表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/54

最終話・前編 あたし、クビかもしんない

 数日後。

 駆府市。商店街にある焼肉屋。蛇寿苑。

 いい肉をリーズナブルな価格で提供してくれるこぢんまりとした店舗。

 本来なら、曜日的に休みのハズなのだが、満席状態であった。


 奥の席にいるのは寒川静奈。そして、向かい合っているのは遠山議員である。


「遠山さん。美味いっしょ? ここの肉」

「美味いな。けど、もっと高い店でも良かったんだぞ? 私の奢りなのだから」

「だ、そうだ」と、静奈は肉を頬張りながら言う。


「「「遠山議員、ゴチになりまーす!」」」

 政治家相手にノリが軽すぎるだろう。 

 他のテーブルにいた静奈の部下たちが、一斉に声をあげた。

 本日は静奈組の貸し切りだ。


「一応、非公式だからな」

「わかってますよ。みんな、口は硬いから大丈夫です」

 肉を焼いて、遠山議員の皿へモリモリ盛りつけていく静奈。


「それで、事件の方はどうなった?」

「概ね、晴樹の描いた絵図のとおりですよ」


 カーライルは条件を飲まざるをえなかった。

 県警と連携して捜索をすれば、リュカたちを見つけることはできたかもしれない。

 だが、彼女の結界は、どこでも籠城を可能にする。


 超巨大なショッピングモールになどを拠点にされたら、年単位の籠城だって可能になる。

 農村などでも可能なのだ。

 長々と日本に居座ることのできない彼にとって、包囲を突破されたのは致命的だった。

 争えば争うほど、カーライルは立場を悪くする。実質、条件を飲んで損切りするのがベストだったのだろう。


「明日、カーライルが記者会見をします。それで仕舞いです」

 

 日本の反カーライル派は、これ以上アメリカの好きにはさせまいと、遠山議員を中心に、リュカたちの保護を進めてくれた。異世界人と友好関係を築いた方が、利があると他の権力者たちを説得した。

 カーライル派も、これ以上は無駄な抵抗だと思ったのか、一斉に手を引いた。

 カーライルの失態に関与したくなかったのだろう。

 もちろん、これら一連の交渉は水面下での出来事である


「たいしたものだな。君の弟は」

「でしょ? CIAぶん殴ったんです。大物になりますよ」


 今回の手柄は、カーライルにくれてやった。世間的には、彼が事件を解決したことになっている。そうすることで、彼は祖国に戻っても、表面上は面子を保てるハズだ。

 異世界人ビルジャック事件は、異世界人と有効的な関係を築く形で、幕を閉じることになる。


「……よく、やってくれたと思う。静奈じゃなかったら、異世界外交の権利はアメリカに奪われていただろう。リュカさんたちも大変なことになっていた」

「っすね。ここにいるメンバーのおかげっすけど」

 静奈は、そっと視線を仲間たちに向ける。


「それだけじゃない。異世界との戦争にもなっていたかもしれない。……カーライルは無茶なことをしすぎた」

「はは。あまり政治のことを話されても、あたしはわからないですよ」

「む、そうか? ――っと、店員さん、特上ロースを追加で。あと、網も替えてもらえるか」

「はい、喜んで!」

「ん、有馬。あとユッケも」

「お任せください!」


 有馬が、嬉しそうに厨房へと向かっていく。

「……彼女、店員じゃなかったのかね?」

「有馬っすよ。ほら、あたしの右腕の」

 静奈の世話をしたいのか、ウェイトレスに従事しているらしい。

「なんと! 挨拶してこよう。錬太郎が普段から世話になっている」

 そう言って、遠山議員は席を立った。


 明日の記者会見が終われば、リュカたちも姿を見せるだろう。

 そうしたら、元の世界に戻るための調査が開始。

 しばらくは、日本に滞在することになると思う。

 

 厨房の方で、有馬の声が聞こえてくる。

「ええッ! あの全裸ブロッコリーのお父さんだったんですか? ととと遠山議員?」

 おまえは、今の今まで誰の接待をしていたつもりなんだと問い詰めたい。

「ぜ、全裸ぶろっこりぃ?」

「いったいどういう教育をしてるんですか! 性癖は人それぞれだと思いますけど、人前でブロッコリーをさらけ出すのはちょっとどうかと思いますよ?」

 ブロッコリーをさらけ出すのはいい。

 さらけ出してダメなのは、ブロッコリーの向こう側にあったブツだ。


 誰もが肉をむさぼるのに夢中で、有馬の自殺的な説教を止める奴がいない。

「…………あたし、クビかなぁ…………」

 厨房の方を空虚な瞳で眺めながら、静奈はもやしナムルを頬張った。


「あの、寒川警部、ビールをお持ちしました……」

 突如として、ミイラ男が話しかけてくる。

「……誰?」

「……遠山錬太郎です……」

「……………………………………………………………………いたんだ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ