黄金の瞳 10
同時刻・海底神殿、最奥の広間。
ここは蓮姫や未月、ユージーンが反乱軍と交戦している広間。
いや、ユージーンに関しては、さっきまで交戦していた、だ。
今はユージーンも反乱軍達も一切動こうとはせず、先程までの殺意に塗れた空気が薄らいでいる。
「どうした?まだ俺の質問にも疑問にも答えてないだろ?単純にイエスかノーでいい。何か言ったらどうだ?」
「うっ!!」
「そ、それは……だな…」
「おいっ!喋るな!」
「お、長……」
「……………」
ユージーンから出た言葉に、反乱軍達はお互い顔を見合わせ、言葉につまる。
喋ろうとする者すら別の者に『余計な事は言うな』と止められ、この場をどうするか自分達の長に助けを求めていた。
そんな彼等の長であるイアンだけは、目を見開いてユージーンを……彼の銀髪を凝視している。
その表情は……他の者と違い、驚愕だけに染まっている訳では無かった。
イアンの胸を占めるのは、動揺と……歓喜と悲痛。
(もし……もしこの男の銀髪が本物ならば……この方こそ………っ、いや!有り得ん!最後の王は一族が殺したと記録に残っている!惑わされるものか!)
自分の想像を否定するように、ブンブンと頭を激しく左右に振るイアン。
ユージーンは…この男は自分達の正体を見破っただけ。
目の前の銀髪男が、自分が想像した通りの人物であるとは決まっていない。
髪などいくらでも染められる。
有り得ない。
認められる訳ない。
イアン達一派は、一族から『はぐれ者』という汚名を何代も前から否定せず受け入れていた。
それは……自分達が王の一族ではないと一族の誰よりも現実を、真実を見ていたから。
それなのに今になって一愛に忠誠を誓ったのは、今度こそ自分達が王の一族として返り咲けるかもしれない…という浅はかな希望……もとい欲望からだった。
だからこそ、自分の想像を、期待として受け入れてはいけない。
だからこそ、なんの根拠もない自分の想像を否定しなくてはいけない。
一族全ての長であり、長年待ち望んだ王としての素質を持つ一愛に忠誠を誓った今だからこそ……尚更、自分の中の想像を肯定してはいけない。
頭の中で警鐘が鳴り続ける。
それなのに……イアンの心は、動揺と悲痛と警戒に混じりながら…歓喜にも震えていた。
(……しかし……もし…もしも……この男が…俺の想像通りならば……一族とは違う本物の栄華を…。……何も知らず俺は…なんという早まった……誤った判断を…)
そんなイアンや反乱軍達を見て、ユージーンは一つため息をつくと、剣を収めて言葉を続けた。
「だんまり、か。まぁいい。否定しないってのが…何よりの答えだ」
質問や疑問を投げ掛けておきながら、ユージーンの中ではとっくに答えは出ていた。
彼等が古の王族の末裔であるはずがない、と。
本物の古の王族、その末裔は……この世にたった一人しか残っていないのだから。
「ハッキリ言ってやろうか?お前等は古の王の末裔じゃない。最後に王座についた……王の影武者として殺された者の末裔だ」
それを聞いた瞬間、反乱軍の多くの者がビクッ!と体を震わせた。
言葉を何も発していなくとも、その表情や反応を見れば……答えは明白。
ユージーンも言ったように、否定しない事こそ何よりの返答になった。
「………何故……何故ソレを知っている?」
誰も彼もが黙り込んでいる中、イアンはやっとの思いで声を出した。
その唇も声も動揺から震えていたが、問われた方のユージーンはイアンとは真逆に冷静そのもの。
「どれだ?処刑された最後の王が実は影武者で偽物だった事?目の前のお前等がその偽物の末裔だと分かった事?それとも銀の髪は古の王族だけが持つ証の一つである事か?」
「っ!!?全てだ!何故それら全てを知っている!?この世界でも限られた者しか知らぬ真実を!何故貴様が!っ、弐の姫の従者が知っているのだ!!」
「さっきと違って、もう答え言ってるじゃねぇか。『限られた者しか知らぬ真実』だから…だろ」
その言葉に今度はイアンが言葉を詰まらせらた。
つまりユージーンもまた『限られた者』の一人。
当時の事を……影武者の件を知っているのは当事者とその子孫。
影武者にされた者は処刑された。
影武者とすり替わり逃げた本物の王は後に殺された。
影武者の発案者である竜王族族長も大昔に寿命で死んでいる。
反乱軍達が隠されたこの真実を知っているのは、生き延びた影武者の妻と子……その子孫だから。
ならばユージーンは?
自分達が……影武者という王の身代わりの子孫が生き延び、こうして真実と王族の証を受け継いできたのなら……。
イアンがカタカタと小刻みに震えて言葉を発せずにいると、彼の部下達が一斉に声を上げた。
「クソっ!ソレを知っているから何だと言うのだ!」
「そうだ!貴様が卑しい弐の姫の手下である事に変わりはない!弐の姫同様に汚らわしい奴め!」
「どうせ我等の仲間を拷問して吐かせたのだろう!性根の醜い弐の姫のやりそうな事だ!」
「貴様のような者に我等を愚弄する権利など無い!貴様は主人と同じで!卑しく!愚かで醜い!汚れた存在だ!」
イアンの部下達が蓮姫の事も合わせてユージーンへ罵詈雑言をぶつける。
しかしソレは、ユージーンの怒りを最も買う行為でもあった。
「姫様は弐の姫だろうと正当な王位継承者の一人。王となる為の優れた素質と強い覚悟を持つ方だ。そんな姫様を、言うに事欠いて、存在すら許されぬ?卑しい?愚かで醜い?…それはお前等の方だろ」
「なんだとっ!」
「偽物の子孫風情が騒ぐな。俺が何者かも、己の身の程も、偽物と本物の違いすらも知らぬ……愚か者共め」