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二つの末裔 4


ユージーンが冷たく言い放つと、イアンは不服そうに顔を歪めた。


彼にとってユージーンは『この世界の(しん)の王』として(うやま)う相手。


そんな真の王たる資格を持つ者が、略奪者(りゃくだつしゃ)の資格を持つ女の味方をし、あまつさえ絶対の忠誠を見せる現状を許せないでいる。


口では何も言わずとも、その表情や視線から彼の不満がありありと見えた。


しかしユージーンの顔色を(うかが)いながら、イアンは立場を(わきま)えつつ謝罪と共に言葉を続けようとする。


「……真の王たる方の主様に対し言葉が過ぎました。申し訳ありません。ですが、詭弁(きべん)などでは」


「詭弁(きべ?)だろうがよ。そもそもお前らの御先祖様がどんなにご立派でお可哀(かわい)そうだろうと、お前らはその先祖じゃねぇ。姫様も歴代女王も初代女王とは違う人間だ」


「ですがっ!初代女王が王位を略奪しなければ!我等は世界最高位の王族だったのです!他所(よそ)の世界から来た小娘風情(こむすめふぜい)が王になる事は無かった!貴方様もそうでしょう!」


「だから詭弁(きべん)だっていうんだよ」


「っ、何を?」


「『自分達こそ本当の王族だ』ってんなら、なんで俺を『真の王』とか呼ぶんだ?おかしいだろ」


ユージーンの指摘にイアンは『ぐっ』と変な声を出し言葉につまった。


彼等の先祖の話を聞けば女王や姫、それを受け入れるこの世界全てへの憎悪(ぞうお)は分かる。


自分達こそ本当の王に相応(ふさわ)しい一族だと主張したいのも分かる。


だがユージーンの正体を知ってからイアンの態度は激変した。


彼等の話が真実ならば、本物の王の末裔など、影武者の末裔からしたら女王や姫と同じく排除すべき対象のはずなのに。


イアンの表情は予想通りだったようで、ユージーンは(さげす)むような目を向けながら再度言葉を言い直した。


「王になりたいんだろ?それがお前達反乱軍……一族の目的だろ?じゃあなんで俺を王と呼ぶ?さっきからお前の言葉は矛盾しまくってんだよ」


「そ、それは……」


「それはつまり、お前らは『自分達は王族になれたのに』と思いながらも、心のどこかで『自分達は所詮偽物の末裔だ』っていう自覚があるんだろ?違うか?」


ユージーンの言葉が図星だったようで、イアンは今度こそ口をつむぎ(だんま)りを決め込む。


それもまた言葉より明確な肯定として現れていた。


「ただの逆恨みで女王や世界を憎むのはお前らの勝手だ。だが姫様を……蓮姫様の命を(いま)だ狙い、更に侮辱(ぶじょく)するというなら……俺も勝手をさせてもらう」


「お、お待ち下さい!我等は貴方様に反抗の意はありません!貴方様こそ我等が!世界が従うべき真の王!我等の忠誠と命は!一族の当主ではなく貴方様に捧げます!」


イアンがその場に(ひざまず)き深く頭を下げると、他の者達も続いて頭を下げ、ユージーンへと平伏(へいふく)の姿勢を見せる。


が、そんな彼等の姿にユージーンはこれでもかと嫌そうに顔を歪めた。


「どれもいらん。ひとっっっつもいらん」


「貴方様が望むのなら!我等は弐の姫様にも従います!貴方様の主は我等が大主様!我等は!いえっ!私は!!お二人が世界の頂点となれるよう!生涯!貴方様と弐の姫様に力を尽くすと誓います!」


「………なに?」


強調するように一言一言区切りながら必死に叫ぶイアンだったが、ユージーンはそんな彼に対して更に眉をひそめる。


イアンのそれはただの命乞い、その場限りの言葉などではないと分かったからだ。


ユージーンを見つめるイアンの目は本気だった。


探るような目付きを自分に向けるユージーンに対し、イアンの瞳には全く曇りが無い。


「……どういうつもりだ?」


「貴方様のおっしゃられた通り、一族は『自分達こそ本当の王族』という自負、そして『いつかこの世界の頂点に返り咲く』という野望の元、女王や姫、世界を憎み現在まで生き残って参りました。しかし……私が長として率いる者達だけは違うのです」


「また詭弁(きべん)か?」


「どうかお聞き下さい。先程の貴方様のお言葉、事実にございます。私を含め、この場にいる者、集落に残してきた者は『自分達は王の影武者の子孫でしかない』と理解している。それ(ゆえ)に我等は一族の中でも異質として扱われてきました。一族の作戦に関与した事は一度もございません。……そうだろう?13」


自分の言葉だけでは信憑性(しんぴょうせい)が低いと分かっているイアンは、13……未月へと同意を求める。


ユージーンが未月へ視線を送ると、未月はゆっくりと(うなず)いた。


「……うん。……お前達は『はぐれ者』。……一族……反乱軍の中で唯一……反乱に参加しない…誰にも従わない者達」


「確かか?未月」


「うん。……俺が反乱軍にいた間…イアン達は…どの作戦にも参加してない。…話し合いに出るだけ。…間違いない」


未月が大きく頷くと、ユージーンも『ふむ』と納得する素振りを見せる。


イアンは期待を抱きながらも恐る恐るユージーンへ声を掛けた。


「私の言葉……信じて頂けますか?」


「未月がそっちにいた間の事ならな。未月の言葉は信じられる。未月は嘘をつかない、つけない人間だからな」


それはユージーンと蓮姫が理解しているように、このイアンや反乱軍達も当然知っているだろう。


純粋無垢(じゅんすいむく)(いま)幼子(おさなご)のような未月の言葉は、どんな人間の言葉より信頼出来る、と。


しかしそれは、あくまで未月に対してだけ。


未月の言葉が信用出来るからイアンの言葉も全て信用出来る……とはならない。


イアンに聞きたい事はまだあるのだから。


補足するようにユージーンはイアンへの追求を止めない。


「未月が証人だとしても、未月が生まれる前の過去を証明する手立てはない。何より……今日、お前らは姫様を殺しに来た。反乱軍としてな。そこはどう言い訳するつもりだ?」


ユージーンはイアン達を疑う姿勢、敵という認識を決して崩そうとしない。


それでもイアンは、ユージーンからの信頼を得ようと正直に話す。


「今、一族の頂点に立つ方は一族の歴史上、誰よりも王として相応しい素質をお持ちです。証も一つ持って生まれました。そんな方が王になると宣言されれば……いかな『はぐれ者』とて従わぬ理由はありません」


「ほぉ~?つまり?本物の王族になれる夢をチラつかせられ?今更一族や当主様に尻尾を振ったってことか?随分と(いや)しい考えだな。聞いてるだけで胸糞(むなくそ)悪い。まだ適当な言い訳された方が気分良かったな」


「ですが……これでお分かりでしょう?他の一族の者なら、貴方様の正体を知った瞬間に貴方様を亡き者にしようとした。現当主や一族の名誉の為に。しかし我等は…我等だけは違うのです。我等はそんな愚行も大罪も犯しません。我等は貴方様と弐の姫様こそ真の王に相応しき主と認め、心よりの忠誠を」


「いりません」


今まで黙っていた蓮姫の声がイアンの言葉を(さえぎ)る。


それはとても静かであり、爆発しそうな怒りを含んだ声でもあった。


まさか真の王であるユージーンではなく、弐の姫から拒絶されるとは思っていなかったイアンは呆気にとられる。


「弐の姫……様?」


「そちらの事情も貴方の言い分も分かりました。私達も貴方達も戦う意思は無い。でも……貴方達の忠誠なんて…私はいりません」


今度はイアンの顔をしっかりと見つめ、キッパリと拒絶の言葉を吐く蓮姫。


そんな蓮姫にイアンは、ギリ…と怒りで歯を噛み締めた。


「っ、元反乱軍の我等は要らぬと?13も元反乱軍。そこの男も弐の姫様を殺そうとした。なのに……二人は受け入れ、我等はダメだとおっしゃるのですか?」


「13じゃありません。彼は未月です」


なんとか怒りを抑えつつ語るイアンだったが、ピリャリと放たれた蓮姫の言葉にその怒りは爆発した。


「そんな事はどうでもいいのですっ!!」


「よくありません。未月はもう貴方達に都合の良い戦士『13』じゃない。彼は私の大切な仲間『未月』です。……二度と間違えないで」


「……母さん」


蓮姫の言葉が嬉しかったのか、未月は目尻に涙を溜める。


そんな一見感動的なやりとりもアンには関係なかった。


「ですが!!元反乱軍を仲間にしてお傍に置いているのは事実!同じ我等を何故信用出来ぬと!?」


「理由は色々あります。確かに貴方達は反乱軍の計画に関与してないかもしれない。でも……知っていて止める事もしなかった」


「我等にも立場という物があります!」


「では私も弐の姫という立場で言わせてもらいます。何の罪も無い人達を『何も知らないから』『女王の民だから』という理由だけで切り捨てる人達の忠誠なんて要りません」


「我等が信用出来ぬとっ!?そこの裏切り者は傍に置くというのに!?そこの化け物も貴女は助けたというのに!?何故我等だけが!?」


順に未月、そして蓮姫の腕の中で未だ眠るツルギを指さすイアン。


その言葉は蓮姫の更なる逆鱗(げきりん)に触れた。


「この人は化け物なんかじゃありません。この人の事だって……貴方達は利用した。危険なモノを与えて、捨て駒にしようとした」


「お言葉ですがな!その男が『怨嗟(えんさ)の実』を受け入れたのは貴女様への憎しみ(ゆえ)にございます!」


「っ、そう……です。その通りです。だからこそ私は、彼に(つぐな)わなくてはいけません。これは私と彼の問題です。貴方達にまで背負わせるつもりはない。だけど……」


蓮姫は腕の中のツルギを優しく撫でた後、同じ人物とは思えぬ程の鋭く強い眼光を宿した黒い瞳をイアンに向ける。


「人を人と思わない……そんな貴方達を私は信用出来ません。もう一度言います。貴方達の忠誠なんか要らない。今は貴方達と争う気も無い。どうかこのまま立ち去って下さい」


「~~~っ!!やはり貴女も!初代や今までの女王と同じだ!!自分の価値観や感情だけで民を選ぶ!我等を信用出来ぬというのはそういう事でしょう!!」


怒りのあまり本心を叫んでしまうイアン。


蓮姫は睨みつけるだけで何も答えようとしない。


そんな蓮姫の代わりに、ユージーンは呆れと怒りを含んだ声で返す。


「信用出来る訳ねぇだろうが。俺が姫様に代わって(もっと)もらしい理由を付け加えてやる。仮にお前らを信じて配下にしても、裏で反乱軍と繋がったまま情報を流されない保証が何処にある?そんな危険要素なんざ俺も姫様もいらん」


「貴方様まで!?何をおっしゃいます!」


「あのな、俺がご丁寧にお前らを生かし話を聞いたのは、姫様が『殺すな』と命じられたからだ。それだけなんだよ。その姫様が『去れ』って言ってんだ。無理矢理にでもココから追い出すぞ?」


「そ、そんな!?」


ユージーンの凄みに気圧(けお)されイアンは(あせ)る。


(このまま……このまま去るわけにはいかぬ!真の王が現れたのだ!これから真の王の時代が来るのだ!偽物一族の衰退(すいたい)は目に見えている!この()(のが)せば……我等が生き残る(すべ)はない!)


二人に思い(とど)まってもらうにはどうすべきか?


考えを巡らせるイアンは……ハッ!とある事を思いつく。


それは彼等に……反乱軍と呼ばれる一族にとって、大きな計画の暴露(ばくろ)だった。


「ではっ!私が知る中で一番の情報をお教えしましょう!一族は現在!女王と傍にいる者を一掃(いっそう)する為!過去最大級の戦!王都襲撃の計画を(くわだ)てております!」


「「「っ!!?」」」


イアンのとんでもない暴露(ばくろ)に蓮姫とユージーン、そして未月も息を飲み、驚愕(きょうがく)の表情を浮かべる。

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