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人魚姫と王子 1


むかしむかし


人魚と人間は友達でした


人間は海を荒らさず


陸の恵みを人魚に与えました


人魚は陸へと踏み入れず


海の恵みを人間へと与えました


(あか)い人間の王国と


(あお)い人魚の王国は


そうやってずっと仲良く


暮らしていました



そして


ある嵐の日に


蒼い人魚の姫は


紅い人間の王子を助け


彼に恋をしてしまいました


王子に会うために人魚姫は


美しい声と引き換えに足を得て


紅い人間の王国へと


その足を踏み入れました


王子に愛されるために


しかし王子は自分を助けた姫に気づかず


別の女性を愛しました


人魚姫は人魚の証の尾びれを失い


海にも戻れず


足を得ても人間でないため


陸に馴染むこともできませんでした


悲しみに暮れ


涙を流す人魚姫


そんな人魚姫の姿を嘆く姉達は


自分達の髪と引き換えに


魔法の短剣を手に入れ


人魚姫に渡して言いました。


この短剣で王子の命を奪えば


人魚姫は再び人魚へと戻れると


王子を愛した人魚姫は


王子を殺す事などできず


泳げない身体のまま


海へと身を投げました


悲しい


悲しい



恋の物語。









しかし


それで物語は終わりませんでした


蒼い人魚の王国


一番美しく優しい末の人魚姫


彼女を失った蒼い人魚の王国は


紅い人間の王国に


病気を蔓延(まんえん)させました


王子の為に声を失った人魚姫のように


末の人魚姫を救うために髪を失った姉達のように


ある者は視力を


ある者は臓器(ぞうき)の機能を


ある者は腕の感覚を失いました


何かを失う病


まるで呪いのような復讐(ふくしゅう)


その時代の女王が想造力(そうぞうりょく)で治すまで


その(やまい)は紅い人間の王国の者達を苦しめました


(のち)に『人魚病』と伝えられた病


悲しい恋の物語は


女王にしか治せない疫病(えきびょう)を生み


蒼い人魚の王国と


紅い人間の王国の友好(ゆうこう)


粉々(こなごな)に打ち消しましました


それから蒼い人魚の王国アクアリアと


紅い人間の王国ロゼリアは


敵対関係となったのです




そして月日は流れ


あの悲しい恋の結末から


数百年後…………


ロゼリアの端……北西の灯台(とうだい)


真夜中に灯台の下でランプを持ち、海を(なが)める青年が一人。


彼は何をするでもなく、ただただじっと海を見つめる。


パシャンッ!


「っ!」


ふいに海で何かが跳ねた。


それを見た瞬間に彼は岩場へと全力で走り出す。


辿り着いた岩場の向こうに居たのは


美しい人魚。


「ラピスっ!!」


「ルーイっ!!」


彼は人魚の名を叫ぶと、同じように自分を呼ぶ人魚の元へ……海へと飛び込んだ。


泳ぎが得意ではないのか、必死に泳ぐ青年。


人魚は倍のスピードで辿り着き、二人は固くお互いを抱きしめあった。


「ルーイ!来てくれたの!?」


「当たり前だろっ!!俺が約束を破った事なんてあるかよ!」


不安げな……しかし嬉しそうに尋ねる人魚に、彼は腕の力を強めながら答えた。


しかしすぐに、人魚の顔も声も曇りだす。


「でも……ルーイ…貴方は…もうすぐ婚約するんでしょ?」


「アクアリアにも……話は届いてたのか」


「えぇ。ロゼリア王家の話は直ぐに私達……アクアリア王家に伝わるわ。ロゼリア国王……貴方のお父様が亡くなった、って」


「あぁ。父上は死んだ。だから母上が必死に俺の婚約者を…ロゼリアの跡継ぎを産む妃を探してる。でも!俺が愛してるのはラピスだけだ!!」


「……ルーイ…」


「子供の頃からずっと……ずっとずっとラピスだけ好きだった。今も……これからも。他の女なんて…いらねぇよ」


青年はそう呟くと、愛しい人魚姫へと口づける。


ロゼリアの王子と、アクアリアの人魚姫。


許されない二人の恋。






二人の逢瀬から一時間後。


蓮姫とユージーンはロゼリアへと続く街道を歩いていた。


蓮姫がズンズンと前進し、その数歩後ろをユージーンがついて歩く。


何故このように歩いているか?


それは蓮姫がユージーンに対して、怒り心頭(しんとう)だから。


「姫様~?」


「………………」


「いつまでむくれてるんです?あ、そこは左ですよ」


「っ、………」


「そんなに怒ること無いじゃないですか。ピアスはきちんと返したでしょう?」


「………………」


「それとも、過去を(のぞ)いたことに怒ってるんですか?」


「………………」


ユージーンに話しかけられても、蓮姫は振り返らずに進む。


このような事になったのは数時間前。


ユージーンが蓮姫に、レムストーンのピアスを返し、ついでに彼女の過去を覗いたことを白状してからだ。


実は蓮姫……あの宿屋で犠牲者達を埋葬した後、必死にレオから貰ったピアスを探していた。


刺客達に襲われた時に、部屋で落としたのだろうと、ずっと気にしていたから。


しかし、いくら探しても結局は見つからなかったが。


それもそのはず。


ピアスはユージーンが持っていたのだから。


傍目(はため)にもわかるくらいに、ピアスをなくしたと落胆(らくたん)した彼女。


しかしユージーンが渡したのは、宿屋を出て1週間も経ってからだ。


自分にとってどれだけあのピアスが大事か、なくしたと思いどれだけ辛かったか……わかっていながらユージーンは、ずっとピアスを隠し持っていた。


怒るな、という方が無理な話だ。


「姫様~?いい加減に機嫌を直してくださいよ。俺が悪かったですって」


さすがにずっと無視をされ、ユージーンは蓮姫の前へと立ちはだかる。


蓮姫は諦めたように……そして呆れたようにため息を吐いた。


「姫様、幸せ逃げますよ?」


「誰のせいだ、誰の。はぁ………ピアスの件も過去を覗かれた事も……ムカつくけど…もういいよ。ピアスも戻ってきたし、記憶消せって言っても無理だし」


「じゃあ問題無いですね」


「問題があるとしたら……ジーンの髪型」


「えっ!?俺ちゃんと短くしましたよ!姫様の言う通りに!!」


ユージーンは短くなった銀髪を自分で引っ張り主張する。


蓮姫に自分の長い髪を「ウザい。切れ」と言われたユージーンは、彼女の命令通りバッサリと切った。


腰まであった長い銀髪は、肩にもつかない程に短くなっている。


しかし彼女が気に入らないのは長さではない。


「ショートにしたのはいいよ。でもさ………なんで前髪……てか左目だけ隠れてんの?」


蓮姫が気に入らないのは、ユージーンの髪型だった。


彼は元々前髪も長かった(千年間放置していた)が、何故か左側は顔半分を隠すように分けている。


これでは彼の黄金の瞳は誰にも見えない。


蓮姫の主張に、今度はユージーンの方がため息をつく。


「姫様……どんだけ髪型にこだわるんですか?しかも人の」


「なんかカッコつけてんのがムカつく」


「カッコつけてんじゃありません。カッコつける必要が無いでしょう?俺は」


イラッとくる言葉をサラッと吐くユージーンだが、彼の美貌(びぼう)はソレを充分に肯定している。


過去に女王を二人たぶらかした美貌は伊達では無い。


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