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第二十八話

 分かっているけれど、念のため聞く。


「あの……副会長、もしかして貴久先輩にかけています?」

「うん」


 やっぱり!

 かける前に言って欲しかったです!

 聞かれたら全力で止めるか、逃亡しているだろうけど……。


「…………」


 ど、どうしよう……心臓がバクバクと大きな音を立て始めた。

 ベッドに腰をかけ、足を組んでいる副会長の前で、ギュッと拳を握って立ち尽くす。

 今からでも逃げようかな。


「あれ、繋がらねえなあ」

「!」


 副会長がスマホを耳から離して呟いた。

 その瞬間、ホッとした。


「馬鹿だなあ、貴久、勿体ねえ。こういうところだぞ」


 安心している僕を見て、副会長はつまらなさそうに頭を掻いた。


「ま、いいや。電話するようにメッセージ入れておくから」

「え! あの、いや、いいです!」


 折角回避出来たのに……!

 スマホをポケットに戻して立ち上がった副会長に、縋りつきそうになった。


「その『いい』は入れてもいい、っていう『いい』だよな。うんうん」

「違います!」


 メッセージを入れて頂かなくて結構です、という意味です!


「貴久のこと着信拒否とかしてる?」

「あ、はい……」

「じゃあ外しといて。オレはもう帰るからさ。新人ちゃんに直接かけるように言っておく」


 完全に無視ですか!

 副会長に僕の意思が通らない、ということは、もう散々学習したけど……!


『着信拒否を外す』


 操作は簡単だけど、とんでもなく気が重い。

 ずんと体が沈む感じがする。


「……無理にとは言わないよ? 決めるのは君だけどさ」


 副会長が見透かすような目で、黙り込んでしまった僕を見ている。


「あ、明日のことだけど朝十時くらいに迎えに来るから。引越って言っても君、殆ど荷物がないだろう? だから業者の運び込みもすぐ終わるだろうし、家に案内して終わりかな」

「はい。分かりました」

「んじゃあ、これが鍵ね。ちゃんと閉めてといてね」


 貴久先輩にメッセージを入れないで貰うことは、諦めながら鍵を受け取った。

 

「あ、あと湊が来ても入れるなよ?」

「え?」


 そう言うってことは、もしかして……会長って来てくれるの!?

 でも、入れちゃ駄目?

 首を傾げていたら、すぐに教えてくれた。


「襲われたいならいいけど。っていうかもう襲われ済みか?」

「なっ! 済んでいません!」

「でも、項に色っぽい痕がついていたらしいじゃん?」

「!」


 誰だ!? 副会長の耳に入れたのは!


「し、しし知りません!!」

「へえ? じゃあお兄さんに見せてみなさい」


 副会長が楽しそうにニヤリと笑い、一歩詰め寄ってきた。

 ああ、この表情には嫌な予感しかしない!

 詰め寄られた以上の距離を開けて逃げる。


「嫌です! そんなものはないですって!」

「そう言われると確認したくなるなあ」

「こ、来ないでください!」


 ベッドの周りをあたふたしながら逃げる僕を、副会長が追いかけて来る。

 このいじめっ子怖いです! 会長、助けて!


「いい加減にしてください! って、うわあっ!」


 ベッドの上を飛び越えて来た副会長に捕まり、上半身をベッドに押さえつけられた。

 後ろ手に掴まれていて、取り押さえられた犯人のようだ。


「痛っ、離してください!」


 力の限りバタバタと騒ぐが全然歯が立たない。

 ほら! また筋肉が必要な場面になったじゃん!

 もう絶対、浅尾先輩に弟子入りする!


「どれどれ……ん? なんだ、ないじゃん」

「え?」


 そうなの? なんだ……でも貴久先輩は見たんだよね?

 もう消えてしまったのかな。


「新人ちゃん、色白いし首細いなあ! ……確かにこれはしたくなるな。オレもやっとこうかな? で、写真撮って湊に送るか」

「はい!?」


 独り言のようにブツブツ呟いていた副会長が、僕の上半身に乗り掛かっていた。

 重いし、ピタッとくっつかれるのは嫌です!

 会長とは一緒に寝てもなんともないのに、副会長に触られると嫌な鳥肌が立つ。

 またこれも「っていうのは嘘!」なんてオチなんだろうけど、やり過ぎたと思う!


「いい加減にしてください! 千里先輩に言いますからね!」


 僕は千里先輩と副会長の関係に気づいているんだぞ!

 言われたらまずいはずだ。

 さすがの副会長も焦るはずだと得意げに脅したのだが……。 


「ん? それは面白いかも」

「え? なんで?」


 恋人なら、例えふざけてやったことだとしても、叱られるはずですが!


「ちりちゃんが妬いてくれたら面白いなと思って」

「ええー……」


 最悪だ……僕が一番腹が立つ思考だ。

 そして、世界で一番憎むべき愚行だ。

 ヤキモチを焼かせて楽しむなんて悪趣味過ぎる。

 されている方はたまったものじゃないのに。


「でもヤキモチ妬かせすぎて失敗している貴久見てるからやめとこ」

「…………」


 近いことを考えていたけど、当事者の前で言わないで欲しい。

 副会長はそう言うと、僕の背中をポンポンと叩き、離れていった。


 はあ……副会長と二人でいると本当に疲れる……。


「副会長の恋人ってやっぱり千里先輩なんですね?」

「まだ付き合ってないけど?」

「ええ? まだ?」

「人のことより自分のことな。貴久にはもう電話しろってメッセージ入れておいたから」

「!?」

 

 いつの間に!?

 じゃあ、いつ貴久先輩から電話がかかって来てもおかしくないってこと!? 


「ま、頑張れ?」


 二カッと笑い、ヒラヒラと手を振りながら副会長は出て行った。


 人ごとだと思って~!

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