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第二十五話

 生徒会室は、入ってすぐに大きな部屋があり、その奥に小さめの部屋があるようだった。

 小さい方の部屋は生徒会長用の執務室だが、今は会長と副会長の部屋になっているらしい。


 大きな方の部屋は一般的な学校の教室程度の広さがあり、コピー機やパソコンなどの事務機器や、冷蔵庫、ポットなどの家電もある。

 僕の背丈より少し高いくらいの書類棚が壁一面に並んでいて、圧迫感があった。

 というか……。


「凄く散らかっていますね……」


 ゴミ屋敷の様な感じではなく、書類で溢れているだけなので、くさいわけではないが……。

 足の踏み場がほぼない。

 至る所に書類のタワーができ上がっている。


「新人ちゃん鋭いね! まずここを片付けるのが君に頼みたいこと」

「分かりました……」


 掃除は嫌いではないが……大変そうだなあ。

 それよりも気になるのが、この部屋の中にいる会長と副会長以外の『二人』だ。

 先生が使うようなデスクで、ノートパソコンのキーボードを叩いている人と、書類のチェックをしている人――。

 生徒会のメンバーだよね?

 全然こちらを見てくれないけれど……歓迎されていないのだろうか。


「紹介しよう。あの二人は俺と彩斗以外の生徒会メンバーで二年だ。早川、浅尾。集中しているところを悪いが、手を止めてきてくれ」


 会長が呼ぶと、二人は手を止めてこちらを見た。

 歓迎されていないのかと思ったが、単純に作業に集中していただけのようだ。

 呼ばれた二人はゆっくりと立ち上がり、こちらに向かってきた。


 一人は……わああデカい!

 深緑の短い髪をしていて、身体が大きく筋肉質だ。

 会長より、縦にも横にも大きい。

 格闘技をしていそう……とにかく強そう!


 そして、もう一人はすごく綺麗な顔で……あれ?

 この顔、見たことあるな……って、さっき名前を呼んだとき、『早川』って言った?


「早川!?」

「こら、先輩を呼び捨てにするものじゃありません」

「痛ッ」


 早川の登場に驚いていると、副会長が脳天にチョップを落としてきた。

 凄く痛いです!


 ん? 今、『先輩』って言った?

 そういえば二年って言っていたな?


 もう一度『早川』を見たら……なんだか違う?

 あ、髪の色だ。

 早川はいかにも「可愛いと言ってください」と主張している桃色だが、この早川は涼しげな水色だ。

 あとスラッとしていて、僕が知っている早川よりも十センチほど背が高い。


「どうも」

「!」


 喋ると全然違う! 何というか……麗しい!

 あの早川にはない知性を感じる……!


「ちりちゃんは、貴久をストーカーしてるあの子のお兄ちゃんなんだよ」

「副会長の呼び方は気にするな。 早川『千里(せんり)』だ」

「ちりちゃんが冷たい。でも、あのピンクっ子よりも数億倍綺麗で可愛いだろう? ちりちゃんは優秀なんだぞー。見習えよー」

「はい!」


 副会長がべた褒めするなんて、よほど優秀なのだろう。

 もしかして、副会長が『心に決めたかわいこちゃん』と言っていたのは、この麗しい早川先輩のことなのかな?


「あの……千里先輩って呼んでいいですか?」

「なんだ? 新人ちゃん。俺や湊は役職で呼んでいるのに、ちりちゃんは名前呼びだなんて……惚れたか?」

「違います! いや、その……早川という名前に敬って『先輩』とつけることにアレルギーが……あっ」


 千里先輩も『早川』なのに、「早川という名は敬えない!」と言ってしまったようなものだ。

 失礼な事をことを言ってごめんなさい!


「すみません……!」

「ははっ」


 頭を下げると笑われた。

 ……怒っていない?


「いいよ。名前の方で」

「え! ありがとうございます!」


 綺麗な早川先輩は、心も綺麗だった……!


「新人ちゃん、何気に世界中の早川さんに失礼だったからね」


 副会長が呆れたように笑っている。


「そうですよね……世界中の早川さんごめんなさい……」


 そう言うと、全員に笑われてしまった。

 僕の生徒会補佐としてのデビューは失敗だあ!

 思わず両手で顔を押さえた。恥ずかしい……。


「君には私の弟が随分と世話になっているらしいな?」

「世話なんてしていないし、されたくないし、絶縁したいです」


 あ、またつい本音を言ってしまった。

 桃色早川はあんな奴だが、千里先輩の身内なのに悪く言ってしまった。


「奇遇だな、私もだ」

「!」


 そう言って微笑む姿はとても美しくてドキリとした。

 なんということだ……早川の顔でときめく日が来るとは……。

 でも、僕に同意するなんて、兄弟間の仲は悪いのかな。


「んで、こっちの恐いのが浅尾颯介(あさおそうすけ)。新人ちゃんなんか、ひねり潰されちゃうからね」

「そ、そんなことはしませんっ」


 身体が大きい割に声が小さい……!

 穏やかな話し方だし、印象の高低差が凄い。


 小鳥を肩に乗せる優しい巨人――。

 浅尾先輩にはそんなイメージが固まった。

 というか、腕の筋肉も凄いのですが!

 僕の目は釘付けだ!


「あの……鍛えているんですか?」

「あ、ああ。トレーニングが趣味だから……」

「すごい……かっこいい……!」


 尊敬の眼差しを向けてしまう。

 脱いでポージングとかしてくれないかな!?

 浅尾先輩は恥ずかしそうにしているけれど、ジロジロと身体を見てしまう。


「おお? まさかのダークホースの登場か?」

「……馬鹿なことを言うな」


 会長と副会長が何かこそこそ話をしているが、そんなことは気にならないくらい浅尾先輩の筋肉に興味津々だ。

 つい近づいてしまう。

 触ってもいいですか?


「どうやったらこんなに筋肉がつくんですか!? 僕、鍛えたくて!」

「木野宮、お前は鍛えるのは禁止だ。何度も言わせるな」

「横暴!」


 会長、横やりを入れないでください!

 浅尾先輩に筋肉の鎧を纏う極意を教わりたいのに……会長がいたら邪魔をされてしまう。


「今度、こっそり教えてくださ……わあ!」


 浅尾先輩に内緒話をしようとしたら会長に腕を引っ張られ、浅尾先輩から強制的に離されてしまった。

 会長、そろそろ恨みますよ?

 ジーっと抗議の目を向けるとフッと鼻で笑われた。

 それは「無駄な足掻きをするな」って笑っているな?


「お前は今が丁度いいんだ」


 いや、全然足りないですけど!

 言っても無駄だと分かっているから言わないけど!


「湊……お前ねえ。ここ、生徒会室だから! 家じゃねえぞ? 『彼女を家に連れて来ました』じゃないんだからな! イチャつくな!」

「私はもう仕事に戻ってもいいですか?」


 千里先輩は僕達とのやり取りに飽きたのか、返事も聞かず自分のデスクに戻って行った。

 思ったよりも、生徒会室はフリーダムだ……。


 千里先輩がデスクに戻ったのを見て、浅尾先輩も頭を下げながら戻って行った。


「あれ? 生徒会メンバーって四人だけですか? もう一方いたような?」


 確か集会では五名だったような……。

 会長と副会長以外は壇上に上がっていなかったから、あまり記憶に無いけど……。


「うん。二年の奴がいたけど、使えねえから辞めさせた」

「!」


 副会長が素敵な笑顔で答えてくれた。

 笑う瞳の奥は「お前もそうならないように気をつけな」と言っている。


「少数精鋭でやっていくから、新人ちゃんも頑張ってね」

「はい!」

「よし。あとは午後の授業が終わってからにしよう。そろそろ時間だ」


 会長の言葉で時計を見ると、移動しないといけない時間になった。

 午後の授業が終わったら、僕も研究所の手伝いは休んでここに戻ってくることになった。

 お掃除頑張ろう。


「あ、そうだ。新人ちゃん、君のおうちが決まったよ」


 別れ際に副会長が教えてくれた。


「本当ですか!」

「で、学園がお休みの明日に引越ね」

「明日!」


 もう明日には新居が!

 会長のところのようなハイテクなところに住めるのだろうか。

 なんだかワクワクしてきた!


「今日はホテルに泊まるといいよ。学園で用意しているから」

「ホテル?」

「!」


 隣で大人しく話を聞いていた会長がバッと驚いたように副会長に目を向けた。

 え? どうしたの?

 ……というかホテルに泊まっていいの!?

 一人で泊まったことがないからわくわくする!

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