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事件の真相と犯人 2


顎に手を当てて思案するユージーンに、全員が次の言葉を待つ。


「先ず始めに、『人魚病』を創ったのは人魚じゃなくて俺なんです」


「……は…………はぁ!?」


いきなりのユージーンの告白にルードヴィッヒは声を上げて驚く。


イザベラとドロシー、そして声を出せない王妃も、その顔はルードヴィッヒと同じくらい驚愕に染まっていた。


「お前!ふざけてんのかよ!」


「ふざけてないですよ。まぁ、百聞(ひゃくぶん)一見(いっけん)()かず…って言いますしね。ちょっとカーペット汚しますよ。……姫様」


「ん」


ユージーンに声をかけられ、蓮姫は護身用に持っていたあのオリハルコン製の短剣を取り出す。


ユージーンは蓮姫の手から短剣を取ると、おもむろに自分の喉を切り裂いた。


「きゃあっ!!」


「ひっ!?」


突然のユージーンの行動に、ラピスは悲鳴を上げる。


ドロシーも小声で叫ぶと、口元を両手で抑えた。


ユージーンの喉からは勢い良く血が吹き出し、喉を、服を、そして宣言通りカーペットを鮮血に染めていく。


が、当のユージーンは笑顔を浮かべたまま、ハンカチで短剣の血を拭っていた。


頸動脈(けいどうみゃく)を切りました。でも俺は死んでません。ちなみに身体中の血が無くなろうが、心臓を突き刺そうが、首を切ろうが死なないんです。訳あって不老不死なもので」


「不老不死だと……そんな馬鹿な…」


「馬鹿王子にわかるように実践したのに、本人がそういう事言いますか?目の前でこんな光景見たのに未だ信じられないと?」


相変わらずルードヴィッヒ……蓮姫以外を見下す態度を崩さない男だ。


だが、そんな彼の素性を後押しするのは、今罵倒された王子の恋人。


「ルーイ。ユージーン殿の言葉は本当よ。彼はお祖母様の友人だったと、お母様も言っていたわ。『人魚の涙』を創ったのは……このユージーン殿。でも…創らせたのは……」


「ラピス姫。今はそこ、大した問題じゃないんですよ」


『人魚病』を創り出したのはユージーン。


しかし彼の友人を人質にとり、創らせたのはアクアリア王家だ。


が、そんなアクアリアに不利な情報は、今は不要。


何より、ルードヴィッヒとラピス、二人の恋の成就(じょうじゅ)を望む蓮姫が、アクアリアに不利になる展開など望まない。


だからユージーンはラピスの言葉を制し、話を続けた。


「『人魚病』の事は俺が一番良く知っています。だからこそ、姫様の病は『人魚病』では無い、と断言できる。他の娘達もそうですよ。その証拠をこれから見せましょう」


ユージーンは懐をゴソゴソと漁ると、蒼真珠のついた首飾りを取り出す。


その存在に、全員が驚き困惑した。


その首飾りが何なのか……この場にいる全員が知っていたから。


「そ、それは『人魚の涙』!!どうしてソレをお前が持ってんだよ!」


「この城で見つけたんですよ。言ったでしょう?創ったのは俺です。その気になれば『人魚の涙』に()められた俺の魔力を探索するのは可能ですからね。で、コレをどうするかと言う……とっ」


ヒュン!!


ユージーンは思い切り上へ『人魚の涙』を投げる。


放った際に開いていた手を、ギュッ!!と握った瞬間……


ピシ……バリンッ!!


『人魚の涙』は音を立て粉々に砕ける。


天井からは、割れた蒼真珠の細かい破片が舞うように落ちてきた。


蒼くキラキラとした輝きに、その場にいた全員が一瞬目を奪われたように硬直する。


始めに言葉を口にしたのはラピスだった。


「に、『人魚の涙』……が…」


「見ての通り破壊しました。貴方達アクアリアの望み通りにね。魔道具を破壊すれば掛けられた魔術…この場合は『人魚病』ですが…その効果はたちどころに消えます。……で、姫様…どうですか?」


「どうですか?って言われても……立てないし見えない」


「なん…だと!?『人魚病』じゃないのか!?おい!蓮!!本当に見えないのかよっ!?」


ルードヴィッヒが蓮姫の両肩を掴むが、その手は彼女のヴァルによって払われる。


「気安く姫様に触らないで下さいよ 」


「っ!!お前!こんな時に何言ってんだ!」


「どんな時も関係ありませんよ。俺の姫様に気安く触るなど……殺しますよ」


ユージーンは殺気のこもった紅い右目で、ルードヴィッヒを睨む。


ルードヴィッヒの紅い瞳はビクリと脅えの色を発した。


今までヘラヘラと人を小馬鹿にした態度や表情ばかりを浮かべていた男。


そんなユージーンの初めて見せる目に、ルードヴィッヒは恐怖を感じた。


「ジーン!ルーイに乱暴はやめて。それと…私を立たせて?」


「姫様?」


「さっきジーンも言ったでしょ?見た方が早いから」


「……姫様の仰せのままに」


ユージーンは彼女の両脇に手を入れると、椅子から立ち上がらせる。


いや、正確には彼女の身体を持ち上げた。


蓮姫はユージーンに支えられ、自分の足で立っているように見える。


しかし彼が手を離すと、その身体はガクンと床に崩れ落ちた。


ホームズ子爵は彼女の側に駆け寄ると、蓮姫に声をかける。


「やはり……立てないのですか?」


「はい。ホームズ子爵、私は立てません。わかり辛いかもしれませんが、目もまだ見えないんです」


「嘘……だろ?…本当に『人魚病』じゃないのかよ?まさか…この『人魚の涙』が偽物?」


そんなルードヴィッヒの仮説を打ち消すように、ラピスは首を振って答えた。


「ルーイ。アレは間違いなく本物の『人魚の涙』。子供の頃から見てたもの。私達…アクアリア王家が見間違うはず無い。それに…あんな大きさの青真珠なんて、そうそう用意できないわ」


「じゃあ……マジで…」


「やっと理解できたようですね。恐らく姫様同様、他の娘達も回復していませんよ。そして……ここからが…本題です」


ユージーンがイザベラの方を見ながら、ゆっくりと静かに口を開く。


それはさながら、死刑宣告のようだ。


「一体誰が?何の為に?『人魚病』にわざわざ見せかける病を?どうやって?……ねぇ?イザベラ様」


「ひ、ひぃぃいいいいぃ!!」


イザベラは狂ったように叫びながら、扉へと一直線へと駆け出した。


あまりの展開に呆気にとられる一同。


だがユージーンはそんなイザベラの行動が読めていたのか、素早く彼女の前に回り込み、イザベラを拘束する。


「は、離して!離しなさいっ!!」


「離すわけ無いでしょう?貴女馬鹿なんですか?」


「お母様っ!!」


「おっと!ドロシー嬢。考え無しに動かないでもらえますか?」


血だらけの男に捉えられた母親。


そんな母親に悲痛な叫びをかけるドロシーだが、ユージーンはその母親にナイフを突き付けた。


あまりにも異常な光景に、王妃も口をパクパクと大きく何度も動かしながら立ち上がる。


それは彼女の息子も同じ。


「おい!お前何してんだ!!」


「黙ってろっつんですよ、馬鹿王子。ここからが本番……面白いとこなんですからね」


「な!?おい!蓮!!お前の従者だろ!止めろよ!!」


ルードヴィッヒの怒り…混乱は未だ床に蹲りホームズ子爵に支えられる蓮姫へと向けられる。


だが蓮姫は、ルードヴィッヒの様子を感じ取りながらも静かに告げた。


「ルーイ。ジーンの好きなようにさせて。ロゼリアにとっても、アクアリアにとっても、大事な事なの……とても」


蓮姫の言葉にルードヴィッヒはグッと口を紡ぐ。


自分を映すだけで見てはいないの黒い瞳。


見えているはずは無いのに、射抜かれたような気がした。


それ程にルードヴィッヒは蓮姫に気圧されている。


「やれやれ。これじゃこっちが悪者みたいじゃないですか」


はぁ、と溜息を吐きながらユージーンは呑気(のんき)に話す。


勿論、イザベラに突き付けたナイフはそのままに。


誰がどう見ても、この場で一番の悪者は彼にしか見えない。


「は、離して!!」


「イザベラ様。騒がないで下さい、と言ったはずですけど?」


「み、見逃すと約束したのに!」


「確かに約束しましたね。でも……約束を守る…なんて一言も言ってませんよ」


無茶苦茶な事を言いながら、ナイフをイザベラの首元にチラつかせるユージーン。


しかし、イザベラが『人魚病』の件に関係している事は、彼女の言葉、様子から明らかになっている。


イザベラはガタガタと震えながら懇願した。


しかし次に彼女の口から出たのは予想外な言葉。


「や、やめて!何でもするから!それだけはやめて!!傷をつけないでぇ!!」


その言葉に、この場にいた全員が困惑する。


顔に傷をつけるな、とでも言っているのか?


しかしその怯え方は尋常では無い。


イザベラは今、死よりも、罪を明らかにされるよりも、傷を付けられる事を恐れている。


その証拠に、ナイフの先が喉元から顔や手へ移っても彼女の顔から恐怖が和らぐ事は無い。



何故?



「気の毒ですけど……それは聞けませんね」


スパッ!!


ユージーンがイザベラの頬を薄く、切りつけた。


本当に、一筋だけ血が流れる小さな小さな切り傷。


だが、次の瞬間…。


「ぃやぁあああぁぁあ!!やめてぇ!!見ないでぇ!!」


イザベラは耳をつんざくような悲鳴を上げる。


ただナイフで顔を切られただけ。


それも極々(極5)小さな傷を。


しかし彼女は狂ったように泣き叫び、顔を必死に背けた。


何が起こっている?


何故そこまで?


イザベラは何を恐れている?


「今更でしょう?さぁ、その顔を……貴女の瞳を見せて下さい」


ユージーンは片手でイザベラの両手を後ろにまとめると、残った片手を彼女の顎に当てて、グイッと乱暴に顔を上げさせる。


イザベラは顔を左右に振りながら、ユージーンの手を払おうとするが、それは叶わない。


ただ、最後の抵抗とでもいうように、両目はギュッと固く閉じている。


「あのですね…いい加減観念して下さいよ」


ユージーンが何か耳元で囁くと、イザベラはあれほど抵抗していたのが嘘のようにゆっくりと瞳を開いた。



黄緑色の瞳。



その瞳には……蔦のような模様がリース型に、薄っすらと白く浮き上がっていた。


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