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四話 あ、キャンセルで!

「静奈さん、到着しましたよ」

 衣思馬街のフォルトナビル。

 大きな道路は、普段なら結構な交通量なのだが、大層なことに完全封鎖。

 フォルトナビルを大勢の警察官と機動隊が取り囲んでいた。


 安全を配慮して周囲の建物からも人を追い出した。

 警官たちが忙しく動き回っており、すでに休憩、会議などのためのテントがいくつか用意されている。


 異端な現象ゆえに、何が起こるかわからない。

 未知に対して警戒を怠らないのは、静奈にとって好印象だった。


 フォルトナビルの高さは七階建て。大きな道路に面した好条件なオフィスビル。建物内も広い。しかし、古くてエレベーターがないのと、ヤクザが事務所を構えたという理由で、テナントが入らなくなったとか。


 静奈は、ビルを見上げてつぶやいた。

「……マジか」

 本当に『結界』というモノが存在したことに驚かされる。

 車の中で、有馬から報告は聞いた。

 最初は、意地悪な上司に有馬が騙されているのだと思った。

 けど、それは事実だった。

 実物を見て、なんだか夢の中にでもいるような感覚にとらわれる静奈。


「指揮官は?」

「静奈さんです」

「あたし?」

「はい! こんな難事件を扱えるのは、駆府市警でも静奈さんぐらいのものです! 私が推薦しておきましたし、署長も、ぜひ静奈さんにやってもらいたいとおっしゃっていました」

 有馬は、グッと親指を立てる。

 うん、気持ちの悪い事件だから、誰も責任ある立場になりたくなかったのだろう。


「突入部隊の隊長は?」

「私です。――ふふふ、この有馬音羽。静奈さんのためなら、例え火の中海の中、いかなる困難をも打ち砕いてご覧に入れます。なんなりと命じてください」

 有馬は、嬉しそうに言った。


「頼もしいっす。……んで、あたしのもうひとりの相棒は?」

「錬太郎くんですか? 二日ぐらい前から連絡がつきませんけど?」

「何やってんだ、あいつ……」


「とりあえず、本部に向かいますか? それとも交渉を始めますか?」

「いや、その前に確認しときたいことがある」

「……結界、ですか?」

「ああ」

「では、こちらへ」


 二人は、フォルトナビルに併設されている仮設テントへと足を運んだ。

 中には、数人の機動隊員。周囲には工具や武器が散らばっていた。


 静奈たちの登場に、隊員は背筋を伸ばして敬礼をする。

「お疲れ様です!」

「お疲れ。……で、何をやってんの?」


 静奈の問いに、有馬が答える。

「結界の強度を調べさせています」

 荒々しいことをしているゆえ、テントで隠している。

 近隣住民は退去させたが、マスコミなどが、嗅ぎつけてくる可能性があるから。


 有馬が、部下に向かって「お願いします」と、言った。

 隊員が、特殊警棒を、透明な魔法の壁へと全力で叩きつける。

 ガギンと、鈍い金属音が響き渡った。

「静奈さん、ご覧のとおりです」

「ふむ……」


 微動だにしていない。傷らしい傷も付いていない。

 さすってみるが、正面はつるつる。一見して強化ガラスのようである。


 特殊警棒は、決してヤワな武器ではない。素人が使っても、相手の骨を余裕綽々とへし折るほどの威力を誇っている。

 それが、鍛え上げられた隊員の力で叩きつけられ、くの字にへこんでしまっていた。


「刃物や電気ドリル、硫酸などの化学物質も試してみたんですが……破壊することは不可能でした」

「地下は?」

「たしかにマンホールから結界の内側に入るルートもあるのですが、そこにも結界コレがありました。ちなみに、地面も掘ってみたんですが、やはり結界が……」

「ふーん。よくできた魔法だね。……ちょっと、借りるよ?」


 静奈は、隊員の腰のホルスターから、拳銃を引き抜いた。

 静奈は、涼しげな表情のまま、ノータイムで引き金を引く。

 

 一回、二回、三回と。やや、撃ち下ろし気味に。

 隊員たちがビクリと身体を震わせた。

 やはりというか、当然というか、弾丸は結界に跳ね返されて、アスファルトの大地へと埋まってしまう。


「拳銃でも無理か……」

 いきなりのアクションに、隊員たちは若干の狼狽を見せていた。

 テントの外からも、どよめきが聞こえてくる。


「そのようですね。……しかし、ご安心ください。昔のコネを使って、バズーカやロケットランチャー、さらには戦車を手配してますから!」

「戦車はマズくないかな? 戦争するわけじゃないし、向こうも警戒するから」

「なるほど、たしかに……!」

 有馬は、スマホを取り出してメールを打ち始める。

「戦車は、キャンセルで……っと」

 このバカは、本当に手配していたらしい。しかも、メールで。


「さてと、そんじゃ異世界人とやらに会いに行ってきますか」

 高校生を人質に、フォルトナビルへと籠城した異世界人――。


 目的はわからない。どうやってこの世界へやってきたのかもわからない。

 ネットの都市伝説専門サイトにも掲載できないぐらい馬鹿げた事件だが、現実として、結界という奇跡が目の前にある。


 異世界人とやらの事情は間接的に聞いた。

 その上で、要求は『寒川静奈を交渉人に』だけ。

 人質の高校生に言わせたらしい。


 ――さて、なにゆえ静奈を名指しで指名したのか。


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