汝は人狼なりや?
「今日は誰を殺そっか?」
その少女の明るい声を皮切りに議論が始まる。
誰が人間、誰が偽物、誰が人狼。
そんな話を真剣にしている姿に僕は圧倒された。
私立東雲高校。
東京の都会の喧騒から少し外れたところに位置しているこの高校は、在校生1242名を誇るマンモス校だ。三つの巨大な校舎が存在感を放っている。
そんな高校の正門で、僕、「透堂律比古」は校舎を見上げていた。
桜が咲き誇り、春と出会いの訪れを象徴している。
今日から三年間、この高校に通うことになる。人生の中の大事な三年間を過ごすのだ。
この高校でどんな出会いが、どんな出来事が、どんな高校生活が待ち受けているのだろう。
僕の青春の第一歩。
期待に胸を躍らせて東雲高校の門をくぐった。
教室は既に賑わっていたが、一人で本を読んでいる女子生徒が目に付いた緑色の髪が特徴的で、よく見てみると瞳の色も緑色をしていた。僕は同じ中学の生徒を探したが見つからなかった。
少し待っているとホームルームが始まった。先生の一声でみんなが各々の席に着く。特段変わったことのない普通のホームルーム。
この東雲高校の軽い説明を受けた。
職員室や保健室など、教員たちが基本いるのが第一校舎。
美術室や音楽室など、移動教室の際に使うのが第二校舎。
そして、生徒たちの教室が集まっているのが第三校舎。
僕たちが今いる「1年4組」の校舎は第三校舎に当たるらしい。
そして、グラウンドが二つ、体育館が二つある。運動部も盛んなのだろう。
ホームルームが終わると体育館に集合した。部活動紹介が開催される。
一年生は体育館の後方で体操座りで並べられた。
正直なところを言うと面倒くさい。入るつもりもない部活の説明を長々と聞かされ、部員たちは口をそろえて「辛い時もあるけれど仲間たちと支え合っています。」と使い古された文言を並べる。そんな意味もない部活が大嫌いだった。
運動部と文化部それぞれ紹介が終わっていく。
「写真部のみなさんありがとうございました!次は人狼部の皆さんです!」
頭に疑問符がよぎった。人狼、聞いたことだけはある。嘘をつくゲームとだけ知っている。
頭の中に人狼という言葉に引っ掛かりそうなものが現れては消えていく。
しかし、その思考は明るく陽気な声にかき消される。
「新入生のみなさーん!こーんにーちはー!人狼部部員の黄田川祐介でーす!
皆さんは人狼ゲームについて知っていますか?僕たちはそのゲームを部活として行っているんだ!」
スピーカーが音割れを起こしている。彼にマイクはいらないんじゃないか?地声で通る気がする。
ちょっと暗めの金髪で真ん中で左右に分けている。身長はそれほど高くない。というか低い。隣に立っている女子生徒に負けている。
隣の女子生徒にマイクが渡る。
「部員の白神はずきです。聞いたことあるという人も少なくないのではないのでしょうか。
嘘をつくゲームは苦手...なんて思ってる人もいるかもしれませんが大きな勘違いです。人狼ゲームは嘘をつくゲームではなく、誰を信じるか?というゲームだからです。」
「去年設立したので3年生はいないけどみんなで仲良く殺し合ってます!ここでゲームの説明をするのは長くなるからしないけど、興味がある人は放課後に視聴覚室まで来てくれると嬉しいな!!」
それだけ言うと二人は舞台袖にはけていった。わずか、45秒。
「人狼部の皆さんありがとございました!これですべての部活動の紹介が終わりました!これだ!と思える部活はあったでしょうか?それでは教室に戻って入部届を受け取ってくださいね!」
...放課後になってしまった。
グラウンドや体育館から運動部の声が聞こえてくる。
そんな声を横目に帰路につく...予定だったのだが、視聴覚室にの前まできてしまっている。
あれから人狼の事が気になって仕方がないのだ。授業中に検索もした
後はこのドアを開けるだけ...なのだが、緊張して動けないでいた。
「...の人~」
覚悟はしてきたつもりだったが、いざ目の前にするとやはり緊張する。
「...うみあるの~」
今日はやめてお
「おいってば!」
「うわぁぁ!!」
女子生徒に急に左耳元で叫ばれた。なんなんだこいつは。
髪は黒掛かった緑色で腰まで伸びている。白い肌に整った鼻筋、その上の大きな緑色の目がこちらを覗き込んでいた。
「急に人の耳元で叫ぶなよ。」
「急じゃないわよ!何回も呼びかけたのに無視するあんたが悪い。」
「まじで...?それはすまん。気づかなかった。」
「分かればいいのよ分かれば。で、あなたも人狼部に興味があるの?」
「ま、まぁ...それなりに」
「じゃあ、一緒に入ろうよ。私も一人で不安だったの」
言い終わると同時に彼女は勢いよくドアを開けた。その瞬間、鈍い音が聞こえてきた。
「いってぇ!!!」
ドアの向こう側...というより裏側には長身で目つきの悪い男子生徒が頭を押さえていた。黒髪の短髪で前髪を片方だけ上げている。
「ぶっは!胡桃沢ちゃんだっさ!」
「うるせぇ!避けれるかってんだ!」
事の発端の少女は慌てふためいていた。
「だだだだいじょうぶぶぶですかか...おけがととかは...!!」
「あ?あぁ、これくらい大丈夫だよびっくりさせてすまんな」
「いややこっちこそそごめんなさい!!」
さっきまであんなに強気だったのに、笑えてくる。
「いいっていいって。それより初めて見る顔だけどどうしたの」
「あ!えっとですね私たち人狼部に興味があって...」
「お!!そうかそうか!!!歓迎するぞ!二人とも入って入って!!」
流されるままに僕は視聴覚室に入って行った。そこには机は無く、椅子が円形に並べられていた。
笑い声を漏らした人はその椅子の一つに座り、ケータイから目を離さない。茶髪に染めていて、肩の高さに揃えられている。髪の隙間からはピアスをしているのが見えた。
「二人とも、飲みモンいるかい?」
「僕はウーロン茶を...」
「私はオレンジジュースで!」
「はいよー」
ドアにぶつかった人は冷蔵庫に向かい飲み物を取り出し、慣れた手つきで紙コップに注いでいく。
「はいよ、おれは胡桃沢正臣、で、あっちにいて俺の事笑いやがったのが乙黒芙美奈ってんだ」
「よろしく~」
「お前さんたちの名前は?」
「あ、私は緑川縁です。」
「ぼ、僕は透堂律比古って言います」
「おう。よろしく。部活の説明とかは全員が揃ってからやるから。テキトーにくつろいでてな。」
そういわれるまま会話は終了した。胡桃沢さんと乙黒さんの仲が良くないのか、それとも気を使ってるだけなのか、そもそも隣に座っている緑川というやつはなぜ喋らないのか、なんて考えてるうちにドアが開いた。
「お、胡桃沢と乙黒じゃん。お疲れ~」
「う~っす」
「ねぇ聞いて聞いて!胡桃沢ちゃんったらさっきね...」
「うるせー!部活始まったら投票してやっからな!!」
入ってきたのはこれまた長身の短髪黒髪。眼鏡をかけており、誠実そうな印象を受ける。
「お、新入部員かな?俺の名前は朱雀啓一郎。人狼部の部長をやっている。これから長い付き合いになると思うがよろしくな。」
「はい、よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします...」
「とりあえず、荷物おいてくるわ」
今度は控えめにドアが開いた。
「あの~私たち、今日の部活動紹介を見てきたんですけど...」
「おおぉぉ!!おい朱雀!!!あいつらの紹介でも効果あったぞ!!!」
胡桃沢さんが朱雀さんの下へ駆け寄りフェードアウトしていく。
「アイツも元気よね...。ところで名前は?ワタシは乙黒芙美奈。」
「日紫喜早和って言います...」
「私は上水流愛咲って言います!よろしくお願いします!」
「うん!よろしく!むこうの二人の名前はわかる?」
「い、いいえ...」
「じゃあそこの二人!自己紹介しなさい!」
「透堂律比古です...」
「緑川縁です。よろしくおねがいします。」
そういって僕らは椅子に座ったまま一礼した。
「こちらこそ。宜しくお願いします。」
今度はドアが勢いよく開いた。
同時に見覚えのある二人が入って来る。黄川田さんと白神さんだ。
「お!新入部員集まってくれてんじゃ~ん!少ししか時間貰えないから集まるかひやひやだったよ~」
「あんたの声うるさいのよ...!」
「またまたそんなこと言っちゃって~。俺がいて頼りになったでしょ?」
「あんたの事頼りがいがあるなんて一度も思ったことない」
「かーっ。辛辣だなぁはずきちゃんは」
「これくらいがちょうどいいの」
言い合いしながらも、信頼関係が見て取れる。
仲は相当いいはずだ。白神さんも怒ってる口調の割には表情はそんなに険しくない。
そこへ胡桃沢さんが上流水さんと日紫喜さんの元に戻ってきた。
「始めまして。俺は胡桃沢正臣ってんだ。よろしくな。
二人ともなんか飲みモン飲むかい?」
「あ、じゃあ私はコーラでお願いします!」
「私はオレンジジュースで...」
「了解!ちょっと待っててな~」
胡桃沢さんは再び慣れた手つきで冷蔵庫の扉を開ける。
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「よし!全員揃ったようだし!新入部員も揃ったようだし!自己紹介と行くか!新入生含めて」
朱雀さんが大きな声で場を仕切り始めた。
部長なだけあって司会には慣れてるようだ。
「まず、俺は、朱雀啓一郎。この人狼部の部長を務めている。部活の事でも人生の事でも困ったことがあったらなんでも相談しに来ていいぞ!話を聞くくらいはできるはずだ!よろしく!」
長身で清潔感のある彼から自信たっぷりに発せられる言葉は説得力が溢れていた。
高校生活への不安が少し取れていく気がした。
「じゃあ次!青海!」
「うぃ。青海冬馬。二年三組。以上。」
青みがかかった髪の毛に鋭い目つき。きっかり着こなした制服。彼から出ているオーラは只者のそれではなかった。
「ちょっと~青海ちゃん~もうちょい丁寧にやりなよ~」
「知らん。」
「こんなやつだけどいいやつだからさ。怖がらないでね。」
「あはは...。」
怖いわ。
「次は黄川田!」
「待ってました!俺は黄川田祐介!!二年二組!好きな食べ物はパイナップル!よろしくね~」
暗めの金髪で小柄な彼だが、声の大きさと底なしの明るさで長身に囲まれても見劣りしない。
少年のように目を輝かせて新入生を見つめている。
「いやぁ~まさか四人ちょうど来てくれるなんてね!これで憧れの13人村ができるね!」
「13人村...?」
「あとで説明する」
「はい次!灰園!」
「うぃ~。二年三組の灰園創っす。固くならずに気楽に行きましょう~」
髪色は名前の通り灰色でちょっとだけ長い。目は猫目でハーフっぽい見た目だった。
身長は高くもなく低くもない。172cmくらいだろうか。
「もう少し緊張しやがれ」
「え~だってする必要ないじゃん」
「まぁまぁ、それが長所でもあるんだしいいじゃない。悪く言えばマイペースだけど」
「うっ...」
朱雀さんが冗談で軽く威圧した。さすが部長。凄みがある。
「次!胡桃沢!」
「おう!俺は二年の胡桃沢正臣ってんだ!さっき自己紹介したけどな!!」
「なんだもう済ませてたのか」
「あぁ、今日は俺が来るの早かったからな。」
黒髪短髪目つきが悪い。しかし、絶対に悪い人ではない。
そんな印象を受ける人だった。
「じゃあもう次でいいかな。新銀~」
「二年四組、新銀悠です。祐介と悠といるけど間違えないでね」
身長は高くない。かといって低くもない。めちゃくちゃイケメンかと言われたらそうではない。なんというか、「普通」だった。
しかし、周りのメンバーのせいで普通でもしっかりとキャラが立っている。
「俺と新銀はよく間違えられるからね!ほんと!心外だよ!」
「おい!そんなこと言うなよ!」
「冗談だってば!すぐ食いついてくるんだから新銀は!」
「ほっといて次行くぞ~、乙黒!」
「はいは~い。二年の乙黒芙美奈で~す。まぁ、ワタシも胡桃沢と一緒でさっき自己紹介してるからこの辺でいいかな。」
そんなことはない。僕らには自己紹介が済んでいるが、後から来た日紫喜さんと上水流さんにはやっていない。
が、そこを突っ込む勇気は僕にはなかった。
「そうだったか、じゃあ次は白神だな」
「はい。二年二組白神はずきです。普段は試合しながらログを取ったりしています。よろしくお願いします。」
「試合...?」
「俺らはゲームの事を試合って読んでるんだよ」
「ログとかあとで見せてあげるね」
肩まで伸びた黒髪に銀縁メガネ。しかし、眼鏡をかけているからと言って地味さを感じさせない。
外見について一言でいうなら「完璧」だった。
「はいじゃあ最後に藍原!」
「二年二組の藍原奏です。宜しく願いします。」
「相変わらずテンション低くないか?」
「いいの。むしろ、これが普通。君たちが高すぎるだけ」
「かーっ!否定出来ないねみんな!!」
「「「「「お前だけだ」」」」」
5人くらいまとめて返事した。
「じゃあ、次は新入部員かな!右からお願い!」
見てみると僕とは反対の方から指名されていた。
最後かよ…。
「はい!私は上水流愛咲です!人狼は少ししかわかりませんがよろしくお願いします!」
「少しわかるんだ?」
「はい!中学の頃友達とやってて…役職くらいは分かります!」
「そいつは大したもんだ。大型新人入ってきたな」
「大型新人だなんて…そんな…」
体をくねらせて露骨に照れている。
よほど嬉しかったのだろう。
まぁ、知ってる人が1人くらいいてもおかしくはない。
「じゃあ次お願い〜」
「はい…。日紫喜早和っていいます…。上水流ちゃんと中学の頃人狼やってて…。無理やり連れてこられました…。」
「へぇ!2人同中なんだ!!」
「はい…。」
「緊張してるかもしれないけど大丈夫だから。よろしくね。」
「はいぃ…。」
緊張に弱いタイプだ。絶対。
しかし、みんな知ってやがるな。もしかして知らずに興味本位でここにいるの俺だけか?
「じゃあ、次!」
「はい!緑川縁っていいます!人狼は名前くらいしか知りませんが精一杯頑張ります!よろしくお願いします!」
「よろしくー!後でルール説明するから知らなくても大歓迎だよ!よろしくね!」
「はい!」
屈託のない笑顔を先輩達にみせる。
こいつは先輩達に可愛がられるタイプだな。
しかし、知らないのが俺一人じゃなくてよかったが、こいつと同じか…。
なんか悔しい。
「じゃあ最後ね」
「はい。透堂律比古です。緑川と同じく名前しか知りません。よろしくお願いします。」
「よろしく。後でルール説明するからゆっくり覚えていくといいよ。」
「はい。わかりました。」
何とか終えることが出来た。
正直めちゃくちゃ緊張した。
座って安心していると隣の緑川が小声で話しかけてきた。
「ちょっと…なんで私だけ呼び捨てなのよ。初対面でしょうが」
「あ…すまん…無意識に…」
「まぁ、いいけど…私以外に出ないように気をつけなさいよ」
そういって離れていった。
囁き声で距離も近かったので女子特有のいい匂いが鼻腔をくすぐってドキッとしてしまった。
なにより初対面だし。
なんて考えると部長が声をかけていた。
「よーしじゃあいよいよ人狼ゲームのルールを説明するぞー。」
初めて小説というのを書きました。まだまだな部分もありますがこれから長くなると思うので
キャラ達の関わりを楽しんでもらえたらいいなと思ってます。
よろしくお願いします。