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宝の正体 2


ツルギは何度も謝罪と『アサヒ』という言葉を繰り返しながら、泣き続け、叫び続ける。


未月はそんな彼の行動に困惑するしかなく、抱き締められたまま固まっていた。


そしてそれは他の者も同じだった。


ただ一人を除いて。


その一人ことユージーンは、気配を消して物音一つ立てずに二人へ近づくと……トンッ!とツルギの首に手刀をくらわせた。


ツルギは声も出せぬまま未月にもたれかかるように気絶する。


一連の流れを見ていた一同はギョッとし、ユージーンを(いさ)められる唯一の立場にある蓮姫は反射的に声を上げた。


「っ!?ジーン!?」


「うるさかったので気絶させただけです。ご安心を」


「うるさかったって…」


流石のユージーンも無防備な…それも幼子のように泣きじゃくる男を躊躇(ちゅうちょ)なく殺すほど無慈悲な男ではない。


ただ感動的なシーンを台無しにする無神経さを持ち合わせているだけだ。


そして蓮姫以上に事態が呑み込めていない未月は、パチパチと瞬きを繰り返しながらユージーンを呆然と見つめている。


「え?……あ…ゆ……ユージーン?」


「未月も安心しろ。お前を疑ったりもしてない。ただ……お前がコイツを知らなくても…コイツはお前を知ってる。もしくは誰かと勘違いしてる」


「……勘…違い?…でも……コイツ…」


美月はこの男が…ツルギが自分を誰かと勘違いしているとは思えなかった。


何より……自分を抱きしめる腕からも、彼の涙や泣き叫ぶ声からも、自分は一切の嫌悪感を感じなかったから。


むしろ……何故か胸の奥がギュッと苦しく、熱くなった。


未月から困惑を感じつつも、ユージーンは未月の腕の中で気絶する男を見下ろす。


(あれだけ手こずったってのに…魔力も込めてない手刀一つで気絶するとはな。……力を全て使い切ったか……もしくは…心がそれどころじゃなかったか)


ツルギへの警戒を解くことなく、探るように冷たい目を向けるユージーン。


そんなユージーンの視線に気づいた未月は、気絶したツルギをギュッと抱き締め、ユージーンをまっすぐ見つめながら口を開く。


「……殺さないで」


「未月?」


「…コイツ……殺さないで。…お願い……ユージーン」


それは未月にしては珍しく、何より未月らしくない行動だった。


未月は普段、蓮姫や仲間を守る事や戦い以外で自分の意志をハッキリと口にする事は無い。


それは反乱軍にいた頃から意見など求められず、命令…任務をこなす事を求められてきたからだろう。


そんな未月が……自分や蓮姫を殺そうとした相手の命乞いを口にしたのだ。


強い意志をその青い瞳に宿らせて。


ユージーンはそんな未月の言葉と表情に一瞬言葉を失う。


だがそれは本当に一瞬だった。


直ぐにユージーンは未月に柔らかい笑顔を向けたのだから。


「ふっ。そこも安心しろ。コイツを殺す気は無い。コイツにはまだ聞きたい事もあるし……何より姫様が望んでないからな。お前もそう望むってんなら……お前のお願い、俺は聞くよ」


「…っ…………いい…の?」


「いいよ」


言い淀みながら確認する未月とは対照的に、ユージーンはしっかりハッキリと即答する。


すんなりと自分の願いを受け入れたユージーンに、未月は緊張が解けたのかゆっくりと安堵のため息を吐いた。


「……はぁ…………ありがとう。…ユージーン」


安心から体の力が抜けていく未月の頭を、ユージーンはポンポンと軽く撫でるように叩く。


「ホント……お前変わったよ」


「……昨日も…ユージーンそう言った。…けど俺……やっぱりよく分からない。…変になったんじゃないなら……俺…どう変わった?」


「そうだな。分かりやすく言うなら…………うん。姫様に似てきた」


「…母さん……に?」


「あぁ。特にさっきなんか……そっくりだったよ」



『殺さないで』



そう言った未月は、いつかの蓮姫と同じ目をしていた。


強い意思が込められた青い瞳は、あの蓮姫の黒い瞳と同じ輝きを放っていた。


何に対しても無関心、無表情。


任務や命令、蓮姫以外には興味すら無かった……あの未月が、だ。


昨日も感じた未月の成長が、より蓮姫に近いものだと感じられてユージーンも何処か嬉しかった。


(子供の成長を見守る親の心境ってのは……こんなもんなのかもな)


かつて敵だった目の前の少年に対してそんな考えを抱く自分を不思議に思いつつ、悪い気は全くしないユージーン。


そしてそんなユージーンの言葉に、未月は笑みを……それはもう今までで一番の、溢れんばかりな満面の笑顔を浮かべた。


「……それなら…嬉しい。……凄く…凄く……嬉しい」


心底嬉しそうに語る未月を見て、ユージーンもまた笑みが深くなる。


会話に参加せずとも、二人のやり取りが聞こえていた蓮姫達も同じように笑顔でお互い顔を見合わせていた。



そんな暖かい空気が流れる中……床に描かれたあの魔法陣の一つから、バリバリッ!と青白い閃光がほとばしる。



魔法陣からの閃光は、誰かがこの場に転送される合図。


しかし蓮姫達は、その光に気づいていながら誰も警戒していない。


火狼は光に気づくと『お?』と声を出す。


「やっとかい。旦那~」


「見りゃ分かる。戻って来たみたいだな」


火狼とユージーンが呑気に話していると、青白い光は大きくなり中から数人の影が現れた。


影の正体は魔物でもはイアン達反乱軍でもない。


中心にいた人物は魔法陣から一歩踏み出すと、怒鳴るようにユージーンに向けて叫ぶ。


「おいっ!!約束通り見てきたぞ!!此処には俺達以外誰もいない!」


その声の主は、蓮姫達をここに連れて来た張本人こと海賊王キラだった。


キラに続いて他の者……キラの仲間達も次々に現れ、キラと同じように我先にも口を開き大声で叫ぶ。


「そうだぜ!船長の言う通りだ!いたのは魔物くれぇだ!」


「おぉ!魔物だけだったぞ!人間なんざ影も見えなかった!」


「間違いねぇぜ!この地図にあった魔法陣の周りは全部見てきたからな!そうだろ!ガイの兄貴!」


「あぁ。色々回って魔物のいない安全な道も見つけたぞ。……で?コイツはお前等に返せばいいのか?」


ガイが手の平に収まる程の小さな模型をユージーンに向かって差し出すと、ユージーンは彼等に近づきそれを受け取った。


「返すってのも可笑しな話だが……とりあえず俺が預かろう。お前等ももう用は無ぇだろうからな」


ユージーンは模型を預かると、ほんの少しだけ魔力を込める。


すると模型から、この神殿の立体映像が飛び出してきた。


映像の神殿内部には至る所に色や記号がチカチカと点滅している。


ユージーンが模型を持っていない方の手でその点滅部分の一つに触れると、今度はこの部屋が大きく映し出されていた。


その中には魔法陣の位置と同じ箇所が色や記号で点滅し、蓮姫達と同じ位置には人型の駒のような物まで浮かんでいる。


改めてソレを目の当たりにした星牙は、目をキラキラさせて興奮気味に喋り出した。


「すっっっげぇな!俺が見つけたソレってホントに地図だったんだな!こんなの見た事も聞いた事も無いぜ!古代の魔法ってこんなのまで出来たのかよ!凄ぇ!ホントすっっっげぇな!」


「確かにこの地図は凄いけどよぉ……お前がご丁寧に台座に置かれてたこんなの勝手に取るから、罠がめっちゃ発動して俺達はめっちゃくちゃ苦労したんだかんね?槍が飛び出してきたり、落とし穴めっちゃ出てきたり、でっかい岩が転がって来たりさ。そこも忘れんなよ、ファング」


「わ、分かってるよ!でもさ!ソレ見つけたおかげで皆が蓮達と合流出来たじゃん!此処に来れたじゃん!こういうのこそ『結果オーライ』ってヤツだろ!?」


「結果だけはね。結果、だ、け、は」


火狼が深く『はぁ~』とため息を吐くと、残火の方も若干げっそりした様子でウンウンと無言で頷いていた。


どうやら蓮姫達と合流するまで、彼等はかなりの苦労をしたらしい。


「ジーン。そのミニチュア模型の地図は本当にこの世界の古代の魔法なの?」


「はい。こんな物を作れる人間は、歴史上で最も強い魔力を持っていたという『古の王』…もしくはその妻の王妃だけでしょう。この神殿が造られたのも古代文字の時代ですから、間違いと思いますよ」


(そう……なのかなぁ?)


蓮姫がわざわざユージーンに確認したのには理由がある。


彼女は火狼達が合流し、ユージーンが星牙の持っていたこの模型を弄った事で立体映像が出てきた時から……ずっと気になっていた事があった。


(あの模型からこの神殿の全体図が出るのって……想造世界のCG使った映画とか…ドラマとかで似たようなのを見た気がする)


蓮姫にとって特に重要な記憶では無いその知識は、かぐや姫の時と同じように脳裏に蘇った。


ただかぐや姫のように何回も見聞きした作品では無いので、詳しい情報までは思い出せない。


それても……全く同じではないがコレに似たような演出は確かにあった、見た事がある、と。


(この世界は想造世界が元だっていうから……コレもそういう事?……私が変に気にしすぎなのかな?)


心の隅に何か引っかかるモノを感じながらも、蓮姫はとりあえず納得する事にした。


どうせ考えても答えは出ないし、この疑問に答えられるであろう模型型地図の創作者は既に死んでいるのだから。


「こんなの作れる人間がいたなんて凄いよなぁ!じゃあさ!他にも古代の魔法が此処に」


「そんな無駄話はどうでもいいっ!ユージーン!!俺達はお前に言われた通り、地図を使って神殿を駆けずり回ったぞ!全ての通路と部屋を確認して戻って来た!」


興奮する星牙の声を遮ったのは、彼以上に興奮したキラの怒鳴り声だった。


興奮というよりは焦っているような……()いている雰囲気のキラ。


その理由はここにいる全員が知っているので、蓮姫もガイもキラを止めようとはしなかった。


そんなキラに対して、ユージーンは淡々と答える。


「あぁ。ご苦労様」


「俺達は約束を守ったぞ!今度はお前が約束を守れ!」


「そうだな。約束通り……この神殿に眠る宝について……教えてやる」



合流した後で彼等が交わした約束。


それはキラ達海賊団が神殿を見回って危険要素や安全を確認し、ユージーン含む弐の姫従者達は蓮姫を守る為この場に留まる。


傷は(いや)せても未月の体力と魔力は枯渇(こかつ)状態、蓮姫も想造力を使い疲弊していた。


船に戻ろうにも、イアンの意志に反する反乱軍が残っている可能性も、強い魔物がいる可能性もある。


それに加えて、この広間に来る前の部屋で感じた……あの不気味な視線。


ユージーンは危険と隣り合わせの役回りを全て彼等に丸投げする提案をした。


『さっき反乱軍と交戦して退けた。まだ残党がいるかもしれない。俺達の代わりに、この地図を使って神殿内を隈無く捜索して来い。魔物もいない安全な帰り道を見つけて戻って来たら……この神殿に隠された宝について教えてやる』


キラとその仲間達はユージーンの提案を二つ返事で引き受け、こうして戻って来た。


海賊達の…キラの悲願の宝が、やっと手に入る。


だからこそ……キラはもう待てない。



勿体(もったい)ぶるな!宝は何処だ!?何処にある!?早く教えろ!!」


「お望み通り全部教えてやるよ。海賊王……足元を見ろ」


「足元……だと?」


変わらず淡々と答えるユージーンに促され、キラは自分の足元へと視線を移す。


そこに有るのは、既に破壊されている大きな魔法陣が崩れた床。



「その巨大魔法陣こそ……この神殿に隠された宝の正体だ」

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