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小村香織 5

 ーーカランカランーー

 香織の部屋を出て午後の講義を終わらせると、俺は営業前のバーに足を運んだ。


「はいよ」


 何も言わなくてもオレンジジュースがでてきた。


「ついにいらっしゃいも、何飲むかも聞かなくなったな?」と皮肉交じりに言った。


「拓海は客じゃねぇーからな。それであの香織って子はどうだったんだ?」


 お酒を用意したり、つまみの仕込みをしたりと開店準備をしながらマスターが聞いてきた。


「まぁそれなりに順調かな。酔った勢いを利用して、抱こうかなとも思ったんだけど、想像以上に酔いつぶれていたし、男慣れしてない感じだったから辞めたよ。誠実にいこうかなって」


 オレンジジュースを味わいながら答える。


「これまた手が早いな。あんなにバリバリ仕事出来るような、プライドの高い人でもコントロール出来るんだな……」


 感心した様子でこちらを見てる。


「バリバリ仕事出来るような、プライドの高い人だからこそ扱いやすいんだよ。ああいう人は特別な人には本当の弱い自分を見せたがる傾向があるからね。

 スペアキーも預かってるから多分今日もここに来ると思うんだけどね」


 そう言ってスペアキーをテーブルの上に乗せた。


 その時俺の携帯が鳴った。

【連絡先確認しました。昨日今日と本当にありがとう。そして色々ゴメン……もしかして今日もバーに居たりするかな?】


 帰宅した香織が置き手紙を確認して連絡してきた。

【お仕事お疲れ様です。昨日と今日の事は全然気にしないでください。俺がしたくてしただけだから。

 それより体調は大丈夫ですか?ちょっと心配してました。

 俺は講義終えたからバーで今資料まとめてます!

 香織さん来れそうなら来てください。スペアキーを返したいですし、また少しでも話せたらなって思っていたので】


 返信した後、目でマスターに合図した。

 香織が来るよと。



【そうだね。鍵返してもらわなきゃだしすぐ行くね。待っててください。】


 香織からすぐに返信が来た。そして30分も経たないうちに香織が店に来た。


 ーーカランカランーー


 今日も黒いジャケットを着て、急いで来た様子だった。だが髪型だけは昨日と違った。長い髪を少し巻いて右側に寄せてセットしていた。完全に朝の髪型じゃなくなっていたのだ。

 おそらく急ぐ中でも最低限のおめかしをして来たのだと思う。


「いらっしゃい。今日はどうします?」とマスターが香織に優しく尋ねた。


「えっと……昨日だいぶ酔っちゃったから今日は弱めのやつにしようかな。うーんと、ピーチウーロンお願いします」


 同じ過ちは繰り返さないのだと意気込みが感じられる。


「お疲れ様です。じゃあ乾杯」


 飲んでいたオレンジジュースで乾杯して続けた。


「はいこれ。ありがとうございました。朝は少しゆっくりさせてもらいました。仕事きつくなかったですか?」


 鍵を手渡して聞いた。


「ゆっくりしてもらえたならよかった。仕事はね、大丈夫だったよ! 拓海君のコーヒーが効いたみたい。助かりました」と白い歯を見せながら香織が鍵を受け取る。



 それからしばらく雑談をした。小さい頃の話や好きな物、嫌いな物の話。お互いの事を少しずつ理解し始めた。


「拓海君て好きな食べ物とか嫌いな食べ物ある?」

 つまみのカシューナッツを口に入れ聞いてきた。


「好きな食べ物かぁ。本当なんでも好きだな。和食洋食中華、全部好きかな。嫌いな食べ物もほとんどないんだけどパクチーだけはダメだな。あれはクセ強すぎるし、完全に葉っぱだもん」と笑いながら答えた。


「なんでも好きなんだね。そうだ! 今度ウチにご飯食べおいでよ。あんまり料理しないんだけどロールキャベツだけは自信あるんだぁ! 私にとってのお袋の味はロールキャベツなの。父の好物だったのもあって母が毎週作ってたの。いつしか手伝うようになって父も喜んでくれた自信の一品なのです! ロールキャベツ嫌いじゃない?」


 自信満々に言った香織の顔はまたしてもあどけなさが残る少女の顔だった。この人の本当の顔はこっちなのかなと思わず考える。


「いいんですか? 俺ロールキャベツメッチャ好きですよ。これはかなり期待できるなぁ。楽しみにしてますね」


「好きならよかったぁ。でもハードル上げすぎたかも……そこまで期待しないで。てかこんなんじゃお礼にならないかな」


 香織は少し申し訳なさそうにしている。


「期待してますよ! てか凄く嬉しいですよ。でも香織さんがそういうなら俺から一個だけお願いしてもいいですか?」


 更に2人の距離を縮める秘策を用意していたのだが、ここでお願い出来そうなタイミングがきたので、すかさず聞いた。


「なぁに? 内容聞いてからだけど、私にできる事ならいいよ」


 グラスに口をつけ、内容を聞いてきた。


「もう一度でいいから、絵のモデルになってください。今度は少し大きめのに描きたいから香織さんの家でご馳走してもらった時にでも書かせてもらえませんか?」


 香織の目をまっすぐ見つめてお願いをした。


「絵のモデルかぁ……私でよければいいよ。でもなんか恥ずかしいなぁ」


 照れながらピーチウーロンを飲み干した。


「この前描いた時、本当はもっともっと香織さんの綺麗な所を沢山見つけてしまって、描きたい衝動にかられていたんです! てか香織さん、飲みものどうする?」


 空になった香織の飲みものを気遣った。こういった些細な気配りは、欠かす事はなかった。


「また恥ずかしくなる事言うし。けど分かりました。やりますよ! 拓海くんが時間取れそうなら今週の土曜日にどうかな?」と照れながら答え、ピーチウーロンをもう一度注文した。


「ありがとうございます!! えっとですね……大丈夫です。じゃあ土曜日お邪魔させてもらいます」



 次の約束を取り付けて、また雑談を終電時間ギリギリまで繰り返した。

 会話を繰り返す事で更に2人の距離は縮まっていた。そして一緒に店を出て駅に向かった。


「じゃあ土曜日宜しくお願いします。6時半にマンションに行きますね。都合悪くなったりとか、何かあったらまた連絡ください。楽しみにしてます」


 そして手を振りながら電車に乗った。


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