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三十九話 おまえ、投稿しない気満々だろ

 ――てんとんしゃららん、とんしゃららん。

「あたしのスマホ、鳴ってるよ」

 手に取って、画面を眺めるカーライル。

「おやぁ、親愛なる晴樹くんからだ」


 カーライルが合図をした。

 すると、監視の連中が静奈にマスクを付け、その上から手で塞いだ。

 抵抗しても無駄なので、静奈は素直に受け入れることにした。


 カーライルは、静奈にも聞こえるよう、スピーカーのボタンを押した。

「やあ、晴樹くん。どうしたんだい?」

『カーライルか』

 電話の相手がカーライルだというコトに驚かないらしい。

 晴樹も、状況を理解しているようだ。


『あんたと交渉がしたい』

「交渉の余地はないと思うけどね」

『聞けよ。何も聞かずに終わらせるほど、あんたも無能じゃないだろ』

「ふむ……。まあ、話だけでも聞いてあげよう」


『リュカたちは、三人を投降させる気でいる』

「ああ、そう。で?」

『そっちの目的は、異世界側の技術だろう。三人のうち二人が協力すると言っている。対価として、残りの一名には、異世界に戻る方法を探させて欲しい。協力してやってくれ』

「へぇ」

 楽しげに、静奈の様子を窺ってくるカーライル。


「さっきまで、威勢良く吠えていたのに、早速意見を変えるのかな? 僕を信用しないんじゃなかったのかな?」

『……現実を見れば、少しは頭も冷える。それに、屈するわけじゃない。交渉してるんだ』


 リュカとチェルキーの二名をフォルトナビルに残す。結界を張り巡らせ、生活を保障する。

 クラリティとアクセリオンが、研究への協力をする。

 シエルが、元の世界に戻る方法を探す。


「僕がそれを飲む必要があるのかな? 普通に制圧すればいいだけの話じゃないか」

『追い詰められたら、リュカたちだって抵抗するかもしれない。お互い、怪我人の出ないうちに妥協するのもアリだと思わないか? ……あんただって、家族はいるだろ。人間の血が通っているのなら、少しぐらい譲歩してやってくれ』


 ――何を企んでいるのか。と、静奈は思った。

 妥協案を提示している割には、言葉の節々から『挑発』が感じられる。


「条件を飲むとして……僕を信用できるのかな?」

『……こっちは必死だ』


 避けれない現実を前に、リュカたちは絶望している。

 降伏が確定しているのなら、あとは、どれだけダメージを抑えるかだと晴樹は言った。


『ある程度なら、リュカたちも譲歩すると言っている』

「僕を信用すると?」

『信用はしていない。だが、温情に縋るしか、リュカたちには残されていない』

「それなら、まずは誠意じゃないかな?」

『誠意?』


「最大限の温情を期待したいのなら、明日の朝八時。結界を解除し、全員で投降するんだ。その後、お姫様たちをビルに戻し、約束を履行しよう」

『それは……。……保証のない降伏を彼女たちは嫌っている』

「けど、それが誠意というモノじゃないかな? 相手を信じる気持ちがなければ、誠意も何もない。立場は明確だ。弱い者が誠意を見せてこそ、強い者は慈悲で応じるものだよ」

『……相談してみる』


「明日の八時だ。リアクションがなければ、僕の心証を悪くすることになる。二度と交渉の機会はないと思った方がいい」

『……わかった。だが、もし明日の八時までにリュカたちを説得して、外に出したら――』

「情状酌量は期待していい。君たちにとっての最善だね」

 ――言って、通信を終わらせた。


 カーライルは、嬉しそうな笑みを浮かべて問うてくる。

「さて、静奈。晴樹くんは、どうやら戦うことを選んだようだね」


 声に脅えがない。さらに言えば迷いがない、と、静奈は思った。

 カーライルの要求にも動じることがなかった。

 計画や覚悟があっての会話だと思われる。

 籠城する気も、投降する気もないらしい。


 カーライルも心理読みのスペシャリスト。

 静奈が感じたことは、彼も感じていただろう。

 

「エレノア」

 名前を呼ぶと、テントの外から、ブロンド美人がサッと入ってくる。

「はい」

「明日の午前――」

「会話は聞いていました」

「話が早くて助かる。ジャギアと連携して、包囲の数を増やせ」

「わかりました」

「マスコミの用意をもお願いするよ。なんて言ったって、僕は世界一有名な諜報員だからね」

「手配します」


「あとは、有馬音羽にも働いてもらおうか。彼女、マヌケだけど、戦闘員としては恐ろしいほど優秀だからね」



「フー……」

 俺は、スマホから耳を離すと、背もたれに身体を預けて天井を見上げた。

 カーライルとの会話は、気持ちのいいものではない。

 燃えさかる火炎の中で会話をしているかのようだ。


「お疲れ様です」

 リュカが、冷たい紅茶を持ってきてくれた。

 俺は、火照った身体へと染みこませるよう、一気に飲み干す。


「……たぶん、向こうも気づいてるだろうな」

 ついさっき、俺はあいつに中指を立てたのだ。

 それが一変。投降を進言するなど、普通ならありえない。

 何かあると警戒されてもおかしくない。


 まあ、別にバレても問題なかった。

 必要なのはきっかけだ。これで十分だと思う。


「さて、リミットは明日の朝八時だ。休憩している暇はない。みんなは?」

「リオンは問題ないそうです。明日までには、必ず完成させる、と。シエルも工作を始めています。クラリティは、鈍った身体を動かしてます」

「わかった。それじゃあ、リュカは原稿の用意と、撮影の準備を頼む」

「はい」

「俺は、チェルキーに演技を教えてくるから」


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