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めんどくさがり屋な住民のお話

作者: 須磨 亮

 締まりきっていないドア、中途半端に開いて中から印刷用紙が飛び出している物入れ、他にも床の端にどけてある漫画、ヒビの入った本棚、適当に畳んで積み重ねられた衣類

 それは、この家の住民の自堕落な性格を表したような部屋だった

 音を立てることなく、静かに衣類のタワーが崩れ、床に散らばった

 コタツに入って温まっていたこの部屋の住民は、一回気だるげな目をやると、何事もなかったかのように視線をそらし

「暖かい・・・・」

 それだけ嘆息しながらコタツの中に、更に体をうずめた

 コタツに体だけでなく、心まで温めてくれるような感覚を覚えて、ふわふわした幸せな感情を覚えた住民

 黒い少し寝癖が立っているロングの髪から、ポワポワとお花のようなものが出てきている見えると、この状況を誰かが見たのならば言うことだろう

 ふいに、静かな部屋の様子に寂しさを覚えた住民の目に、黒いテレビのリモコンが目に入った

 ここで住民は思い悩む

 今この眼の前のリモコンを取るために、コタツの中から体を出すか

 寂しさに耐えてでも、今のこの状況を維持し続けるか

 もう暗い時間にこの部屋を照らしてくれてる天井を見上げて考える事約三秒

「・・・・・あうぅ」

 もともとダラダラしていた体から、さらに力を抜いて顎をコタツの机の上に預けた

 結局、住民は考えることをやめた

 考えることがやはり一番疲れてしまう

 誰か自分を養ってくれるものがいないだろうか、そんなことを考えるのは、ここ最近の住民のお約束になってきている

「ふふふふふふ・・・・」

 またこみ上げてくる、優しいような感情

 何者にも縛られない、この自分だけの自由な空間に、暖かく幸せな気持ちを覚えて笑いがこみ上げてきた

「・・・・・ん?」

 動かなくてすむように、住民のすぐ横に転がしておいたスマホ

 ブブブ、と振動して着信を知らせたそれに、住民は気がついた

 今度は先程の衣類タワーの崩壊よりも、長く眺めた住民であったが、知らない番号からの電話だとわかると、震え続けるスマホの着信拒否のボタンをタップすることもなく、「あふ〜・・・・・」と一息つきながら、またコタツに顔の体重を預けた

 スマホから鳴るのは、あまり動くことのない、おっとりしたこの住民とは正反対のアップテンポのJ-POP

 なり続ける着信音のお陰で、先程までの静寂が消え、代わりに訪れたまた別の意味で楽しげな空間

 この着信音を設定したのはもちろん住民なわけで、住民がこの曲が好きなのは当たり前だった

 リズムに合わせて体を上下に揺らし始める、ただし体の動きは最小限

 コタツにも体をうずめたままである

 住民の髪の毛の寝癖が、ふわふわと揺れる

「ふんふん♫ふんふん♫ふんふん♫・・・・・ん」

 リズムに乗ってきた住民は、鼻歌でその曲を口ずさむが、唐突に着信が切れた

「・・・・・・・・・」

 するとまたもや訪れた静寂

 先程少し気持ちが乗って、テンションが少し上ったこともあり、より一層寂しさが増したような感覚を住民は覚えた

 思わず目を細めて、部屋を首を動かさずに見える範囲で見渡しても、寂しさが増すだけだった

「む〜・・・・・」

 眉を潜めて、口の中に空気をためて頬をぷっくりと膨らませながら、不機嫌な声を上げた

 住民は今の状況を作り出したスマホに若干のいらだちを覚え、先程のスマホに視線をやって、舌を突き出してやった

 そのことが別に何にもならないということは、もちろん住人にもわかっている

 言うならば、ただ鬱憤を晴らしたかっただけだ

 ただやはりそれだけでストレスが解消されることはなく

 何も反応しないスマホに、さらなるいらだちを覚える

「ん」

 また頬を膨らませた住民の視線に、ティッシュの箱が目に入った

 パチクリと目を瞬かせたあと

「・・・・・思いついた♪」

 口の中に溜まっていた空気を、まるで風船のような音を立てながら吹き出した

 目の前の箱の上から少し出たティッシュがその風で揺れる

「・・・・・・んん。ふふふふふ♫」

 紙が自分の手に触れることなく揺れたことに、子供のように興味を惹かれた

 自然ともう一回やろうという気持ちが住民の中に生まれたことは、言うまでもないだろう

 すぅっと息を吸い、唇を突き出して狙いを定めて、息を吐き出す

 ピラピラピラっとまた揺れるティッシュ

 それを見て再びテンションが上り始めた住民

 更に連続でティッシュに息を吹き始める

 ただそれも持って3回までだった

 息が続かなくなり、肩で息をする住民は、乱れた呼吸を整えながら、自分は何をしているんだと呆れた

 もう既に成人しているのに、誰かに見られたら恥ずかしいことをしていたと、顔を徐々に赤くし始める

「・・・・・あぅ」

 最後には消え入りそうな小さな声で唸って、コタツに顔まで埋める

 体すべてをコタツの中にダイブさせ、目をぎゅっとつぶった

 言うなれば、それは恥ずかしいときに布団をかぶるあれを同じ意なのだろうが、失敗したのはコタツでそれを行ってしまったこと

「・・・・あ、あつい」

 何分も前から温めていたこのコタツの中は、モワモワと蒸し暑く、こたつカバーによって塞がれた密封空間では、更に息苦しくなった

 耐えていられなくなった住民は、即座にコタツから顔だけ脱出

「ぷはっ」

 水面から顔を出したときのように、空気を大きく吸い込む

 なんだか疲れてしまった為、そのまま溶けてしまいそうなほどに脱力した

「ふぐぅ・・・・・・・」

 そのままフリーズ、何分かの時をそのまま動かずに過ごす

「・・・・・ん」

 しばらく立って、住民は見つけた

 コタツの一番ラクな姿勢、つまりは今の体だけ預けて寝転がるこの姿勢である

 胸のあるものならば苦しかったりするのだろうが、幸い住民はそこまで立派な胸は持ち合わせていない

 ゴソゴソと体を動かして、更に最適な位置を見つけると

「・・・・・幸せ。ふふふふ♫」

 また幸せそうに微笑んだ

 また暖かく、今度は体全体をうつ伏せにたれながら味わった住民は、徐々にウトウトし始め、特に抵抗することなく、まぶたを閉じて

「すー・・・・。すー・・・・・」

 いつの間にか寝息を立て始めた


 めんどくさがり屋な住民の、どうでもいい日常の話だ

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