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宝の正体 4


ユージーンの発言に再び全員の視線が魔法陣へと集中する。


困惑した表情を浮かべたり、顔を青くしたりする者が圧倒的に多いが、誰一人として言葉を発しない。


それは否定したい気持ちや困惑の中にも、納得という感情が確実にがあったから。


ユージーンの説明は理にかなっている。


先程のガイの言葉もあり、ユージーンがこの場でこんな嘘をつく理由が無い事を全員分かっていた。


そんな中、火狼(ひいろ)がポツリと呟く。


「『竜王族(りゅうおうぞく)』?……それってかなり大昔に(ほろ)んだ竜族よね?世界最強って言われてる竜族の中でも、トップクラスに強くて怖くてヤバいっていう」


「なんだ犬。知ってたのか?」


「名前と大昔に絶滅したって事くらいはね。それ以外は知らねぇよ。逆に知ってる人間の方が珍しいっしょ」


ユージーンに問われ、火狼は両手を広げながら答える。


彼もまた『竜王族』の事は詳しく知らないらしい。


そして誰よりも『竜王族』や竜族について知らない星牙が、更なる説明を求めるべく興奮した口調で問いかけてきた。


「で、でもよ!そんな最強の竜ならさ!クラーケンとかと同じでこの神殿に入れないんじゃないか?だって竜なんだろ?デカいじゃん!!」


「竜族は人間の姿にもなれるんだよ。人間との交渉時、対話時には人型で現れる事が多い」


「え?そ、そうなの?」


「お前ホントに何も知らないんだな」


呆れたような口調で話すユージーンだったが、何も知らないのは星牙だけではない。


蓮姫は勿論のこと、他の者も詳しくは知らないのだから。


竜族はともかくとして……竜王族の事は特に。


だからこそ、ユージーンは全員への説明を続ける事にした。


「……かつてこの古代文字が使われていた時代……(しにしえ)の王族が(さか)えていた頃。王家と竜王族は親しい間柄(あいだがら)だった」


「王家と竜王族が?」


「はい、姫様。古の王と当時の竜王族族長は盟友(めいゆう)……(こころざし)を共にした仲間であり親友だったのです」


「なんで旦那はそんなの知ってんのよ?」


火狼のその疑問もまた当然のもの。


誰も知らない話を何故かユージーンだけは知っている。


それはユージーンが古の王族の末裔だから。


しかしその事実を知るのは、当人のユージーン以外は蓮姫と未月だけ。


ユージーンの正体は他言しないと約束したので、蓮姫と未月は何も語らず、固く口を閉ざしていた。


そんな二人に内心感謝しつつも、そんな素振りを一切見せずユージーンは普段と変わらない態度と口調で答えた。


「ガキの頃に聞いた。古代文字で伝承が書かれた物を見た事もある。そっちは殆ど読めなかったがな」


全てを語る気の無いユージーンは、今の質問には簡潔に答えるだけに留める。


ここには海賊達もいるし……何より蓮姫と未月以外には……まだ自分の全てを話す気は無い。


「話を続けるぞ。古の王と竜王族は友だったが、竜王族が世界最強であり危険な存在である事に変わりはない。魔法陣に残された古代文字には『反逆』『裏切り』『備え』ってのがあった。つまり竜王族による裏切り、王家への反逆を危惧(きぐ)する者がいたんだ」


ユージーンは魔法陣を……正確には残っている古代文字を見つめ、指を差した。


「だからこの魔法陣が造られた。竜王族が人間や王家に牙を向いた時に備えて」


「なんで倒す為の魔法陣じゃなくて封印する魔法陣なんだ?」


「お、ファング~。グイグイ聞くね~。聞いちゃうね~」


「だ、だって火狼も気になるだろ?」


「確かに気になるけどさ~。俺そこはなんとなく分かるよ。多分、倒せないくらい強い相手だから……じゃない?ねぇ旦那」


「あぁ。さっきも言ったがな、竜王族は歴史上最強の種族だ。人間じゃ簡単に倒せない。だから封印式の魔法陣を造ったんだろ。王家を(おびや)かす竜王族が現れたら、この神殿に誘い込んで封じる為に。一匹でも閉じ込めれば見せしめか人質……いや竜質にする気だったのかもな」


「ね、ねぇユージーン。私も聞いていい?探してた宝がこの魔法陣ならさ……海賊王が持ってた宝の地図に『海で一番強い怪物を倒す宝を隠す』って書かれてたのはなんで?」


ユージーンへの質問攻めに今度は残火も参戦する。


だが、それに答えたのはユージーンではなく宝の地図の持ち主……キラだった。


「残火ちゃん。地図にはそんな事は書かれてない……書かれてなかったんだよ」


「え?だ、だってアンタが」


「俺は解読出来た古代文字を組み立てて『この海にいる世界で一番強くて怖い怪物を倒す宝を神殿に隠す』と解釈した。俺が……勝手にそうだと期待した」


残火の言葉を遮って話すキラは顔は、苦々しく歪んでいる。


自分の仮説が間違っていると、宝は自分の勝手な期待で作られた夢物語だったのだと、キラはこの場で誰よりも理解していたから。


キラは涙で潤み、若干赤みを帯びた深い青緑の瞳をユージーンへ向ける。


「そうなんだろ?……ユージーン」


「……あぁ。俺とお前が解読した古代文字。『海』『世界』『一番』『強い』『怖い』『怪物』『倒す』『宝』『神殿』『隠す』という10の単語を繋げれば、確かにさっきの言葉になる。しかし単語の位置を少し変えれば、別の言葉になるな」


「つまり……宝の地図に書かれていたのは?」


この状況に誰よりも絶望しているキラは、更に自分を追い詰める現実をユージーンに求める。


ユージーンはキラの絶望を感じつつも、今までと変わらずに容赦ない現実を言葉にした。



「『この世界で一番強くて怖い怪物を倒す宝を海の神殿に隠す』。それが宝の地図に書かれていた本当の文章だ」



改めて言われた事で、キラは頭を鈍器で殴られたような衝撃を感じた。


今のユージーンの言葉こそ真実だ、と。


自分の期待も考えも……最初から全部間違っていたのだ、と。


キラは力が抜けて倒れそうになる体をなんとか堪え、ゆっくりと震える口で呟く。



「……そっか。……宝の地図が示していたのは……既に絶滅した最強の怪物……竜王族を封印する魔法陣だった。……クラーケンやリヴァイアサンを倒せる宝も……封じる宝も……ここには最初から……無かったんだな」


キラに突きつけられた現実は『宝がもう壊されていた』と思っていた時以上に、非情で残酷だった。


探していた宝……そんな物は最初から存在しない。


それは今までキラが、宝や希望を探し求めてきた行動を全て否定し、希望を打ち砕くには十分すぎるもの。


「…………は、ははっ…全部……全部、俺の勝手な勘違いだったんだ。ただの古い地図から、勝手に希望を夢見て……最初からある筈も無い宝を……今まで求めて…探してたなんてな…」


「キラ」


キラの肩に手を置き、優しく声を掛けるガイだったが、それ以上の言葉は出てこない。


ガイはキラの一番の理解者であるからこそ、自分がどんな慰めの言葉を掛けても、それこそ気休めでしかない事を頭で理解しているからだ。


だが、そんなキラの言葉に疑問を持つ者がいた。


「……ある筈が無いって……なんで決めつけるの?」


その声の主は蓮姫。


彼女の意外な言葉に、キラは涙で濡れた青緑の瞳を蓮姫へと向ける。


逆にキラを見つめる蓮姫の黒い瞳には、僅かな怒りが宿っていた。


「…………蓮…ちゃん?」


「竜王族っていうのは、この世界で一番強くて一番怖い種族だったんでしょ?そんな凄い竜を封印出来る魔法陣があるのに、クラーケンを倒せない方法が本当に無いの?」


それは単純な疑問のようであり、キラの考えやこの世界の理を否定する物でもあった。


この言葉だけで蓮姫が何を言いたいのか、何を思っているのかはキラにも伝わる。


しかしキラの口から出た言葉は、あまりにも弱々しいもの。


「……クラーケンは…リヴァイアサンでしか倒せない。他の方法なんて」


「それがあると信じたから、キラも皆さんもここに来たんでしょ?違うの?」


「っ、し、信じてたけど……結果それは」


「ここに無いからって、この世界の何処にも無いの?決めつけていいの?」


キラの言葉が終わる前に、蓮姫はまたしても疑問を掛け続ける。


あえて疑問形で話すのは、ソレを答えるのは自分ではなく、キラだと考えているから。


その言葉をキラが言うと信じているから。


「……ねぇ。キラの希望っていうのは、簡単に諦められるような気持ちだったの?」


「っ、違うっ!!そんなちっぽけで簡単な気持ちで来たんじゃない!俺は……俺はっ!諦めたりなんかしない!するもんかっ!!」


やっとキラから聞きたかった言葉が、キラの本当の気持ちが吐き出された事で蓮姫は普段のように柔らかい笑みを浮かべた。


「なら……最後まで信じてみようよ。それこそ見つかるまで、さ」


「……蓮ちゃん」


「ここに無いからって希望を全部捨てるなんて勿体ないよ。だって海は広い。世界も広いんだから」


楽観的にも思える蓮姫の言葉。


だがソレは楽観でも慰めでもないと伝わる。


何処か説得力のある言葉。


少なくとも言葉を向けられているキラもガイも、他の海賊達もそう感じていた。


だからこそ誰も蓮姫の言葉を遮る事はしない。


「もし希望を捨てて絶望する時が来るとしたら、全部全部やりきった後だよ。それこそ希望を捨てる理由なんて、今は何処にも無いんだから」


ニッコリと満面の笑みを向ける蓮姫に気圧されたのか、ガイの口からは乾いた笑みが零れた。


「は、ははっ。随分と簡単に言ってくれるな、弐の姫の嬢ちゃん。根拠も無いってのによ」


「無いはずの物が有るっていう根拠が必要なら、目の前にありますよ。ガイさん」


「なに?」


(いぶか)しげに呟くガイに対して、蓮姫は片手を自分の胸に当てながら答えた。


「『世界中に嫌われるだけの存在』と言われている弐の姫。それが私です。でも……そんな私を嫌わないで傍に居てくれる人がいます。こんなにも」


満面の笑みを浮かべ、首だけ後方へ向ける蓮姫。


彼女の眼差しの先には、彼女を慕う仲間達が同じように笑顔を浮かべていた。


「そうね。でも姫さ~ん。ちょっち違うわ。『嫌わないで』じゃなくて『好きだから』姫さんの傍にいんのよ。俺達全員。なっ!」


「はい!それに『弐の姫は誰かを不幸にするだけの存在』と言われているけどそれも違います!いい!海賊達!私達は全員!姉上に!弐の姫様に救って頂いたんだからね!」


「……うん。…母さんは……俺を救ってくれた。……心も…命も。…俺は母さんが大好き。……母さんも俺が大好き。…皆が大好き。……だから一緒にいて…俺達は皆幸せ」


「俺だって蓮に助けてもらったぜ!蓮は俺の恩人なんだ!一緒に海に来たのも俺だって蓮が好きだからだな!」


「にゃうんっ!!」


口々に蓮姫への想いを語る従者達と友人。


彼等が全員が弐の姫である蓮姫を慕い、敬い、彼女を守る為そばに居る事を選んだ。


そしてこの場にいない者達の事もユージーンが代弁する。


「俺達だけじゃない。姫様は王都でも、王都を出てからも多くの人々を救い、慕われてきた。『争いの元』『世界に不要』と言われ続けていた弐の姫である姫様がだ」


王都でも、これまでの旅でも蓮姫は多くの者に認められてきた。


その数は今はまだ、女王や壱の姫を支持する者の数には遠く及ばない。


それでも『弐の姫』である蓮姫を慕う者は、この世界に確かに存在しているのだ。


この場にも、この場にいなくとも。


「『多くの者に好かれ、敬われ、感謝され、慕われる弐の姫』こそ、この世界に存在するはずの無いモノだった。でもな、そんな存在するはずの無い方が……今、この場に、お前等の目の前にいらっしゃるんだよ」


ユージーンの語るのは信じられない、しかし紛れもない事実。


キラはピクリとも動かず、しばらく蓮姫やその仲間達を見つめ……。


「…………………………………ぷっ。ふふっ……ははっ。ははははははっ!!」


唐突に吹き出し、笑い出した。


一度吹き出した事で止まらなくなったのか、目に涙を浮かべて爆笑するキラ。


そんなキラの顔は……今までの絶望の表情が嘘のように、とても明るく晴れやかだった。



「な、なんだよソレっ!そ、そんなのっ!そんなのって!どんな偉い奴のご高説より説得力あるじゃないか!!」


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