な話。それに応援しようがしないが結末は決まっている。それが今が2月で彼ら初心者とくればななおさら。
「その減らず口今すぐ消してやるぜ!」
そう言うと怪人は肩にかけていた大きな刀を取り出し大きく横に振りかざす。すると刀からどす黒い衝撃波が生まれそれが彼らに向かって高速で向かっていく。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
避けることも防ぐこともできずに衝撃波ぶつかった彼らは大きな爆発と炎中に悲鳴と共に消えていく。
ついさっきまで盛り上がっていた群衆達もその光景に言葉を失い唖然とし一瞬にして広場は静まり返る。
「だから言っただろ、お前達は俺様には勝てないってな!」
「それはどうかな!!」
「ああっ?」
煙の中から勇ましい声が広場に響き渡る。やがて煙が晴れると衝撃波に倒れたはずの5人が現れる。
緑の人は黒の人を、ピンクの人は青の人の肩を掴み、黒と青の人はそれぞれ赤い人の肩をがっちり掴み赤い人はごてごてした大きいカラフルな武器を怪人に向かって構えている。
「な…なんでお前ら生きてるだ!確かに俺の攻撃は当たったはず!?」
「だから言っただろ?俺達は負けないって!」
動揺する怪人に向かって赤い人が勇ましくそう言い放つと静まり返っていた広場にも歓声と熱気を取り戻しまた騒がしくなっていく。
「みんないくぞ!」
「おう!!!」
「バスターシュート!!!」
5人の掛け声と共に赤い人が武器の引き金を引くと武器の先端から巨大なビームが放射される。衝撃で5人は少し後ろに引きずられるが同時にそのために5人で放つ意味があるんだと群衆は理解させられる。
ビームはさっき放った衝撃波の鏡写しのように怪人に直撃する。
「うわぁぁぁぁぁ!!!」
と怪人が断末魔を叫び爆発と炎の波に消えていく。
その瞬間今日一番の歓声が広場を包み込む。
群衆は歓喜に湧き、知り合い他人関係なく握手し、抱き合い思い思いに喜びを分かち合っていた。
群衆がそうして広場から目を離して一瞬のうちに5人組のカラフルな人達は姿を消していた。
「いや~、今週も凄かった。」
「まだ最初で未熟でヒヤヒヤしたけど勝ててよかったよ。」
「そういえば今年は白はいなかったね?」
「まあ白は最近は貴重だからな~、一昨年は赤の強化扱いだったし。」
5人組がいなくなったことが分かると群衆達は映画を観終わり映画館から出てきた観客のように今の出来事の感想を言い合いながらみな自分たちの生活に戻っていく。
ついさっきまで騒がしかった広場も少しの煙と焦げ臭い匂いが漂うことを除けばいつもの場所に元通り、何事もなかったような景色に帰っていく。
この世界…、この街には週に何回か世界の平和を脅かす者達がやってくる。
今日みたいな怪人が単独で現れたり、はたまた軍隊みたいなのを沢山引き連れてたり
。
それともまがまがしい姿をした獰猛なやつが出てきたり、時にはビルより巨大な怪獣が現れたりする。
だけどそいつらが現れたすると必ず彼らがやってくる。
複数人の集団ヒーロー
いろんな姿や武器を駆使しながら戦う強い人
時間制限があるけど頼もしい光の巨人
そいつらがいる限り俺達の平和は毎年守られている。
この物語の主人公は俺みたいな一般人のモブなんかじゃない、彼らヒーローなのだ。
ここはヒーローのいる世界、ヒーローが活躍する日常の物語。