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第十五話

 わざわざ戻ってくるなんて大事な話なんだろうか。

 なんだか緊張してしまう。


「あれ? なんか緊張しちゃってる? 大丈夫だって、取って食ったりしないから! ほら、座って」


 立ったままでいるとおいでおいでと手招きをされた。

 確かに立ったままでは話ができない。

 急いで副会長から少し離れた所に腰を下ろした。


「え? 遠くね? もっと前に来てよ」


 そうかな?

 あまり真ん前に座っても話つらいし、あまり面識のない副会長にはちょっと近寄りがたいというか……。

 「早く寄って」と目の前の床をトントンと叩いて催促をされたので、座ったまま足を摺りながら前に詰めた。


「……自分から来てくれてありがとうね」

「え? なっ……痛っ!」


 いきなり手首をグッと掴まれ、前に引かれる。

 力が強くて腕が痛い。

 僕の軽い身体は引っ張られた方向に勢いよく進み、副会長の胸にぶつかった。


「な、何するんですか!」


 突然なんだ!? 慌てて離れようとするが手首を掴まれたままで動けない。

 焦っている僕の耳元に副会長の顔が近づいてきて……さっきまでとは違う静かな声で囁いた。 


「新人ちゃんの部屋のドアノブをガチャガチャしてた犯人、実はオレなんだよね」

「……は?」


 今、なんて言った? ガチャガチャ犯は副会長?

 さっきは副会長が犯人は秀海の生徒だって話していたけど……あれは自分のことを言っていたってこと?


「うっ!?」


 顎をグイッと掴まれ、強引に上を向かされ、首が痛い。

 でもそれ以上に、副会長のギラッと光った金色の目が怖い。


「さあ……可愛い表情、いっぱい見せて貰おうかな?」


 綺麗な顔が妖しく歪められたのを見て背筋が凍った。


 副会長も会長や貴久先輩のように整った顔をしている。

 見た目だけで言うと貴久先輩は正統派の王子様、会長は俺様な皇帝という感じだ。

 副会長は二人よりも親しみやすくて今風のモデルのような感じだが……僕は一番親しめないかも!

 逃げなきゃ……副会長の手を振り払おうとした、その時――。


「っていうのは嘘だけどねー!!」


 副会長が僕を掴んでいた手をパッと離し、万歳をした。


「なっ!? うわっ」


 支えをなくした僕の頭は落ちて、再び副会長の胸にぶつかってしまう。


「はいはい、重いからちゃんと座ろうなー」


 そう言うと副会長は僕の両脇に手を入れて持ち上げると、倒れる前の位置に戻るように座らせてくれた。

 え……なんだったの?


「どうした? あ、オレの迫真の演技に腰砕けちゃった?」

「…………」


 そうか、悪ふざけだったのか。

 これ……怒っていいですよね!?


「あ、怒ってるね? ごめんごめん。でもさあ、随分無防備だなと思って。オレが超イイ人オーラを出しちゃってるから信用しちゃうのは分かるんだけど、新人ちゃんとオレって出会ってまだ一時間くらいじゃん? そんな奴と簡単に二人きりになってしまうのはどうかと思うんだ?」

「うっ」


 抗議しようと思ったのに、真っ当なことを言われてしまった。

 イイ人オーラは出ていないということしか反論できない。

 僕だって副会長を部屋に入れる時にちゃんと考えた。

 でも、『副会長』だし、会長が信頼している人だし……。


「あ、もしかしてオレの役職とか、湊と仲が良いことを考慮して大丈夫だと思った? でもね、役職で言えば教師でもド変態はいるし、湊が信頼している奴の中にも実は危険な奴がいるかもしれない。だから他人の判断は取っ払って、自分が大丈夫だと判断した奴以外は信用しない方がいいとオレは思うんだ?」


 考えていた事を読まれた上に、ぐうの音も出ない正論だった。


「……そうですね。ごめんなさい」

「謝らなくてもいいよ。気をつけようねって話。普段はそんなに気にしなくてもいいけど、今は誰かに狙われているかもしれないじゃん? 新人ちゃんに何かあったら、オレの友人達が暴れそうだから頼むわ」

「……はい」


 もっと他の注意の仕方はなかったのかなと口を尖らせたいところだが、確かに身をもって体験する事で注意する意識は増したし、忘れないだろう。


「副会長は信用出来る人ですね」

「えー?」


 今の話聞いてた? と言いたげな顔をしている。


「正直に言うと今のは腹が立ちましたけど、その分教訓になりました。わざわざこうやって学ばせてくれたんだから、副会長は親切ですね。ありがとうございます」


 そう言って頭を下げて微笑むと副会長はキョトンとしていたが、ハッと息をのむと奇声をあげて僕から逃げるように後退った。


「うわあ! 恐っ! なんかキュンとしたわー! オレまで落とそうとしても駄目だよ? オレには心に決めたかわい子ちゃんがいるんだから!」

「落とそうとなんかしていません!」


 両手を突き出して僕を全力で拒否しているように見える。

 それ、ちょっと傷つきます。

 ……というか、副会長って恋人いるんだ?

 それより、戻って来てわざわざしたかった話というのはもう終わったのだろうか。


「あの、それで……お話しって今のですか?」

「ん? ああ、それはね。君はどういう子なのかなと思って」


 今のはただの注意だったらしい。

 これからが大事なところのようだ。

 元の位置に戻った副会長は、ジーっと僕を見た。

 値踏みをしているような視線であまり気持ちの良いものではない。


「わざわざ口にして言うのも恥ずかしいけど、湊も貴久もオレの『オトモダチ』なわけ。……まあ、今はちょいとこじれてるけどさ。で、貴久と付き合っていたって子が、最近湊に乗り換えたっていうじゃん?」


 副会長にまで、早川達が言っているような話が伝わっているなんて……!


「乗り換えてません。お世話になってますけど……」

「そうかなあ。どうだろうねえ?」


 ああそうか。副会長は僕の事をあまりよく思っていないんだ。

 だから自分の目で確かめに来たのだろう。


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