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残された者達 1



蓮姫が王都を出た翌日。


王都では、弐の姫が王都の外へと逃げ出したという話題で持ちきりだった。



蓮姫の逃亡を(なげ)く者。



その真意を考える者。



自分を責める者。



彼女を(うら)む者。



その真意を知る者。



蓮姫に対する想いは違うが、誰もが彼女の事で心を占めていた。



【ユリウスとチェーザレ】


-忌み子の塔-


ガンッ!!


ドンッ!!


ドサドサッ!!


バキッ!!


隣の部屋から聞こえる騒がしい音に、チェーザレは我関せずと、窓辺に座りミルクティーを優雅に飲む。


窓からは街の復興に尽力する人々が見下ろせる。


壊滅的な被害を受けた所もあるが、この塔と城、城付近の貴族街は全くと言っていい程に無傷だ。


その様子を見下ろしながら、チェーザレは耳障りなほどの騒音、それを発している超本人には何も言わない。


騒音が止まり、(しばら)くして隣の部屋からは彼の兄が現れた。


「また今回は派手にやったな、ユリウス」


「それでも気は済んでないけど。まぁ、大分落ち着いたかな」


チェーザレはユリウスの後ろにあるドアの隙間から、隣の部屋の様子を見た。


散乱(さんらん)する本に服、壊されたテーブル、イス、タンスだったはずの木材が散らばっている。


「チェーザレ、俺にもお茶。あ、ミルクと砂糖は自分で入れるから」


「遠慮するな」


「遠慮とかじゃなくて、君特性のミルクティーは君以外に飲めない代物(しろもの)だってわかってるだろ」


はぁ、と溜息をつくと、ユリウスはチェーザレの向かいへと腰を下ろす。


「お前の、苛立った時に周りの物を蹴り飛ばすクセ………変わらんな」


「今回は特にね。でも仕方ない。どう考えても答えなんか出ない。答えが出ないからムカつく。ムカつくから周りの物を蹴飛ばす。だって殴ったら素手が痛いから」


「………お前の今の姿を見ていたら……蓮姫はどう思うだろうな?」


「きっとまた自分のせいだと責めるさ。でも、責めるくらいなら一言、言って欲しかったね。彼女も罪な(ひと)だよ」


ユリウスの苛立ちの原因。


それは勿論、蓮姫に対してだが、彼は蓮姫が王都を出た事に怒っている訳では無い。


自分達に何も告げず、一人で行動を起こした事に………そして自分自身に苛立っていた。


「そんなに信用が無いのかね?俺達はさ」


「蓮姫の性格を考えろ。私達を巻き込みたくはない、心配させたくないと考えたんだろう」


「それが信用が無いっていうんだよ。だいたい、どっちにしろ心配するんだから言ってもらった方がまだ安心できるのに」


「とはいえ」


「おい、無視か」


「あの抜け殻のような蓮姫からは想像もできん。何かあったのか?」


「俺達以上に信頼できて、心を許せる存在が、蓮姫を動かしたのかもね」


ユリウスは拗ねたように、だが自嘲気味(じちょうぎみ)に笑う。


そんな兄の姿を見ながら、チェーザレはミルクティーを一口飲む。


「随分と自意識過剰だな。蓮姫を想っているのは私達だけではないだろう」


「でも、レオナルド殿や蒼牙殿よりは、遥かに蓮姫を想っている自信があるだろ?君もさ」


「………はぁ。そんなに心配なら、蓮姫の夢に入ってきたらどうだ?」


チェーザレの言葉に、ユリウスは面食らったようにキョトンとする。


この弟が、自ら能力を使えと言うのは珍しい。


「???どうした?アホみたいな顔……いや、アホなのは前からか」


「ホント俺には毒舌だな、君は。いや……珍しいと思ってさ」


「蓮姫を気にしているのは、お前だけじゃないからな」


「………ふ~ん。そうだね。でも入らないよ」


「…………お前がそう言う事の方が、私には珍しい」


「それもそうだね。でもさ、蓮姫が俺達に何も告げずに行ったのに、こっちから覗きみたいな事する訳にはいかないだろ」


大切に想っているからこそ、彼女を信じてあげたい……兄の本心を悟り、チェーザレもそれ以上は追求しなかった。


その代わり、ユリウスには勿論、自分自身にも聞かせるように自然と言葉が溢れる。


「……蓮姫は大丈夫だ」


「そうだね。あの子はなんだかんだ言って強いから。俺達にできるのは一つだけ」


「蓮姫を信じて待つこと…だな」


「…………なんでおいしいとこだけ言うかな」


(うら)めしそうにチェーザレを睨むユリウスだったが、チェーザレの顔を見て彼も笑顔になる。


今までお互いのみに依存して生きてきた双子。


信頼しているのは、心を許せたのは自分の片割れだけだった。


だが二人には、初めて自分達以外に大切だと思える存在が現れた。


「大切だからこそ……大好きだからこそ…待てる人も居るもんだよね」


「………………待て。俺は蓮姫を好きだと言った覚えはないぞ」


「生まれてからずっと一緒だったのに、初めて君のタイプを知ったよ」


「おいっ!聞いてるのか!?」


「兄弟で恋敵(こいがたき)なのが、唯一残念だけど」


「っ!!?」


ユリウスの言葉に、チェーザレはガタッ!と椅子から立ち上がった。


立ち上がった時の振動で、ティーカップが倒れて中身が溢れる。


「ハハッ!!予想通りのリアクションだね、チェーザレ」


「なっ!?ユリウスっ!!」


「さて、と。可愛い弟の、耳まで真っ赤な照れ顔が見れたところで、そろそろ行こうかな」


「……は?何処へ行く?」


まだ話は終わっていない!とチェーザレは怒鳴ってやりたかったが、兄から感じた不穏な空気に、取り敢えず行き先だけ確認してみる。


「公爵邸。君も来なよ。俺達の可愛い蓮姫の、無能で無力な婚約者殿にちょっとしたお話をしに、さ」


ニヤリと笑いながら告げるユリウスに、チェーザレはため息をつきながらも頷いた。




【公爵家の者達】


-公爵邸-


「レオナルド。少しは落ち着いたらどうだ」


「これが落ち着いてなどいられますかっ!!父上っ!直ぐに蓮姫を連れ戻すべきです!」


「朝から何度同じ事を言わせる気だ。弐の姫様、そして陛下の決定に口を出すなど、お前はそれでも公爵家の息子か」


「しかし!父上!!」


蓮姫が公爵邸を離れて直ぐに気づいたのは、レオナルドだった。


隣の部屋に居た彼は、未来の蓮姫の力により眠ってしまっていたが、目を覚まし直ぐに蓮姫の部屋を訪ねた時には既に部屋はもぬけの殻。


邸内をくまなく探しても蓮姫は居らず、麗華に報告に行くと、彼女はいとも簡単に『蓮姫は王都を出た』と言ってのけた。


「陛下の御決断に不満でもあるのか?レオナルド」


「ふ、不満……という訳では…」


ハッキリ言えば不満しかない。


だが、自分達の始祖(しそ)であり、女王である彼女の決定を(くつがえ)せる事など出来はしなかった。


頭ではわかっている。


だが心では、蓮姫のいない現実を拒絶する。


納得など出来ない、と。


「ならば父上は、蓮姫の事が心配ではないのですか?陛下の決定ならば、蓮姫が危険な目にあってもかまわないと?」


「言葉を(つつし)め。我等が何よりも忠義を尽くすのは陛下だ。陛下あってこその公爵家」


「家が!爵位(しゃくい)がそんなに大切ですか!?」


「大切に決まっているだろう。地位も名誉も無くては、守れんものもある。我等が爵位を失えば、我が領土の者達が路頭に迷うことにもなるのだぞ。それに……忘れているようだがな、レオナルド。お前が弐の姫様の婚約者となれたは、公爵家の一人息子だからだ」


「で、ですが!?」


父の言葉になお食い下がるレオナルドだが、父である公爵に勝てないのは明白だ。


そんな息子の心情を知ってか知らずか、公爵は更にレオナルドを追い詰めるようにたしなめる。


「いい加減に次期公爵としての自覚をもて。陛下の血を継ぐ者としての自覚を。弐の姫様の婚約者というのなら、弐の姫様の()す事に口を(はさ)むな」


「……て………わる………ですか…」


「…なに?」


「婚約者の心配をして!そんなに悪いというのですか!?」


レオナルドの激高(げっこう)する様子を間近で受け、クラウスは頭を抱えそうになる。


息子が弐の姫に好意的である事、彼女を愛しく想っているのは親として喜ばしい。


しかし、事はそう単純ではない。


蓮姫に入れ込み過ぎて、周りのことも自分の成すべきことも見失いかけている。


コンコン


「失礼致します。公爵様、レオナルド様」


再度息子をたしなめるべきか悩んでいると、メイドが部屋を訪ねてきた。


「どうした?」


「お客様がおいでです」


「どなただ?」


「侯爵家のソフィア様と……………その……」


「???どうした?」


何故か言い(よど)むメイド長の声。


姿は扉の向こうにあり確認できなくとも、彼女が困惑しているのがよく分かる。


しばらくの沈黙のあと、メイド長は重い口を開いた。


「ユリウス様とチェーザレ様もおいでです。レオナルド様にお話があると」


「御二人がレオナルドに?」


「はい。……その…弐の姫様の事だと」


「蓮姫の!?」


今まで黙って聞いていたレオナルドだが、蓮姫の名を聞くやいなや、即座に反応する。


「はい。弐の姫様のお話ならば是非お聞きしたいと………ソフィア様も御二人と一緒に応接室にてお待ちです。………いかが致しましょう?」

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