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残された者達 4


【カインと将軍二人】


-庶民街-


「おぅ!カインっ!!どうだ調子は?」


「蒼牙のオッサン!…………と、天馬将軍様かよ」


カインが庶民街復旧の為、材木を運んでいると後から蒼牙と久遠が声を掛けてきた。


声を掛けてきたのは蒼牙だけだった為に、振り向いたカインは久遠を見ただけでしかめっ面になる。


「なんだ?また俺を捕まえに来たってのか?」


「俺もそんな暇人(ひまじん)ではない。だが、自分から言うとは……また何かしでかしたのか?」


「よせ二人共。まったく……同期なのになんで仲良く出来ないんだ」


「セネットは二週間で上官を殴り倒し、軍をクビになりました。そんな者と一緒にしないで頂きたい」


「俺だって貴族しか守んねぇ、立派な軍人様と一緒にされたくねぇよ」


火花を散らす様に睨み合う二人の様子を、蒼牙は苦笑しながら見ていた。


この二人は本当に素直じゃない。


貴族嫌いのカインだが、貴族の出でも民を大切にし、庶民街にもよく巡視に来ている久遠を彼は心底嫌ってはいない。


久遠もカインの正当性を知っている為、貴族からカインを捕縛するよう圧力をかけられても(あらが)ってきた。


以前庶民街に来た時は、蓮姫の事や部下の手前もあり、ひとまず拘束はしたが……。


軍に入った時は意気投合していた二人だが……カインが軍を抜けた事から、この様なギスギスした関係になっている。


「で?何しに来たんだよ?」


「ヴェルト公爵からの要請だ。なんでもメイドが二人、失踪したらしい」


「は?なんでメイドが居なくなったくらいで、将軍のお前が出張ってんだ?」


「飛龍大将軍から気になる話を聞いたからな……」



久遠の話はこうだ。



今朝メイドが二人居なくなったと、軍に届け出があった。


蒼牙が特徴を聞くと、そのメイド達とは蓮姫に嫌がらせをしていた、あの二人組のこと。


蓮姫が王都を出た事は、朝になって国中……そして昼には世界中にも知れ渡った。


だが公爵邸、軍、城内の人間には夜中のうちに通告されている。


蒼牙が公爵達には伝えない、という理由で公爵邸のメイドや使用人達に聞いてまわると、彼女達はありとあらゆる嫌がらせを蓮姫にしていた常習犯らしい。


「つまり、自分達のした事が原因で蓮が出ていった……そう思って公爵の邸からトンズラした…ってことか?」


「わからん。あくまで可能性の話だ。だが、弐の姫の世話を主にしていたのはその二人。だからこそ、弐の姫が戻って来た時の為にと、公爵様より命を受けたんだ」


「はぁ!?蓮が戻って来たら、そいつ等にまた世話させる気かよ!何考えてんだ!公爵ってのはモウロクしたジジイかよ!」


「セネット。口を慎め。大体、公爵様にその様な事実を伝える訳にはいかない。知っている者達で内々に片付けるべき事だ。それになんだ?弐の姫に対して、いつまでも友人気取りで『蓮』などと」


「お前だって弐の姫って言ってんじゃねぇか。壱の姫には様つけてるクセに」


「やめろと言ってるだろ、二人共。カイン。そのメイド達を見かけなかったか?」


いつまで経っても喧嘩を止めない二人の仲裁に入り、蒼牙は庶民街へと来た当初の目的を果たそうとする。


メイド達の髪の色、髪型、目の色や体型等、事細かに蒼牙は説明するが、カインの答えはNoだった。


「今日は朝から庶民街を走り回ってたけどよ、そんな奴等は見てねぇな」


「そうか。……話は変わるんだが……カイン……あれからマチルダはどうだ?」


蒼牙がその名を口にした瞬間、全員の顔色が変わる。


久遠も蒼牙から事の成り行きは全て聞いていた為に、カインの言葉を黙って待った。


「おばちゃんなら、もう起き上がって世話してもらってる家の家事とか手伝ってるぜ。……………身体の方は…もう平気みてぇだ」


カインは含みのある言い方をする。


身体は回復した。


つまり


心の傷は癒えてなどいない、という事。


「未だ弐の姫を恨んでいる、という事か」


「あぁ。蓮が王都を出たって報せを聞いた時なんか……凄かったぜ」


反乱軍が王都を攻めたのは、王都に弐の姫が現れたから。


エリックを激しく燃える家の中から救い出したのは蓮姫だ。


自らの危険も生命も(かえり)みずに、蓮姫は迷う事なく燃え盛る炎へと突っ込んだ。


しかし、エリックを助けたのが蓮姫でも、蓮姫さえいなければエリックが死ぬ事は無かった。


エリックの母親の心には、弐の姫のせいで息子が死んだ、という事実しかない。


「何度もおばちゃんと話そうとしたんだ。でもよ、蓮の話だとわかると怒り狂って叫びだしたり、物投げたりでさ。でもよ『わかった!やめるよ!もう言わねぇ!!』って言うとピタッ!と落ち着きやがる」


「弐の姫様の件に関しては、まともに喋ることも出来ん……か」


予想以上のマチルダの様子に、蒼牙は頭を抱える。


「今のマチルダは恐らく……弐の姫様を恨む……それだけで生きているようなものだろう」


「仕方のない事です。むしろ当然でしょう」


「なんだとっ!?」


聞き捨てならない久遠の言葉に、カインは久遠の胸ぐらを掴みながらくいかかる。


それでも久遠は眉一つ動かさずに、淡々とカインへと言葉をかけた。


「壱の姫様が現れてから弐の姫が現れるまでのひと月。反乱軍も大きな動きは無かった。レムスノアで騒ぎを起こしたのも、弐の姫が現れてからだ。弐の姫がいなければ、奴等が攻め入る事は無かった……そう思うのも道理」


「ソレをなんとかするのが、俺達の……俺の役目だったがな」


「……おっさん」


「…飛龍大将軍……口が過ぎました。申し訳ありません」


蒼牙の言葉に、カインは久遠の胸から手を離し、久遠もしおらしく謝る。


「お前等が謝ることじゃない。気にするな。……しかし…反乱軍は引き返しただけで、大きな打撃も受けてはいない。反乱軍にも今回の弐の姫様の行動は知れ渡っているはず。 そんな中、弐の姫様は王都を離れられた」


「自殺行為です。そもそも陛下の御言葉とはいえ……あの弐の姫の様子からは、今回の事は想像も出来ない。第三者の介入が一番疑わしいのでは?」


「誰かが蓮を連れ去った……って事かよ」


「いや、それはないだろう、久遠殿。陛下は、弐の姫様が自ら城へと足を運び陛下へと出発の許しを乞うた、と言っていた。陛下も弐の姫様に王都を出る許可を出した、と仰られていたからな」


「はぁ……ますます分かりませんね。何故弐の姫は王都を?」


ため息をつく久遠、ただ黙る蒼牙。


しかし、久遠の問いに答えたのはカインだった。


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