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未来へと 4




1、期限は一年間。もし一日でも過ぎたら、あらゆる手を使い王都へ強制送還(きょうせいそうかん)とする。




2、王都へ戻る際には、必ずヴァルに相応(ふさわ)しい者を連れていること。種族、人数は問わない。




3、上記二つが守れなかった場合、王都の隅にある女王の別邸にて幽閉(ゆうへい)。外出は勿論、邸内の者以外との接触は一切禁じる。




「1つ目の期限じゃが、姫が王位争いを放棄し王都を出るとなると、貴族達の反発は容易に想像出来る。そなたにその気が無くとも、貴族は王位放棄と決めつけ、壱の姫を女王に統べようとする。ソレを抑えるには、どんなに長くとも1年が限界じゃ」


「1年………長いようで短いですね」


「どう過ごすかは、そなたの自由じゃ。2つ目のヴァルについてじゃが……姫がヴァルと契約の儀を交わす際には、女王の立ち会いの元でなくてはならぬ。正式にそなたのヴァルとなるのは王都に戻ってからじゃ。種族、年齢、人数は問わぬ。妾のヴァル達も相当なものじゃからの」


「陛下のヴァルは……サフィールさん以外…どんな人達ですか?」


「ふむ。言うたらキリがないが……人魚に竜族………それに夜狐(ようこ)に…あぁ、天翼(てんよく)の一族もおるし」


「ようこに……てんよく?」


夜狐(ようこ)はいわば………想造世界の狼男…ソレの(きつね)(ばん)じゃな。天翼(てんよく)の一族は、天使のように背に羽のある者達。妾とて多種多様のヴァルを持った。そなたとて、ソレは好きなようにおし。人間である必要も無い。そして……一番重要な3つ目じゃ」


先の2つの条件を話す時より、麗華は声のトーンが下がった。


蓮姫も覚悟はしていたが、3つ目……つまり期限内にヴァルが見つからなかった時の条件は、あまりに重い。


「王都の西の端……林に囲まれた邸がある。妾が最初の息子を身篭った際に建てたものでな。身重の妾が、安静に過ごす為だけに使用した物じゃが……ここ100年近くは使用しておらん。そなたにはそこに移り住んでもらう。世話をする使用人は数人用意するが……ユリウスやチェーザレ、レオナルドは当然、他の誰とも会う事は許されん。王位継承権も剥奪。元の世界に戻るその日まで、その邸に幽閉じゃ」


「………………………」


告げられた内容に、蓮姫はただただ口をつぐむ。


女王の物ならば手入れはされているだろう……しかし、100年も使っていないボロ邸に幽閉。


ユリウスとチェーザレ、心を許せる友人達とは二度と会えない。


王位継承権が剥奪されるのであれば、レオナルドと婚約者である必要もなくなる。


当然、婚約も解消されるだろう。


そうなればレオナルド、ソフィア、公爵との繋がりも切れる。


飛龍大将軍は陛下に絶対の忠誠を誓う者……気にはしてくれるだろうが、命令に背く事は絶対にしない。


「そなたには重すぎる条件かもしれぬ。だがの……弐の姫が単身、ヴァルを探す為とはいえ王都を離れるのは、それ相応の代償(だいしょう)が必要じゃ。デカイことを言って結果が出せない者を、そのままお咎めなし、とはいかぬ」


「………わかっています。貰ったチャンスを物にできないのであれば……私は所詮、その程度だった………女王になる資格も無い」


「そうじゃ。蓮姫。この3つの条件……呑めるのか?」


蓮姫は目を閉じ、ゆっくりと深呼吸をする。



(もう…あんな思いはしたくないし……誰にもさせたくない。それなら………私が変えるしかないんだ)



「陛下。謹んで、お受けいたします」



蓮姫の瞳には、先程までの迷いも、不安も、恐れも消え……強い光が宿っていた。


麗華はそんな蓮姫を見ると、嬉しそうに微笑む。


「そなたは強いのぅ。……妾は…それほど強い目をした姫ではなかった……。そなたの望みが叶うよう、遠くから祈っておるぞ」


「はいっ!ありがとうございます!陛下っ!!」


「あのさ~……夜中なんだから大声とか出さないでよ。はぁ~~……ねむ…」


ジョーカーにちゃちゃを入れられ、反論しようとしたが、今のは確かに自分が悪いと、あえてジョーカーには何も言えなかった。


が、そういえば……。


「陛下……この人も陛下のヴァル………なんですか?」


「うわっ!何その、ありえないって顔?あ、殺されたいの?しょうがないな~」


再び(さや)から刀を抜こうとしたジョーカーだが、麗華に叱られ、少し離れた位置に行き護衛を続ける。


「まったく……あやつにも困ったものじゃな。扱い難ぅて仕方がない。じゃがな……妾が知る限り、あやつは蒼牙と同等……いや、恐らく蒼牙よりも強い」


「じゃあ……やっぱりあの人も?」


「いや。あやつとは契約の儀を交わしておらぬ。言うならば、準ヴァルと言うたところかの」


「準?何故正式のヴァルじゃないんですか?」


性格その他に問題がありそうだが、飛龍大将軍よりも強いのであれば、ヴァルとしては勿論、女王にとっても利がある筈だ。


「そなたもわかっておるじゃろうが……あやつは問題が多々あってな。誰彼(だれかれ)構わず刀を抜く。殺す事にはなんの抵抗も無い。戦いを楽しんでおる。誰かを守りたいわけでも、目的があるわけでもない。しかし、(こだわ)りも迷いも恐れもない為…誰よりも強い」


ハッキリ言って、危険人物極まりない。


ヴァルどころか、女王の側にいることの方が不思議だ。


「さっきと逆の事を言いますけど……なんで………あんな人を?」


「………蓮姫…ジョーカーの意味を知っておるか?」


「え?………切り札…ですよね?」


「そうじゃ。切り札。そして卑怯な程に最強の手札。ソレがあるだけで、ほぼ勝敗が決まる。誰もが欲しがる物。あやつはまさにソレ。だからこそ、妾はそう名付けた。誰よりも強く非情。(ゆえ)に手元に置いておるのだが……中々懐かんでな」


ハァ…と残念そうに、しかし若干面倒そうに溜め息をつく。


「…懐くって……犬じゃないんですから」


「犬よりも悪いがの。犬ならばここまで苦労せん。なんなら蓮姫。王都に戻った際には、そなたに譲っても良いぞ」


「絶っっっ対に!いりませんっ!」


その犬以下に殺されかけたのは、つい数分前だ。


いくら強い味方が欲しいとはいえ、さすがに選ぶ権利は蓮姫にもある。


「つれないのぅ。夜更かしは美容の大敵じゃというに、わざわざこんな遅くまで、そなたの頼みを聞いてやったと言うに」


「そういえば……陛下………なんでこの様な夜更けに?しかも1人で庭園にいるんですか?」


「ふふ。そうじゃ。そなたはソレも知りたかったのであろう?」


後で話すと自分で言っておきながら、蓮姫の方から尋ねるように仕向ける麗華。


蓮姫の方も軽く忘れていた。


とはいえ、やはりどう考えても不自然……というか、蓮姫にとって都合が良すぎる。


「実は晩餐の後に藍玉が訪ねてきての。『母上は今晩、一人で庭園に行きますよ。必ず。そして大事な話を聞く事になります』と、言うたからじゃ」


「……え?藍玉が……そんな事を言ったんですか?」


「そうじゃ。そなたには悪いが、藍玉には(こま)とも呼べる手下がおる。そやつらにそなたの事を見張らせておいたのであろう。そなたが来ることを知り、妾を動かしたのじゃ」


麗華は藍玉に言われた言葉を自己完結しているようだが、それは間違いだった。


確かに未来の自分が訪ねて来た事は、麗華にも伝えた。


しかし、何時頃訪ねてきたかまでは言っていない。


未来の蓮姫が訪ねてきてから、まだ1時間も経ってはいない。


晩餐の後と言う事は、藍玉が麗華を訪ねた時刻は、恐らく未来の蓮姫が来る前だ。


蓮姫の頭の中では、以前より疑問に思っていた事があったが……ソレが確信に繋がろうとしていた。


「藍玉は陛下に、能力を使ったんですか?」


「いや、あやつが能力を使っているかどうか……ソレは本人にしかわからぬ。今回は手下の報告を聞き、妾に言うただけであろう。あやつの能力は危険過ぎるでな、妾の許可なく乱用する事は許しておらぬ。それゆえ遠方に飛ばしたのじゃ。……じゃが…いかに能力者であろうと、妾は息子が愛おしい」


麗華は本当に楽しそうに、嬉しそうに笑った。


息子達の話をする時……その時だけは、彼女は女王ではなく母親の顔になる。


「それにしても……藍玉が弟達以外を気にかけるのも珍しい」


「藍玉ってユリウス達と仲良いんですか?」


「弟達はやはり心の何処かで恐れておるが………藍玉はいつも弟達を見ておった。まだチェーザレが12の頃、藍玉が蒼牙に『具合が良くなさそうだから注意してほしい』と蒼牙に言うたんじゃが、その日の剣の稽古中、本当に転んだ事もある。大した怪我もなかったが……蒼牙が気付かぬ程の些細な変化に、藍玉は気付いてやる事が何度もあった」


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