異世界転移後、始めての対人戦
<気>は対人戦では過剰威力なので<気>は使用せず打撃やサブミッションを。ただし、その分、関節や骨の破壊表現多数。
何が起こっているのか分からないので気配を消し近づいていくと街道と村、いや集落とを繋ぐ道の集落の手前に男が一人立っているのが見える。視界に入らないようにしつつ気配も消しているので気付かれていないけど見た感じ如何にもな盗賊スタイルの男みたい。ここまで近づくと大分、声もハッキリ聞こえて、どうやら集落を襲っている最中みたいだ。テンプレ行動お疲れ様です。
さて、そうなるとまずは監視担当のコイツの無力化から始めないといけない。一番簡単なのは気付かれないうちに背面から口を塞いで腰にX字に装備したサバイバルナイフですっぱりと喉や頚動脈を切ってしまえば後腐れもなく簡単な作業なんだけど、私は強くなりたいだけで別に殺人をしたい殺人狂じゃないから無駄に殺す気もないし、この文明・文化で犯罪者を殺しても罪に問われるとは思えないけどこの国や世界の法やルールを知らないままに下手なことは出来ない。
それと一人でも多く生き残らせたほうがより多くの犯罪者・犯罪組織の情報を得れるだろうし、この国の治安担当組織も喜ぶだろう。
そんなワケで気配を消したまま突っ立っている男の背面に回る。気分は長老巻物シリーズの暗殺教団の暗殺者だ。ウチは高校に入学するとPCを元父がプレゼントしてくれるんだけど何故か渡された時点で、長老巻物シリーズと放射性降下物シリーズがMODガチガチでインストされているのだ。暗殺者兼盗賊プレイで気付かれずに背面からの抱きつき頚椎・背骨折が最高に好きだった私はつい再現したくなるけどここは我慢、飛びついて足で胴締めするまでは同じに、違いは折るのではなく腕を首に回し、もう片方の腕でしめている方の腕の手首あたりに当てて引き絞りつつ手では相手の後頭部を前に押し下げるようにして頚動脈を腕でしめつつ頭ごと首を絞める腕に押し付ける。胴締めスリーパーの完成だ。
いきなりでは何が起こったかも理解できず、声も呼吸もままならないで遮二無二に暴れるにも胴締めで完全にコントロールされてる見張りは突然、糸の切れた人形のように崩れ落ちる。……落ちた、ね。脳に血液供給が途絶えたための反応、連続して絞め落とすと失禁するから注意。ってか、よい子もよい大人も真似しないように!
失神した見張りの口の中にその辺の草を大量に押し込み吸音材代わりにして猿轡を噛ませて毛足を括って、ついでに括った手首と足首を繋いでおく。迅速にしないとキレイに落ちるほどキレイに復帰出来るし、あまり失神時間は長くないのだ。……極稀に体調や体質や運不運で二度と復帰できない場合もあるけどドンマイドンマイ。とりあえずここに放置では発見されると鬱陶しいので集落や街道から離れた位置まで運んぶ。
途中気付いた見張りが体は縛られ声も出せず、口に詰った草で咽るのかウ~やらウェッやら吸音されて、くぐもった小さい声を出すが
「もぞもぞ動いたり出せない声を出すのは勝手だけど、縛られて声も出せないこの状態でオオカミやら魔物に発見されたらどうなるかな~」
と、耳元で声をかけたら涙目で大人しくなった。その程度の覚悟で賊やってんじゃね~よって話だけど、やっぱり生きたままバリバリ喰われるのは御免なんだろう。では集落の中に突貫しますか……
集落の中に入ったけど何人の盗賊がいてどれだけの人が捕まっているのか分からないので精神を集中させ生命反応を探る。ここで面白い発見をしてしまった。
例えば魔物、オークならオークのオーガならオーガ特有の反応というか<気>または<生命>の形状や色があり、そこに血縁特有の近さがあって血が遠ざかるごとに違いが出る。オークなら四角、オーガなら三角みたいな感じで。
そして群れの親族なら近い色で血縁関係がないのは色が遠く形の違いもでる、正三角形で赤色の反応のオーガがいるとして近親者は正三角形や赤色に近く、他の群れのオーガは二等辺三角形で青色みたいな感じ。
だけど人間はそれだけでなく何と言うか透明感が違うのだ。この世界に<気>は制御法がないだけで<生命>イコール<気>として存在するので<気>に統一するとして、今までマイナしか人の<気>を見てなかったので気付かなかったけど、現在集落に居る人間の<気>はなんと言うか綺麗で透明度の高い反応もあれば汚い、ホント汚いとしか形容できない反応もあるのだ。
これは人の業を表してるのか、それとも心のあり方を示してるのか知らないけど特に汚い濁った反応が盗賊のだろう。
もしこの反応の中に集落の人間が入っていても、こんな汚く濁ってるくらいなので盗賊を手引きしたか、碌な事してない輩と断定して一緒に倒しても大丈夫だろう、多分。
そうして集落を探ると3つ特に汚く濁った反応がある。多分これが盗賊の反応なんだろうけど、いくら小さいとはいえ集落を襲うには数が少ない気がするが他の反応が20にも満たない上、このうちの一定数は女子供と老人と考えれば殺しと略奪の専門家と一般人じゃ仕方ないか、と反応が密集している中心部に向かう。
「おいおい、こりゃいい女じゃねえか! たまんねえな!」
「や、やめてください!」
「つ、妻にさわる【バキッ!】ぐっ!」
「あ、あなた!」
「なんだぁ? てめぇの嫁かよ? おいおいこんな女はお前にゃ勿体ねえ! 俺が貰ってやらぁ!」
「いや! 放して!」
「っるせぇ! ……よし! 旦那にお前は誰のモンか今ここで見せつけてやる! すぐによがってヒイヒイ言わせてやるからよ!」
「い、いやーーーー!!」
……殺すか……いや、死んだほうがマシなレベルの痛みをあたえてやる、と一刻の猶予もないので家の影から飛び出す。
重力は1Gに落としてあるけど、さっき見張りを絞め落とした時にちょっと思うことがあったので<気>は開放も練りもせずに一気に距離を詰める。
女性を掴んでるのは頭っぽくて一番遠いのでまずは捕らえた住民を見張っている2人を無力化することにする。
私の速度に反応できていないのか見えていないのかは知らないけど全く反応できていない1人目の顎に力を抜いた拳を、手首のスナップだけで、それも極力弱く弱く弾くように当てる
【グシャッ!ゴキュ、グリッ!】
チッ! これでもまだ強すぎるか! 軽く弾いただけで当初の予定では脳震盪を起こすために顎を弾いたのだけど顎が外れるどころか完全に粉砕して周辺の筋肉や靭帯を断裂させてしまった。
もしテンプルに入れてたらベネズエラの大将どころの騒ぎじゃなくなってたところだ。いきなり住民に脳漿をぶちまけるとか、どっちが悪人か分かったもんじゃない。最初の見張りを絞め落とした時に魔物に比べ身体能力が著しく劣ると思ってたけれど、魔物と同じノリで攻撃してたら洒落にならないとこだよ。
いまだ時間が遅くなったように反応できていない1人目の向こう脛をタングステン入りブーツで軽く蹴り、念のため足をへし折っておく。
何が起こったか分かっていない2人目にそのまま向かいさっきよりより弱く細心の注意で肝臓打ちを入れる。
【ドズンッ!】
ホッ……すさまじく重い重低音が響いたけど体が千切れと飛ぶ最悪の事態は起こらなかった。内臓破裂も多分だけどしていないだろうし、少なくとも数日は血尿待ったなしだけど自業自得と諦めて。
コイツも向こう脛をへし折って万一にも動けないようにする。ここでやっと遅れた時間が流れるように全てが反応する。
「な、なんだテメエ!! いったい何だ!! 何が起こった!! 何しやがった!!」
コイツにしたら、いきなり私が出現したと思ったら手下2人が悶絶して悲鳴も上げれず、のた打ち回っているんだから混乱もいいとこだろう。だけどこちらとしては何も話すことはないので捕まえていた女性を突き飛ばし剣に手を伸ばそうとした相手の懐に一瞬で潜り込む。
「へ?!」
数mは離れていた相手が自分が剣に手を添えるより早く懐に入ってきたので驚いたのか間抜けな声を出してるけど無視して私は懐の内で回転を始める。ホントは相手をからかうように回転しながら掌で頬をビンタ的に叩きながら回るんだけど、身長に差があるので腹にビンタの代わりに極弱のフックとエルボーを叩き込みながら二回転、三回転と回る。そして最後に足を足でレッグ・シザーズ的に絡め取って、うつ伏せに倒してしまう。これぞタ○ガースピン! ここからリバースのインディアン・デスロック、そして鎌固めやボー・アンド・アローに移行したかったけど腹を叩かれた激痛のためか悶絶してうつ伏せから仰向けに変わったので、相手の右足かかとを右ひじでフックし両手をクラッチする。両足で相手の膝を固定しフックしたかかとごと全身を捻ってヒールホールドを極める!
「ギャ、ギャーーーーッ!!」
うるさい! 泣き叫ぶな!
叫び暴れるが完全に足が極まってる上にこれは内ヒールホールド、競技者でも外すのは困難だ。さらに遥かに力の勝る私の片足が上体を踏み抑えているので上半身を起こすことも出来ず手をバタバタさせている、とその手が鞘から落ちた剣に触れかけたので全身の筋力で反動をつけ一瞬、体を跳ね上げる。そして浮かせた全身をヒールホールドを極めたまま一気に回転させる! スクリュー系の技というよりワニのデス・ロールに近いこれを完全に極めた状態で行なうと……
足首、膝さらには股関節の靭帯という靭帯、関節という関節を破壊されきって、ねじ切られる寸前のぼろ雑巾のような足をした最後の1人が転がっている、内出血で加速度的に足全体が膨れてきているけど私は知らないし。
「とりあえず盗賊は見張りも含めて全部倒したから、もう大丈夫よ」
捕まって縛られていた住人を開放して、いまだに悶絶している2人の盗賊と激痛のあまり白目を剝き泡を吹いて失神しては激痛で起きるというルーチンワークを繰り返す頭を縄で捕らえておくように頼み私は緊急避難ハウスのマイナと、ついでに放置した見張りの回収に向かう。
流石に慣れたものの、それでも少し心配だったのか飛び出てきたマイナを抱きとめてあやしながら見張りも回収。縛った縄を掴んで引きずりつつ何か言いたげなマイナの視線を無視して集落に戻ると
何故か私の姿を確認するなり一斉に膝をつき手を組んで祈りのポーズ的なものをする住人に迎えられた。口々に女神がどうのやら言ったり集落の代表者っぽいお爺さんがなんか小難しい感謝の言葉を語りだしたが
「いや、そういうのいいから。ホント女神やら祈りやら勘弁して……それよりもこの盗賊連中を突き出す組織はあるの? アジトやら盗賊団の規模や盗んだ物、捕まった人がいないか確認しなきゃ駄目じゃない?」
女神扱いは勘弁して欲しいので止めるよう頼んだものの止めてくれるか微妙と思ったんだけど、なにか得心したのか全員に理解が広まり丁寧なものの女神やら祈りは止めてくれた。そしてここから少し離れた場所に町があり、そこには騎士団が常駐しているので集落の若い男性が馬で騎士を呼びに行くことになった。今から出発すると明日の朝には戻れるとのこと。
「ソラおねえちゃん、おなかへった……」
おお、このゴタゴタですっかり夕食を忘れてたのを思い出し、じゃあご飯に……というところで
「御礼にもなりませんが、ぜひ食事だけでもこちらで用意させて下さい。小さい集落ゆえ碌な物は出せませんがぜひとも……」
と言われたものの住民を見渡すと出会った頃のマイナと負けず劣らず栄養が足りてない住民から貴重な食糧を取り上げるわけにもいかないワケで……
「ほら! 急がなくても沢山あるし体に悪いでしょうが! 落ち着いて食べなさい!」
結局、私たちだけハウスで食事するわけにも住民の食糧を取るわけにもいかないし、どう見ても飢えてる上に盗賊の襲撃でフラフラになってる特に子供や妊婦を無視するわけにもいかず、仕方ないので巨大調理なべを取り出し困ったときのシチューを作る、大量に作れて下処理した材料をアイテムボックスに入れておけば簡単かつ栄養豊富で楽。それと大量に焼いて貯蔵してあるパンも食べるがいい。
わざとなのかミスなのか知らないけど、米とか小麦とか毎日、総量で1人分プラスαはなく大まかな種類毎に1人分プラスαなので日々、色々な穀物や調味料・その他を出せるだけ出して貯蔵してるので実は個人消費では考えられない量がどんどん貯まっていくので少しくらい消費してもなんら問題ない。
最初は遠目に見ていた住人もいい匂いがしだした辺りで各家庭で食器を持ってくるように言うと足早に取りに戻り、順番に並んでもらってシチューとパンを配ればそこは戦場と化した。ちょっとやそっとじゃなくならないから落ち着いて食べなさい、女神様のお手製とか言うな女神じゃない、神界の食べ物じゃない、何の変哲もないパンとシチューだ。
戦場という名の食事を終えて、マイナや集落の子供もウトウト始めたので私とマイナは集落の端に緊急避難ハウスを出してお風呂と睡眠にしようと思う。いきなり小型のログハウスが出現してビックリしている住人に、もしまた盗賊が来ても私がすぐに気付くのを説明して子供や女性に老人は休むように伝える。男性も休んで大丈夫なんだけどやはり心配なのか交代で番をするらしい、お疲れ様。
次の日、マイナが起きるまで柔軟して過ごし起きると一緒に朝食、そろそろ外に出ようとしたところで【コンコン】
「は~い! 今出ます!」
ドアを開けると盗賊のような毛皮やなめし皮じゃなく細かい傷はあるものの、きっちりと手入れされた金属鎧とちょっと理解に苦しむ質量武器的な大剣やメイスを身に着けた騎士が目を見開いていた。
お互い無言で見つめ合うこと数秒、騎士2人がぜんまいの切れたおもちゃのようにギギギとぎこちなく祈りのポーズをしかけたので
「あ、女神とかそういうのなしで。祈りも不要。私は唯の人間」
私が止めると跪きかけたまま暫く停止して、ようやく普通に立ってくれた。ただ『伝承どおり……経典に記された……真実……』とボソボソ言っていたので伝わったかは微妙。
「で、盗賊はもう回収してくれたの? もう私は用済みでいいかな?」
「は、はい! 賊はこちらで回収し情報を吐かせたのち然るべき処分をいたします! つきましては報奨金の受け取りと調査後のアジトの押収物の受け渡し等で、御面倒と存じますが町までご足労頂きたいのですが!」
……あ~これは内心いまだに女神と思ってるクチだわ。
「そんな畏まった話し方してもらわなくていいよ。それより町に行くのはいいけど、どの位の期間滞在しなくちゃならないの? 私ちょっとこの子を王都まで送る途中だからあんまり時間とられたくないのよね。あ、あと王都の方向どっち? 町と同じ方向? 違うならお断りするわ」
騎士相手にかなり強烈な主張だけど私を勘違いしてるので大丈夫だろう。
「いえ王都の方向とは違いますのでここから直接王都に向かうより2日は余分にかかります……調査も取調べやアジトの立ち入り調査、押収品の検品となりますと最短で2週はみていただかないと……それと、その娘を送るのですか? 見た所平民のようですが……」
ああ、それでは時間がかかり過ぎる。なのでマイナが王都から人攫いに攫われ魔の山で私が保護し送っている最中なのを伝え、家族と離れて少々時間がたってるのでなるべく早く送りたいので報奨金も押収品も要らないから先を急がせるように言う。ちなみに魔の山で絶句していた。よっぽどヤバイと有名な模様。
「……本来なら一度、町にご同行して頂きたいのですが事情が事情ですし、その、貴女の行動を縛る権限など何者にもありませんので仕方ありません。報奨金は王都で受け取れるように一筆入れましょう。押収品も後で王都に輸送する手続きもできますが?」
「ん~じゃあ報奨金は受け取れるように処理をお願いします。押収品は正直不要なんだよね……あ、じゃあ持ち主が判明した物は持ち主なり遺族に。不明なのはこの集落と町で山分けしたら? ここも今回の襲撃で被害が出たし町も警備に費用かかるんでしょ?」
「こちらとしては助かりますがよろしいのですか? ……分かりました、ではそのように手続きします。ああ、それと目立つのがお嫌のようなのでフードを被ることをお勧めします。特に髪と瞳は隠されたほうがよろしいでしょう。王都に入る際の検査でも私から一言書いておきますので隠されたまま手紙をお渡しください」
「そうなの? ありがとう」
暫く待って騎士から手紙を受け取り少し予定外の寄り道があったけど再び王都に向けての旅を再開した……
なお、押収品は集落と町で分けるよう言った辺りで住民全員、私たちが集落から出るまでお祈りポーズで固まってた。