(閑話)眠れない夜
「どうしてこうなった……」
木野宮を起こさないよう、小さく呟く。
独房のような木野宮の部屋に泊まることになり、フローリングで寝るつもりでいたのに、気づけば狭い布団で一緒に寝ている。
俺はフローリングでいい……むしろその方が助かるのだが……。
納得しなかった木野宮が、俺がフローリングで寝るなら自分もそうすると言って寝転がったときは、どうしようかと思った。
意外に強情なところがあるのだなと可愛らしく思えたが、さすがにそのままにするわけにはいかないと、抱き上げて布団に寝かせた。
抱き上げたときに木野宮が、縋るように俺のシャツにしがみついたときは焦った。
布団に寝かせた木野宮の上に覆い被さってしまおうか、なんて考えが微かに浮かんだが、すぐにかき消した。
それにしても木野宮は軽かった。
ちゃんと食べているのだろうか。
そういえば、最近少し痩せたような気がする。
貴久のことが影響して食欲が出なかったのだろうか。
そう思うと、また貴久への怒りが湧いた。
あいつは何も変わっていない。
今まで、人に囲まれている貴久の気を引こうと、健気に頑張っている姿を何度も見てきた。
俺ならもっと大事にしてやれるのに――。
ずっと、そう思っていた。
木野宮の恋人がよりにもよって貴久だと分かったときは、本当にショックだった。
あいつが謝って来ない限り、俺は一切関わるつもりはない。
恋人が貴久以外の奴だったなら、何も気にせず奪い去ろうと動けたのに……。
戸惑っているあいだは、見守ることしかできなかったが……今、そばにいるのは俺だ。
年季の入った天井を眺めながら思う。
こんなところに住んでいることも、もっと早く気づいてやりたかった。
ガチャガチャと揺れるドアノブを見たあと、「いつも起こることだ」と聞いたときは血の気が引いた。
手遅れになる前で、本当によかった。
「うーん……」
布団が狭いため、同じ方向を向いて寝ていたのだが、木野宮が寝返りを打った。
そして、隙間が気になったのか、ピタッとくっついてきた。
「……俺は忍耐を試されているのか?」
息がかかりそうな程すぐ目の前に、あどけない寝顔――。
すーすーと気持ちよさそうに寝息を立てている。
思わず髪や頬に触れたくなったが……触ってしまったら終わりだ。
「んんー……」
掠れた声が色っぽいと困ったが、木野宮は暑くなってきたようで布団を思い切り蹴り飛ばした。
子供のような寝相が微笑ましくて、思わず笑った。
蹴り飛ばした布団を直し、もう一度掛けてやろうとしたところで木野宮のシャツが少し捲れていることに気がついた。
お腹が見えている……。
綺麗な肌が見えて、本当にまずいと思った。
「……離れた方がいいな」
やっぱりフローリングで寝よう。
フローリングは冷たいから、馬鹿な事を考えている頭を冷やすには丁度いい。
木野宮から離れようと身体を起こした。
「?」
着ているシャツが重いと思ったら……シャツの端を木野宮が掴んでいた。
起きて居るのかとドキッとしたが、静かな寝息は変わらない。
スヤスヤと眠っている。
寝ぼけているのだろうか。
「可愛すぎだろ……」
小さな子供のようにギュッと握る手を見ているとたまらなくなり、思わず片手で顔を覆った。
「このまま寝るか」
できるだけ距離を取って寝るように再び身体を倒した。
身体の半分はフローリングに出すごとができたが、もう少し冷やしたいところだ。
ああ……今日は徹夜かな……。




