表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/54

四十話 このあとめちゃくちゃダウトした

『日本の皆さん、こんばんは。CIAのカーライル・ブラックヒルです。本日付で寒川静奈から、指揮権を引き継ぎました。アメリカ人の僕が、日本の事件に関与することに不満を抱く方もおられるでしょう。ですが、今回の事件は、日本だけでなく世界の問題だと思っています。日本だけに責任を負わせるわけにはいきません』


『しかし、前任の寒川静奈警部も十分な働きをしていたと思いますが……?』

『彼女は冷静ではありませんでした。身内が、テロリストに協力――おっと、失礼。身内が、異世界人に協力しているせいか、慎重な決断しかできなかったのです。断っておきますが、彼女は非常に優秀な人間ですよ? 僕も、一度ポーカーの大会でやられましたしね。はは』


『あなたなら、すぐにでも解決できると?』

『もちろんです。異世界人と交渉しましたが、明日にでも投降するという話になっています』

『おお、素晴らしい!』


『けど、油断はできません。異世界人たちは武器を所持しています。魔法も使えます。結界に苦戦させられたのも事実ですから』

『ならば、戦闘になる可能性も……?』

『こちらから仕掛けることは絶対にありません。ですが、向こうがその気なら、武力を持って迎え撃つのもやむをえないでしょう』

 カーライルは、カメラの向こう側に向かって不敵な笑みを浮かべた。

 それは、俺たちにたいしての脅しのようにも思えた――。


 夜。俺たちは、作業の合間を縫って、食事を取りながらテレビを眺めていた。

「くっ、勝手なことを言っている」

「落ち着いてください、クラリティ様。言わせておけばいいのですわ」


 演説では、戦闘の可能性も匂わせていた。

 事実、ビルから見下ろせば、警官や軍人の数が増えている。


「……みんな、準備の方は?」

「仕掛けは万全なのであります!」

 シエルは、グッと親指を立てる。


「わたくしの方は、まだ……。しかし、朝までには必ず仕上げて見せますわ」

「本当だったら、もっと準備に時間をかけたかったんだがな」


「私は大丈夫だ。勘は十分取り戻した。例え相手が有馬であろうと遅れは取らない」

「晴樹さんの方は?」

「問題ない。思ったよりもチェルキーの飲み込みが早かった」

「えっへん。ちぇるきーは極めたんだよ」

 ない胸を張るチェルキー。


「よし、じゃあ、このあとは予定通り動画を撮影するか」



「カーライル、少しいいでしょうか?」

「どうしたエレノア。君もサボリかい?」


 夜。対策本部トラックから少し離れた休憩用のテント。

 カーライルは、静奈を相手にトランプゲームのダウトを楽しんでいた。

 全てのカードを使うと、相手の手札が分かってしまうため、シャッフルして半分だけを使っている。


 お互いが、相手の鼻っ柱をへし折ってやりたいからか、かれこれ一時間は続いていた。

 完全に相手の嘘を見抜いてやろうと、少しのミスも許されない状況になっている。

 騙す側も必死だ。顎に触れてみたり、耳を弄ってみたりとフェイクの反応をさりげなく差し込んでくる。

 二人とも、冷静な表情で、余裕タップリに振る舞いながらも、ほのかに汗が滲み出ていた。


「君もやるかい?」

「二匹の猛獣の檻に、兎が入れると思いますか?」


「お、カーライル。勝てそうにないからって、部下を仲間に引き込む気かな?」

「そんなつもりはないよ。……少し休憩しようか。エレノアの話を聞きたいんだ」

「敗北を認めるなら、少しとは言わずタップリ休憩するといいよ」

「オーケー。このままだ」

 ゲームを続けたまま、エレノアの報告を聞くことになるカーライル。


「で? どうした、エレノア」

「異世界人が動画をアップしました」

「動画?」


 エレノアは、近くにあったノートパソコンを持ってきて、動画サイトを開いた。

 ゲームをしながら、動画を見る静奈とカーライル。

 当然、集中力を途切れさせることはない。


 画面に映るのは、パイプ椅子に座った異世界人五人。

 撮影しているのは晴樹だろうか。


『皆様。初めまして。異世界から来たリュカトリアス・ライエットと申します』

 自己紹介が始まる。続いて、自分たちの世界のこと。置かれている境遇のことを語る。

『私たちが来たのは、十日前のことでした――』

 ヤクザの事務所に転移したこと。襲われそうになったので撃退したこと。

 そのせいで、大事になってしまい、ビルに立て籠もってしまったこと。

 捕虜という立場を恐れて、投降できなかったことを説明する。


『この動画は、神山晴樹さんという方に撮影してもらっています。彼は、最初から最後まで、中立な立場で、私たちと接してくださいました。投降を勧められたこともあります。双方の世界の橋渡しになるため、必死になってくれました。寒川静奈さんも同じです。立場を省みず、日本とガーバングラフのために動いてくださいました。……もし、彼らがいなかったら……警察の方々とは、もっと険悪な関係になっていたと思います』


「だ、と、さ?」

 ドヤ顔でふんぞり返る静奈。

「僕のことは、褒めてくれないんだね。悲しいよ。あ、それダウト」

「ち」


『カーライルさんから発表があったと思いますが……私たちは、明日、投降します。ですが、正直、不安でいっぱいです。戦争が日常の私たちの国では、捕虜となることは非常に恐ろしいことなのです。なので、この動画を見ている皆さんにお願いがあります。――どうか、私たちのことを見届けてください。ちゃんとした扱いが受けられるのか、人権が保証されるのか――』


 晴樹の入れ知恵か。いや、一国の姫なら、この程度の処世術は思いつくか。

 世論を巻き込んで、リュカたちの処遇を見張らせようとしている。

 酷い扱いをすれば、カーライルが批判を受ける。

 まあ、それなら、酷い扱いをしても批判されないだけの、大義名分を用意すればいいだけだが。


『カーライルさんは、私たち全員の安全を約束してくださいました。武器も返してくださると約束してくださいました。すぐ、自由にしてくれるとも。ガーバングラフのことも考えてくださって、嬉しかったです』


「あんたのことも褒めてるよ」

「……褒めてないよ。虚仮にされてる」

 褒めているわけでも媚びているわけでもない。

 そんな約束はしていないのだから。


 動画を見た者は、リュカの言っていることを真実だと思うだろう。

 表情は至極真面目。信頼を得やすい顔とルックスだ。言葉遣いにも芯がある。姫だけあって演説慣れしている。どう見ても、カーライルの方が胡散臭い。


『こちらの世界の方々は心が温かいです。だから、投降を決心しました。自由になって、みんなと触れあいたいと思いました。だから、どうか、私たちのことをよろしくお願いします』

 最後に、五人が一礼。そこで、動画は終わっている。


「……胸クソの悪くなる動画だね」

「様々な動画サイトにアップされています。拡散してますし、テレビ局も食いついてますね。削除させますか?」

「いいよ。消したところで、何度でもアップされる」

「だね。はい、それダウト」

「へぇ。よく気づいたね」


「放っておいてよろしいのですか?」

「うちは諜報機関だよ。噂を流す側だ。いざとなったら、コスプレしたそっくりさん五人の悪戯ってコトにすればいい、だろ?」


 この動画になんの意味もない。

 高校生と異世界のサルが、苦肉の策で、思いつくことを片っ端からやっているにすぎない。


 夜が明ければ、異世界人とのゲームは終了だ。

 それよりも、静奈とのゲームの方がよっぽど神経が磨り減ると思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ