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小さな針

作者: 千代三郎丸

 僕が高校生だった頃の話。


 友人の悲痛な声から、


 --------

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 「足、怪我した!」


 友達の右足のズボンの外側に、小さな穴が開いていた。 

 

 彼はズボンを(めく)って、傷を見せてくれた。押しピンで刺したような血が、球状に滲み出ていた。


「痛そう」

 と、僕は同情した。


 友達は指先でその血に触れて、舐めた。


(にが)っ!……結構、ヒリヒリする」


 赤いボールペンで刺したような、不思議な傷だ。


 音楽の先生が、周りを見渡して、


「授業が終わったら、足元に注意して、さっさと教室に戻るように。特に昼間はね」

 と、忠告した。


 僕は、一人で音楽室の辺りを見たが、特に何もない。

 

 やがて、月末の昼に何かが起こるようだ、と噂になった。過去に、この出来事を記憶している奴らの情報だ。 


 僕は、音楽室の辺りを、再び調べてみた。靴箱、壁に貼られた連絡の紙、それと壁掛けの丸形の時計があるだけだ。

 

 その時計は、「半日ずれている」事を、みんなは知っていた。


 それは、正午12時が、深夜の零時を指していて、1分後に日が変わるのだ。ということは、午前中は今日だが、午後は、翌日の日にちを示した。


 誰かが、時間の調整でぐるぐるまわして、日時で短針を勘違いしたのだろう。ある時刻になると、仕掛けが出てくるもののようだが、今では壊れている。


 僕は、月末の土曜日、午前中で授業が終わると、その場所に行った。時計に目をやった。


 よくよく見ると、長針の先に何か、茶色い絵具が付いている。


(血かも)


 さらに、日時は『31』を指しているが、そこに何か、布が挟まっている。


(なんだろう)


ボーン


 と、正午の12時を示した。


 ボンボンと続き、日時が変わろうとしたとき、『31』の数字が左にスライドしていく、次は『1』になるのだろうと。


 しかし、そのカードは無く、黒く深い内部を見せていた。黒い影が立ち上がる様子が見えた。布はその小さなものの服の一部のようだ。


(なに、虫?)


 その3センチ四方の穴から、小さな人形が現れた。


 三角の赤いとがった帽子、チェックの青いズボン、上着は白いシャツ。2センチくらいの男の子の人形か? 

 

 右横の長い針を、簡単に外した。


(何をするんだろう?)


 その針を手に、コロッと下に落ちた。


 引きずりながら、うごめいている。


(ヤバッ、これで刺すのか)


 重そうに手で持ち上げた。やがて、肩に担ぐ恰好に。

 

 僕はそいつを飛び越え、必死に逃げかえった。


 翌週。


 その時計は、交換することになった。壊れて動きが悪いらしい。


 次の日には、デジタルで、電波時計になっていた。


 あの時計は、どこにどう捨てられたのか。


 僕は知らない。



 終り。

 


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