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彼女は弐の姫 4


「壱の姫は今、母上と同じように城に住んでるんだよ。母上から女王としての心得でも学んでいるんじゃないかな?」


「あの母上がそこまでするか?」


「…………………(多分していないかな)。そうそう。壱の姫にはすでにヴァル候補がいるらしいよ」


「ヴァル?」


初めて聞く単語に蓮姫は首を傾げる。


この世界では想造世界と同じ言葉に溢れているが、その『ヴァル』という言葉はどうやらこの世界独特のものらしい。


「ヴァルっていうのは女王、又は姫に忠誠を誓った…彼女達専属のナイトだね。ヴァルの契約を交わした者は生涯、主だけに仕える。その立場や種類は側近、執事、宰相に武将と様々。人に限らず、老若男女も問わず、数も自由だ。母上にも100人近くのヴァルがいたし、中には数人と子供も設けている。俺達の父上も母上のヴァルだったし」


「ヴァルは最も信頼されている女王や姫の部下だ。異例の事態にはヴァルが女王の代わりに勅命を出す事も許される。壱の姫には候補とはいえ、それ程の人物が傍に居るという事だ」


「ヴァルは……最も信頼できる人物…」


蓮姫はそう呟くと目の前の二人をじっ…と見つめた。


ユリウスはその視線の意味を理解し、緩く首を横に振ると眉尻を下げながら微笑んだ。


「君の気持ちは嬉しいけど…。俺達はヴァルになる資格が無いんだよ。能力者はヴァルになれないんだ。女王の実子、それも特殊な能力を持つ者は姫同士の王位争いには参加できない。能力を利用し、姫や女王の代わりに王位や権力を独占する恐れがあるからね。だから俺達は君のヴァルにはなれない。………ごめんね」


ユリウスの言葉に蓮姫は肩を落としながらも納得した。


ユリウスの能力は勿論、千里眼や動物を使う能力なら相手を脅す事も出来るのだから。


女王ともなれば、その力に対応できるがヴァルとの契約では女王はヴァルに危害を加えることは出来ず、一度契約したら二度と解約はできない。


できたところで誰もしないだろう。


この女王には人を見る目が無いのだ、と公言するようなものだから。


「なら………私は…」


「ストップ。蓮姫。君にはまだ時期尚早な話だよ」


蓮姫が再び話を戻そうとした為、ユリウスはそれを制する。


「蓮姫。君はまだこの世界の事を学び始めたばかりだ。先の事はまだ考えなくていい。君が弐の姫として何をすべきか?なんて、この世界や女王の事を知ってからでも遅くないよ」


「弐の姫が現れた事は、折を見て私達が母上に知らせる。お前はいらん心配などするな。似合わんぞ」


彼女は今、自分達と笑える日常を過ごしているが……自分の身に起きた事を忘れた訳じゃない。


彼女が受けた傷は一生、心に残るだろう。


それでも自分のやるべき事を見据えて、前に進もうとしている。


だがユリウスとチェーザレは、まだ彼女を弐の姫として、世界に差し出す気は無かった。




差し出したくなかった。




やっと笑って、怒って、普通の生活を取り戻した蓮姫。



壱の姫を次期女王として受け入れている世界になど差し出せば……彼女はまた傷つくだろうから…。


「そうだそうだ。いらん心配するくらいなら、洗濯と掃除でもしてくれ!ついでに食後のミルクティーを入れてくれ!!」


暗い雰囲気を払拭するように、場違いな程明るい声でユリウスは言った。


蓮姫にはわかっていた。


彼等はまた、自分を守ろうとしてくれているのだと。


なら今は、この二人の優しさに甘えていよう。


いずれ二人と別れ、姫として生きなければならない日が来るとしても……今だけは三人の日々を満喫したい。


「はいはい。ミルクティーね。洗濯はするけど掃除はユリウスの当番でしょ」


蓮姫はユリウスに釘をさしながらも、笑顔を浮かべてティーポットとカップを準備した。


「それにしても……お前は冷静だな。もっと取り乱すのが普通だろ」


「ん~……なんか吹っ切れたよ。想造世界に帰りたくても女王様しか私達を戻せないんでしょ?この世界に来た時点で、女王になる姫として生きるのは決定事項みたいだし。……冷静じゃなくて開き直ってるの」


帰りたいと懇願し、泣き叫んだ事もある。


この世界に来てから嫌と言うほどに。


皮肉にも自分の身に降り掛かった出来事が、彼女を強くしていた。


「あれ?蓮姫はまたレモンティー?ミルクティーは嫌いかい?」


「嫌いじゃないけど…あんまり飲まないかな。紅茶はストレートかレモンティーの方が好きだし」


「ストレート?それでは甘くないだろう」


「チェーザレには悪いけど…紅茶に甘さは求めてないかな」


蓮姫が二人のミルクティーと自分の分のレモンティーを準備している頃、壱の姫のヴァル候補と噂されている男は、主の部屋へと向かっていた。


「失礼します。姫様」


「蘇芳!ど、どうしたの?」


いつもなら愛しい男が自分を訪ねた事に喜ぶ壱の姫だが、今日の彼女は酷く慌てていた。


蘇芳にはその理由がわかり切っていたし、興味も無かったが自分から切り出した。


「先程遠目で見掛けましたが……姫様の婚約者は凛々しく雄々しい方ですね。皇子としてのカリスマ性も高く、民からの信頼もあつい。姫様の婚約者としては申し分ありません」


「蘇芳!陛下から直々の縁談だから会っただけよ。私が好きなのは……蘇芳だけだから 」


よく言う、と蘇芳は心の中でのみ毒づいた。


その言葉が本気なら何故そんなに狼狽する?


あの皇子は遠目でも整った顔をしていた。


どうせ婚約者の皇子が美形と知り、心が傾いていたのだろう。


しかし自分を婚約者にと女王や周りに駄々をこねない分マシか、と蘇芳は自分を納得させた。


「姫様。私の事はいいんです。地位も官位も無い私は姫様の相手には分不相応。私は姫様のお傍にいられるだけでいい。姫様の幸せが私の幸せです」


よくもまあ、心にも無い事をポンポン言えるものだと蘇芳は自分に感心していた。


壱の姫と婚約などするつもりは毛頭ない、と含んでいたが、壱の姫はソレに気づきもしない。


「それなら…蘇芳……ヴァルになって。それなら…ずっと、ずっと一緒にいられるでしょ?」


「姫様。私は契約などで縛られただけの関係など望みません。そんなものに頼らなくてはならない程、私達の絆は脆くはありませんよ」


蘇芳は甘い笑を浮かべながらも、またその話か…と内心ウンザリしていた。


それでも…この女の元には居続ける必要がある。


愛しい彼女の為に………。




「姫さま。今日は少し、想造力でこの世界を見てみませんか」



弐の姫と再び出会う為、待つのではなく、蘇芳は動き出す。


自分を愛する従順な『お姫様』を使って……。


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