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第十六話

 副会長は軽い口調とは対照的に、考え方や見方はシビアな気がする。

 そんな人の目には僕はどう映るのだろう。

 副会長の視線を浴びていると、審判を受けているようで居心地が悪い。


「なあ、君はちゃんと貴久と別れたのか?」

「はい」

「貴久は納得してんの?」

「それは……」


 納得……していないのかな。

 だから何度も会いに来るのだろうか。

 でも僕はもう別れたつもりだし、今日はあれだけ強く言ったから、もう大丈夫……だと思いたい。


「なんで振ったの?」

「振っただなんて……。そもそも本当に付き合っていたのかも謎です。貴久先輩には、僕以外にも……」


 あまり貴久先輩のことを考えたくないし、答えたくはないけれど黙っているわけにはいかない。

 仕方なくポツリポツリと呟く。


「ん? どういうことだ? 貴久が君以外の子とも付き合っていたってことか? そんな馬鹿な……あ」


 思い当たる人がいたのだろうか。心当たりがあるような表情をしている。

 知っているのなら……聞きたくないから言わないで欲しい。

 具体的なことなんて知りたくないな……。


「あー……何となくわかった」

「?」


 副会長は脱力したように呟くと、なぜか僕の頭の上にポンと手を乗せ、優しく撫でてきた。

 ……急にどうしました?

 冷たかった空気が、急に暖かくなった気がする……。


「自分だけを大切にして貰えなきゃ、そりゃあ自信なくすわなあ」

「!?」


 今のは僕の気持ちを察したようは発言だったけど……何?

 優しい目で僕を見ているから、やっぱり僕の気持ちを代弁したってこと?

 そう思った瞬間、言い当てられた恥ずかしさでカーッと顔が熱くなった。


「オレはね、あいつのこと教祖様だと思ってんの」

「きょ、教祖様?」


 え、貴久先輩、知らないうちに宗教始めてたの?

 僕も知らないうちに入信していた……?


「そ。迷える子羊に救いを求められたら、見捨てることができない……って言ったら着色しすぎかもしんないけど。まあ、率直に言えば来るモノ拒まず? しかも、超引き寄せるタイプだから、信者みたいなのがわらわらできる。な、教祖様みたいだろ?」


 ……うん、副会長の言いたい事が大体分かった。

 以前僕は貴久先輩は天界の人だと思ったけど、あれに通じるものがある。


「あいつね、断れないの。嫌われるのが恐いから。結果、いつも周りに人が湧いている。でも、そういう状況は恋人からしたら耐えがたい時もあっただろうな?」


 ……いっぱいあったよ。というか毎日だった。


「その他大勢と一緒だなんてありえないよな。寂しいのに貴久の馬鹿は気づいてくれないし……つらかったな」


 そう言うと、さっきよりも優しい手でもう一度頭を撫でてくれた。


『初めて自分の気持ちを人に分かって貰えた』


 そう思った瞬間……また泣いてしまった。

 もう終わったことだけれど理解してくれる人が現れるなんて。

 

「……ううっ」


 泣いてばかりいるからか、またすぐに嗚咽が止まらなくなった。

 今日は人前で泣き過ぎて恥ずかしい。

 一日まるごと記憶からデリートしよう。

 副会長は涙を拭くためのティッシュを持って来てくれたり、水を持って来てくれたりしながら僕が落ち着くのを待っていてくれた。


「乙女心が分かるイイ男なオレに惚れないでね」

「……乙女じゃないので大丈夫です」


 涙が止まった頃には冗談を言って和ませてくれたり、クセはあるけどイイ人だ……。


「君はオレと話さない方がいいかもね」


 すっかり涙も嗚咽も止まり、まともに話が出来るようになったところで副会長がぽつりと呟いた。


「どうしてですか?」


 生徒会でお世話になるし、これから仲良くして貰えたらいいなと思っていたところだったのでショックだ。

 僕のことは信用出来ないと判断されてしまったのだろうか。


「オレはどちらかというと、湊より貴久を推すよ。だから君は悩むことになるだろうね」


 心配していた理由ではなかったが……顔を顰めた。

 貴久先輩と会長の両方を知っている副会長が貴久先輩を推す理由はなんだろう。


「どうして貴久先輩なんですか?」

「ん~秘密!」


 パチンと瞼を閉じた瞬間に星が飛んでいるような綺麗なウィンクをされた。

 ごめんなさい、可愛くないです。

 さっきも三人が生徒会補佐をしていた頃の話をしてくれなかったし……モヤモヤする。


「じゃあ、オレはそろそろ学園に戻らないといけないんだけど、悩みの種をお土産に置いていこう」


 立ち上がった先輩が僕を見下ろしている。……何を言われるのだろう。


「一年の途中から貴久とは話しづらくなって、二年の時はこっちから話し掛けても殆ど無視されてた。でも、三年になってちょっとしてからだったかな。急にあいつの空気が柔らかくなってさ。オレには話をしてくれるようになったんだよ。なんか機嫌がいいな? って聞いたら『恋人が出来た』って言ってたよ」


 ……それが僕のことだと?


「びっくりしたなあ。あいつはいつも人に囲まれているけど、今まで『恋人』なんていなかった。勝手に勘違いしている奴はいたけどさ。あいつの口から『恋人だ』って名前を聞いたのは君だけだよ」

「……そう、なんですね」


 あれだけ周りに人がいた中で、本当に僕一人だけだったのなら……嬉しい、とは思う。

 ……でも、もう遅いんだ。

 付き合っていた頃に聞けていたなら、今と違うことになっていたかもしてないけれど……。


「君と貴久は、もう少し話し合うことはできないのか? オレとしては、別れるとしても貴久を納得させてやって欲しいかな」

「話合う、ですか……」


 自分的には、もう何度もやったんだけどなあ。

 でも、改めて貴久先輩が納得してくれるまで話し合ったら、お互いすっきりとした気分で別れることができるだろうか。

 このアルミホイルな心を揺さぶられることもなくなるのだろうか。


「……なーんて友達思いのいいこと言ったけどさ。本心では、『すっげええええ面白い!!』と思っているから、貴久と湊のことどんどんかき乱しちゃってくれていいよ~」


 楽しそうにそう叫ぶと背伸びをしてた。

 今のは僕に気をつかって、また和ませてくれたんだと思う。


「あ、補佐の仕事はちゃんとやれよ? いらないなって思ったら、湊が庇っても生徒会から追い出すからな?」

「は、はい!」


 急にお仕事モードになった副会長の言葉にドキリとした。

 今のところ迷惑しかかけていない。

 役立たずでいるつもりはないが、気合いをいれて頑張ろう。

 僕の返事を聞くと副会長は部屋を出て行った――。


「そうだ!」


 まだ、いたの!?

 副会長が玄関の方からひょこっと顔だけ覗かせた。

 立ち上がってからが長いですね。


「今日は湊に襲われないように気をつけてね? オレ、意識させるようなこと言っちゃったから、あいつ頑張るかも! んじゃなあ~!」

「…………っ!? ちょっと待ってください!」


 ええええ!?

 今までの話が吹っ飛ぶような爆弾を残していかないでください!

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