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彼女は弐の姫 3


それからこの双子と、蓮姫と名付けられた女性は共に過ごした。


必要以上に接せず、近付かず。


二人は彼女が心を開くまで辛抱強く待った。





「ちょっと!二人共聞いてる!?」


「すまない。聞いていなかったよ」


「はぁ!!?」


「ユリウス」


「そんな顔をしないでくれ二人共。綺麗な顔が台無しだ。特にチェーザレ」


「お前とほぼ変わらん顔だ」


「だからでしょ。はぁ…なんかバカらしくなっちゃった」


この二人に本気で怒っても自分じゃ敵わない。


二人は自分が本気で嫌がる事などしないと、蓮姫はこのひと月で実感している。


「蓮姫は優しいね。名付け親として嬉しい限りだ」


「私が蓮の姫なら…二人はシーザー?」


「私達の名の由来を知っていたのか?」


「そりゃね。私も二人のお母さんと同じ、想造世界の人間だから」


シーザーとはかつてのローマの政治家でもあり軍人でもあったジュリアス・シーザーのこと。


ユリウス・カエサルやジュリオ・チェーザレという名でも知られている。


「蓮姫は博識だね。壱の姫は俺の事を『星と同じ名前?』と言っていたらしいよ」


「………あぁ。シリウスと間違えたんだね」


「雑談もいいが、蓮姫。そろそろ勉学の時間だ。今日は今までの復習をするぞ」


チェーザレの言葉を合図に、三人は向かい合うように椅子に腰掛けた。




この世界は想造世界によって造られた。



想造世界とは女王や姫が生まれ育った世界の事を指す。


想造世界の人々の想いが集まり、積み重なって具現化したものがこの世界。


「なんでこの世界には名前が無いの?」


「君達だって自分の世界に名前なんて付けていないだろう?俺達も同じ事さ」


この世界の女王となれるのは想造世界から来た女性のみ。


この世界の人間が王となる事は…今は無い。


想造世界の人間はこの世界の人間よりも遙かに想像力が豊かであり、その想像力こそがこの世界の創造へと繋がる。


この世界には数百年に一度、必ず想造世界の女性が現れ次代の女王となる。


「また質問。男の人は来ないの?」


「極々稀に現れる事もあるよ。でも彼等は男だから王になる権利は無い。幸いにも母上の代には現れなかった」


「なんで男は王様になれないの?普通王位につくのは男でしょ?」


「遙か昔、王になった男が居たが………美女に溺れて国を三つ滅ぼした。次代の女王が直ぐに現れたから三つ程度ですんだが……多くの命が犠牲となったらしい」


「世に言う『傾城の時代』だね。男に任せると国が滅びる。他にも想造世界の男が世界を滅ぼそうとした事もあったみたいだし。だから徹底した女王制度になったんだよ。女性の方が男よりも想像力豊かで度胸もあるから」


女王はこの世界では約1000年の寿命を持ち、その寿命を減らしながら想像力を力に変える。


力とは魔法だったり身体能力だったりと様々なものがある。


その力によって、この世界には天馬や竜、人魚等、人以外にもあらゆる種族が暮らしている。


「いやはや。君達想造世界の人間は素晴らしいね。自分の世界に存在しないものを簡単に思い描けるのだから。勝手に有り得ない物を想像して喜んだり、崇めたり、恐れたりする。大人も子供も関係ない」


「確かに神や天使を崇めている人達もいるし、子供はオバケとか怖がる。他にもファンタジーな漫画やゲーム、映画もたくさんあるし………そう考えると、私達って幼い頃からいろんな事を想像しながら生きてるのかも」


女王の寿命が尽きる前、力が衰えた頃には次代の女王となる女性が現れる。


その女性は女王となるまでの間、現女王の在籍中は姫と呼ばれる。


次代の女王は姫のみだが、姫が複数現れる事もある。


その場合は現れた順に壱の姫、弐の姫と呼ばれ王位を競うこととなる。


無用の争いを避ける為、女王となれた姫以外は強制的に想造世界に帰される。




「…で、ユリウスとチェーザレのお母さんが現女王様」


「そうだよ。他にも種違いの兄弟が何人も居るけど………ほとんど会った事がない」


「母上は500年以上生きてるからな。私達は一番末だ。上の兄上達など、もう死んでいる。現在生きている女王の実子は、私達を含めて四人だけだ」


「前から聞きたかったんだけど……女王様の息子なら二人は王子様じゃないの?なんで……」


「なんで城ではなく、こんな塔に二人で住んでいるのか?かい?」


こんな塔……とは女王の住まう城とはかなり離れた、この王都の端にある空高くそびえる塔。


そして現在三人が暮らしている、この塔の事だ。


二人は子供の頃からこの塔に住んでおり、女王に呼ばれた時しか登城することはない。


「君も知っているだろう?俺の素晴らしい能力を」


「……はた迷惑な能力の間違いだよね?」


ニッコリと笑みを向けるユリウスとは対照的に、蓮姫はこめかみに青筋が浮かぶ。


「女王の実子には稀に特殊な能力を持つ者が産まれる事がある。ユリウスのように他人の夢に干渉したり、動物と話せたり、千里眼だったり、不老だったりと能力は様々だ」


「能力者は爵位も官位も与えられない。只でさえ変な力があるのに、それ以上に権力や人脈までつけると面倒だからね。本人にその意思がなくても、周りが女王や貴族への反乱、他国への侵略に利用する可能性もある。だからこの塔に二人で住んでいるんだ」


『23年間ずっとね』とユリウスは笑うが、それは完結に言えば軟禁状態と同じだった。


あまり深く聞いてはいけない気がした為、蓮姫は話を逸らす事にした。


それは蓮姫がこの世界や女王、もう一人の姫について聞いた時から気になっていた事を……。


「壱の姫は今、何処で何をしているの?それと……私は…」


「先ずは壱の姫について答えよう」


蓮姫の言いたい事がわかったユリウスは蓮姫の言葉を遮るように言った。



彼女は心の傷が癒えたばかりだ。



だからまだ………その先の事を考えないでほしいと、そう思ったから。



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