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第三話

 貴久先輩と別れた僕は、相手からの連絡をすべてブロックして勉強に集中した。

 学校にいる間も、アパートに帰ってからも、一心不乱に勉強した。


 僕は生物海洋学を専攻しているので、そちらの勉強も進める。

 好きなことを学ぶのは楽しい。

 深海生物が好きで、よく使っているシャーペンにはメンダコがついてる。

 癒されるし、さらに勉強が捗る。

 実物を見たいが、今は禁漁期なので会うことができない。

 次会えるときは、一皮むけた僕でいたい!


 あと、僕は海洋研究所でアルバイトをしているのだが、めずらしくシャチブリが獲れたと持ってきてくれた漁師さんからヘラザメを貰った。

「食料に」と言われたのだが、小型のサメとはいえ一人で食筋肉中にべるのは大きいし……なにより臭い!

 筋肉中に尿酸を含んでいるから、死後時間が経つとアンモニアに変性して悪臭を放つのだ。

 でも、深海魚好きであり、そろそろ味のあるご飯が食べたかった僕は、がんばって研究所で調理した。

 調理中も臭すぎるとかなり文句を言われたが、僕の愛すべきボロアパートでやっては異臭騒ぎになりかねなのでご容赦ください。

 三枚におろすととても綺麗な白身だったが……やっぱり臭い!

 でも、深海魚を無駄に捨てることはしたくないので、揚げてフライにした。

 するとびっくり、タラに負けないくらい美味しくなった。

 悪臭被害を出してしまったが、フライを振舞うと許して貰えた。


 やっぱり、ごはんが美味しいと生きる力が湧く。

 ますます勉強に身が入った。


 そんな日々を過ごしているとテスト期間に突入。

 人生で一番勉強して、受けたテストの結果は――。




「……僕、凄くない?」


 秀海学園の入り口には、大きなインフォメーションスクリーンがある。

 そこに表示されるのは案内やお知らせだけではなく、テストの結果も映し出されるのだが……。


「一位!」


 各学年、成績上位十名の名前が出ており、一位の欄にでかでかと僕の名前が輝いている。

 メンダコー! やったぞー!

 もう勉強大好き! 頑張った分は報われる! 勉強は僕を裏切らない!


 今までも順位は悪くはなかったが、どんなに頑張っても一桁になることはなかった。

 だから、このスクリーンに載ることが夢だったのだが、それが叶うなんて!

 しかも、一番高いところに自分の名前があるなんて信じられない!


「今日は一際美味しいご飯が食べられそう……って、あれ?」


 ふと目に留まった三年生の順位を見て驚いた。


「貴久先輩が七位……」


 今までは必ず上位三名の内に入っていたのに……どうしたのだろう?

 七位でも十分凄いけどね?

 まあ、僕は一位だけど!


「写真撮りたいな……」


 実家に送りたいし、頑張った証として自分のスマホの待ち受けにしたい。

 でも、浮かれながら写真を撮っているところを誰かに見られると恥ずかしい。

 人がいなくなったら撮ろう……。

 そう思いながら周囲を見ていたら……後ろにいる人と目が合った。


「一位を取って、喜んでいるようだな。おめでとう」

「!」


 話し掛けられて焦る。

 誰? 知っている人だろうか……。

 僕よりも頭一つ背が高い黒髪のイケメンで、180センチ以上ありそう……。

 160センチ程度の僕は見上げてしまう。

 力強い紫の瞳は綺麗だけど、少し近寄りがたい雰囲気がする。


「木野宮零だな?」

「はい?」


 どうして僕の名前を知っているのだろう?

 あれ……この人どこかで見たような……。


「あ……生徒会長?」


 そうだ、集会で見たことがある。

 そして、スクリーンにある三年生の成績で一番上、一位のところに名前が載っている。


「そうだ。生徒会長をしている谷川湊だ。少し時間を貰えるか?」

「あ、はい。大丈夫ですけど……」


 生徒会長が僕になんの用だろう。

 小首を傾げ、ジーっと生徒会長を見ると……。


 バッと目を離された。

 こんなに迫力があるイケメンなのに、目が合うのは苦手なのだろうか。シャイ、とか?

 肉食だけれど実は性格は臆病なピラニアが、生徒会長の背景に見えた気がした。


「これから昼の休み時間だ。休憩時間を減らすのも悪いから、よかったら一緒に食事を取らないか? 話は食べながら聞いてくれればいい」


 なんと、生徒会長からご飯のお誘いが……!

 深海魚は食べたが、普通のお昼ごはんを誰かと食べるなんて、しばらくなかった。


「ご一緒させてください!」


 元気に返事をすると、会長が穏やかに笑った。

 さっきは近寄りがたいと思ったけど、笑っていると全然怖くない。

 むしろ格好良くて癒やされる。


「では、行くぞ」

「はい!」


 スキップしそうになるくらいワクワクしながら会長の背中をついて行ったのだが――。

 あー……その方向は……!


「木野宮、どうした?」

「あー……なんでもないです……」


 貴久先輩のいる可能性がある食堂に行かないでください、なんて言えなかった。

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