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第二十九話

 スマホを取り出し、ベッドの端に腰掛ける。

 電話帳を開き、貴久先輩の情報を画面に表示させた。

 本当は貴久先輩の登録は消してしまいたかった。

 でも、登録していない番号からの着信を拒否にする方法が分からなかったので『着信拒否』にしていた。

 いや、設定方法なんて調べたらすぐに分かったはずだ。

 どこかで理由をつけて消したくないと思っていたのかな、なんて思うと、自分の女々しさに乾いた笑みが出た。


「着信拒否、外す……か」


 副会長が言うように話し合わないと、お互いすっきりしないのかもしれない。

 僕も毎日貴久先輩があの部屋で待ち続けているのかと思うと滅入ってしまいそうだし、決着をつけよう。


 画面を操作し、着信拒否を外した。


「これを外す日が来るとはなあ」


 なんて呟いた瞬間、手に持ったままだったスマホが震えた。


「うわあっ!」


 貴久先輩、早すぎない!? と思ったのだが――。


「あれ、副会長」


 震えていたのは通話の着信ではなく、副会長だからのメッセージを知らせるためだった。


『さっきバスルームの方、黒い影が見えたから気をつけてね……』


「黒い……影? ……え……副会長っ!」


 何の用事だと思ったら、ただの酷い嫌がらせだった!

 今日は一人で過ごさないといけないのに……やめてよ!


「……嘘、だよね?」


 無意識にバスルームに目を向ける。

 僕をからかうための冗談だよね?


「…………」


 シン……と静まっているのが逆に怖い。

 副会長、本気で恨みます。

 すごく怖くなってきたじゃないか!

 貴久先輩の電話どころじゃなくなってきた……。


 恐る恐る部屋に飾ってある額縁の裏を確認してみる。

 お札なし――。

 ベッドの下を見てみた。

 何もなし――。

 クローゼット、冷蔵庫の中。

 異常なし――。

 あと気になるのは……。


「バスルーム……」


 ゴクリと喉を鳴らし、バスルームに向けて一歩足を進めた。

 何かあった時に助けをすぐ呼べるように、手にはスマホを握っている。


 木製の扉は木の温かみがあっていいが、今は向こう側にいる『何か』を隠している不穏な扉にしか見えない。

 扉はスライド式で、アンティーク風な取っ手がついている。


 取っ手に触れようとした瞬間――。

 扉が激しい衝撃音と共に開き、中から幽霊が出てきて襲いかかってくる――という場面を想像してしまった。


「こ……怖っ……」


 僕の想像力よ、今は自重して!


「はあ……」


 そろそろ怖がるのも疲れてきた。

 僕だって男だ! これくらいなんだ!

 心の筋肉、エアマッスルを纏って取っ手を掴み、思い切って扉を開けた。


「どうだ!」

 

 すごいスピードで開いたドアは、バンッと大きな音を立て開ききったあと、反動でまたパタリと閉まった。


「……なんでだよ」


 僕は何をやっているんだろう。

 一人コントか。馬鹿らしくなると一気に恐怖は消えた。

 早くバスルームを確認しよう。

 バスルームの中は、いたって普通だった。

 おばけなんていない、異常なしと確認できたので、僕はベッドの脇に腰掛けてため息をついた。


「はあ、なんか疲れた。……あ!」


 手に持ったままだった、スマホが再び震えた。

 振動時間が長い。メッセージではなく、電話だ!


 貴久先輩からとうとうかかってきた!

 そう思って画面をみたのだが……。


「……え、非通知?」


 画面にはそう表示されている。

 貴久先輩が非通知でかけてくるだろうか。


「あ、切れた……」


 迷っているうちに切れてしまった。

 また副会長の悪戯か?

 よく分からないが、どうしようもないのでベッドに寝転んだ。

 

「ちょっと休憩しておこう。……うん?」


 持ったままのスマホが、また電話の着信を告げている。


「あれ、また……」


 画面に出ているのはさっきと同じ非通知という文字。

 やっぱり副会長? ……そんな気がする。

 文句を言ってやろうと思い、通話のボタンを押した。


「もしもし? 副会長、悪戯はやめてください!」

『…… …… ……』

「?」


 ザーッという雑音は聞こえるが返事はない。

 あれ、副会長じゃないのかな。じゃあ、もしかして……。


「貴久先輩?」

『…… ……』


 やっぱり返事がない。

 まさか……。


「会長?」

『…… ……』


 これも返事がない。

 通話不良で聞こえていないのかな?


「あ、切れた」


 なんだったのだろう……。

 まさか、都市伝説の『メリーさん』とかそういう類いじゃないよね?

 

「わっ」


 またスマホが震えた。

 オカルト現象だったらどうしよう……!

 画面を確認するのが怖くなってきた。

 誰かが繋がりにくくてかけ直しているのならいいが……あ。

 ビクビクしながら手に取ったスマホの画面に表示された文字は『非通知』ではなかった。


「た、貴久先輩だ……!」


 思わずベッドの上に正座をして、スマホを前に置いた。


「どうしよう!?」


 出るつもりだったのに、いざ本当にかかってくると躊躇ってしまった。

 でも、早く取らないと切れてしまう!

 ああああ、もう!

 押した……押してしまった!!


「…………」


 震えそうな手でスマホを持ち、耳に当てた。


『……零?』

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