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空 下山する

下山するのは最後ですが

「じゃ、食事の準備するからソファーにでも座ってまってて」


とすぐに準備にとりかかる、っとその前に最後にとった食事はいつかを確認しないと。


「ねえ、マイナちゃんは最後にご飯食べたのはいつなのかな?……立ってないで座ったら? まだ辛いでしょ?」


なぜか立ったままの彼女に声をかけると


「わたしきたないからきれいなのがよごれちゃう……」


ああ、遠慮してたのか。気にしなくてもいいのに。


「そんなこと気にしなくていいから。また倒れたら大変だからゆっくりしなさい」


ソファーに案内し強引に座らせ


「で、最後にとったご飯は?」


「きのうのおひるにパンとおみず、すこしのんだよ」


 ふむ、つまり完全に絶食状態じゃなかったわけね、では始めますか。ダイエット目的なら糖質は厳禁なのだけど彼女はちょっと日本基準じゃ、あったらいけないレベルの痩せ方なのでバゲットに

とり肉と野菜のシチューでいいか。

 ここに住み始めていくらか経った時に試して気付いたんだけど、毎日補給される食糧その他は、使わないと補給されず、使った分は補給される。全部アイテムボックスにしまうと毎日補給されるのだ。日々の補給量は少ないとはいえ塵積です。結構、貯め込みましたよ。

 バゲットのようなパンは油脂と使わないので実は消化によいのだ。

肉もササミと胸肉のような脂肪分のない部位を使う。

あまり濃いと負担になるが適切な量のミルクとバターも消化に問題なく、カロリーが高いので栄養補給のために使用。野菜は繊維質が消化の負担になるので繊維質の少ないものと、多いものはしっかりと煮込んで繊維を解いて使用する。

香辛料は刺激になるので最低限必要のもの以外は除外。


「はい、できたから食べましょうか」


「……たべていいの?」


 ホントに食べていいのか聞いてくるが、料理に視線が釘付けのうえ香りが漂いはじめたあたりから鼻をヒクヒクさせていたのは知っているのだ、遠慮せずにたぁんとお食べなさい。


「どうぞ? あ、急いで食べたらお腹が痛くなるかもしれないからゆっくりとね? それと食べ過ぎてもお腹が痛くなるだろうから無理に食べ過ぎちゃだめよ。心配しなくても明日もきちんとご飯あるから」


 よほど空腹だったのかすごい勢いで食べはじめたので注意をしたらきちんと落ち着いて食べ始めた……うん、私には1才下の弟しかいなかったから年の離れた妹もいいなぁ、と考えながら一緒に食事の時間を過ごした。

食後に私はアールグレイ、彼女にはリンゴとバナナのジュースをだして少し落ち着きつつ


「さて、お腹が落ち着くのを待ったら大切なことをすませてデザート食べましょうか?」


「デザートってなに?」


「う~ん、そうね、お菓子みたいなもの、かな?」


「おかし! たべたい!」


「その前に大切なことをすませましょうか」


「たいせつなこと?」


 そう……非常に大切で彼女を一目見たときから気になって気になって仕方がないことを終わらせないと先に進めないのだ。


 それは……お風呂と着替えだ! いつ洗ったのか不明なほど汚れてくすんで油の浮いた髪と垢にまみれた体! 洗濯なんて知らない子のような汚れてボロボロの服! 許せません! 緊急性が高かったので食事を優先させたけれど、これは我慢できない! 彼女が使ってついた室内や家具の汚れは後で掃除すればいいので別に気にしない。


「うん、まずはお風呂に入ってキレイにしたら服もちゃんとしたものに着替えよう?」


 ハウスの服は基本、私に合ったものしか出せないが母に多少の手直しを習っていたのと趣味で編み物や手芸をしていたので作りの簡素な服の直しを今日使える程度になら手早くすませてしまえる、ただここで予想だにしなかった核兵器クラスの爆弾が投下された……


「おふろってなに?」


「なっ……!?」


「?」


「お、お風呂知らないの?! ほら体や頭を洗ったりとこするアレよ?!」


「みずあびのこと? おみずはたいせつだから、たまにからだをふいたりするよ?」


 ……なんてこと……これは想像以上だ、彼女の身の上がそうなのか文明レベルがこれなのかは知らないけど最早、一刻の猶予すら許されない、いや、許せない! 彼女の手をとると有無を言わせない迫力で即、風呂場に移動を開始する。私のいきなりの変化に目を白黒させているけど私にも流石にこれは余裕がないので脱衣所まで連れてくるとすぐに服を脱がせ、ホントは処分したいんだけど一応、服は洗濯機に放り込み洗剤とハイターに柔軟剤を規定よりいくらか多めに投入して、しっかり洗浄モードで回しておく。


 お風呂は生まれて初めてだからか最初はビクビクしていたけど入って見るとあまりの気持ちよさに魂が半分抜けたユルんだ表情で湯船に浸かっている。お風呂もハウス改装した時に大浴場に複数のバスタブでかけ流し、メインは檜風呂とちょっとした銭湯並みの設備にかえてあるので安心して彼女が汗を出して毛穴が開くまで浸かってもらっても問題ない。

 しっかり浸かって毛穴が開いた頃には、うん、お湯がすごいことになってたけど意識から無理やり追放して全身を洗うとしましょう。


「ん~なんかへんなかんじ。でもすごくきもちいい!」


 お風呂も知らないってことはケア用品も知らないし使ったことがないようなので、最初くすぐったそうにしていたけど、すぐに汚れが落ちて全身の不快さがなくなってきたのか気持ちよさそうにしてる……私は何度洗っても、なお出る汚れに死んだ魚の目になってるのが鏡に映っていて泣きそうになったけどね……ああ、マイナちゃんは割りと色白で髪はダークブラウンだったのね……


 合計5回の繰り返しでとりあえず汚れを落としきれたので自分のケアを終わらせ一緒に檜風呂を楽しみ(内心これでも汚れが浮いたらどうしようと戦々恐々だったけれど問題なかった)のぼせる前にお風呂を上がることにいた、それにしてもマイナちゃんは私の胸に食いつきすぎだ。

体を洗ってあげるとき密着すれば『ぽよんぽよんだ!』湯船に浸かれば『おむねプカプカだ!』あったらあったで邪魔なんだよ、特に武術やってるとね……


 とりあえずは下着は紐で調整できるドロワーズを出しその上からTシャツを着せる、流石にいくら私が小柄でも体格に差があるので手直しがすむまで今日はこれで我慢してもらおう。ただこの程度の服でも『よごしたらたいへん』『おかねはらえない』と、少し説得に困った。いくらでも汚しなさい汚すのは子供の仕事、お金なんてとりません……あ、この世界やっぱり貨幣経済なんだ。


「さて、お風呂上がったからデザートだ!」


「デザートだ!」


 さっきの説明でお菓子と理解してるようなので大喜びしてる彼女をソファーに座らせて用意を始める、っても簡単にフルーツヨーグルトなんだけど。ビバ! 魔石動力ヨーグルトメーカー!


「ん~! あまくておいしい!」


 早く栄養状態を改善したいのと、フルーツ入りとはいえ無糖はちょっと早いかな? とグラニュー糖を加えたのを出したらお気に召したようで、ニコニコしながらしっかりと食べてお腹をさすっていた。


「さて……じゃあ、少し大切な話をしましょう?」


「たいせつなはなし?」


「うん、なんでこんな危ない場所に一人でいたのかとか家族は、家は? とかの話ね」


 最悪、家族が亡くなっているとかの可能性を考えると正直なところまだ小さい子供にはしたくなかったけど、これを進めないとこの先の予定や行動が組めないので嫌々ながら話を切り出す。



 


 やはり、まだ小さな子供なので要領の得ないことや私のこの世界での根本的な知識不足で理解できないことも多少あったけど大体の流れはこんな感じみたい。

 彼女、マイナちゃんはこの国カールクランツ王国の王都の外周の町に住んでいた。王都は高い壁に囲まれてたって話なので城塞都市みたいな感じでその周辺を取り囲むようにできた町なんだろう。その町で姉のマリエル、双子の妹のアリナと3人で暮らしていた。で、日々の生活は冒険者ギルドの簡単な薬草採集や商店の手伝いの依頼等をこなして生活していた、と。

 

 数日前に薬草採集のために近くの森に3人で入ったところ1人迷ってしまい、そこで人攫いなのか奴隷商人なのか判らないけど、連れて行かれて他にも何人かの人と馬車に乗せられ運ばれた。

 ただし犯罪者や借金がショートした以外での奴隷や人身販売は違法らしく普通の街道を移動できないので、優秀な冒険者でも近づかないと有名な魔の森と魔の山の近くの道を移動してた、そうしたらゴブリンとオークの集団に襲われて、奴隷商人(仮)側にも戦える人がいたみたいだけど魔物の集団に、2人の護衛だか冒険者だか以外まともに戦えない少数の人ではどうしようもなく一緒に乗っていた他の攫われた人たちがせめて子供だけでも、と自分たちを盾に逃がしてくれた。

 当然、魔物は追いかけてきたけど魔の森の方に逃げたら、近づいてこなかったので必死で森を走って走って動けなくなって、気付いたら私がいた、と。


「なるほどね……」


 なおマイナちゃんは話し出したら速攻で涙目になって『俺に任せて先にいけ!』あたりで号泣、いまは泣き疲れたのか精神疲労がピークになったのか熟睡している。そりゃまあ、いきなり家族のもとから攫われて馬車に押し込められて魔物が出て周りが阿鼻叫喚の中、子供1人でヤバイと有名な場所を夜通し走り抜けたとか、主人公メンタルでもなけりゃ耐えられないでしょうし。 ……ってか、ここそんなに有名なヤバイ場所だったのか……

 ホントは寝室にすぐ運んであげたいが万一目覚めて知らない場所に1人とか勘違いしたら大変なので毛布をかけて、私は服の手直しをはじめる。いくらか進めた辺りで本日は終了。マイナちゃんを抱っこして寝室に運び、1日の終わりを柔軟で締めくくって一緒におやすみなさい……






「さて、大事なお話です」


「だいじ?」


 夜中に目覚めることもなく熟睡して環境が好転したからか幾分元気な彼女に朝食後、話を切り出す。


「うん、家族も心配してるだろうから家まで送らないといけないでしょ? ただ私は馬車とか持ってないから歩きで移動になるからね、今のままじゃ移動の体力が心配だから数日はしっかりご飯食べてしっかり休みなさい。そうしたら家まで送るから」


「おうち、かえれるの?!」


 家に帰れると聞いて喜ぶ彼女に、私は土地勘がないから王国の場所も方向も全く判らないけど大丈夫か確認したら魔の森の外まで出れば大丈夫、とのこと。安心安心。

 先の方針も決まったので、私は日々の修業をしつつ空いた時間にマイナ(たまに女神様呼びが出る癖を止めるよう言ったら変わりに、ちゃんを止めるよう言われた)の服を手直しし、オオカミのご飯では流石は異世界というか危ないから刃物は触らせないものの、獲物の解体も特に怖がったり気持ち悪がったりせず、大量の内蔵を前に『ぜんぶあげちゃうの? もったいない……』と、なかなか逞しいことです。私の修行中、暇そうだったので積み木を出したらすごい食いつきだった、やっぱり娯楽は少ないのかな?

 あと、しばらくは一緒にいることになるので少し多めに服の手直しをしたんだけど、別に特別上等でもなければ装飾がされてるわけでもない地味なワンピースを手直しの楽さからまいんにしたんだけど、しきりに『きぞくさまのふく、きれない!』『おかねはらえなくて、おねえちゃんがたおれちゃう!』と大変だった。大丈夫大丈夫、私は私で年の離れた妹が出来たみたいでとても幸せです。対価よ対価。


 そうするうちに当初の予定より少し伸びて一週間が過ぎ、遂に出発の日を迎えた。マイナは白のワンピースに麦わら帽子、靴はあくまで私のサイズを基準とした物しか出せないのでそのままのを使ってもらう。サイズも自由にしてもらっておけばよかったな。私は地球時代から愛用した元父オススメの黒のM65フィールドジャケット、黒のホットパンツ、黒のオーバーニー、ディープレッドのシャツ、タングステンのプレートで足の安全と私の弱点の自重の軽さを補ったコンバットブーツのタングステンスパイク付き、と。元父曰く『ホントはモスグリーンなんだけど金髪には黒が映える、あと血が目立たん。止血帯付きのカーゴパンツもいいが可愛くない』


「じゃあ、そろそろ行きましょう」


「うん」


 外に出るとハウスをアイテムボックスに収納する、仕様の偽装を忠告されていたのでとりあえずオパールのネックレスを着けているがこの世界のアイテムボックスやそれに近い物をまだ見ていないので、後々確認しないといけないけれど。

 マイナが最早お家芸的に固まっているけどよくある事なのでそっとしておくと、いつの間にやらオオカミたちが揃ってお座りしてこちらを見ていた。オオカミは群れの動物がゆえに、この手の変化には特に敏感なんだろう。もう会うことがないかは判らないけど少なくとも別れである事はちがいない、ただのオオカミでなく魔物だったら、より敏感なはずだから。

 最後になるご飯の内蔵以外に大量の干し肉・減塩バージョンを出す。まあ魔物ならあまり減塩に意味はないかもしれないけど私の心の平穏のためだから。


「これがとりあえず最後になるから、干し肉は大切に食べなさい。あと若い子は私を人間の基準にして油断して猟師や冒険者に無警戒に近づかないように面倒見るのよ?」


 そう声をかける私に『ヴォン!』と一鳴きすると群れの長が私に頭を擦り付けてくる。……今まで怪我や病気以外では互いに触れることはなかった親世代の行動に固まっていると1頭、また1頭と私に頭を擦り付けては離れていく……そうして最後の1頭まで終わると肉に手もつけず全てのオオカミがこちらを見つめてくる。


「……じゃあ、私たちは行くから……いつかまた会いましょうね」


 少し寂しいけどいつまでもこうしている訳にいかない、この数日ですっかり若いオオカミと仲良くなった涙目気味のマイナの手を引いて歩き出す、と


「「「「ワオーーーーンッ!!」」」」


 背後からオオカミの遠吠えが聞こえてくる。きっと彼らなりの別れの挨拶なんだろう。本来、人と魔物は相容れない関係だろうし私もこの先、魔物もそしてオオカミも狩ることになるだろうけど、この子たちとはいい関係のままでありたいと思う。


 オオカミの遠吠えは魔の山を、そして間の森も抜けいつしか声が届かなくなるまで響いていた。

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