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彼女は弐の姫 2



あの悪夢のような日々からひと月。


暗闇の中で泣いていた女性は


「ユリウス!勝手に私の夢に入るのはやめてって何度も言ったのに!!」


自分を助けた男に怒鳴り込んでいた。


「いやぁ…君の夢は居心地いいからね。昨夜の夢に出てた遊園地?だっけ。あそこは楽しかった。特に天馬より早い乗り物にクルクルと回りながら空高くまで昇る乗り物は絶品だ。楽しかったからまた夢に入りたくなる。だから今夜も行きたいんだけど、ダメ?」


「ダメに決まってるでしょうが!!」


毎晩夢に入り込まれれば、プライバシーを侵害されたような気にもなる。


蓮姫れんき。また大声を出してどうした?」


「チェーザレからもなんとか言ってよ!」


「言ってもユリウスには暖簾に腕押しだ」


「その通り!」


「威張るな!バカ!!」


ギャンギャンと仔犬のように一人で吠えまくる蓮姫を見ながら、ユリウスとチェーザレは安堵していた。



「一時はどうなることかと思ったが、元気になって良かったな」


「元気過ぎる。元気過ぎて最近は夢でも現実でも怒られてばかりだ」


「………それはお前が悪い」


ユリウスとチェーザレは蓮姫に聞こえないように小声で話す。




ひと月前


彼女は目覚めてからもずっと怯えていた。


何も身に纏っていない姿。


身体中に散らばった鬱血のあと。


手首にある鎖に繋がれ赤い擦れたような傷。



乱暴されたのだと、誰でもわかる姿だった。



ガチャ



目覚めた彼女がドアの方へ視線を向けると、そこには二人の青年が立っていた。


「目が覚めたのかい?良かった。三日も眠り続けていたから心配していたんだ」


「っ!!」


彼女に恐怖を与えないように人当たりの良さそうな笑みを浮かべ、優しく声をかけるユリウスだったが、ソレは彼女にとってなんの意味も持たなかった。


自分を見つめる二人の男の姿に、彼女の身体はガタガタと震える。


「無理もないが怯えないでほしい。確かに俺達は男で君は魅力的な女性だ。全くもってなんの反応もしない訳じゃないが」



ガンッ!!



あまりにも無神経な兄の言葉を途切れさせたのはチェーザレの鉄拳だった。


「~~っ!!君はなんでそう手が早いんだ」


「バカか!!かえって怯えさせてどうする!……すまなかったな。私はチェーザレ。コレは愚兄のユリウス。恐いだろうが……大丈夫だ。私達はお前に何もしない」


「…………………」


「三日も寝ていたんだ。喉が渇いているだろ、水でも飲め」


「っ!!」



バシッ!!



彼女は反射的に、チェーザレから差し出されたコップを振り払った。


水は零れコロコロとコップが床に転がる。


罪悪感はあっても彼女は謝る事が出来なかった。


気など許したが最後、また同じような目にあわされると思ったから。


ユリウスはコップを拾うとチェーザレと同じ仕草で水を注ぎ、一口飲む。


「毒も薬も入ってないよ。だから安心して飲んで。もう一度言うよ。俺達は、君に、何もしない。邪魔なら別の部屋に居るから、その間に飲めばいい」


「腹も減っているだろうから、後で粥でも持ってこよう」


優しい笑顔を浮かべ声を掛けてくれるタレ目の男と、無愛想にも自分を気にかけているツリ目の男。


疑念は晴れない。


それでも彼女は先程の行為に対して罪悪感が膨らんできた。


「そうそう。部屋を出る前に名前を教えてくれないかな?」


「………………………」


「名前が無いと、いつまでも君を呼べないからね。あぁ、大丈夫。本名じゃなくても構わないよ」


「…………………………」


「喋りたくもないか?それとも…お前喋れないのか?」


「…………………………」


「仕方ないね。そうだな………今の時期は月光蓮が見頃だから……」


「…………………………」





蓮姫(れんき)。そう呼ぶよ」



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