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二つの末裔 1




それから数秒して、ツルギの家族と蓮姫達を包む光は完全に消えた。


すると、今まで泣いていたツルギの声も消え、蓮姫とツルギはピクリとも動かなくなった。


未月もまた動かず、その場に眠るように横たわっている。


まるで全員、限界がきたかのように。


それを誰よりも早く感じたユージーンは、背中に乗るイアンに向けて(ちから)の限り叫ぶ。


「っ、お゛いっ!まじょうぜぎっ!それどっ!がいふぐできるやづっ!いないがっ!?」


「っ!?か、回復!?魔晶石(ましょうせき)!?」


「なおぜっ!!」


「は、はいっ!!おい!この方の傷を早く(いや)せっ!この方を何としても死なせるなっ!!」


イアンの命令により、生き残った反乱軍達は一斉(いっせい)にユージーンへと駆け寄り、彼に回復魔法を(ほどこ)す。


傷が完治し、動けるまで回復したユージーンは直ぐに起き上がると反乱軍達から魔晶石を奪い取った。


退()けっ!!」


群がる反乱軍達を押し退()けると、ユージーンは蓮姫達の元へ一直線に駆け寄り、魔晶石を使って回復魔法を蓮姫と未月にかける。


「な、何をなさっておられるのです!?」


「見りゃ分かんだろ!治してんだよ!姫様と俺の仲間をな!」


「い、いけません!何故ですかっ!!何故弐の姫なんぞを貴方様が助けるのですか!!この機に殺すべきです!貴方様が出来ぬのであれば!我等が!」


「少しでも動いてみろ!俺がお前等全員ぶち殺すからなっ!!」


激しい殺気を(ふく)んだ怒鳴り声に、反乱軍達の体はビリビリと震え、彼等はその場から動けなくなる。


今のは命令でも、ただの(おど)しでもない。


ほんの少しでも動いたら、確実に自分達は殺されると肌で感じたからだ。


その間にも、ユージーンは回復魔法で蓮姫と未月の傷を(いや)しながら、二人へ声を掛け続ける。


「姫様っ!姫様しっかりして下さいっ!おい未月っ!起きろっ!!」


ユージーンによる回復魔法で二人の傷は完全に塞がり、青白かった顔色も徐々に血色を帯びていく。


それとは逆に今度はユージーンの顔色が悪くなっていった。


万能(ばんのう)と思われがちなユージーンだが回復魔法に関しては苦手であり、魔晶石が無くては彼にこれほどの致命傷は治せなかったからだ。


ユージーンもまた相当の無茶をしている。


魔力が強かろうと苦手な回復魔法を無理矢理使った為、彼の身には上級魔法を連発した時のような疲労が蓄積(ちくせき)されていった。


が、そんなもの彼には関係ない。


蓮姫と未月を助けたい。


今のユージーンの中にある想いは、それだけだった。


(頼む!二人とも死ぬな!死なないでくれ!!)


そして彼の必死の回復魔法と呼び掛けが(こう)(そう)したのか、未月と蓮姫は再び瞳を開け、意識を取り戻した。


「…………じ……ん?」


「か……さん」


「っ!?姫様っ!!未月っ!!」


ユージーンは喜びから目に涙を浮かべ、二人の回復と生還を喜んだ。


それだけ蓮姫も未月も、本当に危ない状態だったのだから。


「……良かった。二人とも……本当に」


「……ジーン?…………っ、ジーン!!大丈夫なの!?未月は!?」


「……俺?……大丈夫。……母さんとユージーンは?」


「っ、まったく。姫様も未月も……人の心配より先ずは自分の心配をして下さい」


自分の事よりも先に相手の、他人の心配をする蓮姫と未月にユージーンは呆れたように、そして安心したように苦笑いを浮かべた。


「ジーン。私達あんな大怪我してたのに、なんで?……っ、ジーン!顔がすっごい悪いっ!どうしたの!?」


「『顔』じゃなくて『顔色』ですね。俺の顔が悪いとか、言い間違いだとしても酷いですよ。美的感覚と視力、ついでに正気を疑われますからね」


「あ!ご、ごめん!」


「え?……母さん……正気じゃないのか?」


「正気ですっ!そしてすっごい元気ですっ!!でも……この人は……」


慌ててユージーンと未月に答える蓮姫だったが、視界は徐々に下に……自分の胸元へと落ちていく。


そこには蓮姫に抱きつき、胸元に顔を埋めたまま気絶しているあの男。


どう見ても眠っているだろうに、その手はガッチリと、そしてしっかりと蓮姫を捕らえて離そうとしない。


ツルギの体勢にイラッ…と青筋を立てながらもユージーンは蓮姫の質問に答える。


「あぁ。こいつも多分大丈夫ですよ。傷は大したこと無かったので。回復魔法が広範囲となった事で、こいつもオマケに姫様と一緒に完全回復したようです。俺の意思ではありませんが、気を失ってるだけで傷は完治してますよ。まったく、俺のしては誤算極(ごさんきわ)まりないんですけどね」


「そっか。この人……人間に戻れたんだよね?」


不安げに(たず)ねる蓮姫だったが、それに対してユージーンは確信を持って大きく(うなず)いた。


「えぇ。先程までのおぞましい気配はもうしません。『怨嗟(えんさ)()』とやらが完全に消滅した訳ではないでしょうが……とりあえず今は化け物ではなく人間。あの亡者(もうじゃ)達の声が届き、人間に戻れたようです」


「……っ、良かったぁ。皆さん……本当に、ありがとうございました」


蓮姫は目を閉じるとツルギの家族達に向けて感謝を告げる。


そして目を開けるとユージーンへ微笑んだ。



「ジーンも……ありがとう」


「ですから俺の意思じゃないですし、オマケですし、たまたまです」


「でもジーンは私達が気を失ってる間、この人を殺さないでくれたでしょ?この人が『敵』とか『危険 』より、助けたいっていう私の気持ちを汲んでくれた。だから……ありがとう。勿論、私と未月の傷を治してくれた事も合わせて。ね、未月」


「うん。……ユージーン……ありがとう」


蓮姫に(うなが)され素直に礼を口にする未月。


そんな二人にポカンとした表情をするユージーンだったが、直ぐに柔らかく、嬉しそうな笑顔を浮かべた。


「礼を言うのは俺の方です。この男も含め、俺達が全員生き残れたのは……二人のおかげです。ありがとうございます、姫様、未月」


蓮姫がいなければツルギは化け物のままだった。


未月がいなければ蓮姫はツルギに殺されていた。


ユージーンがいなければ蓮姫も未月もあのまま死んでいた。


そしてそれは蓮姫の胸の中で眠るツルギも同じ。


全員生きているのは奇跡のようなもので、また誰か一人でも欠けていたらこの奇跡は起こらなかっただろう。


分かっているからこそ、三人はお互いが無事である今を喜び、深く感謝していた。


そんな雰囲気に水を差すように、あのイアンが声をあげる。


「何故ですかっ!?弐の姫はあの(けが)れた略奪者達と同じ存在!同じ力を持つ者です!そのような者を何故助けるのですか!?」


「チッ。うるせぇ奴だな。黙ってろよ」


「いいえ!黙りませぬ!!殺すならいざ知らず!貴方様がその女を気遣い!敬い!命を救うなど!あってはならないのですっ!」


顔を真っ赤に染めるほど興奮し、唾を飛ばしながら叫ぶイアンだったが、そんな彼にユージーンはとても冷たい眼差しを向けていた。


「お前等がどう思おうが、先祖が何されてようが俺には関係ない。俺は俺の意思で姫様にお仕えし、守り、傍にいる」


「いけませんっ!!そんな事は決して許されませんっ!何の為に我等が生き残ったと!?何の為に貴方がこの世に生まれたとお思いですか!?貴方様はこの世の頂点に成るべくして」


ガンッ!!


イアンが必死に自分の主張を叫んでいる中、ユージーンは地面にヒビが入る程強く拳を振り下ろした。


まるで耳障りな騒音を止めるように。


それは見事に成功し、音に驚いたイアンが口を閉ざすと、ユージーンはイライラした口調でイアン達に向けて怒鳴る。


「だからっ!!お前等の事なんざ知らねぇっつの!俺がこの世に生まれた意味!?ソレを決めんは俺だ!そんなのお前等の勝手な解釈で勝手に決めてんじゃねぇよっ!」


「で、ですが!貴方様は!我等がお」


「黙れ」


ギンッ!とユージーンが鋭い眼力で睨みつけると、イアンは口をパクパクと動かすだけで声を発さなくなった。


この現象は蓮姫も未月も見覚えがある。


「お、長っ!!」


「しっかりなさって下さい!どうされたのです!?」


様子のおかしくなったイアンを心配する反乱軍達。


だが、中にはユージーンに対して怯え、頭を下げる者達もいる。


「お、おやめ下さい!我等は貴方様の敵ではありませんっ!」


「共に弐の姫を!女王を討ち滅ぼしましょう!」


「どうか長に掛けた魔術をお解き下さい!我等は一族ではなく!貴方様に忠誠を誓います!」


「そうです!貴方様こそ真の我等が主!この世界の本物の」


「黙れってんだよ」


再度ユージーンがそう告げると、反乱軍は全員イアンのように声を出せなくなった。


畏怖(いふ)で顔を真っ青にはいるが、それはまるで金魚のよう。


「それ以上いらねぇこと言う前に……全員この場で殺して」


「待ってジーン。どういうことなの?」


蓮姫は殺気を剥き出しにするユージーンを制し、彼に尋ねる。


つい先程まで、反乱軍達は自分達を殺そうとしていたのだ。


弐の姫とその従者であるユージーン、裏切り者の未月に対して確実な、そして明確な殺意を持っていた。


だが今はどうだ?


反乱軍達はユージーンに対して恐怖だけではなく、敬意まで抱いている。


対峙した相手が圧倒的な強者であったが為に、自分が弱者であると打ちのめされて恐怖するのとは明らかに違う。


蓮姫に止められたユージーンは、苦虫を噛み潰したような顔で蓮姫を見つめ返した。


「……姫様が気にされるような事では……ありません」


「…………それは……違うよね」


「え?」


「本当に私が気にする事じゃない?この人達の事も?ジーンの事も?私は聞く必要が無いっていうの?この先も一生……私は知る必要が無いの?反乱軍のことも……ジーンのことも?」


「っ、それ……は……」


蓮姫に再度問いかけられ、ユージーンは言い淀む。


蓮姫の中には確信と……ある期待があった。


コレはいずれ……自分が知らなければならないこと。


ユージーンがいずれ……自分には必ず話すと言っていた内容だと。


そしてソレに反乱軍達が関わっているのなら……あの玉華の反乱軍を束ねていた首領オースティンが言っていた、自分の知らない反乱軍やこの世界の真実へと繋がる内容かもしれない、と。


「ジーンが言いたくなるまで待つ、って私は言った。でも……私は今がその時だと思う。さっきみたいに他の人から何か聞いて知るより……私は…ジーンから直接聞きたい」


「……姫様」



「ジーン。お願い。教えて。全部……話して」

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