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きっかけは自己紹介

作者: 春先 ゆう

初めての投稿です。暖かい目で読んで頂けると助かります!

 これから、中学校か。

 桜が散り始める頃、新生活が始まる校門をくぐりながら、不安と期待を感じながら、そんなことを思っていた。

 この中学校に入ったのは単純に家が近いから、という何ともお粗末な考えであったが、両親の反対も特になかった。まぁ、兄弟がこの中学校に入っていたこともあるだろうが。

健二(けんじ)は2組だっけ?」

「ああ。将馬(そうま)は1組だよな?」

「おっ。よく覚えてんじゃん。」

 下駄箱の所で友達で、近所の暁 将馬と会話をする。校門から一緒だったが、長い付き合いのせいか、特に会話もなくここまで歩いていた。実際は家から一緒だったから、校門に着くまであらかた話すことは全部話してしまったのだが。

 この学校は4階建てで、1年から順に上から降りていく形になっている。ようは若者は苦労しろってことだな。登校するときに毎回上級生とすれ違わないといけないのは、少し嫌だが仕方ない。

「疲れた」

 4階に上がるのがこんなにも辛いとは。運動不足にもほどがある。自慢では無いが、生まれてこの方(12年)運動などしたことがなかった。

「はははは。運動不足にも程があるだろ!」

 将馬は俺が膝に手を置いて、肩で息をしている俺の背中を容赦なく、叩きながら笑っていた。

「自覚しているところ何だから、それ以上言うな」

 将馬は悪い悪いと言いながら、先に歩いて行く。俺も睨みながら着いていく。クラスは階段から近い順に1組、2組と続き、4組で終わる。そして、一つのクラスに30人が入っている。昔は7クラスあったらしいから、少子化が進んでいるんだなっと感じるところだ。我ながらテレビの見過ぎとはいえ、この歳で少子化とか言っているのもどうかとは思うが。ちなみに4階に空き教室が三つ程ある。

「じゃ」

「じゃぁな」

 1組に将馬が、入るので短すぎる挨拶を済ませる。この学校には同じ小学校から来ているやつも多いので、特に緊張とかはない。ちなみに、俺の小学校から来ているやつは俺の学年では半分ほど占めている。

 俺も2組の、自分の教室に入る。

 将馬が、遅刻したくないと言っていたから、結構早めに着いたのだが、すでに三割は教室内にいた。

「おはよう。今日は寝癖無いんだね」

 黒板に席が決められている紙が貼られていたので、それを見て自分の席を確認しているところに声をかけられた。

 振り返ると黒髪の短髪で、スカートを折り曲げず、ちゃんと着ており、身長は俺と大差無いから、150㎝前後だろう。そして、スタイルがよい(スレンダーっと言う意味で、胸は……)女子が声をかけてきた。名前は春神(はるかみ)なおだ。小学校から俺をいじることを楽しんでいる変わり者だ俺をいじって何が楽しいのかわからない。この台詞を将馬にも言いたい。

「始業式ぐらい、しっかりしろって両親、共に言われたから直した」

「ははは。親に言われなかったら、直さなかったのかよ」

 人のことを指を指しながら笑うとはいい度胸だ。喧嘩なら買ってやる。

「無念だ」

 俺は膝と手を床につけ、首をおる。

「ど、どうしたの?」

 春神は俺の方を心配そうに見つめる。

「いや、何か嫌みでも言い返したかったが、春神に寝癖はないし、スカートを短くしている訳でも無い。少しは不良になりなさい!」

「なによれ、それ。私はまじめに陸上と勉強をやるんだから、あなたが、考えているようなことは一切いたしません!」

 春神が腰を折りながら、子供を叱りつけるように人差し指で、俺の方をさしてくる。

 何か言い返さなくては。俺は立ち上がり腕を組む。

「ひ、人を指さすのはいけないんだぞ!」

 俺が苦し紛れに言うと

「そうよね。あなたも傷付くこともあるのよね。ごめんなさい」

 春神は普通に謝り、深く腰を曲げてきた。

「む、無念だ」

 俺がいかに子供で、くだらないことを言った事や、それに対して明らかに大人な対応をした同い年を目の当たりにしてしまい、俺の心はくだけた。そして、さっきと同じ膝と手を床につけるのだった。

「朝から仲良しね」

 そう言ってやってきたのは、春神と仲良くしている千田(せんだ)さきだ。黒髪の長髪で、スカートを膝上まであげ、身長は俺よりも高いから160㎝ぐらいはあるだろう。悔しい。そして、文句なしにスタイルがいい(胸が素晴らしい)やつだ。性格が、少しきつく無ければ、間違いなくモテていただろう。

「違う!」

「違うの。私が悪いのよ。私が傷付けるような事をしたからいけないの」

「頼むから、もう謝るな」

 俺は手を床に着いたまま、うなだれる。

「それじゃ、許してくれる?」

 春神は腰を少し上げ、訪ねてくる。

「許す!許すから、もう勘弁してくれ!」

 春神は満面の笑みを浮かべ、俺に手を差し伸べてくる。

「よかった。それじゃ、これで、仲直りね。さぁいつまでも座ってないで、立ち上がって」

「く。勝てない」

「これで、素なのが、なおの怖い所よね~」

 俺は素直に勝者の手を掴み、立ち上がる。そうか、小学校からいじられていると思っていたが、ほとんどが素だったのか。

「おまえら、教壇の上でなに遊んでんだ。もうチャイムが鳴るから、早く席に着け」

 この学校の教師が教室に入ってくるなり、俺たち3人を注意した。ちなみに、男性で身長176㎝、頭を刈り上げている。年齢は30後半だろうか?普通に怖い。

「「は、はい!」」「は~い」

 こんな厳しそうな教師によく千田は間延びした返事ができるもんだ。その事に対しては教師からお咎めはなかった。

 俺たちが返事をしたのと同時にチャイムが鳴り響いた。これから、新しい生活が待っているのだと感じながら、席に着くのだった。



「今日からお前らの担任になった、川崎龍彦(たつひこ)だ。この1年間は貧乏くじを引いたと思ってくれ、俺は誰であろうと、容赦はしない。間違っていることをすれば、注意するし、あまりに言うことを聴かないやつは罰則を与える。自己紹介は始業式が終わってからだ。では、廊下に並べ!」

 まぁ、鬼教官だな。サングラスでもかけたら、どっかのヤ〇〇みたいになるのでは。

 廊下に出ると、川崎先生が男女別に名前を呼んでいき並ばせる。俺の氏名は谷城(たにしろ)なので、真ん中らへんに並ばされた。

「よし、並べたな。少し待っていろ」

 川崎先生がそう言うと皆、近くの人と会話を始めた。

「おい、谷城。今日も春神とラブラブだったな!」

 俺に軽く肘をあてながら、声をかけたのは小学生の頃の知り合いの前村(まえむら)道彦(みちひこ)だ。名前で呼ばないあたりで分かるが、そこまで、仲良くはないが、悪くもない程度のやつである。

「そんなんじゃ、ねぇよ。ただ、会話してただけだろ?」

「いやいや、お前らのあれはもう少し踏み込んでいると思うけどな」

 俺が否定したのに否定して来やがった。まったく、ふざけた野郎だ。だが、本人達では分からないこともあるのは確かだよな。

「周りからはそう見えるか?」

「お?否定しないのか?これは脈ありかな?」

 コイツ、さっき否定しただろ。少し、思い出した。前村は情報収集が好きで、色恋沙汰にうるさいんだったな。めんどいやつに絡まれたもんだ。

「だから、そんなんじゃないって言ってるだろ」

「おやおや~向きになるとはまさしく怪しいな~」

 コイツ本当にしつこい。そして、この憎たらしい笑顔に一発拳をプレゼントしたい。

「お前ら、放課後居残りしたくなければ、静かにしろ!」

 俺が前村(こいつ)に苛立っていると、川崎先生が大声を上げた。その声を聴いた途端、2組だけで無く、後ろにいた3組の連中まで静かになった。だれが、好き好んでヤ〇〇と過ごしたいんだろう。

 川崎先生が先導して、体育館に向かう。体育館は横30m縦60mの広さだ。始業式なので、全生徒集まるのだが、この広さだと少し狭い気がしなくもない。だが、並んでみると意外に余裕があるもんだ。それはそうか、1学年に7クラスあったのだから。これは後で聴いた話だが、昔は外で行っていたらしい。

 その後、校長先生から、ありがたいお話を聞いた後教室に戻った。内容は新入生入学おめでとう!在校生進学おめでとう!春だからって浮かれるなよっ的な事を言っていた気がする。ごめんなさい、寝てました。いや~寝ちゃうよね~



 「これから、お前らには自己紹介をしてもらう。」

 教室に戻るなり川崎先生から指示があった。普通ならここで、生徒から不満やらなにやらを言うのであろうが、川崎先生が怖いので誰も何も言わない。

「なんだ、今年のやつらは静かだな。まぁいい、時間があまったら、俺のくだらない話を聞かせるだけだから、頑張って自己紹介で、時間を稼ぐんだな。まずは青木から」

 川崎先生が名前を呼ぶと大きないい声で返事をした男子が教壇に立つ。川崎先生が教壇の横にある、教師用の机に着きながら全体を見渡している。おかしいな、俺たちは今拉致られて、学校ごっこをやらせれているのでは無いんだよな?

 俺が変な思考をしているときでも、少し怯えながら、青木は自己紹介をしている。

 そして、青木の自己紹介が終わっても皆が頑張って色々と興味も無いだろうに質問をしている。

 皆時間稼ぎに必死だなぁ~。俺はそう思いながらたまたま、真横にいる春先を見ると、必死に手を上げて質問をしていた。必死だなぁ~。

 そんなこんなで、俺の番になった。「鳴亀小学校から来ました。谷城健二(たにしろけんじ)です。趣味は漫画。特技はコマ回し。彼女はいません!絶賛募集中!これからよろしく」

 彼女が欲しい所だけ、力んでしまったが、自己紹介なんてこんなもんだろ。

 川崎先生が質問あるやつはいるか?と聞くとクラスの半数が手を挙げていた。皆必死すぎ。川崎先生がお前が指名しろって言われたので、目の前の男子を指名する。人の前に立った緊張で自己紹介の流れを忘れていたのは内緒だ。

「え、えっと、好きな漫画のジャンルは?」

 指名されて答えに詰まるなよ。そして、明らかに興味の無い質問だろ。漫画のジャンル聞いてどうする?この後買いに行くのか?

「ジャンルか~まぁ基本バトル漫画を読んでるかな?有名なやつなら、〇〇〇〇ボールとかだな。これで満足した?」

 俺がそう言うと、男子はうなずいた。次に指名したのは後ろにいた女子にした。

「えっ?え~と、ぶ、部活は何か入りたい所とかありますか?」

 だから、質問をするために手を挙げたのに答えに質問をするのに一旦悩むのはどういうことだよ!そして、内容!絶対興味ないだろ!いや、俺を何かの部活にでも誘う気か?ならいいだろう断ってやる。

「部活は特に決めていません。何かしらに所属はしないといけないらしいので、後日行われる部活紹介で決めるつもりだ。ちなみに、運動は苦手なので、そういう部活には入りません」

 どうだ?これなら、俺を誘う気にもならんだろ?そう思っていると

「なら、漫画部に入りませんか!私は漫画部を作りたいのです!ですので、どうかどうかお力を!」

 なぜか、必死に訴えてきた。ちょっと引く。さすがに今は自己紹介の場なので川崎先生が注意してくれて、静かになった。

「え、え~と、他に質問は?」

 俺が空気を変えようと声を出したのがまずかったのか、前村だけしか、手を挙げたいなかった。どうしたみんな!こいつだけには触れたくない!誰かお助けを!

「え~と誰もいないようなのでこれでおしまいにします」

 俺がそう切り出すと川崎先生が「なんだ、俺の目の前で堂々といじめか?」と言われたので仕方なく、前村を指す。これは事故防衛なのに!ちなみにあいつは俺の番に来るまでにおかしな質問はしていない。なので、俺の杞憂に終わってくれるととても嬉しい。

「さっき、彼女募集中と言いましたが、どんな子がタイプなんですが?できれば、三つ程特徴を教えてくれると、助かります」

 なんて質問だ。同級生にする質問じゃないだろ?俺はこれは答えなくてもいいか、川崎先生に聞くと、「嫌なら、言わなくていいと言いたいところだが、さっき谷城は恋人が欲しいと言っていたんだ。むしろ好都合だろ?」と何やら楽しんでいるご様子。自己紹介の場で変なことを言った俺に責任があるとでも言うのだろう。はっきり言って、悪ノリが過ぎた。仕方ない近所にいた、初恋のお姉さんの特徴でもあげよう。

「えっと、髪は短髪で、背は同じぐらいで、積極的に話をしてくれる人かな?」

 近所のお姉さんはもうひとり暮らしをしたとかでもういないが、身長は高かったが小学低学年の頃だったから、今は同じくらいだろうと言う勝手な思い込みだが、タイプは好きな人を指すのだから間違ってはいないだろう。

「ま、まじか。まさか遠回しで告るとは思わなかったぜ。」

 前村が何か勘違いをしているが、俺には関係ないだろうと思ったのは間違いだった。

 前村の余計な一言で皆から「だれ?だれなの?」「好きなやつってだれなんだ?」「他のクラス?それとも?」

 などなど、質問攻めをされ、収集がつかなくなった。どうすればいいんだ?はっきり言ってしまうか?近所のお姉さんが好きでしたって。いや、それは嫌だ。恥ずかしすぎる。

 俺がどうしようか迷っているときに「お前ら静かにしろ!今は自己紹介だ!コイツの思い人を白状させるのは休み時間にしろ!」と川崎先生が怒鳴ったおかげで、皆が静かになった。

「だが、無理矢理自己紹介を終わらせなければならなくなったから、罰として谷城は他の自己紹介が終わるまで後ろで立っていろ」とお叱りを受けた。

 く、俺が彼女募集中と言ったからか?畜生!

 俺は前村を睨みながら、教室の後ろに向かう。そして、俺はみんなの自己紹介が終わるまで立っていた。



「これで、全員の自己紹介が終わったな」

 川崎先生が明日の連絡を伝えた後解散となった。

 何故か、解散になったのにクラスの連中が俺の周りに集まってくる。こいつら、恋バナ好きな女子か!いや、女子か。

「ねぇねぇ。それで誰なの?誰なの?」

 クラスの連中に囲まれたせいで逃げようにも逃げられない。うう、どうすれば。

「ちょっと、谷城!こっちこい!」

 これはびっくり、千田からの助け船だ。千田の口調が強いせいか、皆静かになり、道を空ける。うん、こいつは番長にでもなりそうだな。

 俺は千田に引っ張られる形で教室を後にする。



 そのまま帰らせてくれると思ったのだが、どうやら、おれを助けたわけでは無かったようだ。

 校舎裏まで来ると千田は俺の手を離した。

「なんだ?喝上げか?俺は金なんて持ってきてないぞ?」

 俺ははっきり言って千田の事はあまりよく知らない。喝上げをするようなやつでは無いと思うので、何か別の用事かあるのだろう。ま、まさか千田は俺に

「そんなわけ無いだろう!金にこまっちゃいない。私が聞きたいのは何でクラスの前であんなことを言ったんだって事だ」

「クラスで言った事?タイプの話か?いや、俺のタイプを話しても別に千田が嫌がることでは無いだろう?何が悪い?」

「悪いに決まっているだろ!友達が傷付いているのに、黙っていられるか!アンタは分かっているのか!」

 何故か千田が激怒している。さすがの俺も誰かを傷付けるような事を言えば、覚えているのだが

「すまないが、千田が言っていることが、分からん。ちゃんと説明せてくれ」

「アンタそれ、本当に言っているのか?」

 千田が俺の胸ぐらを掴みながら言ってくる。

「あぁ。本当に分からん」

 俺はその手を払う訳でも無く答えると、千田は手を離してくれた。

「アンタが、そんなくずとは思わなかったよ。あの時わざとなおの特徴を言ったでしょ?それでいて、告白した訳では無い。だから、もしなおがアンタに告白したらアンタは笑って振るんじゃないのかい?俺は好きなタイプを言っただけだってさ」

 千田が俺を睨む。なるほど、だから前村はあんな事を言ったのか。そして、千田は勘違いして、こんな事を。だが、それはあまりにも俺を軽視し過ぎている。さすがの俺も知り合いを傷付けようとはしない。それが、友好的な友であれば、なおさら。

「ふざけんな!確かに間際らしい事を言った俺にも落ち度はある!だがな、そこまでして友達を傷付けるようなことはしない!絶対だ!」

 俺が怒鳴ると千田は目を丸くする。そして、さっきとは違い落ち着いた口調で聞いてくる。

「間際らしいって事は意図して特徴をなおに近づけた訳では無いってことね?」

「あぁ。そうだ。」

 俺が肯定すると、千田はすまない、はやとちったよと謝ってきた。

「だが、何故そんなにお前が怒る?俺のタイプが春神に当てはまるってだけで、春神が俺のことを好きじゃなかったらキモ、で終わる話だよな?って事は」

 俺が真実に近づいたのか、千田は「やはり、はやとちったよ」と言っていた。

「俺をあんなにいじってきたのは、そういう事だったのか、あんときも、あんときも、そして、今日も」

 俺はそんな、やつを傷付けてしまったのか、なんて野郎だ。自分で自分が嫌になる。なら、俺は謝りに行くべきだ!絶対にこのままじゃよくない!

「春神は帰ったよな?春神んちはどこだか分かるか?」

 千田はやちまったって顔をしていたが、すぐにまた、俺を睨む。

「なおの家を知ってどうする?ここまで来たなら、謝って終わりじゃ済まないだろ。少なくてもアンタが謝ってしまったら、なおの気持ちをお前は理解したことになる。そしたら、アンタはどうする?告白するのかい?もし違うなら、やめて。なおが余計傷付くだけだよ」

「謝った先。………俺は俺はどうしたい?」

 俺はあいつのこと好きか嫌いか。

 嫌いな訳ない、俺は知っている。あいつが友達に優しく、自分に厳しいことも。動物に優しいことも。こんな屁理屈で自分勝手な俺のことを諦めずに友達の輪に入れてくれたことも。俺が親から貰った大事なキーホルダーを放課後残ってまで探してくれたことも。あいつが、ビーマンが嫌いでトマトが好きなことも。誰かの為に嘘を着くとき、短い髪をかきあげて、耳にかけてしまうことも。

 そう、俺はあいつの事をキモイぐらい、知っている。何でそんなに知っているのか。近くに居すぎて分からなかった。この気持ちはきっと

「答えは決まった。俺はやはり、謝りに行く。たとえ、それがあいつを傷付けることになっても。」

 俺が決心して睨んでいる千田の瞳を見つめる。

「そうかい。私が何を言っても無駄のようね。なら歯を食いしばんな」

 千田はそう言うと俺を思いっ切り殴った。

 俺はそのまま倒れ込む。口の中から血の味がする。

「いってぇな。だが、あいつはきっともっと痛い思いをしているはずだ。」

 立ち上がり、千田を睨む。

「殴りたいなら、いくらでも、殴れ!だが、もし、お前が俺よりも先に根を挙げたら、春神の家を教えてもらうぞ!」

「そうかい。私も親友をこれ以上傷たけたくは無い。それにこんな事をしてもきっとなおは喜んだりしない。でも、それでも、私にも譲れない物はあるんだよ」

 千田はそれだけ言うと、一瞬で俺との距離を詰め、拳を振るう。

 俺と千田の維持のぶつかり合いが始まった。



「私は何をしているんだろ」

 家に帰るなに私は2階にある自分の部屋に直行し、着替えもしないで、ベッドに仰向けで天井眺めている。

「谷崎君は何であんな事を言ったのかな?」

 谷崎君が言った好きなタイプはびっくりするぐらい私に当てはまっていた。でも、きっと、私の事ではない。好きなタイプを言うときの谷崎君は後ろの黒板を見ながら言っていた。まるで、想い人を思い出すかのように。もし、あの時に谷崎君が私の事を一回でも見てくれたら、私は教室を飛び出すんじゃなく、またいつも通りからかいに行っただろう。そういつもの調子で。


 教室を飛び出したあと、下駄箱でさきに呼び止められた。

「どうしたの?急に飛び出して」

 私は振り返りながら「ごめん。今日は独りで帰らせて」と涙を流しながら言った。どうしてだろう。家に帰ってから泣こうと思っていたのに、さきの声を聴いたら、耐えられなくなっちゃった。

「谷崎のせいだね」

「ごめん、帰るね」

 私はちゃんと答えずに、かけだした。もし、答えてしまったら、さきに抱きつき、泣きじゃくってしまいそうだったから。


 「何で私はこんなにも谷崎君が好きなんだろう」

 答えは分かっている。小学生の時に助けられたからだ。あんなに細くて弱々しいのに根性だけはある、あの小さい背中を見てしまったから、だろうっと。そして、私はそんなことを思い出しながら、意識を手放していった。



 私は給食で出たパンを半分になったやつと、牛乳を持って、校舎裏にある、木の根元で横たわっている猫の元にきた。

「本当に怪我をしている。」

 その猫は後ろ足を二本とも怪我をしていたため、その場動けない様子だった。私が近づいても動こうともしなかった。ここは普段は誰も通らないような場所であった。なのになんで分かったか。それは朝の会で先生が「今、校舎裏に怪我をしている。野良猫がいますが、近づかないようにしてくださいね。どんな病気を持っているか分かりませんから。」っと言っていたからだ。でも、もし、その子がお腹を空かしているのなら、何か食べさせてあげたいと思い帰りに寄ったのだった。

 そして、私がパンをあげようとしても食べてくれない。牛乳を口に当てても飲もうとはしなかった。

「なんで!なんで、飲んでくれないの!あなたはちゃんと食べないと死んじゃうんだよ!」

 私は言葉が通じるはずもないのに叫びながら、泣きながら、猫の口に小さくちぎったパンを口にあてるが、やはり食べてくれない。

「もう、食べてはくれないんだな」

「えっ?」

 私は声がする方向に顔を向けるとそこには私と同じ、パンと牛乳を持ってたっている。男子がいた。

「春神も猫にごはんをあげに来ていたんだな」

 確かこの子は私と同じクラスの男子で

「谷()君?あなたも同じなの?」

「谷崎だ。間違えるなよ。ちょっと傷付いたぜ」

「ごめん!あまり話したことなかったから。本当にごめんなさい」

 私が泣きながら、謝ると「分かったから、泣くな」そう言って、ハンカチを渡してくれた。

 私はハンカチを受け取り涙を拭き取った。

「ありがと」

「気にすんな。でもその猫はもう食べる元気も無いんだな」

「そうか。もう食べる元気がないんだ。それじゃ、最後は安らかに眠ってられるように花を採ってこよう!」

 私がそう提案すると、谷崎君は笑顔で「あぁそれがいい。俺も行く」と言って着いて来てくれた。

 私達がたくさんの花を持って猫の所に行くと、棒持った男子3人が、猫をいじめていた。

「ほら、見ろよ。この猫何しても嫌がらないぜ。きっともっとして欲しいんだよ」

 そう言って猫に向かって棒を振り下ろした。猫はもう、うめき声さえあげられなかった。

 私はかけだし、男の子に体当たりをした。男の子は私よりも体格は大きかったが、私の体当たりを受けて転んだ。

「いってぇな!何しやがるんだこのくそやろう!」

 男の子は起き上がり私に向かって棒を振り下ろした。私はとっさに後ろを向き、うずくまった。

 だけど、痛みが来ることはなかった。不思議だったので目を開け、振り向くと、谷崎君が私をかばい、頭で棒を受けていた。

「かわいい、女の子に手をあげるとか、男じゃねぇな。たま着いてんのか?」

 谷崎君が、ちょっと恥ずかしいことを言っていたけど、男子をおちょくっているのは分かった。そんな中、かわいいと言われ嬉しくなってしまった私は場違いだろうか?

「てぇめぇぇ。」

 男子は3人がかりで谷崎君を棒で殴っていた。みるみるうちに谷崎くんから血が流れていく。なんで、なんで、谷崎君は逃げないの!逃げれば、そんなに痛い思いをしなくて済むのにどうして!

 私がやめてと叫ぼうとしたとき、猫がけたましい声を上げて体格のいい男子に飛び掛かっていった。

「いたい!いたい!やめて!」

 男子が泣きながら尻餅をつくと、猫はそのまま、地面に落ちた。そして、谷崎君が、棒を拾い、おもっいっきり振り抜いた。体格のいい男子に向かって。後になって気づいたけど、谷崎君は野球選手の真似をしたんだろうと。

 そして、棒は衝撃に耐えきれなかったのか、へし折れていた。男子はお腹を押さえながら泣きじゃくっていた。

「これにこりたら、二度と俺や春神に近づくんじゃねぇ!分かったか?あぁ?」

 谷崎君が、怒鳴ると男子達は走り去っていった。体格がいい子を2人で肩を貸しながら。

 でも、私は少し、恐かった。花を摘みに行った時の優しい谷崎君が、もうそこには居ない気がして。谷崎くんが振り返った。

「大丈夫かい?」

 そう言って、笑顔を向けてきたのは私の知っている谷崎くんだった。

「谷崎君の顔が血だらけで恐い。これで、拭いて」

 私は自分のポケットからハンカチを取り出し渡す。

「ハンカチ持ってたのかよ。」

 そう言いながら、谷崎君は私のハンカチで血を拭っていた。

「知っているか?血って言うのはいくら洗っても綺麗には取れないんだってよ」

「えっ?」

 それを知っていながら、私のハンカチで血を拭ったの?

「いじわる」

「悪い悪い。これをやるから、許してくれ」

 そう言って、谷崎君は青いハンカチを渡してくれた。

「大事にするね」

「悪いな。新しいやつじゃなくて。それで、この猫はこの木の下に埋めようか」

「えっ?」

 私が驚き、慌てて猫の方を見ると猫をもう息をしていなかった。

「ああぁ。ああああぁぁぁ」

 私は言葉にならない声で泣きじゃくった。泣きじゃくる私を谷崎君は優しく、抱きしめてくれた。

「ありがとう」

 私は泣き止むと谷崎君から離れてお礼を言った。

「春神は優しいな」

「そんなことないよ。谷崎君を助けられなかったし、猫にも最後は辛い思いをさせてしまったし」

 私が再び落ち込んでいると、

「俺は大丈夫だけど、猫には辛い思いをさせてしまったかもね。でもきっと、春神が、一生懸命猫を助けようとしたからこそ、猫は最後の力を使ってまで俺達を助けようとしてくれたんじゃないかな?」

「そうかな?でも、それじゃ結局」

「猫は最後に助けようとしてくれた人間がいたって思えただけでも、幸せだったと思うよ。それが難しいなら、これから、安らかに寝てもらおう。最後は天国で幸せにいてもらおう」

 私はそんな、谷崎君の言葉を聞いて、涙をためながら、うなずいた。

 そして、先生には内緒で学校のどっかからかシャベルを二つ持ってきた谷崎君と一緒に猫を埋葬した。たくさんの花を添えて。



 聞き慣れた自宅の呼び鈴で目を覚ました、私はふと、時計を見ると、17時回っていた。また、呼び鈴がなったので、きっと家には誰もいないのだろう。

 制服のまま寝ていたことに自分であきれながらも、玄関先に向かう。

「はーい」

 声を上げながら、ドアを開けると、そこには今会いたくない人がたっていた。それもまるで夢の続きを見ているかのように顔を傷だらけにした状態で

「えっ?夢?」

「い、いや、げんじつだ。」

 私が首をかしげると全力で顔を振りながら、少しこもったような声で谷崎君が話す。

「春神さんに話したいことが、あるんだ」

「えっ?」

 話したい事って何だろう?もしかして、サキに何か言われたのかな?きっとそう、じゃないと谷崎君がうちにこれないと思う。

「嫌だ、聞きたくない!」

 私は全力でドアを閉めた。

 だけど、閉め切れなかった。谷崎君の指がドアに挟まったからだ。

「ちょ、ちょっと何してるの!」

 すぐにドアを開けると今度は谷崎君の顔にドアがぶつかってしまった。

「ぐぶ。さ、さすが、春神。いい攻撃だ」

「こんな時に冗談言わないで!今救急箱持ってくるから!」

 私が家に戻ろうとすると、手を捕まれてしまった。

「手当てなんかより、聞いて欲しい話があるんだ!むしろ、話を聞いてくれなきゃ手当てなんか受けないからな」

 めちゃくちゃな事を言ってくる。

「もう、ずるいよ。そんなこと言われたら断れないよ。分かったから鍵を持って来させて?さすがに鍵を開けたままじゃ、出れないよ」

 私がそう言うと「分かった」と言って、手を離してくれた。私は鍵ととある物を持って家を後にした。




 俺はこの辺に詳しかった。さすがに春神の家は知らなかったが、小学生の頃に親友の将馬と一緒に自転車で走り回ったからだ。

 だから俺はこの近くに公園があるのを知っていたのでそこの公園に向かった。

 公園に着くともう誰もいなかった。きっと親が迎えに来て子供達を連れて帰ったのだろう。

 俺は公園に着くと春神に向き直った。

「春神、教室での事。本当に申し訳なかった。意図した事じゃ無かったとはいえ、春神を傷付けてしまった。本当にすみませんでした!」

 俺は全力で腰を90℃に曲げながら謝る。

「そう。私が傷付いたって分かっていたのに謝りに来たんだ。それは逆にもっと傷付くよ。だってそれじゃまるで」

 俺は春神のその先の台詞を言わせる前に声をあげる。

「俺は今回の事で、気づいたんだ!俺は春神の事をよく知っているって」

「えっ?」

 春神が、困惑している顔をしている。やばい!言葉を間違えた!気持ちが先走り過ぎて、伝えたい感情が溢れ過ぎて、止められなくて、落ち着いていられない。心臓の鼓動が聞こえ、もう耳の中に心臓があるじゃないかって錯覚してしまうほど緊張しているのが、分かる。でも、それでも、これだけは言わなきゃ駄目だ!

「それはきっと俺が無意識に春神の事を知ろうとしていることだから。だから、俺は無意識のうちに春神の事を意識していたからで、」

「お、落ち着いて、ちょっと何を言っているか分からないよ」

 春神は俺がパニクっているのが、分かったのか、落ち着くように促してくる。

 そうだ、ここは落ち着くところだ、落ちた着け俺!

「ほら、深呼吸して」

 俺は春神に促されるまま、深呼吸を何回も行った。よし少しは落ち着いてきたかな。俺はまた、春神の瞳を見つめる。

「俺は今日。自分を見つめ直す事で気づいた事があるんだ」

「う、うん」

「俺はきっと、小学生の頃から、春神の事が好きだったって」

「えっ?」

 春神が驚いて口を押さえている。

「今、思い返せばきっと、桜の木の下で猫に一生懸命エサをあげている、春神を見たときから、好きになっていたんだと思う。」

「えっ?」

 春神は今度は目を大きく開けたままこちらを見ている。

「だから、改めて言わせてくれ、俺は春神の事が好きだ。大好きだ!だから、俺と付き合ってくれ!」

 俺は頭を下げながら、手を差し出す。

「は、はい!」

 春神は大きな声で返事をしながら、俺の手を握ってくれた。その温もりが、普段何気なく触っていた手のひらがこんなにも暖かいなんて、俺は知らなかった。

 そして、俺はあまりに嬉しすぎて、春神の事を抱きしめてしまった。

 春神は俺の肩に顔を預けた。身長が同じぐらいだから、その後すぐに唇を重ねた。



 どちらかが、いうでも無く、近くの椅子に座った。

「そう言えば、谷崎君が言った猫の話だけど、桜の木じゃないよ?ただの木だった気がする。」

「えっ?そうだっけ?校庭にあった桜の木じゃなかったっけ?」

 う、三年前の話なのに何故かうろ覚えだ。あのガキに頭を棒で殴られたからだ。きっと、そうだ間違いない。自分もガキだったが気にしない。

「もう、どんだけ適当なの?校庭にいたら、皆にばれてたでしょ?そしたら、喧嘩なんて出来なかったでしょ?」

「そう言われるとそうだった気がする」

「もう、せっかく、感動したのに、返して私の感動!」

 春神が笑いながら、俺の肩を揺すってくる。体が揺れるたびに顔が痛いが、気持ちが嬉しいので止められない。

「悪かった、悪かった。これから、先もっと春神を感動させてやるから勘弁してくれ」

「ず、ずるいよ」

 俺がそう言うと、俺の肩から手を離して、もじもじし始める。かわいいな、まったく。

 そして、俺達は気持ちを確かめるかのようにもう一度唇を重ねるのだった。



 この先きっと俺達はまた、いろんな事で喧嘩して、謝って仲直りするんだろう。そして、お互いのことを知りながら、進んでいくのだろう。

 俺達が結ばれるきっかけをくれた、お互いを知ろうとするための行為である自己紹介を大切にしながら。

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