五話 俺、異世界お姫様のために交渉人やります!
交渉人が到着したという旨を伝えられた俺は、リュカを連れてビルを下りていく。
正面玄関の自動ドアから外の世界へ。
といっても、数メートル先は透明な結界で遮断されている。
さらには、俺たちの存在を外部に知られまいとしているのか、玄関の周囲を巨大なブルーシートのテントで覆っていた。
結界を挟んだ向こうには、能面のような表情で電子煙草を吸っている美人がいた。
俺たちが現れると、彼女は開口一番にこう言った。
「なんでおまえがそこにいるんだよ」
「や、やぁ、姉ちゃん」
気まずい空気が流れた。
それもそのはず。彼女からすれば、こんなのところに俺がいるはずないのだから。
美人すぎる交渉人寒川静奈は、この俺、神山晴樹の血の繋がらない姉である。
一緒に暮らしているし、毎日のように顔を合わせている。
今朝だって、俺の作ったベーコンエッグを食パンに乗せて食べていたのだ。
とりあえず、いろいろといいわけしたくて仕方がない。
警察の弟が、ヤクザのビルで異世界人の人質になっているのである。
テメエ、何があったんだよと問いただしたいのだろう。
なんて言おうかと迷っていると、気まずい空気を払拭するかのように、リュカが口火を切ってくれた。
「お初にお目にかかります。私は、ガーバングラフの第二王女リュカトリアス・ライエットともうします」
静奈も、とにかく警察としての仕事が優先なのか、俺のことはさておき、リュカの応対を始める。
「あたしは寒川静奈。あんたたちの世界でいう――」
「警察の幹部、ですよね。治安維持を担う組織だとか」
「職業的にはね。正確には、交渉人っていう中立の立場。リュカさんたちと警察の仲介人みたいなもん。ちなみに、あたし、普段からこういう口調なんだけど、構わないかな?」
「はい」
警察であるコトを濁し、交渉人とか仲介人という単語で、第三者的な存在であるコトをアピールする。友人であるかのような口調は、相手との距離を近くすると聞いたことがある。静奈のさりげないテクニックなのだろう。
「私はクラリティ。このちっこいのが――」
「ちぇるきーなんだよ!」
「ども、クラリティさんに、チェルキーたんね。覚えた。んじゃ、話を始める前に、ちょっとだけいいかな?」
「なんでしょう?」
静奈は、電子煙草をポケットに戻す。
「晴樹」
俺は、ビクッと身体を震わせる。
静奈は、指をくいくいと動かして、俺を招いた。
「な、なんでしょう?」
思わず敬語になる俺。
「ここ。……ここにおでこを押しつけな」
結界に、トンと人差し指を突きつける静奈。
「な、何をする気デスか?」
「いいから」
逆らえるわけもなく、よくわからないけど、俺は示された場所に額をあてた。
「動くなよ」
次の瞬間。静奈は、結界を挟んで俺の額に拳をぶつける。
すると、完全無欠の結界を貫いて、俺の額に衝撃が走った。
「いがっ! たッ!」
俺は、二メートルほど吹っ飛ばされ、ゴロゴロとアスファルトを転がる。
リュカたちは、唖然と立ち尽くしていた。
ああ、そうだろう。無敵の結界が、衝撃を通過させたのだから。
警戒気味に、結界を調べるリュカ。
「結界は……破られていない? す、凄い、どうやったんですか?」
「くっ、気をつけろリュカ!」
双剣を抜くクラリティ。その背後に隠れるチェルキー。
静奈は、すぐさま両手を挙げた。飄々と無抵抗をアピールする。
「あ、戦う気はないから。今のは、こっちの世界の武術でさ。鎧通しっていうの。そこに転がっているの、あたしの弟なんだ。ちょっとお仕置きしただけ。悪いね、時間取らせちゃって」
「す、凄いんだよ……。日本の警察恐るべしなんだよ……」
「いやいやいやいや! おい、姉ちゃん! 俺は被害者だぞ! 偶然、このビルに居合わせただけだ!」
そう、俺は善意の第三者だ。良く言えばパイプ役である。悪く言えば人質かもしれない。
静奈を呼び出した時だって、十分な配慮をしたんだ。
静奈に直接連絡を入れたら、彼女は上層部に掛け合って、自身を現場にねじ込まなければならなかった。だから、俺が人質だということを隠して警察に連絡。静奈を指名したのだ。
その方が、こうして滞りなく行くと思った。
静奈が担当してくれた方が、リュカたちにとってもいいだろうし。
「おまえ、身の丈に合わない正義感を振りかざしたろ?」
「え?」
「ビルから逃げだそうとしたヤクザにぜぇんぶ聞いた。バカをやらかしたね。悪いこっちゃないけど、捕まった時点で連絡入れろバーカ」
連絡したら『面倒なことしやがって』とか、怒るくせに。
「それに、このビルには近日ガサ入れする予定があったんだよ。ったく、それもパーだ」
そっちは知ったことではない。
そもそも、リュカたちが登場した時点で、ガサ入れも何もないと思う。
「ま、いいよ。その件については、家に帰ってから精算するとして――」
この一撃でチャラってことじゃないんですか?
結界から出たくないです。
「悪いね、待たせて。んじゃ、話を戻そうか」
「……は、はい」
若干引き気味のリュカ。
「あの、静奈さん」
「うん?」
「これだけは約束します。私たちは、こちらの世界にご迷惑をかけるつもりはありません。いや、この状況そのものが迷惑なのでしょう……。けど、不可抗力なんです。敵意がないことだけはわかってください」
「ん、了解。あたしたちも敵意はないからさ。まあ、国のシステム上ね、他国の人が突然現れたりすると、それなりの対応をしなくちゃならないもんでさ。なるべくなら話し合いで解決しよ。クラリティさんも、剣をしまっていいよ」
ハッとするクラリティ。慌てて双剣を鞘へと戻した。
「んじゃ、早速だけど、確認しておきたいことがあるんだ。いくつか質問させてもらってもいいかな? 事情は、ある程度聞いてるんだけどね」
「わかりました」
普段はクールぶっているのに、交渉となれば滑らかに言葉が出てくる。
嘘は通用しないし、誘導も上手い。気がつけば静奈のペースだ。
国内のポーカー大会で、心理学者や現役のCIAを負かしたのは伊達ではない。
「サクサクと答えてもらっていいから。……まず、この世界に来た理由を聞かせてもらおうかな」
「魔王を倒す旅をしていたらトラップに――」
リュカが質問に答えていく。
これまで晴樹に説明したような事情を、再度静奈にも話した。
「異世界から来たっていう証明はできる? あ、これでも十分なんだけどね」
コンコンと、結界をノックする静奈。
リュカは、掌へと炎を浮かべて見せた。
「すげ。どういう仕組みなの?」
「ええと……強力な魔法だと、精霊の力を借りたりとか……簡単なのであれば自分の魔力を使って、このように発動させることができます」
「ほうほう。――んじゃ、次。あたしたちに望むことは?」
「当面の生活の援助。あと、元の世界に戻る方法を探す協力をしていただきたいです。一刻も早く魔王を倒さねばならないので」
「元に戻る方法かぁ。……来た道を引き返すことはできないの?」
「はい……残念ながら……」
「そか。戻れるなら、それが一番なんだよね。たしかに。ちなみにヒントはないのかな? リュカさん、魔法使えるのなら、訓練次第で転移魔法が使えるようになるとか」
「すいません、存在はするのですが、転移魔法というのは、少し特殊なのです」
魔法というよりも儀式的なモノらしい。
転移専門の魔法使いが、複数人で呪文を唱え、ゲートを開くそうだ。
少なくとも、リュカたち勇者御一行(現地に残してきた仲間も含めて)では、転移の儀式が不可能だという。かろうじて、その複数人のひとりをリュカが務めることができるぐらい。
そもそも、別の次元に転移するという発想自体がない。
「なる。んじゃ、ラスト。これは晴樹に質問」
「へ?」
「あんたは、どういう立場でそこにいるの?」
「俺? まあ、協力者……かな? ほら、異世界から来たばかりで右も左もわかってなかったからさ。放っておけなくて――」
「晴樹さんには助けられました。すぐに異世界人だと理解してくれましたし、この国の文化も教えてくださいました」
「だな。晴樹がいなかったら、私たちは剣を持って外に飛び出していただろうし」
「うむ。褒めろ、姉貴」
「褒めるかバカ。……ん、よくわかった」
静奈は、ふむふむと頷いていた。
「今度は、こっちの応対についての話なんだけどね。実を言うと、情けない話が、上層部も混乱してるんだよね。なんせ、異世界人がやってくるなんて初めてのことだからさ」
「わかります。この度は、大変もうしわけございませんでした」
「いきなり包囲して、驚かせちゃってるし、イーブンだよ。……で、こっちの要求なんだけどさ。……武器を預けて、ビルから出てきてもらえないかな? 行動の制限はするけど、拘束はしない。話し合いが終われば武器も返すから」
「ええっと…………」
「それで一発解決なんだ。こちらの世界での生活は保証するよ。アルクリフに戻る方法も、一緒に考えよう。全面的に協力するため、譲歩して欲しいんだ」
リュカにとっては、認めがたいことだろう。
兵器レベルのアイテムを持っているし、身柄を預けるのは捕虜に等しいと思い込んでいる。
「できない相談だな。武器を預けるなど、命を預けると同義だ」
クラリティが言った。
「うちの国もさ、昔は『刀』って武器をぶら下げていたんだ。刀は魂も同然だったらしいよ。クラリティさんの言ってることはわかる。けど、こっちとしても、武器を持たせたまま歓迎するのは難しいんだ。どうにかならないかな?」
「無理だな。もっともなことを言っているが、保証がない」
クラリティがキッパリと言い切った。
リュカは肯定するかのように何も言わなかった。
「そっか、残念」
参ったな……と、言ったふうに表情を曇らせる静奈。
「あ、そうだ。じゃあ、せめて結界を解いてもらえないかな?」
「結界を解く……ですか?」
「未知のモノを見ると、警戒するのが人間の性だからね。心理的にも、遮蔽物があると打ち解けにくいしさ」
「そういうわけにもいかないだろう。お互いが信用できていないんだ。解除した瞬間、部隊を突入させるとか、そういうコトを考えているんじゃないか?」
クラリティが噛みつく。
「そっかぁ、うーん……じゃあ、こうしよう。結界を解除してくれたら、あたしが人質になるよ。そうすれば、警察も手出しできないだろ?」
「い、いや、そんなことをされてもだな……」
「……包囲の数も減らすよ? クラリティさんが言ったように、これは信用の問題だからね。不安なのはお互い様だし、少しずつでもいいから、歩み寄っていくべきだと思う。ちょっと時間はかかりそうだけど、武力で強引に勧めたくはないからさ」
「歩み寄り、か……」
「たしかに、折り合いは必要ですね」
……俺は、あまりいい気分ではなかった。
会話自体は、お互いの歩み寄りをテーマに勧められている。
けど、そのテーマの裏に、静奈のテクニックが見え隠れしているから。
最初に無理難題を提示して、断られたら要求のレベルを下げる。
クラリティが口にした『信用』というキーワードを掴み、掘り下げていくことで、断りにくくしている。
リュカたちが善人だと思ったからこそ『もうしわけない』と、思わせるような発言をしているのだろう。
俺は頭のいい方じゃない。心理学を学んだこともない。どこにでもいる普通の高校生だ。
けど、寒川静奈の弟なのである。
そういうテクニックを聞かされたこともあるし、俺に対しても使ってきたことはあった。だから、静奈の考えていることはわかる。
悪いことじゃない。彼女は、交渉人としての仕事を務めているだけだから。
武装解除して投降。それが最適解だろう。
静奈もそう思っているだろうし、俺だってそう思っている。
静奈が言葉巧みに、その方向へ持っていくことには、なんら不満はないはずだった。
――けど、投降後のことは『どうしようもない』という現実。
それを隠しているのが、俺には引っかかった。
静奈の仕事を邪魔するようで悪いが、横槍を入れさせてもらう。
「リュカたちが投降した場合、武器を返してもらう保証はあるのか? 結界を解除した場合、部隊が突入しないという保証はあるのか? 姉ちゃんに、それを決める権限があるのか?」
静奈は苦笑する。
「異世界とはいえ、相手は大国のお姫様だよ? これは外交問題なんだ。無碍に扱えるわけがないさ。すぐに投降できないこともわかってる。信頼を築いていく段階だしね。だから、結界を解除して、お互いの垣根を取り払おうってコト。姉ちゃんが人質になるから、それが保証だね」
俺が仕事に口を出していいわけがない。
静奈は平静を装っているが、俺に対する苛立ちはあると思う。
「いや、晴樹の言うことに一理あるな。結界は、我々の最後の砦だ。易々と解除しない方がいいと思う。もう少し慎重になってもいいかもしれない」
クラリティが、思案顔で意見を述べる。
「……しかし、静奈さんの言うように、対峙したままでは話は進みません。歩み寄りは必要ですし、ずっと籠城しているわけにもいきません」
「うーん。捕虜は嫌なんだよ? やっぱり怖いんだよ」
「しかし、晴樹さんはいい人ですよ?」
「はるきはいい人。きっと、しずなもいい人なんだよ。けど、しずなが『仲介役』なら、決定権は、もっと別の偉い人が持ってるんじゃないのかだよ?」
小さいのに、随分と達観した考えだと思った。
まあ、それだけの修羅場を潜り抜けてきたのだろう。
静奈は「うーん」と、唸ってしまった。
「チェルキーたんの言ってることはごもっとも。たしかに、あたしはすべてを決定するような権限は持ってない。あくまで仲介人だからね。けど、口は挟める立場なんだけどなぁ」
「信用していないわけじゃないです」
「わかってる。リュカさんたちが、慎重になるのは当然だよ。うん。別に、今すぐ決断して欲しいわけじゃないから」
「ありがとうございます」
リュカは、恭しく一礼をした。
「けど、あまりゆっくりはしていられないかな。個人所有のビルとはいえ、籠城されるのは、国も気分のいいものじゃないからね。時間が経つにつれ、国民の心証も悪くなると思うよ。それだけは、気をつけた方がいいかな。偉い人たちも、黙っていられなくなるし――」
さりげなく警告しているように、俺は感じた。
「――さて、お互いこの話は、持ち帰ってから考えるとして……。話は変わるんだけど……晴樹を結界の外に出してもらえないかな?」
俺は「は?」と、言ったが、考えてみれば、当然のことか。
リュカたちに敵意はないわけだし、人質を取る必要はない。
この国のことは、だいたいわかってもらえただろうし、俺が籠城をする理由もない。
「晴樹は民間人だからね。そっち側にいると『人質』と、捉えられかねないんだ」
「あ……。そう……ですよね」
リュカは、不安げに俺を一瞥した。
「……私は反対だ。迷惑かもしれないが、晴樹は一緒にいて欲しい」
クラリティが言った。
「はい?」と、困惑気味の一言を漏らす俺。
「ふむー。たしかに、はるきは必要なんだよ」
「なんでじゃい」
「安心できるからなんだよ」
チェルキーの意見に、クラリティは深く頷いて見せた。
「うん? うちの弟にもモテ期到来?」
「私たちは、こちらの世界のことを知らない。たくさん教えてもらったけど、それでも足りないぐらいだ。静奈の提案は、すぐに決められることじゃない。和解が済むまで、一緒にいてもらえると心強い」
「それなら、あたしが晴樹の代わりになるよ? 結界の中にいても仲介役はできるしね」
「悪いが、私はそれほどあんたを信用していない」
静奈は、気怠そうに後頭部を掻いた。
「民間人をビルの中に閉じ込めていくのはリュカさんたちにとってよくないかな。晴樹は、外に出した方がいいよ」
「……理解はできます。けど、私も本音を言わせてもらえば――」
リュカは続ける。
「……晴樹さんに、いてもらった方が嬉しいです。その方が安心できます。晴樹さんを介してなら、静奈さんのことも信用できるような気がするんです」
「どういう意味かな?」
「晴樹はいい奴だ。あんたが私たちを騙そうとしても、ちゃんと訂正してくれる。安心して交渉ができるんだ。私たちだってバカじゃない。あんたは中立の立場として、そこにいるかもしれないが、やはり警察側の人間だよ。晴樹こそ、中立の立場で話してくれているんだ」
三人で、国相手に交渉するのは不安もあるだろう。
彼女たちの立場になったら、俺だって現地の信用できる誰かに頼りたくなる。
俺が信用に値するかはともかく、だ。
「……晴樹ならわかるよね? あんたが結界の中にいたら、リュカさんたちの立場が悪くなるって――」
穏やかな問いかけだけど、静奈の考えていることはわかる。
『はい』と言わせて、穏便に俺を救い出したいのだ。
姉からすれば、弟が人質にされているなど、不安でならないのだと思う。
関わらせたくないのは当然。
――けど、俺は――。
「なぁ、姉ちゃん。事件が解決するまで、俺が結界の中にいちゃだめかな?」
「やめた方がいいかな」
「それでリュカたちが安心できるなら、悪い話じゃないと思う。交渉だって、スムーズに行くはずだ」
「晴樹が思っている以上に、リュカさんたちは強いと思うよ? あんたと歳は変わらないだろうけど、命懸けの戦いを経験してきたんだろうし。大事なのは精神的な支えじゃない。一刻も早く、元の世界に戻る方法を確立することが最優先なんじゃないかな?」
正論と思いやり。それらを織り交ぜた静奈の交渉は、反論の余地を与えない。
けど、俺は理解している。彼女にとって、言葉はツールだ。
静奈は犯人と警察、双方の最善をモットーに仕事をしている。
けど、その最善は、リュカたちにとって望むべき結果かどうかは疑問の余地がある。
結果に至るまでの経緯も、大事だと俺は思っている。
だから、もっと話をするべきだ。それには、俺がいた方がいい。
静奈には、すげー怒られるだろうけど。
「俺は、リュカたちさえよければ、一緒にいてやりたいと思う」
「中途半端な気持ちで関わらない方がいいよ。……晴樹の性格はわかってる。困ってる奴を放っておけないのは、姉ちゃんとしても誇らしい。けど、それは偽善だ。彼女たちのためにならない。身の丈に合わない善意は身を滅ぼすよ?」
「リュカたちの心の支えになってるなら、それでいいと思う」
「ほほう。自意識過剰すぎだね」
俺は、静奈の挑発を無視して、リュカに問いかける。
「おまえさえよければ頼ってくれてもいいぜ。っていっても、ビルの中でこっちの世界の話をしてやれるぐらいしかないけどな」
「えっと……」
困惑するリュカ。
「ありがとな、晴樹。私は、おまえが一緒にいてくれた方が心強い」
「ちぇるきーもなんだよ」
「――わ、私もです! 晴樹さんさえ、ご迷惑でなければ、もうしばらくの間、一緒にいてください。……必ず、双方の世界にとって、良い答えを出せると思いますから」
そう言ってもらえるのなら、何も迷うことはないと思った。
「ってなわけで、もう少しだけ、彼女たちと一緒にいるよ」
「……バカ」
静奈は、ボソリとつぶやいた。
「姉ちゃんの立場はわかってる。けど――」
「ストップ」
俺の言葉を遮る静奈。
「了解。こっちの条件は提示したし、晴樹がそっちにいるっていうのなら、まあ、仕方がないと思う。あたしの言うこと聞かないなんて、よっぽどだしね」
「……ごめん」
「いいよ。うん、ちょっと休憩しようか。あたしも現場に来たばっかりだしさ。頭を整理してくる。リュカさんたちも、さっきの話、考えてみて。結界だけでも解いてくれると話しやすいかな」
「……そう、ですね。わかりました。私たちの方でも、いろいろと話しあってみます。ふふ、一番は、こうしている間に元の世界へ戻れたらいいのですけどね」
「同感す。――んで、申し訳ないんだけど、少しだけ晴樹と二人で話ををさせてもらえないかな?」