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十九話 勝ち勝ち馬

 ――アメリカ。バージニア州。

 カーライルは、とあるホテルのレストランに来ていた。


「日本政府に圧力か……。相変わらず大胆なことを考えるな、カーライル」

「僕がやらなければ、誰かがやっていた……違いますか?」

「どうだろうな。あまりに露骨すぎる。日本は、いい気はしないだろう。私もいい気はしていない。許可なく動き回りおって――」

「けど、それだけの価値がある。でしょう?」


 席を供にするのは、CIAの長官だ。

 異世界人ビルジャック事件に関与するため、カーライルは早速動いていた。


「長官は、ジャギア・ハウンドロウを御存知ですか?」

「軍人一族の?」

「ええ。彼の伝手でパーティに招待してもらいました。政治家やCEO、投資家に警察、軍関係者が多く集まるね。異世界人の話をしたところ、何人かが食いついてくれました」


「で、私にも、協力しろというわけか。……それにしても、安いレストランを選んだな」

 針のように鋭い眼光をカーライルに向ける。


「気に入りませんでしたか? 月に一度は、奥さんと一緒に、ここで食事をすると聞いたことがあったもので」

 カーライルは、わざとらしく笑った。


「妻ではない。愛人だ」

「それは、大変失礼しました」

 恭しく謝罪するカーライル。

 けど、愛人だと知って、カーライルはわざと間違えた。長官も嫌味だと承知だろう。

 喧嘩を売るつもりはないが、自分は結構物知りだぞと、アピールのつもりで、このレストランを選んだのだから。


「…………異世界人の件に関しては、おまえの言うとおりだ。アレは世界の財産となる。このまま放っておけば、異世界外交は日本が中心となるだろう」

「外交? 発展途上国と同じでマウントをとってしまえばいいと思いますが? ホグワーツの生徒が攻めてきたところで、蜂の巣にしてやればいいことです」

「支配を前提にしても、日本が絡むことになる」


 この点に関して、カーライルと長官の見解は一致。

 異世界人の存在を、重要視しているようだ。


「技術提供はともかく、貿易相手としてはどうだ?」

「ふたつの世界を往来できるか、という意味ですか?」

「戦争をしている国ならば、武器の需要があるだろう」

 長官は、アメリカの国益のためならば、モラルなど、どうでもいいようだ。

 まあ、この点に関しても、カーライルと意見は一致している。


「シノン・アッシュリーフ博士は御存知ですか?」

「知らん」

「異世界やパラレルなどの第一人者です。作家じゃないですよ。異世界へ行く方法や、魔法の再現、パラレルワールドの存在の研究を本気でやっています。――彼女を抑えました」

「それで?」

「可能性はある、と」


 異世界人の魔法というのは、大規模なモノは精霊が、小規模なモノは魔力を消費して、発現させると現地から報告があった。ビルの結界は前者であろう。

 それなら、異世界人は精霊の力の及ぶ範囲内にいることになる。

 精霊とやらが、神のように宇宙を超越するモノなのか、次元さえも超えて力を与えてくれるモノなのかはわからないが、ふたつの世界に干渉できる要因が存在することになる。


 もちろん、実際に魔法を見てみないことはわからないし、フォルトナビルに出現した転移ゲートに関しても調査が必要だろう。


「シノン博士も乗り気です。現実として、魔法が存在する以上、放っておく理由はないでしょう。他の国に独占されたら目も当てられません」


「……映画のような話だな」

 長官は、むっつりとして顔で言った。

 もっとも、表情と感情が一致しているとは、限らないが。


「協力者の中に魅力的な奴はいるのか?」

「ギャフット副大統領」

 筆頭は彼だろう。直接的な支援はないが、有力な政治家に協力するよう声をかけてくれた。


「よくもまあ、こんな若造に賭けたものだ」

「アクティブなのは若者の特権です」

「……失敗した時は?」

「失敗はありえませんが……万が一の時は、僕の独断だと言えばいい。トカゲの尻尾を切れば、お人好しな日本政府も溜飲を下げるでしょう。あの国は何をしても怒らない臆病者ですよ。いつも、振り上げた拳の降ろしどころを考えている」

 だから、誰もがノーリスクだと思って、カーライルに裏で協力してくれる。


「そんなわけで、ぜひ長官にも手伝っていただきたい」

「まだ、根回しが足りんか?」

「表面上の外交は、概ね良好かと。だが、どうしても僕を指揮官にしたくないとワガママを言っている日本の政治家がいましてね。遠山……だったかな。県警に強力なコネを持っているらしく、なかなか首を縦に振らない。長官には、日本国内にいる権力者に声をかけて、僕を現場に配属するよう手配していただきたい」


「ふむ」

 長官は、もったいぶったように思案する。


「……私は……根回しは足りているのだと思っている」

「というと?」

「おまえは、すでに十分な権力を持っている。なのに、私を巻き込むのは、貸しを作りたいからだろう。勝ち馬に乗らせることで」

「……それも理由です」

 カーライルは笑みを浮かべる。


 さすがは、CIAの長官。察しがいい。協力も必要だが、長官に恩を売りたいというのもある。この任務が成功した暁には、カーライルに相応の権力を与えてもらいたい。要するに出世である。


「やってみろ。ただし、失敗はゆるさん。他の政治家と違って、私は、貴様の上司だ。それなりにリスクを負うのだからな」

「ありがとうございます。失敗はしませんよ」

「ふん。それで? やることは根回しだけでいいのか?」

「あとは……ミスティオ、でしたっけ? 最近、スカウトした新人がいましたよね。彼をお借りしたいのですが――」


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