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最終話・中編 命懸けの脅迫

 さらに数日後。

 アメリカ。バージニア州。CIA本部。


 カーライルは長官室に呼び出されていた。

 静かな空間で、彼は長官と二人きりで対峙する。


「失態、だったな」

「返す言葉もありません」

 カーライルの鼻には大きなガーゼが当てられていた。

 晴樹にくらわされた一撃のせいだ。


「おまえには期待していた。だからこそ、多くの政治家に協力してもらった」

「はい」

「意味がわかるか?」

「長官が、厄介な借りを大勢に作った、ということです」

 痛手は、それだけに留まらないだろう。

 軍隊を動かしたのだ。莫大な金も動いた。日本の心証も悪くした。


「どう責任を取る?」

 カーライルは落ち着いて答える。

「仕事の借りは仕事で返します。次こそは、必ずや期待に応えてご覧に入れます」

 もっとも、それで済む問題ではないのはわかっている。けど、そう言うしかなかった。


「次が、あると思うか?」

 カーライルは、冷静な表情で黙っていた。

 長官は、椅子から立ち上がると、カーライルに顔を近づける。

 熱すらも感じられるほど近くまで。

 おそらく、カーライルを殺したくて仕方がないのだろう。


「…………長官は、悪さをしたことがありますか?」

「……なんだ?」

「例えばです、二十七年前に殺さなくてもいい犯人を殺したりとか……二十五年前に非協力的な民間人を無実の罪で刑務所へぶちこんだりとか……。息子さんが、車で人を撥ねたのを揉み消したりとか……」

「何を言っている?」


 こうなるだろうと思って、カーライルは長官の弱みを調べ上げた。

 結果、かなりの狸だった。

 ならば、こういう交渉の仕方も悪くはないだろう。


「長官。……僕は使えますよ。失態は受け入れます、が、チャンスをください。その方がお互いのためだと思いますが?」

「私を脅す、か?」

「いえ、ただの世間話。そして、自己アピールです」


 次の瞬間、長官の拳が、カーライルの腹へと叩き込まれる。

「ごふッ!」


 蹲るカーライル。

 長官は、踏みつけるような蹴りを何度もくらわせた。淡々と。

「調子に乗るなよ、カーライル。脅す相手を間違えているんじゃないか? この場で始末しても構わんのだぞ」

「は、はは……それは困りました。僕が死ぬと、長官の悪事が世間に出回ることになっていますから……」

 三時間以内に自宅のパソコンに戻って、プログラムを解除しないと、不祥事の証拠を添付したメールが送信されるようになっている。


「だからなんだ? ――あまり大人を舐めるなよ」

「がっはッ!」

 さらに、強烈な蹴りをお見舞いする長官。

 カーライルは大の字になって天井を仰いだ。


「ぼ、僕を消そうとすれば……」

「安心しろ、おまえは消さん。クビにもしない」

「は、はは……?」

「言っておくが、弱みを握っているからじゃない。いろいろと知りすぎているからだ」


 カーライルもCIAの端くれだ。多くの情報を握っている。

 クビにすれば、カーライルがどう動くかわからない。

 ギャングにでも転職されたら、困るのはCIAの方だ。

 ならば、殺せばいいだけなのだろうが――。


「寒川静奈に救われたな」


 異世界人との和睦は、カーライルの手柄となった。

 おかげで、日本国内では持ち上げられている。今回の件で、日本の政治家に多くの借りを作ったが、世間的には貢献できたことになっていた。

 そんな英雄をクビにすることなどできるわけない。


「家族にも感謝するんだな」

「か、家族……?」

「そう。おまえの大嫌いな家族だ。殺すなと言ってきた」

「まさか……。あの悪党共が、僕を助けるなど……」

「おまえはクソだが、ファミリーは偉大だったようだ」


 ――何を考えている。

 家族は、カーライルのことを奴隷扱いしてきた。

 足手纏いは切り捨てるはずだ。

 長官に貸しを作ってまで、命を助けるなどありえないとカーライルは思った。


「出来損ないのおまえでも、血が繋がっている以上、かわいいのかもな。皮肉にもおまえは、見下していたファミリーに助けられたわけだ」

「ふ、ふざけるな……ッ! なぜ、あの家族に助けられなければ――」


「知らん」

 グシャリと、カーライルの顔面を踏みつける長官。


「床、綺麗にしておけよ。しばらくは雑用係だ」

 それだけ言うと、長官は部屋から出て行った。


 鼻血を床にぶちまけながら、カーライルは喚く。

「くくっ、くくくっ……うははははぁッ! くそッ! クソッ! 寒川静奈め! この僕に二度も恥を掻かせやがって! 絶対に! 絶対に許さんぞぉおおおぉッ!」

 ――そして、神山晴樹。凡人の分際で、この僕に刃向かいやがって!


「おぉおおぉぉおおおおおおおおぉおおぉおおぉおおおぉぉぉおおおぉぉぉぉぉおおぉぉぉおおおぉぉぉぉぉぉぉぉお!」


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