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第二話

 食堂を去ると、僕は一人暮らしをしている学園都市内のアパートに戻った。

 二階建て、築五十年の木造アパートで、お洒落で綺麗な建物が多いこの辺りでは浮いて見える。

「素敵! 住みたい!」と思える外観ではないが、学園指定の無料で住める場所なので文句は言えない。


「……精神的に疲れた」


 靴を乱暴に脱ぎ捨て、年季が入った畳に寝転ぶ。

 良く言えば「趣のある」率直に言えば「ボロい」このアパートに住んでいるに少し恥ずかしい思いをしていたが、今は最高の安息の地だと感じている。


「はあああ……」


 幸せが一気に空っぽになりそうな深い溜息が自然と零れる。

 昼食を食べずに食堂を出たが、お腹は空いていない。

 もしかしたら、空腹を感じている余裕もないのかもしてない。


「とうとう別れちゃったなあ」


 いや……別れることができた、かな。


「……貴久先輩、追いかけて来てくれなかったな」


 スマホをチェックしたけれど、連絡も来ていない。

 貴久先輩にとって、僕はその程度の存在だったのだ。

 別れの一言も貰えないなんて……。

 今までの我慢の日々はなんだったのか。

 

「僕、今まで頑張ったよね……?」


「そうだね」「よく頑張ったね」なんて褒めてくれる人も、僕の周りにはない。

 僕の近くにいるのは、貴久先輩を狙う敵ばかりだった。


『なんだあんな地味なのが?』

『貴久先輩に相応しくない』


 そう言って冷たい目を向けられることは日常茶飯事。

 でも、これからはそんな日々から解放される。

 味のないご飯を食べながら胸を痛める日常から抜け出すことができるのだ。


「……ん?」


 畳に置いていたスマホが鳴り、メッセージの受信を知らせた。

 寝ころんだまま画面を覗くと――。


「え」


 画面に表示された『貴久先輩』という字を見て息が止まる。

 何の用だろう……もしかして、僕を引き留めようとメッセージを……?

 恐る恐る開いたメッセージにに書かれていたのは――。


『ごめんね、零。明日は二人でどこかに行こうね』


「…………」


 その文面を読んだ瞬間、スマホを座布団の上に放り投げた。

 天井を見て脱力する。


「嘘だ……僕の『さよなら』が伝わってもいなかったとは……」


 そんな馬鹿な……どうしてだ?

 僕はちゃんと伝えたし、早川にも伝わっていたと思う。

 今頃、ようやく邪魔者が消えた! と万歳をしているに違いない。


 改めて貴久先輩に「別れましょう」と言うしかないのだろうか。

 でも、僕なんかが二度も()()貴久先輩に別れを告げるなんて、おこがましい気もする。


 そもそも、僕と貴久先輩は本当に付き合っていたのだろうか。

 それすら怪しく思えてきた。


 僕と貴久先輩の出会いは、秀海学園に入学する前――。

 初めて学園都市を訪れ、道が分からず困っていた僕を親切に助けてくれたのが貴久先輩だった。


『君、大丈夫?』


 右も左も分からずパニックになりそうなところで、そう声をかけてくれた。

 心配そうに顔を覗き込んできた美貌に目を奪われたが、何よりも優しい声が僕の心を掴んだ。


 道案内をしてくれたけれど、ふわふわした頭になっていた僕は、名前を聞かずに別れて後悔した。

 あの姿、あの声が頭から離れなくて、もう一度同じ場所に行ってみたけれど、会えず――。


 だから、入学して憧れの人と再会できたときは本当に嬉しかった。

 でも、いつも人に囲まれている貴久先輩は高嶺の花で、中々近づけなくて……。

 ちらりと姿を見ることができるだけの日々だった。

 不平不満が募る毎日だったが、次第に「これは憧れではなく、恋心なんだ」と自覚した僕は、玉砕覚悟で突撃。

 告白したら、まさかのOKを貰ったのだ。

 だから、付き合ってはいたよね?


「返信、どうしよう……」


『僕達はもう別れました。だから、連絡しないでください』


 そう入力してみたが……。


「……返さなくていいか」


 やっぱり、僕が貴久先輩にこんなメールを送るのは生意気だ。

 誰が誰に言っておる、と心の仙人が突っ込んでくる。

 スマホの画面を消し、そっと畳に置いた。


 僕達は付き合ってはいたと思うが、貴久先輩には他にも相手がいたかもしれないし、常に交際を希望する人に囲まれているのだから、すぐに僕のことなんて気にならなくなるだろう。

 貴久先輩の中でも、このまま自然消滅になるはず……。


「よし…………勉強しよう!」


 ここは学園都市、勉強が出来なければ追い出されるかもしれない。

 最近は貴久先輩のことで悩んでいたが、ここには勉強をするためにやってきたのだ。

 心を入れ替え、勉学に励もう。

 僕は学年一のがり勉になるぞ!

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