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宝の正体 3


ユージーンの言葉に、目を大きく見開いて足元の魔法陣を凝視するキラ。


バッと顔を上げるとユージーンを睨みつけ、何かを叫ぼうとするが、その口からは何の音も発せられない。


どんな言葉も、たった一言すら出てこないキラ。


ただ次にキラが浮かべた表情を言い表せるなら……まさに『絶望』と呼べるもの。


コレが本当に自分達の探していた宝だと言うのなら……宝はもう…。


言葉は無くとも、その顔はキラの心情全てを物語っていた。


『そんな訳ない』


『嘘だ』


『冗談はやめろ』


『信じられない』


と、ありありと言葉以上にユージーンへ訴え掛ける。


キラは再度視線を下に移し魔法陣を一瞥すると、苦々しく唇を噛み締め……やっとの事で喋り出した。


「…………コレが……宝だと?この…魔法陣が?……本当…なのか?」


「本当だ。書かれてる古代文字を読んだからな。嘘じゃない」


「っ、それが……お前の言ってる事が本当ならっ!この宝は!?」


「もう壊されてる。修復も無理。二度と使えねぇよ」


動揺するキラとは逆に、あくまでも冷静に……非情なまでに冷たい口調で答えるユージーン。


彼が言っているのは紛れもない事実だ。


だが、そんなこと他の誰にも分からない。


探し続けていた宝が目の前にあるのに、ソレは壊されて二度と使えない、なんて。


そして壊されたのは宝だけではない。


キラの悲願も粉々に打ち砕かれたのだ。


絶望に打ちひしがれるキラだったが、その代わりに海賊達は口々に騒ぎ出す。


「いい加減な事言ってんじゃねぇぞ!そんな嘘に騙されるもんか!」


「自分だけ文字読めるからってバカにすんな!!騙される訳ねぇだろ!さっさと本当の事を吐きやがれ!」


「てめぇ!惜しくなって宝を隠しやがったな!?横取りとかふざけんじゃねぇ!」


「船長や俺達がどんな思いでここに来たと思ってんだ!返せっ!!宝は船長のもんだ!」


誰も彼もが怒りを隠すことなく、険しい表情を浮かべユージーンを怒鳴りつけた。


だが、どれだけ怒鳴られようと、勝手な憶測の冤罪で罵られようとユージーンは眉ひとつ動かさない。


冷静そのものな彼の態度が、蓮姫達の目には冷徹に、海賊達には侮蔑に映る。


我慢ならなくなった海賊達は今にもユージーンに飛び掛る勢いだ。


だがソレを止めたのは……誰よりも絶望し、現実を受け止めたくはない彼等の船長だった。


「やめろっ!!お前達!」


「っ!?でもよ船長!!」


「……やめろ。やめてくれ。もういい。……もういいんだ」


まだ何か言いたげな海賊達だったが、キラの悲痛な声で全員口を閉ざす。


納得いかない彼等を説得するように、キラは船長として部下達をなだめるよう言葉を紡いだ。


「コイツが宝を隠す理由も、俺達を騙す理由も無い。宝を横取りしたところで、リヴァイアサンやクラーケンを倒せる宝なんざ……コイツらには用がねぇだろ」


「……キラ」


「ガイ、すまない。お前達も……蓮ちゃん達にも、とんだ無駄足だ。俺のワガママで……すまなかった」


深く頭を下げるキラ。


そんなキラを見て、海賊達は悔しそうに涙を流す。


「……クソッ!!」


「……船長」


「くっ………うっ…うぅ…」


彼等の目から溢れるその涙は、どれもこれもキラの為に流された涙。


ただガイだけは泣く事なく唇を噛み締め、震えるキラの肩に手を置いた。


「違うだろ?お前のワガママじゃねぇ。俺達全員のワガママだ」


「……ガイ…俺は……」


「弐の姫の嬢ちゃん達……俺からも言わせてくれ。俺達の都合に巻き込んで……こんな海の底まで連れて来て……すまなかったな」


何か言いたげなキラの頭をガッシリ掴んで自分の胸に押し付けると、ガイは悲しそうに微笑み蓮姫達に謝罪する。


キラも顔こそ見えないが、震える体が『泣いている』と切々に他者へと伝えていた。


そんな海賊達を見て、蓮姫は胸が締め付けられる。


「っ、いえっ!!そんなことないです!!私達こそ……お力になれず…」


「何言ってやがんだ。あんたのおかげで俺達はここに来れた。あんたの優秀な部下のおかげで……宝はもう無いって知れたんだ。嬢ちゃん達が謝る理由なんざねぇよ」


「……でも…」


「キラも……船長も言ってただろ?……もういいんだ。クラーケンを倒せる宝は……もう壊されちまってんだからな」


ガイの言葉に今度は蓮姫が唇を噛み締める。


ここでお互い謝り合戦をしたところで、宝は戻らない。


蓮姫の従者達も気まずそうに海賊達を見つめたり、あえて視線を逸らしたりする。


重苦しい空気が流れる中、ユージーンはあからさまに大きく息を吸い込むと、それを全て吐き出す。


「はぁ~~~~~~あぁ~~~~~あぁ」


ソレはわざとらしいほどに、大きく、長いため息。


あまりの無神経すぎる態度に、海賊達や蓮姫、残火が彼を睨みつけるが、次にユージーンから発せられたのは意外な……そしてさっきよりも衝撃発言だった。



「そもそもだけどな。お前等のその『クラーケンやリヴァイアサンを倒せる宝』っていう前提が間違ってんだよ。そんなもの、ここには最初から無い」



その言葉に、ユージーン以外の者は時が止まったかのように、動きも涙もピタリと止まる。


あのキラでさえ、あんなに震えていた肩が止まっていた。


そんな中、言葉の真意を探る為に蓮姫が代表してユージーンへと尋ねる。


「宝が最初から……無い?壊されたからもう無い、じゃなくて?」


「そうです。ふむ……順を追って全部説明した方がいいですね。おい海賊王。お前等の持ってた宝の地図にはなんて書いてあった?」


急に自分に話が振られ、海賊王キラはガイの胸から顔を上げると困惑しながら答えた。


「た、宝の…地図には……『海にいる…世界で一番』」


「違う。お前が勝手に予想した文章じゃなくて書いてあった古代文字…解読した単語のことだ」


即座に否定するユージーンに気圧されながらも、キラは何度も何度も繰り返し呟き、見返した……希望だと信じていた言葉を口にする。


「……『海』…『怪物』『倒す』。それと……『宝』だ」


「あぁ。そうだな。そして俺が解読した古代文字は『世界』『一番』『強い』『怖い』『怪物』『神殿』『隠す』だった」


キラ達海賊団の先代の船長が見つけた古い宝の地図。


そこに書かれていた古代文字の中でユージーンとキラが解読したのは『海』『世界』『一番』『強い』『怖い』『怪物』『倒す』『宝』『神殿』『隠す』という10の単語。


キラは最初、自分が解読した単語から『海にいる怪物を倒す宝』が、この地図に示されていると考えていた。


更にユージーンが解読した単語も合わせ、宝の地図には『この海にいる世界で一番強くて怖い怪物を倒す宝を神殿に隠す』と書かれているのだと解釈した。


そう思い込んでいた。


ユージーンは壊され、崩れ、所々ヒビ割れた魔法陣を指差しながら全員に……特に海賊達に向かって説明を始める。


「ここに描かれている巨大魔法陣。コレは封印式の魔法陣だ。さっきも言ったが、もう壊されて使えない。…………なぁ?コレが本当にクラーケンやリヴァイアサンを倒す魔法陣だとしたら……色々とおかしくないか?」


「お、おかしいって?な、何がだ?」


「てめぇ!何が言いてえんだよ!ハッキリ言いやがれ!」


イライラを隠すことなく叫ぶ海賊達に、ユージーンはため息を吐く。


「はぁ~……あのな。剣とか槍とか特定の魔獣を倒せる武器が神殿に隠されてたんならまだ分かる。でもな、もしコレがクラーケンやリヴァイアサンを封印する為の魔法陣だとしたら、なんで神殿の奥なんかにあるんだよ?」


「え?あ、そ、それはだな……お、おい、なんでだ?」


「お、俺に聞くなよ!昔の人間がここに作ったからだろ?」


「そうだぜ。だからここにクラーケンを連れてくれば……」


ユージーンの問いかけに正しい答えなど出せない海賊達は、ボソボソとお互い小声で話し合う。


小声だがしっかりと聞こえるその内容に、キラとガイはハッとした。


ユージーンが何を言いたいのか……何を言おうとしているのか。


火狼は『ふむ…』と顎に手を当てて、今のユージーンの言葉や魔法陣の意味を考えた。


「確かに……おかしな話よね?この魔法陣が本当に対クラーケンやリヴァイアサン用だとしてさ……あのバカでっかい巨体をどうやってここに連れてくんの?」


「そりゃ……魔法でちっさくするとかじゃないか?」


「あのね、ファング。確かにそういう魔法薬もあんよ。でもあの巨体を神殿に入れるサイズにするなら……100本や200本あっても足りないぜ」


「え、そ、そうなの?」


「お前ホントに魔法関連の事は全然知らんのね。そもそも魔獣が素直に魔法薬飲んでくれるかっつの」


「き、気絶させたりとか!」


「気絶させられるんならそのまま倒しゃいいでしょーよ」


「じゃ、じゃあアレだ!子供の頃に連れてくる用だ!ちっちゃいサイズならこの中に入れるだろ!」


「神殿に入れるくらいの子供なら人間でも倒せるでしょーよ」


「え、えぇ~?あれ~?」


あえて同じ語尾で否定する火狼に、星牙は一人頭を抱えて混乱する。


だが、混乱しているのは星牙くらいのもの。


今の二人のやりとりで、海賊達もやっと気づいたようだ。


キラの部下達は、顔を青くしたり絶望したような表情でお互い顔を見合わせている。


そして彼等の視線は……船長であるキラへと向けられた。


キラはガイから体を離し、口元に手を当ててカタカタと震えていた。


キラも確信したのだ。


そもそもあの時の自分の推理が……ユージーンの言う通り、自分の考えた前提が間違っていたのだと。


今度こそ……間違いはない、と確信した。


蓮姫はそんなキラの様子に胸を痛めながらも、敢えて全てを知るユージーンに問う。


「ジーン。あの宝の地図が示していた宝の正体……この魔法陣は一体なんなの?」


それがキラ達に更なる絶望を感じさせると分かっていても、彼等も現実を見なくてはいけない、受け入れなくてはいけない、と思ったから。


ユージーンもまた主の問いに対して誠実に、そして残酷に、この宝の真実を告げる。



「……かつてこの世界には『最強』と呼ばれた竜族がいました。その名を『竜王族』。あの宝の地図が示していた宝は、この『竜王族を封印出来る魔法陣』です」

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