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黄金の瞳 14


「や、やめろっ!お前達!そんな事をしてはならん!」


イアンは必死になって部下達を止めようとする。


だが、彼の部下も以前の未月のように、誰も彼もが使命の為に命を捨てる覚悟のある者。


そして今はそれだけでなく、ユージーンに自分達を…一族全ての存在意義や(ほこ)りを侮辱(ぶじょく)された事への怒りが、彼等を()き立てている。


「頭領!止めないで下さい!憎き奴等を(ほふ)る為!我等は喜んでこの身を捧げます!」


「長!貴方だけはどうかこの場を離れて下さい!そして我等の勇姿を!どうか若様と一族へ!」


「はぐれ者の汚名!どうか返上なさって下さい!村に残った者達の為にも!」


彼等の怒りは、もう長であるイアンの言葉ですら止まらない。


それでもイアンは止めなくてはならない。


「やめろっ!これは命令だ!今すぐ全員術を解け!そんな事……っ、そんな事をしてはならんのだっ!」


必死に止める長の言葉には誰一人耳を貸さず、彼等は自爆呪文の詠唱を終える。


後はもう……魔力と共に命全てを解き放つだけ。



だが、そうなる前にユージーンは行動に出る。



「やれやれ。命を掛けて一族の誇りを守ろうとは恐れ入った。お前等は間違いなく忠義の一族だよ」


「今更なんだ!?我等に()びて命乞いなど!見苦しいぞ!」


「王の末裔たる我等が全ての頂点!そして我が一族を侮辱(ぶじょく)した罪はそんなものでは消えんのだ!」


(……王の…末裔?……反乱軍は…王族なの?)


イアンの部下達の言葉に蓮姫も混乱しつつ、何かを悟る。


ユージーンは反乱軍達を鼻で笑うと、左眼を隠している自分の長い前髪に触れた。


「命乞いなんざしねぇよ。ただ……その誇りと忠誠心…」



そしてユージーンは、前髪をかきあげて、あんなにも隠していた左眼を……黄金の瞳を晒した。



「向ける相手を間違えたな」



「「「っ!!?」」」


現れたユージーンの左眼を見て、反乱軍達は一斉に固まり…動揺する。


「お、黄金の瞳!?」


「そ、そんな!黄金の瞳など……そんな…有り得んっ!」


「そ、そうだ!直系の方ですら!それを持つ方はもう!」


「今の若様すら持ちえぬ王の証!」


「ま、(まど)わされるな!きっと髪と同じ!染色の魔法で変えただけだ!」


反乱軍達は動揺するまま、様々な意見を叫ぶも動揺した時点で既にユージーンの罠にハマっている。


集中力が切れた事で、彼等の自爆呪文は不発に終わったのだから。


しかし、激しく動揺する彼等はそんな事にも気づいていない。


それよりも…一族としての重要な使命『弐の姫暗殺』よりも遥かに……目の前の男が(さら)した黄金の瞳の方が、彼等にとって遥かに重要であり、衝撃的だったからだ。


「まぁ、髪の色を疑ったんだ。目の色も疑うだろうさ。なら……決定的な証を見せてやるよ」


「な、なんだと!?」


「き、貴様!今度は何をするつもりだ!?」


叫ぶ反乱軍達に向け、ユージーンは魔力を高める。


「蒼き錠枷【クリスタル・ロック】」


それは彼が得意とする氷結系の下級魔法。


玉華の時よりも魔力を抑えていた為、それは蓮姫と未月以外の足元を凍らせるだけにとどめた。


もし玉華の時のように強い魔力で辺り全体を氷漬けにすれば、上手く想造力を使えない蓮姫と傷が治ったばかりの未月にも害が及ぶからだ。


ただの足止めに過ぎない魔法。


その魔法が……反乱軍達全ての動きを止める。


正確には魔法の力ではなく……魔法を使った時に現れた…ユージーンの黄金の瞳の異変で。


「ひ、瞳に……紋章が!」


「ば、馬鹿なっ!そんな…そんな馬鹿なっ!!?」


「も、紋章が出るのなら……本当に……本物の…?」


「………ぁ………ぇ……」


顔を真っ赤にする者、真っ青にする者、叫ぶ者、言葉を発せぬ者。


反応は様々だが、誰も彼もがその驚きを隠せないでいる。


そんな中、蓮姫は小さな声でユージーンを呼ぶ。


「………ジーン…?」


蓮姫の声に振り返るユージーン。


悲しげな…申し訳なさそうな笑みを浮かべている彼の黄金の瞳には、白い模様が浮かび上がっている。


七芒星に巻き付く龍が、中央で大きく口を開き牙を見せる模様が。


「……瞳に……紋章?……それって……つまり………ジーンは…」


蓮姫は紋章の浮かんだユージーンの黄金の瞳から目を逸らせず、少しづつ言葉を発した。


しかし彼女が全てを言い切る前、別の人間の声が広間に響く。


その声は涙ながらに語る……イアンのモノ。


「………ぁ……あぁ………やはり…やはりそうだったのですか…。貴方は……貴方様は…」


「……お、(おさ)?」


「で、では奴は…いえ……あの方は…本物の?」


「そうだ。お前達とて…知っているだろう。…黄金の瞳に……魔法を使った時のみに浮かび上がる…龍王と七つの王国を表す紋章。……疑うべくもない」


その言葉にユージーンはため息をつく。


「はぁ…もう戦意はなさそうだな。無抵抗の人間を殺すのは……姫様の意思に反する、か」


そう呟くとユージーンは蒼き錠枷【クリスタル・ロック】を解除する。


足元の氷が無くなると、反乱軍達は一斉に膝をつき、地面に項垂(うなだ)れた。


そんな中、やっと意識を取り戻した未月はユージーンへと声を掛ける。


「…ユージーン。…イアン達……殺さないのか?」


「ん?………あぁ、起きたか未月」


「…うん。…起き……あ…ユージーン。…左眼…金色だったんだ。…でも……なんか…絵が描いてある?」


「………そっか。お前は仲間に…紋章を教わらなったんだな」


「………紋章?」


コテン、と首を傾げる未月は、どうやら本当に瞳に現れる紋章の意味を知らないようだ。


一族の為に戦い、一族の為に死ぬ事……未月が反乱軍から教えられたのは、それだけだったから。


どちらにせよ……ユージーンはこの場で説明しなくてはならない。


己が持つ紋章の意味を………蓮姫に。


「姫様」


「ジーン。紋章があるなら……ジーンもルーイやラピスと同じ…王族なの?七つの王国の?」


「………いいえ、姫様。俺はロゼリアともアクアリアとも……どの王族とも違うんです。………俺は……この紋章は…」


ユージーンが自分や自身の持つ紋章について語ろうとした………その時。



「ガア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!」



獣のような咆哮(ほうこう)が広間中に……いや、海底神殿中に(とどろ)いた。

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