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四十二話 殴ってから話し合いを始めようとする奴いるよね

 戦いが始まった。もう、あとには引けない。

 交渉に繋げるための戦。攻め時も引き際も晴樹に告げられた。そして、全員が同意した。

 最善へと繋げる唯一の手段。やりきる以外に選択肢はない。


 フォルトナビル一階。

 総勢五百もの兵士を、最初に迎えるのはシエルであった。

 半年もの旅を続け、修羅場は幾度となく潜り抜けてきたが、これほどまでに緊張した戦いはないだろう。

 すべてが未知。ありえないことがありえる世界での戦いだ。


 シエルは、緊張を感じると笑う。額に汗を滲ませながらも笑う。

 体質ではなく、そうすべきだと思っているから。

 自分は緊張すると動けなくなるから。

 笑って、スリルを楽しむぐらいの余裕を持ち、肩の力を抜いた方がいいと知っているから。


「ふっ、ふふっ。さあ! さあさあ! こっちであります!」

 シエルの役目は分断と誘導。

 数で圧倒されたら勝ち目はない。

 各階に控えてくれている仲間たちのもとへ、少しでも数を減らしながら送り込まなければならない。


 正面玄関でトラップが爆発したあと、シエルはあえて連中に姿を見せる。

「追え! あのターゲットは撃ち殺しても構わん!」

 弾丸を撃ち散らしながら、軍人たちが追いかけてくる。


 廊下には、ところどころに、布団を詰めたドラム缶や段ボールを配置。

 遮蔽物にして、弾丸を防ぐ。

「ひぃぃ! 死んじゃうであります!」

 背後を意識しながら、適度な距離を保ちつつ、逃げるシエル。


「わわっ!」

 顔のすぐそばを、黒いフルーツのようなものが横切った。たしか、手榴弾とかいうものである。目の前のドラム缶に跳ね返って足元に転がる。


「こ、こここ、これはッ? れれれ冷静にッ!」

サッカー選手のように、爪先と踵で挟んで宙に浮かす。

 ギュルリと身体を捻って、蹴り飛ばした。

 天井や段ボールに跳ね返って、床へと転がる。

 すぐさま爆発した。


「き、危機一髪なのであります、って、えええぇええぇぇ!」

 爆煙の中から、弾丸が容赦なく飛んでくる。

 素早くドラム缶の影へと隠れるシエル。


「は、はは……も、もの凄い連射性能なのであります。出られないのであります」

 さてどうしようかと困っていたら、反対側の段ボールの影から声が聞こえてきた。

『俺たちに任せろ!』『シエルの姉御は、私たちが守るわよ!』『みんな、盾になれ!』

「み、みんなっ!」

 チェルキーのぬいぐるみたちだ。


 それらが勢いよく飛び出す。次々と、弾丸に撃ち抜かれていく。

「くぅ! みんなの思いは無駄にはしないであります!」

 その隙に飛び出し、走り出すシエル。


「二班、三班! 手前の階段から回り込め!」


 フォルトナビルは、入り口近くと、廊下の奥の二カ所に階段が設けられている。


 一部の軍人が、入り口近くの階段を使って上っていく。

 挟み撃ちにするつもりだろうが、そうはいかない。

 踊り場の辺りで爆発。黄色い閃光が彼らを勢いよく吹っ飛ばした。


 ライムグレネードを使ったトラップだ。魔力に呼応して発動するスタングレネードである。しばらくの間。意識を失わせることができる。


 トラップを作動させているのはアクセリオン。

 彼女は上の階で待機し、ビル全体の壁や床に見えない糸を張り巡らせている。

 蜘蛛が、巣の振動によって獲物の位置を把握するのと同じで、アクセリオンはビルのどこに敵がいるのかわかっている。糸を伝って、各トラップに魔力を流し、作動させている。


 一階の入り口近くの階段には、この手のトラップが大量に仕掛けられている。

 そう簡単には上れない。上れたとしても時間がかかる。ルートは限定されている。


 さらにいえば、結界も解除したように思えるが、実際には別の結界が用意してある。

 すべての階層の窓という窓に、だ。

 侵入できるのは屋上と正面玄関のみとなっている。


「よし! で、あります!」

 階段で二階へ。さらに三階へ。

 追いかけてくる敵兵。結構な人数を引きつける。


 息を切らせながら、階段を駆け上がる。

「はぁっ、はッ!」

 ――捕まったら終わり。

 その現実が、シエルの脳裏によぎる。


 相手はカーライルだ。もし、シエルが捕まれば、人質にされる

 リュカや晴樹は、シエルのために投降してしまうだろう。


 それを危ぶんで、晴樹には事前に伝えていた。


『もし、自分がヘマをしたら、見殺しにしてほしいであります』と。


 彼なら、シエルの思いを理解してくれるだろう。

 そう、思っていた。

 けど、晴樹は――。

『絶対ダメだ。絶対に見殺しにはしない』と、一蹴したのであった。


 ならばとシエルは『じゃあ、自害するであります』と、決意を込めて言った。

『じゃあ、この計画はやめだ』と、言われた。


 誰一人欠けることなく、このミッションを成功させる。

 誰かの不幸の上に、成功は成り立たない。

 それが、晴樹の考えだった。


 リュカと同じ考え方だと思った。


 それは、よりシエルを追い詰める。緊張させる。

 万が一の失敗も許されない。死ぬことすら許されない。作戦を成功させる以外はない。

 やり遂げるしかないのだ。

 そう思うと、徐々に口の端が吊り上がる。


 三階に来ると、廊下を疾駆する。

 待っていたのはクラリティだ。

 魔王討伐隊の中で、もっとも頼りになる仲間である。


「ご苦労だったな。半分は受け持つぞ」

「よろしく頼むであります!」

 パシッと、お互いの掌を合わせる。


 クラリティが双剣を抜く。彼の剣技は、控えめに言ってもガーバングラフのトップ。

 もしかしたら世界アルクリフ1かもしれない。


「見つけたぞ。二人目だ!」

 容赦なく放たれる弾丸。クラリティが双剣を振るう。

 すると、それらは弾かれるか、あるいは両断されてしまう。


「う、嘘だろ……」

「驚くことじゃない。銃口を見れば、どこを狙っているかは明白なんだから」


 シエルが階段へ駆け上がるのを確認すると、クラリティは広い空き部屋へと移動した。

「部屋に入ったぞ! 四班! 五班! 追い詰めろ! あとは、帽子の女を追いかけろ!」






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