表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/433

事件の真相と犯人 4


「我々を(だま)しおって!『リスクの一族』だと!?魚以上に穢れた一族めがっ!恩を仇で返そうなどっ!女王陛下に存在が知られる前に!親子共々処刑してくれるわっ!」


「母上っ!お待ち下さい!そのような勝手を女王陛下に知らせる事もせずに行えば、罪に問われるのは我がロゼリア王家です。先ずは陛下にお知らせし、返答を待たなくては」


目の前で繰り広げられる、自分の今後の処遇にドロシーの顔は真っ青になる。


それは母親であり、同じ『リスクの一族』であるイザベラも同様だ。


この世界をかつて混乱と恐怖に貶めた『リスクの一族』。


当事者でなくても、遠く世代を超えた末裔であっても、その罪は許されない。


女王陛下に生存がバレれば、良くて生涯牢獄暮らし。


悪ければ即処刑だろう。


ユージーンは再度、ドロシーに言葉を投げかけた。


「わかります?『リスクの一族』である限り、今回の件と関係無く、貴女方は罪人として扱われるんですよ。生きているだけで……存在する事が『悪』なんですから」


ユージーンの冷たい言葉に、ドロシー、イザベラ同様に顔を歪ませる蓮姫。


同じ事を自分も何度言われたことだろう?


存在する事すら拒絶される存在。


その苦しみも理不尽さも、蓮姫は身を持って良く知っている。


「……ふ……ふふふ…」


「ど、ドロシー?」


娘から聞こえる小さな笑い声。


それに真っ先に反応したのはイザベラだった。


娘の方に目を向けるが、ソレをイザベラは後悔した。


そこにあったのは…自分が何度も向けられた冷たい瞳。


「ハハハハッ!アハハハハハハ!!」


ドロシーは片手を額に当てながら大声で笑い出した。


今までの彼女とは違う。


ドロシーのその反応に、全員が驚くが、一通り笑った後のドロシーの表情に、背筋が凍りつきそうだった。


ドロシーは全てを見下すような、殺気とも狂気ともとれる目をしている。


「あ~あ。ぜ~んぶバレちゃったんだぁ?ならもう、猫かぶりの必要もないよね?ねぇ…お・か・あ・さ・ま?」


「ヒィッ!ゆ、許してぇ!お願いよ!ど、ドロシー!」


「はぁ?そんなに私の毒で死にたくないんなら自分で舌でも噛み切れば?その方が毒より苦しくないんじゃない?」


今までのドロシーからは予想だに出来ない口調と表情。


全てを見下すような目と態度、狂気ともとれる表情に、あの妃ですらただただ彼女の豹変ぶりに言葉を失う。


そんな中、誰よりも早く動いたのは、やはりユージーンだった。


「ようやく本性(ほんしょう)出しやがりましたね。ちなみに、舌噛んだりしたら噛み切った舌と出血で器官が塞がれて、結局は苦しみ(もだ)えて死にますよ。身を持って知ってますから間違いありません」


「ご丁寧にど~も。あ~あぁ……あんたらが来なきゃ全部上手くいってたのになぁ」


「そうですね。母親の夫を(たぶら)かし、毒殺した時は上手くいったみたいですけど」


「ソコも吐いたわけぇ?何でもかんでもベラベラ喋ってさぁ……母親なら娘を(かば)えばいいのに。母親失格じゃないの?」


「そう言わないであげたらどうです?母親失格なのは、貴女みたいなクソビッチを産み落としたせいでしょうから」


「いろんな女に手を出してる下半身男に、ビッチと言われたくないなぁ」


「えぇ。ビッチとか言ってませんから。クソみたいなビッチと、ちゃあんと言ったでしょう?」


ユージーンとドロシー。


二人はお互いに歪んだ笑顔を浮かべながら、うふふ、あはは、とお互いを罵り合っている。


二人から発せられるどす黒い空気に、他の者は単純に怖いと思った。


「姫様が足の機能を失ったのは舞踏会の時。目の機能を失ったのは貴女の差し入れの『ピンクハーブ』のお茶を飲んだ時。どちらも飲み物に貴女の血が極々少量混ざっていた。だから舞踏会では姫様含めた娘達が、差し入れの時は姫様だけが病に犯された。…ですね?」


「そ~よぉ。さっきも言ってたけど、私は血を飲んだ奴等の中から、選んだ奴だけに毒を発生できるの。望んだ時にねぇ。おたくの姫様はあ~んまりにも、チョコチョコとウザったらしく動き回ってたしぃ。おまけに妃も王子の正妃にする気で、王子も王子で懐いてたからさぁ。ちょっと焦って荒っぽいやり方に出たんだよねぇ。ハハッ!ごめんねぇ、れ・ん・さ・ま。アハハハハハハッ!!」


「何笑ってやがんだ!ドロシー!!」


ルードヴィッヒはドロシーに怒りをぶつける。


しかし怒鳴られた方のドロシーは、ニヤニヤと口角を上げたままだ。


「そんな怒らないでよぉ。いいじゃん?王子様の大好きな人魚姫様には何もしてないんだしぃ」


「したくても出来なかったんでしょう?相手は海の中。井戸や川ならともかく、広大な海ともなれば貴女の血も薄まり過ぎて効果も期待出来ないでしょうからね」


「ほんっとムカつくよねぇ。顔以外イイトコないんじゃないの?ジーンさん?」


「気安くその名で呼ぶな。そう呼んでいいのは、姫様ただ一人。姫様だけだ」


ドロシーに『ジーン』と呼ばれた事で、ユージーンは不機嫌さを隠そうともせず告げた。


彼の態度に、ドロシーの方もイラつきを見せる。


「ふ~ん。人魚姫もムカつくけどさぁ、あんたや王子とか、男に好かれる女の方はもっとムカつく」


「女のひがみは恐ろしいですねぇ。クソ女ほど嫉妬はするものですが、貴女もそうらしい」


「おい!悠長(ゆうちょう)に話してんな!さっさと結界解け!衛兵に捕らえさせる!!」


ルードヴィッヒは腰に挿した剣のつかを掴み、 ユージーンに命じた。


「まぁ待って下さいよ。妙じゃありませんか?何故いきなり白状する気になったんですか?ドロシー嬢」


ユージーンは、やんわりとルードヴィッヒを宥めるが彼には逆効果。


ルードヴィッヒは剣を抜こうとするが、ラピスが彼の服をギュッと握り、ソレを止める。


その様子を見ていたドロシーは鼻で笑うように二人に告げた。


「ホントに優しい人魚姫だよねぇ。そりゃ王子も惚れちゃうかぁ……はは…ムカつく」


「ドロシー!」


「そんな怒らないで下さいよぉ。言っときますけど惚れたとか、ぜ~んぶ嘘ですから。結婚して子供が出来たら、あんたも母親も、そこの母親失格女も全員毒殺して王位を独占したかっただけだしぃ。そもそも権力以外、魅力なんて無いもん。王子様なんてさ」


「ドロシー嬢。質問に答えてもらえますか?」


「はぁ?そんなの簡単じゃん。シラをきっても『リスクの一族』ってだけで罰せられるのよ。だったら冥途の土産に全部教えてあげようって思ってさぁ」


「おや?誰の冥途の土産にするんですか?」


「アハハハッ!!そんなの!あんたら全員に決まってんじゃん!!ばぁ~~か!!」


ドロシーは未だに余裕の表情を崩さない。


その理由に蓮姫も気づいた。


「まさかっ!?」


「そうだよぉ!蓮さん頭いいねぇ!ここにいる奴等は皆、私の血を飲んでるんだからさぁ!いつでも殺せんのよ!あんたら死んじゃえば私の正体知ってる奴いなくなるでしょうが !シナリオは人魚姫が無理心中を起こして王妃も王子も、妃候補もみ~んな死んじゃった!私は奇跡的に一命を取り留めたって事で、ロゼリアからさっさと逃げりゃいいしぃ!」


ドロシーは、ここにいる全員を殺すつもりだったのだ。


それがわかっても、ソレを阻止する事は誰にも出来はしない。


ドロシーの母親、イザベラの様子からして、ソレは簡単に出来るだろう。


そしてドロシーも躊躇(ちゅうちょ)すること無く、あっさりと行うはずだ。



「全員!!血ヘド撒き散らしながら死んじゃえぇぇぇええぇ!!」



ドロシーが感極まったように、歪んだ笑顔で叫んだ。


ソレはここにいる者全員に対する死刑宣告。


ドロシーの望み通り、全員の口から、鼻から、目から耳から、体中のありとあらゆる部分から血が吹き出す。


あたり一面が血の海。


その中で苦しみ悶えながら、のた打ち回るドロシー以外の者達。


まさに地獄絵図。


そう。


ドロシーの望みではそうなるはずだった。


しかし………。



シ………………………ン



静寂がこの場を包み込む。


何も起こらない。


蓮姫も


ユージーンも


ルードヴィッヒも


ラピスも


妃も


ホームズ子爵も


イザベラも


誰一人として血を流す事は無かった。


ドロシーの言葉に驚き、命の危険を感じた彼等だが、その身には何一つとして変わりはない。


彼等はただ呆然と立ちすくみながらも、周りを見回す。


が、やはり自分にも他の者にも、何も起こっていないし、起こる気配もない。


「そ……そんなっ!?バカなっ!!?」


ドロシーはその現状に驚愕する。


あり得ない、とでも言うように。


「クソッ!死ねッ!死ねぇッ!!全員死ねよぉッ!!クソォオォォォ!!」


先程のように叫び上げるドロシー。


唯一先程と違うのは、彼女の顔から余裕や笑顔は消え去り、焦りと困惑がありありと現れている。


彼女は本気で、ここにいる全員を殺すつもりだった。


しかし、いくら彼女が望んでも、叫んでも、何も起こらないのが事実。


「クソッ!なんで死なないんだぁ!?なんで誰も死なないんだよぉッ!!」


「そろそろその耳障りな声、やめてもらいたいんですがねぇ?」


ユージーンは今になってやっと、イザベラを解放するとドロシーに一歩近づいた。


ドロシーは怯えたように、ユージーンから一歩距離をとる。


「く、来るなッ!近づくなッ!死ねッ!死んじゃえよッ!ホラぁ!!」


「テンパると口悪くなりましたねぇ。流石はクソビッチです。その上馬鹿王子よりも馬鹿とか救いようがない。何度俺達に死を命じても無駄だと、いい加減気付いて下さいよ」


「な、なんでよぉっ!?私は『リスクの一族』なのにっ!!一族の中でも類稀(たぐいまれ)な才能の持ち主って言われたのにぃっ!どうしてぇっ!?」


「どうして……ですか?そんなの簡単ですよ」


ユージーンは再度、一歩だけドロシーに近づいた。


ドロシーは『ヒィッ!』と叫びながら後ずさる。


怯えるドロシーにユージーンは、さも当然だ、 と彼女にニッコリと笑いかけながら言い切った。



「『リスクの一族』の力なんか、この俺以下だったってだけですよ」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ