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襲撃跡と魔物の襲撃

 森から抜けて街道か獣道か判断に悩む道をマイナの指示に従って歩くと暫くして腐敗臭がしてきた。

彼女の顔色が少し青く、繋ぐ手にも力が入っているので多分、魔物に襲撃された場所が近づいてきたんだと思う。おそらく生き残りはいないと思うけど、自分を逃がしてくれた人たちの最後の確認と、出来れば弔いたいのか立ち寄りたいとのことなので現場にむかう。私としても可愛い妹分の恩人となれば最低限の弔い程度はしたいし。あ、奴隷商と護衛は除く。永遠に地獄の業火に焼かれればいいと思うよ?


「大丈夫? キツイなら私が全部やるからここで休んでていいよ?」


「ううん、だいじょうぶ。わたしがありがとうっていわないとだめ」


 まだ幼いのにホントに強い子だと感心する。それだけ死の近い世界だからかもしれないけど、だからこそ身勝手にもなっておかしくはないのにね。


 どんどん腐臭が濃くなって、そして破壊された馬車が見えてきた。反射的にマイナが走り出そうとするけど、しっかりと手を掴んで引き止める。まだ魔物がいる可能性も新たに魔物が出る可能性もある、急ぎたいのは分かるけどここは我慢してもらうよ。


「駄目よ。安全を確認してから、ね?」


 万一を考えマイナを抱き上げて、周囲の気配と<気>の反応を確かめながら近づいていく。ちなみにこの世界、あくまで<気>をコントロールしたり制御するシステムが無いだけで生命がある以上、生命自体を<気>としてとらえることは出来る。生命力とか命はあるがコントロールは出来ない、当然それを根源とする<気>もコントロール出来ない。私はそのシステムを内蔵してるので当然、生命も探知できる。つまり気配を消したり息を潜めても私の前では無駄。まあ、現状ではまだまだ狭い範囲なので安心は出来ないのだけど。あとは、もし存在した場合にゾンビや霊がどうなのか気になるところ。


 そして馬車の前まで来たが酷いものだった。引き裂かれた服や飛び散って、そして乾いた血痕を残すのみで結局、遺体は見つからなかった。転がる死体は緑の小人、ゴブリンだろう、とオークの死体が少しあったのみだ。このままにして病気の元になられても新たな魔物を呼び寄せても迷惑なので集めて馬車の木材を使って焼いてしまおう。ゴブリンとオークの死体を一箇所に集め、馬車をバラバラにして出た木材を積み、油をまいて火を放つ。

 

 その間にマイナには僅かに残った服の切れ端等の人の痕跡を回収してもらう、そんな物でも弔わないよりはマシでしょうし誰かを示す物があれば被害者の物なら遺族なり行政(あるのかは知らないけど)なりに届ける必要もあるし、奴隷商関係の物ならこれも取り締まる団体に提出が必要だろうから。


「どう? 集まった?」


「うん、これでぜんぶだとおもう……」


 マイナの集めた遺品を見たけど身分や身元を示すような物は何も無かった。護衛の装備品も無かったところを見ると持ち去ったのでしょうね。


「そう。じゃあ、それを埋めてお墓を作ったらお花……マイナ、私の後ろに隠れて」


 マイナは不思議そうにするけど私の言うとおりに私の後ろに回る。そしてすぐに何故、私が隠れさせたのかに気付く、魔物だ。肉の焼ける臭いに誘われたのか、はたまた私の感知できる範囲外からこちらを見ていたのかは知らないがかなりの数のゴブリンとオークがやって来た。


「ソ、ソラおねえちゃん……」


「大丈夫だから、隠れる用のハウスを出すからマイナは隠れてなさい」


 意識下から小型のハウスマーク3見た目はミニログハウスで中はキッチンに風呂・トイレ別、ロフト付きの1DKで冷暖房完備に食材もしっかりあるので篭城する分には十分、周辺3mは絶対防御圏なので魔物の侵入も不可能。最悪、私になにかあっても暫くは大丈夫だ。


「あ、あぶないよ! にげようよ!」


「魔の森と魔の山で普通じゃないオオカミ従えて(ぬし)やってた私がこんな魔の森にビビッて近づけもしない奴らに負けるわけないでしょ? さ、マイナを守りながらだと戦いにくいから早く入って入って!」


 べつに従えてたわけでも主をしていたわけでもないけどマイナを安心させるためにそう言っておく、そもそも格下とはいえ絶対に負けないなんて保証は無いわけだし。そして渋る彼女を無理やり中に入れると数日は私しかドアを開けれないように調整しておく。そうこうするうちにすっかり取り囲まれたみたいだ。


「さあ、おまたせ。じゃあ……死になさいな?」


 <気>の封印は解かないけど全身の<気>を練って基本戦闘力を一気に跳ね上げると同時に、重力を1Gに戻す、そして本能的な恐怖に固まった魔物の群れに突貫した。


 ……戦いの経緯は別段これといったこともなかった、オークといっても魔の山にいた個体はこれとは別種なのかこんな小さくも弱くもなかったしゴブリンなどそもそも魔の山にはいなかった。多分弱すぎるからだろう、魔の森や魔の山で生きるには<力>が弱すぎる。感じ取れる<力>でいえばオオカミの若い子でも1頭で十分にこいつらを殲滅できる。本来なら<気>の開放・強化も重力を戻すことも不要なレベルだったけどマイナをあまり待たせて不安にさせる必要もなかったからね。


 殲滅した魔物も新たに火に放り込み、万一また魔物が近づいてこないように一瞬、爆発的に<気>を高めて周辺を威嚇した後、終わったことを伝えるためにドアを開ける。


「はい、おまたせ~終わったよ~」


 マイナの緊張を解すためにわざと少しダレ気味に声をかける。


「ソラおねえちゃん、けがしてない?! だいじょうぶだった?!」


「大丈夫よ~ってか、あんなのに苦戦してたら今頃、魔の山で魔物のお腹の中よ」


 よほど心配だったのか私に飛びついてきたマイナだったけど『魔物のお腹の中』発言で怒ったのかお腹をポカポカ叩いてくる。うん、発言には注意しよう。


「ゴメンゴメン……さ、お墓を作ってお花供えましょう?」


「うん……」


 まだ怒ってるのか少し目がきついけど大人しく一緒にお墓を作り、花を供える。お墓といっても土に僅かな身元も示さない遺品を埋めて目印に木の棒を建てただけの簡素なものだけどこれで許してもらう。私が祈りを終え顔を上げてもマイナはずっと祈り続けている、彼女の気の済むまで付き合うのが私の務めなんだろうね。数分くらい過ぎたところでマイナは顔を上げる。


「……もういいの? 多分これが最初で最後になるから気の済むまでいいのよ?」


「……ううん、だいじょうぶ。ありがとう」


「じゃ、行こうか」


「うん」


 私も聞かないしマイナも何も言わない、たとえ幼くても彼女の心は彼女だけのものなのだから。こうして1つ終わらせた私たちは王都に向けての旅路を歩み始めた。


 とは言うものの実際問題、徒歩だと何日かかるか分かったもんじゃないのをがむしゃらに突き進んだところで意味ないし、そもそもまだ幼いマイナの足では移動できる距離もしれてるのでのんびりと行きますよ。ってわけで初日だし日々回復に勤しんでいたとはいえマイナは回復後のマトモな移動はこれが最初なので、今日は少し早い目に休みましょう、と街道から少し離れた場所にハウスマーク2の縮小版を出す。マーク3は道場も広いお風呂もないので駄目です。あれはあくまで緊急避難用。毎回ハウスを出すたびにサイズも形も違うのでマイナがなにか聞きたそうだけどガン無視してさっさと一緒に中に入る。


「私は夕食の準備するからマイナは手を洗ってね~」


「うん!」


 結構結構、子供は元気が一番なんです。さて、今日のご飯は……よし!肉じゃがだ!異世界人に和食の奥深さを味わわせてやろう……調味料の補給がなかったらアイリッシュシチューになってしまうところだけど酒も味醂も醤油も昆布も鰹節だってある我がハウスに隙はない!なお我が家の肉じゃがは牛肉派。

 魔の山から見て魔の森とは反対側の牧草地に生息していた野生の牛の群れを適度に狩り地下の熟成室で程よく熟成された肉の表面を削り、スライサーで薄切りに。

 室温で肉の脂が溶け出したところで肉を軽く炒める、炒めた油にたまねぎ人参じゃがいもを投入して油をまわすと酒と味醂を入れ一煮立ちさせ出し汁を投入、落し蓋をして灰汁を取りつつ暫く煮る間に、一時大量に作ってアイテムボックスに在庫してある豆腐と無限補給・その他で出た乾燥わかめで味噌汁を作りご飯を炊く。最後に肉じゃがに薄口醤油を入れて味を調え完成。今回は砂糖は使わずに優しい味にしてみた。


「ごはんできたよ~」


「は~い!」


 積み木で遊んでたマイナはもう一度、手を洗うとパタパタやって来た。うんうん、順調に衛生観念が身についてる様でなにより。最初は女性として以前に人としてやばかったからねえ……


「「いただきます」」


 ちなみにこれも教えた。


「おいいしい! ふしぎなあじだけどおいしいよ!」


「でしょ? これは私の生まれた国の家庭料理なんだよ」


 自分の母国の料理を褒められるのは嬉しい、時折『かみさまのくにのりょうり……』やら『わたしがたべたらばちがあたらない?』やら言ってるけど聞こえません。ってかなんでこの子は頑なに私を女神扱いするのか不思議だ。嫌な予感がするから何故かは聞きません。


「「ごちそうさまでした」」


 よほど気に入ったのかしっかり肉じゃがもご飯もお代わりして大満足な様子のマイナに


「おなかいっぱいみたいだけどデザート食べれる? 今日はコーヒーゼリーなんだけどな~?」


「ゼリーはわからないけど、デザートはたべれるんだよ!」


 うん、流石に幼くとも女子、よく分かってる。入るトコが違うのよね。


 少し胃が落ち着くのを待って、コーヒーゼリーの登場です。キラキラと暗褐色に煌く宝石みたいなゼリーに不思議そうに、でも期待をこめた目でそれを凝視してる。

 それに生クリームのうちコーヒー向けのライトクリームをかけるとマイナは早く食べたいのかウズウズしてるが勝手に取ったり食べたりはしない。こちらをチラチラ見ながら体をウズウズさせているので


「どうぞ? 焦って食べて喉に詰めないようにね?」


「うん! いただきます! ……ぷるぷるしてる! おいしい! ふしぎだ!」


 やっぱり可愛いな、妹もほしかったn……駄目だ、1人の男を賭けたライバルが増えただけだ。私には分かる。私だからこそ分かるんだ。


「じゃ、お風呂に入るぞー!」


「はいるぞー!」


 すっかり風呂好きになったマイナとのんびりとお風呂を楽しみましょう。ちなみに私の様に常に髪に気を使っているとトリートメントだけで問題ないんだけどマイナみたいに髪が痛みきっていると、コンディショナーが必須です。日々のヘアケアは丁寧に。


 お風呂も上がり歯も磨いて、寝るまでの時間を私は柔軟と服の手直し、マイナは積み木で遊んでいたんだけど流石に今日は移動初日、襲撃現場の確認と処理、魔物の襲撃と色々あったからいつもより早い時間だけどマイナはうつらうつらしだしたので、一緒に寝室に移動する。

 まだ家族と一緒に寝ておかしくない年齢だし誰かと一緒じゃないと不安なのもあるんだろう、保護した当初に寝かしたまま道場で朝錬してたらマイナが泣きながら飛び込んできて以降は注意してる。


「おやすみ」


「うん、おやすみなs……くぅ……」


 よほど眠かったのか途中で寝落ちしたマイナの髪を撫で付けながら私も眠りに落ちていった……






「んん……おはよ、ソラおねえちゃん」


「おはよう、しっかり寝れたみたいね。柔軟が終わったらご飯にするからちょっと待ってね」


 マイナが起きるまで柔軟を続けていたけど、マイナが起きたので適当に切り上げて朝食の準備を始める、腹もちや栄養を考えてロッゲンミッシュブロートをパン生地にしたサンドとサラダ、スクランブルエッグとミルクにフレッシュジュースが朝食です。今日も一日移動なので食後はマイナも一緒にしっかりと柔軟をしておく。


 そして今日も手を繋いで移動を開始した。途中で魔の森の前から続いた街道とも言えない道と、多少の人の往来を感じさせる道が合流して人里というか人の生息圏に入ったことが感じられた。

 マイナもこの辺りの集落や町に村といったものが何処にあるか知らないらしいけど王都の方向も分かってるし街道を歩けば人の居る土地にも出会うだろうし、そこで詳しい道を聞けばいいので行程に関しては気楽に旅を続けよう。

 注意しなければいけないのは魔物と盗賊辺りだね。そんな移動を3日ほど続け、今日はここまで、と考え出した夕方に今歩いている道の遥か先にごく小さい集落か村を発見した。


「少し距離があるけど頑張ってあそこまで行ってみる?」


「うん、ここがどこかおはなしききたい!」


 と、いうわけで予定を変更し人里に向かい歩を進める、段々と日が落ちて大分近づいた頃には完全に夜の闇に包まれていた、そこに集落のほうから『キャ……アア……!』『女……逃げ……男は戦……』悲鳴や怒号が伝わってくる!


「マイナ!ハウスに入って!」


「うん!ソラおねえちゃん、きをつけてね!」


 何度か魔物の襲撃を受けるうちにすっかり阿吽の呼吸と化したやり取りをしてマーク3にマイナを残して私は集落に急ぎ近づいていった……

襲撃跡で出た魔物をアイテムボックスに入れず焼却したのは、ゴブリンはゲーム知識や実際戦った弱さ的に二束三文と判断、オークはもっと上位種がボックス内にゴロゴロしてるのと、もしオークをこの世界で食材としていた場合に人を喰ったと、ほぼ明確なオークを使ったり卸したりするのを嫌ったからです。

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