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隠された真実 2


「仮に『人魚の涙』の存在を知っても、あんなどこにでもある首飾りだなんて普通は思わないよな?つまり犯人は『人魚の涙』を見た事のある人物。盗んだのはイザベラかドロシーだとしても、ソレを教えた者が居たはずだ」


「……………」


「では、それは誰か?アクアリア王家のはずはないし、当然ロゼリア王家でもない。お互いの王家にとって、今回の事件はデメリットでしか無いからな。勿論、俺でもない。他に『人魚の涙』を知るのは一人だけ。800年前の事件を知っている者。……つまり…アンタだよ」


「……………」


「800年前からロゼリアの王家の重鎮であり、アクアリアとの大使を務めるアンタは瑠璃とも仲良かったしな。実際の『人魚の涙』だって見てる。イザベラとドロシーを唆して盗ませたのはアンタ。違うか」


ユージーンの問いかけに対し、ホームズ子爵は一言も発しなかった。


ただただ沈黙している。


ユージーンもホームズ子爵の返答を待ち、これ以上は何も発しない。


長い沈黙が二人の間に流れる。


それを破ったのはホームズ子爵の方だった。


「ふぅ。やはり…貴方にはバレましたな」


その言葉は肯定のもの。


ホームズ子爵がアクアリアから『人魚の涙』を盗み(もしくは盗ませ)ロゼリアを『人魚病』で満たした真犯人という事実。


「聞いていいか?」


「答えられる事でしたら何なりと。いえ、先に説明した方が早いでしょうな」


ホームズ子爵は薄く笑みを浮かべながら話し始めた。


追い詰められているというのに、この老人は慌てる様子など微塵もない。


むしろ余裕さえも感じる。


それがかえって不気味にも映った。


「あのイザベラとドロシー親子がロゼリア王家に来た際、私はロゼリア王家にとって良くない者達が来た…と、思いました。イザベラの噂は聞いておりましたからな。証拠はなくとも夫殺しの噂のある女。多額の遺産を手にした女が、それでは飽き足らずに娘を王子の妻にしようと企んでいる、と思っていたのです。実際は逆でしたが……ロゼリア王家にとって害となる二人ならばどうなっても構わない。そう思った私は、二人を利用する事にしました」


淡々と話すホームズ子爵の様子にユージーンは、わざとらしくため息をつく。


「ハァ~~~……ホント変わんねぇな、アンタは。ロゼリアの為ならあんな親子は(こま)同然ってか?ロゼリアの建国時から仕える貴族の誇り。アンタはそれだけで行動してるようなもんだからな」


「………お言葉ですが…それだけで生きれる程、私は高潔(こうけつ)な人間ではありません。800年前も今回も…私は個人の感情で動きました。その結果800年前は悲劇を引き起こし、今回は『リスクの一族』に国を奪われそうにもなった。弐の姫様や貴方が来なければ……またもや悲劇に終わるところでした」


遠くを見つめるホームズ子爵。


その瞳にはユージーンは映っていない。


そしてユージーンには、彼の瞳に誰が映っているのか想像がついていた。


そして彼が今回の事件を引き起こした理由も……なんとなくだが…予測はできていた。


「……贖罪(しょくざい)…ってやつか?ルリに対しての」


「………贖罪(しょくざい)どころか…同じ罪を重ねるところでした…。ルリ様の恋を踏みにじった私は、その子孫であるラピス姫とルードヴィッヒ王子の恋も潰しかねなかった。私の計画では『人魚病』を引き起こした事で国が混乱し、あの母と娘が国を乗っ取ろうとした矢先、アクアリアが病を治す…はずでした。国を支配しようとする悪しき母と娘が抱いた陰謀を、アクアリアが阻止した、と」


「それをきっかけに二人の結婚や両国の友好を復活させようと?随分とちゃちでおざなりなシナリオだったな。そんなんだからドロシーの本性にも気づけなかったんだろ」


「………耳が痛いですな…」


ホームズ子爵は眉をしかめながら苦笑した。


ユージーンの言葉は正論だ。


自分の勝手な行動がいかに愚かだったか……それがわからないほど子爵は若くはない。


「最初はここまで『人魚病』を広めるつもりはありませんでした。事態の異常さに気づいた時…既に手遅れだと悟りましたよ。まさか『人魚の涙』を盗ませたイザベラではなく、ドロシーが病を広めているとは知りませんでした。そして病の正体が『人魚病』ではないとも気づけなかった」


「……今のアンタを見たら…ルリはどう思うだろうな?………アルフレッド」


「……っ、ただ……笑うだけなのですよ。ルリ様はいつも…私に笑って下さる。こんな罪深い私に…『ありがとう』と言って笑うのです。ルリ様に王子を助けさせておきながら…ルリ様から王子を奪う為に王子と隣国の姫の縁談を裏で進めた……こんな私にっ!!」




800年前



ロゼリアに古くから仕える子爵家の青年がいた。


彼の名前はアルフレッド。


アルフレッド=ホームズ。


当時のホームズ子爵だ。


そんなアルフレッドには想い人がいた。


幼い頃より父に連れられ何度も足を踏み入れた蒼き国。


そこに暮らす、美しき瑠璃のような瞳と髪、尾びれを持った人魚姫。


子供の頃から何度も会い、共に過ごすうちに、アルフレッドはルリを愛するようになっていった。


アルフレッドが父の後を継ぎ、大使としてアクアリアへと足を運んだ際のこと。


事件は起こった。


そして後にソレが、悲しき恋の始まりでもあった。


当時のロゼリア王子を乗せた船が、嵐で難破したのだ。


報告を聞いたアルフレッドは、ロゼリアと友好の深いアクアリア王家の者…ルリ姫に王子の救助を求めた。


ルリ姫は快くソレを受け入れ、王子を助けに嵐の海を泳ぎ、彼の命を救った。


王子の無事を喜ぶアルフレッドだったが、ルリ姫の発した言葉にその喜びは掻き消される事になる。


「アルフレッド………私……王子様を好きになってしまったかもしれない…」


頬を染めながら、浜辺で王子の濡れた前髪をかき上げながら彼女は呟いた。


紅き国の青年が思いを寄せる


蒼き国の人魚姫は


紅き国の王子に恋をした。


それからの事は……アルフレッドには思い出せない。


彼女に何を言ったのか?


どうやって城まで王子を無事に送り届けたのか?


それ程までに衝撃を受けた。


しかし、その先も愛しい彼女はアルフレッドを苦しめる事になる。


アルフレッドがアクアリアへと入ると、彼女は嬉々として王子の話題ばかりを彼に問いかけた。



「王子様は元気になったの?」


「王子様はアクアリアには来られないのかしら?」


「王子様の御見舞(おみまい)にロゼリアへ伺ってもいい?」


「王子様は何が好きかしら?」


「もう一度…王子様にお逢いしたい」



ウンザリだった。


それでも、アルフレッドの彼女への愛は変わらない。


アクアリアに礼をしたいという王子の気持ちも、ロゼリアの意志も、彼は何かしら理由をこじつけて先延ばしにしていた。


アクアリアにも都合の良いように言い訳をして。


なんとしても、愛しい人魚姫と自国の王子を会わせることだけは避けたかった。


そんな中、アルフレッドは裏でロゼリア王子と隣国の姫との縁談を進めていた。


当時の女王と縁のある王族。


結婚が決まれば、彼女にはもう何も出来やしない。


そう思っていたから。


しかし、当時のアクアリアには客人が三人滞在していた。


客人……という扱いだが、彼等はアルフレッドの愛しい姫の友人として城に滞在していたらしい。


それは二人の男と一人の女。



そのうちの一人は……銀髪に赤い左目…右目は前髪で隠した男。


そこらの女よりも美しい容姿をした男だった。


その男は人魚姫にこう言った。


「本気で好きなら、待ってるだけじゃなくて自分から会いに行けよ。どんな犠牲を払ってでも構わないって覚悟でさ。お前がその気なら、俺が魔術でなんとかしてやるぜ」


その男の言葉に、人魚姫は大きく頷いた。


そして彼女は、人魚の証と美しい声を失う代わりに、人間の足を得た。


その姿に喜び陸に上がった彼女は、偶然にも王子と再会した。


声を失った娘を哀れに思った王子は、彼女を城へと招き入れた。


だが、招待されたその日。


ロゼリア王子と隣国の姫の婚約は決定された。


王子は(こころよ)くその婚約を受け入れた。


王族同士の形式上のものとはいえ、他の女に愛を囁く王子。


それを目の当たりにした人魚姫の悲しみは計り知れない。


それでも、人魚姫は人間の王子を恨むことは無かった。


ただただ、悲しかった。


しかも、話を聞いていると、なんと王子を助けたのはアクアリアの人魚姫ではなく、その隣国の姫というではないか。


ホームズ子爵がアクアリアへと救助を頼んでいる間、偶然にも近くにいた隣国の船が王子を海からすくい上げたという事になっている。


驚く人魚姫がホームズ子爵……アルフレッドへと視線を向けるも、彼は愛しい姫から視線を逸らした。


それもそのはず。


この縁談が滞りなく上手く進むように、ホームズ子爵が口裏を合わせるように隣国へと話をしたのだから。


昔ながらの友に裏切られた事も知らない人魚姫は、心の中でのみ訴える。



(違う…違う!その人じゃない!)


(王子様!私です!私が王子様をお助けしたんです!)


(アルフレッド!なんとか言って!王子様に真実をお伝えして!)


(どうしてっ!?どうしてこんな事になったの?)


(ただ……愛しただけ…王子様をお慕いしただけ……それなのに…どうして…)



そんな彼女の悲痛な叫びは、誰にも届くことは無かった。


その日のうちにロゼリアの王子の婚約はアクアリアにも届いた。


そして末の妹姫の気持ち、そして彼女が自国にいないことを知った姉の人魚姫達はロゼリアへと向かった。


海を眺めながら泣き崩れる妹の姿に、全てを理解したのだ。


姉の人魚姫達は憤慨(ふんがい)した。


ロゼリアに。


愚かな王子に。


裏切り者の大使に。


軽率な妹に。


何より……無責任にも、妹に(よこしま)な魔術を施した客人に。


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