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閑話~リュンクスと藍玉~



訳がわからない。


蓮姫の奴………まるで抜け殻か人形みたいになった、という噂だったはず。


しかしどうだ?


あいつは自分の意志で、この王都を出た?


自分のヴァル……味方を探すためとはいえ……どうもおかしい。


兄上が接触したとは聞いていたが……。


あれだけ気をつけろ、と言ったのに……所詮あの人の能力の前では無意味だったか。



「殿下。お部屋に戻りませんと」


おっと。


今は、人目がある。


真面目に考えたりはできないか。


「嫌なのだ~!!余はもっともっと遊ぶのだぞー!!お前~!馬になれ~!!パカパカするのだ~!」


「ちっ。この『馬鹿王子』。世話をする身にもなれってんだ」


聞こえてるんだよ、馬鹿はお前等の方だろうが。


(はた)から見れば、『哀れ者』を幼い頃から世話してる、献身(けんしん)的な使用人。


俺と二人の時は大きく舌打ちしたり、小声で馬鹿にして身下す奴。


こいつに限った話じゃないが。


ホントにどいつもこいつも、一緒だな。


そういえば………本性を見破っただけじゃない……俺を馬鹿にしなかったのは……蓮姫だけか。


母上は馬鹿にはしないけど、哀れんだ目で俺を見てるし……。


あとは………もう一人。



「やぁ、リュンクス。久しぶりだね」


「っ、な、なんなのだぁ!?余を呼び捨てるなど無礼なのだぞー!!誰だお前はー!!」


ちっ。


考えてたら本人が来たか。


「ら、藍玉様!!」


「あぁ、君か。僕はリュンクスと二人で話があるから、君は下がりなよ」


「は、はい!失礼致します!」


あ~あ、あんなに慌てて走って…あ、コケた。


ざまあみろ。


しかし、相変わらずふてぶてしい人だな。


「さて、部屋に戻ろうか」


「い~や~な~の~だ~!余は遊ぶのだ!!それに知らない者について行ってはいけないのだぞ!!」


兄上と部屋で二人きりとか冗談じゃない!!


なんとか馬鹿なりに逃げないと!


「僕は君の兄上だから勝手に君を連れてってもいいの。ほら、行くよ」


「嫌なのだ~!!」


「僕も嫌だから」


おい


馬鹿相手に真面目に返すなよな。


ったく、このまま逃げるか。


ガシッ!!


げ!


襟首(えりくび)掴みやがった。


「さぁ行こう」


「い、いい嫌なのだ ぁ~!!離すのだ!は、ははうえぇ~!!ぅあ~ん!!」


泣いてはみたが………無意味みたいだな。


ズルズル引っ張られる俺はかなり滑稽(こっけい)だ。


逆に兄上は超ニコニコしてるっぽいし。


このドS。


藍玉兄上なら城の人間も口は出さないし……やばいな。


わかっててやってるから、本当にこの人はタチが悪い。



ー城内・東の塔最上階ー


「失礼するよ」


「勝手に入るな~!ここは余のお部屋なのだぞ!!余より先に入るとは何ごとだー!!」


「別にいいじゃん。ケチケチしないでよね」


部屋の主より先に椅子に座ってくつろぐとか………ホントこの人は遠慮ないな。


つか、なんなんだ?一体。


「さてリュンクス。君に話があるんだけど聞いてくれるかな?」


「余はお話ではなく、遊びたいのだ!!」


「遊びねぇ。確かに馬鹿なフリを続けるのは遊びかもね、リュンクス」


「っ!?ば、馬鹿ではないのだ!!余を馬鹿にするとは何ごとだー!!」


おいおい。


マジかよ。


まさか兄上は知ってるのか?


「真面目に君と話したいんだけどな。幸い此処には君と僕。二人だけでしょ」


どうする?


兄上は能力を使っているのか?


もし使っていないのなら最後まで(あらが)うことも……


「何を言っているのだぁ!余と遊ばないのなら出て行けー!!」


「………リュンクス。能力使われるのと、自分で明かすの、どっちがいい?」


「………………いつから気づいていたんですか?兄上」


結局俺は折れた。


能力を使われたら抗うすべは無い。


なら自分の意思でバラした方がいいに決まってる。


「最初からだよ。まぁ、そんな話はどうでもいいじゃない」


「俺にとってはどうでも良くないんですけど?」


「そう?でも僕がしたい話は別だから」


「はぁ。兄上に逆らう事ほど、無意味な事はありませんからね。なら本題に入りましょう」


兄上が初めから俺の演技に気づいてたのは驚いたが………聞いたところで答えてくれないのなら時間の無駄。


ならば、さっさと話を終わらせて丁重にお帰り頂くに限る。


「聡い弟達ばかりで助かるよ。僕はいい弟を持ったよね。で、簡潔に聞くよ。君は弐の姫の味方をしたい?」


「兄上は弐の姫の肩をお持ちなんですか?末弟達と同じように?」


「そうだね。弟達と同じだ」


わざわざ弟と言い直すあたり、ホント人が悪い。


「なんたって、あの子は君の演技をひと目で見抜いたんだから」


「なんでもご存知なんですね、兄上は」


「そうだね」


俺の嫌味に何故か楽しそうに笑う兄上に、少しばかり疑問が浮かぶ。


まぁ、聞いても答えてくれない人だから、いちいち気にしてたら負けだ。


「確かに、弐の姫に好感は持てますよ。しかし兄上の方はどうですか?」


「ユリウスとチェーザレにも言ったんだけどさ、僕は何もしていないからね。決めたのは弐の姫だから」


あ、ヤバい。


地雷踏んだか?


顔は笑ってるけど苛ついてるのが超わかる。


俺が軽くビビってるのが通じたのか、兄上は話を戻す。


「あの子はさ……茨の道を、傷つくのをわかってて進むと決めたんだよ。だから、あの子の応援くらいしてあげたいな、って」


兄上は珍しく淀みない笑顔で話す。


だが、そんな兄上は不審にしか映らなかった。


「応援?兄上がそれ程までに蓮姫に固執するのは何故です?」


「彼女を気に入ってるから、だよ。そもそも壱の姫と弐の姫。優遇されるのは壱の姫だけど、彼女達の本質を知る人間は、どちらが女王に相応しいのか……もう見極めてるでしょ?特に………馬鹿なふりをして、壱の姫や貴族達の周辺を嗅ぎ回ってた誰かさんは、さ」


何もかもお見通しだ、と俺を見る兄上は本当に得体がしれない。


不気味で他人からは勿論、兄弟達からも恐れられているこの人だが、それすらもこの人の能力によるものかもしれない……と思う。


まぁ、どうせバレてるなら俺の知ってる情報くらい伝えても問題無い………というか、能力使われる前にはいた方が楽だ。


「壱の姫はまったくもって学習の成果なんて出てませんよ。少しは学んでいるでしょうが、ほぼ毎日、蘇芳殿とおしゃべりしたり散歩したり、貴族のパーティに呼ばれてるだけ。壱の姫に媚びてる貴族達も汚職のスペシャリストが多い」


残念極まりないが、これが母上が収める世界の中心……王都の現状だ。


兄上も当然わかりきっているのか、俺の話に補足する。


「母上は政治にあまり干渉しないで、サフィール殿に任せる事も多い。それ故に貴族達は好き放題出来てるからね。次の女王はお飾りに越したことはないし、媚を売れば地位も盤石。弐の姫の存在なんて、これっぽっちも気にしてないだろうなぁ」


「だからこそ、貴族連中は万が一にも壱の姫じゃなく弐の姫に王位につかれるのは困る。今回の弐の姫の行動に便乗して、彼女を王位継承権から外したいんでしょう」


「そんな甘い考えの奴らばかりじゃないよ。既に刺客を送った者もいるんだから」


「は!?そんな馬鹿な!相手は姫ですよ!!」


「バレなきゃ問題無い、とか考えてる馬鹿もいるからね。貴族達の動向やら、噂を人以上に知ってる君なら……何人か想像つくでしょ?」


確かに心当たりはいくつかある。


女王や王都に誠実なフリをしているが、何か問題が起これば、原因となる人物を排除しようとする貴族達。


それでまた母上に媚を売りたいだけなのは丸わかりだが。


「女王の実子の権力で止めるのは簡単だけど……それじゃ面白くないからね。君にはこのまま馬鹿なフリを続けて手札を増やしてもらいたいんだ。弐の姫が戻ってきた時、彼女にとってとても有利になるからね」


随分と真面目に考えてるらしい。


まぁ、兄上に言われなくとも、まだ演技は続けるつもりだし……。


俺に断る理由は全くない。


蓮姫の事を末弟達ほどではないにしろ、気に入っているのも事実だから。


「わかりましたよ。兄上のご命令に従います」


「うん。ありがとね」


話は終わった、とばかりに兄上は扉に手をかける。


「っ、兄上っ!!」


本当に無意識に兄上を呼び止めてしまった。


おそらく兄上は、近いうちに王都から出てミスリルへと戻る。


だからこそ以前からの疑問……ソレを今のうちに確認したかった。


「なんだい?」


兄上は俺が叫んだにも関わらず、まったく動揺していない。


いつものように底の読めない笑顔で振り向くだけ。


まるで俺が呼び止める事を知っていたように。


「…兄上は……昔から兄上だけは、俺を見下さなかった。哀れむこともなかった」


「うん。知ってたからね。それはもう、さっき気づいたでしょ?」


「俺だけじゃない。兄上は末弟達も普通に接してきた」


「君はあまり親しくない末弟達と、ね」


痛い事を……。


確かに俺はユリウスとチェーザレ……というか、能力者は苦手だ。


「その上、僕の可愛い弟達は僕を怖がって、近づこうともしない。悲しいよね」


それはすみませんでしたね。


でもそれは、能力以前に性格に問題あるからだと気づいて………言ってるんだろうな、性格悪いから。


「それがわかっていて………何故です?」


「そんなの決まってるでしょ。君達の事を、気に入ってるからさ。とても、ね」


バタン


言いたいことだけ言って、さっさと兄上は行ってしまった。


あの人が一番、母上に似てるんだよな。


さて、なら兄上の企みに便乗するか。


俺達兄弟に気に入られてしまった、俺達の友人が帰ってきた時に


大きな味方となれるように。

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