黄金の瞳 7
一方、反乱軍達と交戦中のユージーンは蓮姫と未月の方を気にしつつも、その力量の差で10人以上いる相手を圧倒していた。
「さっさとくたばれ!」
そう叫び、一人、また一人と反乱軍達を倒していくユージーン。
だが、どれだけ仲間が倒れようとも、反乱軍達の勢いは止まらず、むしろ増していく。
「くたばるのは貴様だ!」
「髪を銀色に染めるなどっ!我が一族や若様へのなんたる冒涜!」
「その姿で!よりにもよって弐の姫なんぞに仕えるなど!貴様は弐の姫以上に許されぬ存在だ!」
「銀の髪が持つ尊き意味!それすら知らぬ愚か者め!」
口々にユージーンへの怒りを露わにする反乱軍達。
その内容はイアンと同じく、ユージーンの髪色についてばかり。
ここまで自分の容姿についてアレコレ言われて、気にしない者はいないだろう。
「おい。どうしてそこまで俺の髪色にこだわる?言っとくがな、俺のコレは生まれつきだし、地毛だぞ」
素直に、そして正直に話すユージーンだったが、その言葉に反乱軍達は今まで散々ユージーンにぶつけていた怒りを更に膨らませ、ついには爆発させた。
「その髪が地毛だと!?そのような妄言を吐くとは!一体何処まで我等を馬鹿にすれば気が済むのか!」
「そのような嘘偽り!我等に通じる訳なかろう!銀の髪はこの世界で最も尊き方の証!その一つだ!貴様の虚言は!その尊き血を守る事に誇りを持つ我が一族への愚弄だ!」
「我が一族の頂点!始祖の血を色濃く受け継ぐ直系の方々以外!生まれつき銀の髪を持つなど有り得んのだ!この馬鹿者め!」
反乱軍達は唾を飛ばす勢いで、怒りのままユージーンへ叫ぶ。
しかしそんな反乱軍達の反応や言葉が、ユージーンの中にあった仮説を裏付ける事へ導いた。
ユージーンがわざわざ反乱軍達に自分の髪が地毛だと教えたのもこの為。
ユージーンはゆっくりと剣を下ろすと、反乱軍達を嘲笑うように冷たく言葉を放つ。
「……なるほどな。…反乱軍………お前等、古の王族の末裔だな」
そう確信を持って告げるユージーンに、今度は全員が驚愕する反乱軍達。
あのイアンも、ユージーンのその発言には驚き、口を開くのも声を出すのにも数秒かかった。
「…………な、何故…貴様がソレを?」
そう呟くイアンの口も、声も震えている。
「…お前等のその反応を見る限り……俺の勘は当たりか」
「っ、し、質問に答えよ!何故貴様がソレを知っている!?その真実を知るは!我が一族だけだ!」
「なんでって……まだ分かんねぇのか?さっき俺がご丁寧に教えてやっただろ?俺の髪は……地毛だってな」
「な、なんだと!?」
ユージーンの言葉に、今度は怒り以上の驚きと……微か喜びがイアンの中に生まれる。
(…もし……もし…この目の前にいる銀髪の男の言葉が……あの髪の色が本当に…生まれつきだとしたら…)
「き、貴様は……一体何者なのだっ!」
「ソレに答える前に俺からも質問させてもらう。なに、簡単な質問だ。イエスか、ノーでいい」
「な、何を聞きたいと言うのだ!?古の王族の末裔たる我等に!誰よりも王に相応しき直系の方に仕える我等に!」
(そうだ。我等は……俺は若様に…一愛様に忠誠を誓ったのだ。だから今回の弐の姫暗殺を申し出た。一愛様は一族の長い歴史の中で、誰よりも王に相応しい力と証を持って生まれた方。…たとえ……我等や若様が…)
心の中で言い訳めいた事を語るイアン。
彼の中には今、一愛や一族への忠誠心や誇りと……真実が大きく揺れ動いている。
そんなイアンの葛藤など知る由もないユージーンは、反乱軍やイアンにとって更なる驚異的な言葉をつむいだ。
「お前等やお前等の頭…直系の方々とやら。本当に古の王族……いや、かつてこの世界を治めた…古の王の末裔か?」
質問しているが、ユージーンの中には先程以上にその答えの確信があった。
反乱軍達は古の王族の末裔では無い……決して違う、という絶対的な確信が。
かつてこの世界を治めた古の王……その末裔は他の者である事を、ユージーンは誰より知っている。
それ以外の者が『古の王族の末裔』を名乗り、その血を誇りとしているのなら……恐らく、その者は…その一族は…。
「コレもあくまで俺の勘だがな。お前等の先祖…もしくはその尊い直系様の先祖は…王家が滅ぶ前、最後に王の座についた……別の者じゃないのか?」
「「「「っ!!?」」」」
ユージーンの発言は、反乱軍達にとって今までで一番…それこそ古の王族の末裔だと見抜いた事より衝撃的なもの。
それは一族の誰もが知る真実。
それは自分達……『はぐれ者』と呼ばれる者達以外は、誰も見ようとしない、向き合おうとしない真実。
だからこそ自分達は…この場にいる反乱軍達は、一族から『はぐれ者』と呼ばれているのだ。
自分達や…血を濃く受け継ぐ直系が……古の王族の末裔である事に誇りを持つ一族の誰もが……本当は違う。
一愛のように古の王族の証を持つ者を崇め称えていても…それはただの虚像だと知っていたから。
女王という存在を疎ましく思いながらも、一愛以外の直系達に今まで心からの忠誠を誓わなかったのは、その真実に向き合い、葛藤していた彼等だけ。
反乱軍達は驚きのあまり、何も答えない。
何も答えられない。
そんな反乱軍達の代わりに、ユージーンが残酷な真実を改めて彼等に突きつける。
「もしそうなら……お前等や直系の方々とやらには、古の王族の血は流れてない。…ほんの一滴もな」