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第十四話

 暫く胸倉を掴み合っていた二人だが、会長が僕のことを思い出したようで手を離し、副会長を紹介してくれた。


「こいつは副会長をしている吉川彩斗(よしかわあやと)だ」

「どうも、新入りちゃん。補佐として加入早々、問題を持ち込んでオレをパシリにするって中々やるね!」

「え!?」

「お前をパシリにしたのは俺だ」

「お前にパシられるくらいなら可愛い子にパシられた方がいいわ!」


 副会長が会長に怒鳴っているが、僕には気になるワードがあった。


「問題を持ち込む?」

「ん? ほら、君のおうちの件。とりあえず分かったことだけ報告するね」


 そう言うと副会長は鞄から取り出した書類を会長に渡した後、僕の前に座った。


「君が住むアパートは不正に学園の認定を得ていたことが分かったんだよ。協力した奴が学園側にいるみたいだけど、その辺りはまだ調査中」

「不正に認定?」

「そ。『秀海学園の生徒を預けてもいいところだよ』って認定を受けていると、お得なことが結構あんのよ。一番大きいのは税金とかの免除がある点。あと安全や高い水準の生活環境が確保されていないと認定って貰えないから、信頼を得ることができるね。それに生徒の代わりに学園が家賃を払うでしょ? だから滞ることなく確実に家賃収入を得ることもできるってことも魅力だね」


 会長が書類をぺらぺらと捲っているが、恐らく今、副会長が話してくれたことの詳細が書かれているのだろう。

 真剣に目を通す姿は生徒会長の風格がある。

 副会長も雑談をしている時はチャラそうなイマドキのイケメンだけど、説明してくれている時は会長にも感じていたデキル男のにおいがした。

 というか、生徒会ってこんなことまでするんだなあ。


「色々すみません……。対応してくださって、ありがとうございました」

「あー、いいのいいの。気にすんな。君はまあ……被害者だかんな? しっかし、湊から写真が送られてきた時は笑ったわ~。あれは調べるまでもなくどう見てもアウト。よくあんな所に入ろうと思ったな? 普通なら親が『ウチの子をこんなところに住まわせることはできません!』って怒るはずだけど」


 言われてみれば確かにそうだが、うちの親は「ただで住めるんだから文句は言えないよなー」と僕と同じことを言っていた気がする。


 ……っていうか、会長が写真を撮っていたけど、あれは副会長に送っていたのか。

 笑われていた……恥ずかしい!


「と、特に不便はなかったので……」

「え~? 不便かどうかって前に嫌じゃねえ? あんなきったねえとこには住みたくねえわ」

「うっ!」


 僕だって最初見た時はボロいなと思ったけど!


「ってか、貴久は君があんなところに住んでるって知らなかったわけ?」

「え? あ、はい……」

「ふうん? まあ、あいつらしいけど」


 貴久先輩とは外で会う時も周りに必ず誰かはいたから、家に行こうなんて展開にはならなかった。

 僕も貴久先輩にはあの家を見せたくなかったし……。

 そう言えば、さっきも副会長の口から貴久先輩の名前が出てきていた。


「副会長も貴久先輩と仲がいいんですか?」

「!」


 副会長に質問したのだが会長が反応した。

 書類に落としていた目をこちらに向けた。


「あれ? 湊、言ってないの? 湊とオレ、貴久は一年の時に一緒に生徒会手伝ってた補佐トリオだよ」

「え……そうなんですか!?」


 貴久先輩は元生徒会補佐!?

 会長に視線を向けると、顔を逸らされた。

 えー……なんで言ってくれなかったんだ? 親が仲いいだけじゃなかったの?


「貴久は辞めちゃったけどなー。誰かさんが苛めるから!」


 副会長はそう言って会長を見ている。

 まるで会長が貴久先輩を苛めたみたいな言いぶりだけど……。


「……あいつが勝手に辞めたんだ」


 そう呟くと再び書類に目を通し始めた。

 なんだか訳ありな感じ? 聞いちゃいけないのかなと思うけど……凄く気になる!


「詳しく聞きたい? 聞きたいって顔してるね!」


 副会長が顔を寄せ、コソコソと小さな声で話し掛けてきた。話してくれるの?


「聞きた……」

「言わないぴょーん!」


 副会長が嬉しそうに叫んだ。


「…………」


 ……何、この人。ぶっ飛ばしていい?

 真顔の僕を見てニヤニヤしている……。

 やっぱりこういう時のために筋肉は必要だ!


「あ、てかオレ、副会長じゃないから」

「はい?」


 学園の行事では副会長という肩書きで紹介されていたはずだけど?

 意味が分からず会長に目を向け、救いを求めた。


「副会長だ」


 ですよね? どういうこと?


「まあ(仮)って感じ? でも、オレより相応しい奴いるから」

「…………」


 会長が僅かに顔を顰めたのが分かった。

 もしかして……それが貴久先輩なのかな?


「あ、でね。君の部屋のノブをガチャガチャしてたのは秀海の生徒ね」

「ええええ!?」


 思い出したように話し始めた副会長の言葉に驚く。


「アパート周辺の防犯カメラに、顔は見えないけど制服はばっちし映ってたから。心当たりない?」

「まったくないです!」


 え? 本当にガチャガチャ犯っていたんだ?

 会長の勘違いで、やっぱり部屋を間違えたアパート住民の可能性もまだあると思っていたけど……いたのか。

 しかも秀海の生徒って!


「貴久ファンの嫌がらせとかもありえるよね~。これからは湊ファンも追加されちゃうかも?」

「え? 会長のファンも?」


 なんで会長のファンも?

 あ、そうか。補佐で近いところにいたら嫉妬の対象になるか……。

 早川達の「同棲している」という勘違いが噂になって広がったりしたらどうしよう。


「ってかさ、生徒会長様。お前そろそろ学園戻れ? オレばっか働かせんな」

「今日は全部お前がやれ」

「はあ!? ふざけんな! お前が戻らないならオレはバラすからな? オレは知ってんだぞ?」

「……何がだ?」


 訝しむ会長の元に副会長が近づき、肩を組んでいる。


「本当は学園が、新人ちゃんの次の住居が決まるまでホテルを手配してるのに、お前が自分の家に連れ込んで……」

「戻らないとは言っていないからな!」

「?」


 小さな声で話しているから途切れ途切れにしか聞こえない。

 ホテル?

 会長が焦っているし……何かいやらしい話か?


「いやあ、湊がこんなにむっつりスケベだとは……」

「違う! 俺は一人にするのが心配で……!」

「へえ~? で、昨日はどうだったんだよ? 昨日無理だったから今日リベンジとか?」

「違うと言っている!」


 聞こえないから会話には入れず……放置されて寂しいんですけど!

 なんか楽しそうでいいなあ。

 僕は貴久先輩の隣を死守するのに必死で、まったく友達を作れなかったら羨ましい。


 結局暫く二人の世界を繰り広げた後、会長は学園に戻った。

 副会長も一緒に出て行き、僕は一人になったのだが……。


「やっほー新人ちゃん!」


 副会長だけが忘れ物があると行って戻って来た。

 でも、部屋にはそれらしき物がないけど?

 不思議に思っていると、副会長は「どっこいしょー」とわざとらしく声を出しながらドカッと床に座った。

 あれ、忘れ物は?


「新人ちゃん、ちょっとお兄さんとお話ししようか」


 忘れ物って……『お話』ですか?

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