表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/433

封じられた男 3




「………は……はは………それは……本気ですか…?」


蓮姫の話に動揺したのか、笑っていながらも男の声は微かに震えていた。


それほどまでに、蓮姫の考えは突飛していたから。


「本気。それが姫としての、私の望みだから」


「それが本気なら……貴女確実に死にますよ」


「そうならないようにヴァルが欲しいの。……貴方だって見たくない?そんな世界を?」


「…………………………」


「…………………………」


「…………………ぷっ!……ふふ…ははは…あはははははっ!!」


いきなり大声で笑いだした男に、今度は蓮姫の方が驚く。


確かに蓮姫の考えは、普通では考えられないし、今のままでは不可能だろう。


だが、蓮姫の答えは、男にとって期待以上だった。


「はははっ!……ま、まさか、そんな事を言うなんて!大して期待なんかしてませんでしたけど、予想外すぎですよ!!」


「それはどうも。で?貴方の答えも聞かせて欲しいんだけど」


ひとしきり笑い終わると、男は本当に楽しそうに蓮姫を見つめる。


その笑顔からは、黒さも軽蔑も感じない。



「良いですよ。貴女の険しすぎる茨の道の行く末を、俺も見たい。貴女のヴァル。引き受けましょう」



男の答えに、蓮姫はホッと肩を撫で下ろした。


「さて、まずは俺をここから出して下さい」


「は?ど、どうやって?」


「そんなの想造力で、ですよ。女王の想造力でかけられたものは、女王か姫の想造力でしか対抗できませんから」


いきなり言われても、蓮姫は今まで一度も想造力を使った事はない。


とりあえず蓮姫は男へと歩み寄り、男の身体を封じている水晶に触れた。


その瞬間、触れた箇所にヒビが入る。


ヒビは瞬時に大きく広がると、大きな音を立て砕け散った。


「っ!!?」


蓮姫はただ無意識に水晶へと触れただけで、成功するとは思っていなかった。


それでも、男を縛り付ける水晶は砕け、地面へと落ちる前にほとんど消えてしまう。


驚く蓮姫とは逆に、男は落ち着きながら、パキパキと腕や肩を回したり、体を伸ばしていた。


「あ~~~………さすがに身体ガチガチですね」


「…………今のが……想造力」


「そうですよ。貴女が姫である証拠です。今のは多分、姫である貴女が触れた事で自動的に発動しただけでしょうけど…想造力には違いない」


呆けたように自分の右手を見つめる蓮姫に、柔軟を続けながら男は告げる。


あらかた柔軟が終わると、男は再度蓮姫へと確認した。


「今更ですけどいいんですか?元魔王がヴァルって?」


「まぁ大丈夫でしょ。想造世界だと悪魔で執事がいるくらいだし」


「へぇ……想造世界でも悪魔がいるんですね」


「いや、漫画の話ね」


初めの頃よりは大分打ち解けたように話す二人。


だが、そこには当然、信頼などまだ無い。


これから先、お互いどう築くかが二人の最初の課題だろう。


「そういえば……貴方まだ名乗ってないよね?いい加減教えてくれないと、呼ぶのに困るんだけど」


これまで長々と話していたというのに、蓮姫はこの男の名前をまだ聞いていなかった。


男の方も、まさか()み嫌っていた姫のヴァルとなるとは、露ほども思っていなかったし、名乗る必要もないと思っていたから。


「それもそうですね。改めまして、俺の名前は………………」


「…………?何?どうしたの?」


男は名を告げる前に口をつぐみ、片手を(あご)に当てながら何かを考えている。


蓮姫が疑問に思うのもつかの間。


男は蓮姫の方へ向き直ると、満面の笑みで、いけしゃあしゃあと言ってのけた。


「いや、やっぱやめます」


「………は?…………はぁ!?」


「貴女が名付けて下さい」


「ちょっ!?意味がわからないんだけど!?」


「よくよく考えると、俺の名前を知ってる奴なんてもういないんですよね。姫様いわく、あのドブスにも教えてませんし」


「最初に言ったのあんたの方でしょ!」


「俺はドブスまで言ってません」


若干話がズレつつある。


ソレを蓮姫も気付いているが、自分が麗華をブスと認めたと思われるのは心外だ。


男はやれやれと言ったふうに、両手を上げる。


その仕草に蓮姫は再度、イラッときた。


「はいはい。話を戻しますよ。本名を女の口から聞くと、先代女王を嫌でも思い出しますからね。それにもう、俺は貴女のものでしょう?」


「さっきまでと言ってる事、違うじゃない」


「俺は貴女のヴァルです。だから、貴女が名付けて下さい。これからの俺の名前を」


「…………はぁ。わかった」


これ以上、問答(もんどう)を続けても男は名乗る気がない。


なら、望むように名をつけてやる方が早いだろう、と蓮姫は溜息をつきながら、問いただすのを諦めた。



そしてゆっくりと、一つの言葉を紡ぐ。




「…………ユージーン…」




「はい?」


「あんたの名前。気に入らない?」


気に入らないのなら、他の名前を考えるだけだ。


男は一度、(ほう)けたように固まり、う~ん、と考える素振りを見せる。


「……ユージーン………ちなみに、何故その名を?」


「銀髪でオッドアイの男なんて想造世界にはいないの。漫画とかゲーム、アニメの中だけ。そんなアニメチックな名前なんてあんまり知らないし………適当に思いついたから」


「適当に……って、結構酷いですよね、姫様って」


「人に頼んでおいて文句ばっかり言わないでよ。でも、気に入らないなら他のを考えるよ?」


蓮姫に問われると、男はため息をつく。


だが、その表情は楽しげだ。


「いいですよ。ユージーンで。まぁ、貴女の事だから意味知らないでしょうし」


「さっきから、ちょいちょい人の事バカにしてるでしょ。で、意味って何?」


「この世界の古い言葉で『守り抜く者』という意味です。ちなみに古すぎて意味知ってる奴はそうそういませんけど」


「さすが1000歳超え。無駄に生きてないよね、無駄に」


「貴女の方が(ばい)(ひど)いですよね」


そう言いながらも、彼………ユージーンは感心していた。


蓮姫がその名を付けたのは偶然だろう。


だが、意味も知らずに自分のヴァルに、その名を付けた。



そしてこの名は…彼にとって大切な……大切な者の名前。


…だからこそ彼は…この名前を受け入れたのだ。



「貴女は、なかなかおもしろい方だ」


「それ褒めてる?」


「勿論ですよ、姫様。それはもう、とっっっても」


「…………ムカつく」


ヴァルを選んだのはいいが、早まったかもしれない、と蓮姫は思った。


この男が自分に従順となるだろうか、と少しだけ先行きが不安になる。


「さて、これからどうします?」


「う~ん………まさか王都を出たその日……というか、ほんの数時間でヴァルが見つかるとは、正直思ってなかったしね」


「運が良かったですね。大いに俺に感謝していいですよ」


「でも、このまま王都に戻るつもりも無いし」


「あれ?無視ですか?」


蓮姫はユージーンの言葉が聞こえていないように、わざと考える素振りをする。


だが彼女の中では、既に答えは決まっていた。


それは未来の彼女が、この先どうすべきか教えてくれていたから。



「このまま王都から離れて、世界を見て回りたい」


「ほぅ」


「この世界の事、私は知らな過ぎたから。だから王都を出て…この世界を知りたい。王都に戻るのは、それからでも遅くないでしょ」


「期限は一年以内でしたね。いいんじゃないんですか」


「なんか……人に聞いといて…適当じゃない?」


「俺の意見なんてどうでもいいんですよ。俺は貴女についていくだけです。貴女の行くところなら、何処へでも」


ユージーンは蓮姫の前に跪く。


それはまさしく、姫に仕えるナイト。


が、そんな忠誠心はさらさら無い事は、蓮姫にもわかっている。


それでも、蓮姫は(とが)めることなく、彼の好きなようにやらせる。



「姫様の為に、このユージーン。誠心誠意お仕え致します」



蓮姫はユージーンが頭を上げるのを確認すると、一足先に歩き出す。






蓮姫とユージーン。






後に歴史に名を残す弐の姫と、その唯一のヴァルの出会いだった。






「あ!名づけたのはいいけど、ユージーンって長いからジーンって呼ぶから」


「俺の姫様は口と性格が悪い上に適当。その上めんどくさがりだと、覚えておきますよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ